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「研究」で進化する左打者

【雄平×筑波大学野球班】動作解析で目指す一流打者の道

2016/2/16

向上心の塊である一流プロ野球選手たちは、自身の技を磨き上げるうえで十人十色のアプローチ方法を持っている。

ダルビッシュ有(レンジャーズ)がトレーニングと並行してサプリメントや栄養学を勉強しながら肉体をつくりあげれば、新井貴浩(広島)は毎年護摩行を実施。桑田真澄(元巨人)はリハビリの一環でピアノをはじき、指先の感覚を養った。成功の道に正解はないだけに、自分が何を求め、いかに理屈づけできるかが大切になる。

理論が行動を後押しする

ヤクルトの雄平が飛躍する一つのきっかけとなったのは、「研究者の理論」だった。アカデミックな視点がなぜ後押しとなったのか、雄平はこう語る。

「何かを変えようとしたり、何かを戻そうとしたりするときに、理論づけができるわけです。自分の中で『たぶんこうかな』と思っていることがあるとき、理論づけるとそれに踏み切れる。新しい情報が入ってきて、気づくこともあると思うし」

2002年ドラフト1巡目で投手としてヤクルトに入団したが、高い素質はなかなか花開かなかった。高卒から7シーズンを過ごした後、打者に転向している。

それから5年後の2014年、練習の虫はようやく努力が報われた。141試合に出場してリーグ6位の打率3割1分6厘、同5位の23本塁打、同3位の90打点の好成績でベストナインに輝き、翌年には侍ジャパンのメンバーにも選ばれている。

 雄平(ゆうへい) 1984年神奈川県生まれ。本名は高井雄平。東北高校時代は最速151キロの左投手、高校通算36本塁打の強打者として注目を集めた。2002年ドラフト1巡目でヤクルト入団。1年目の2003年には27試合に登板して5勝6敗、防御率5.03。2007年には52試合に登板したが、翌年から2年続けて1試合登板と低迷。2009年オフ、打者に転向した。2014年には打率3割1分6厘、23本塁打、90打点の好成績でベストナインに輝き、オールスターに出場。翌年には侍ジャパンのメンバーにも選ばれている

雄平(ゆうへい)
1984年神奈川県生まれ。本名は高井雄平。東北高校時代は最速151キロの左投手、高校通算36本塁打の強打者として注目を集めた。2002年ドラフト1巡目でヤクルト入団。1年目の2003年には27試合に登板して5勝6敗、防御率5.03。2007年には52試合に登板したが、翌年から2年続けて1試合登板と低迷。2009年オフ、打者に転向した。2014年には打率3割1分6厘、23本塁打、90打点の好成績でベストナインに輝き、オールスターに出場。翌年には侍ジャパンのメンバーにも選ばれている

動作解析で改善点を発見

2014年、左打ちの雄平は左肘の使い方を変えた。打撃改造するきっかけをくれたのが、筑波大学野球班だった。ソフトバンクの工藤公康監督や日本ハムの吉井理人投手コーチも籍を置いた同大学院は、日本で最もアカデミックに野球を追求している。そうした集団に、雄平は動作解析の協力を仰いだ。

動作解析の方法をごく簡単に言うと、高速度カメラで撮影した打撃フォームの画像に25個の点をつけていき、打ち方を棒人間のように表していく。スティックピクチャーで動きを見ることで、身体の使い方が浮き上がってくるのだ。

雄平のフォームを解析した結果、左肘の使い方に改善の余地が見られた。筑波大学野球班によると、日本人全体としてうまく使えていない傾向があるという。

イチロー、青木と同じ打ち方

この打ち方のポイントは、インサイドアウトと「線で打つ」ことだ。インサイドアウトはスイングの方法で、文字通りバットを内側から出していく。アウトサイドインやドアスイングが良くないとされるのは、バットの軌道が遠回りになるからだ。もちろん、雄平はインサイドアウトの重要性を知っていた。

当時の雄平はボールを最短距離で捉えようと意識し、「点で打つ」フォームになっていた。点で打つと、コンタクトポイントは1つしかない。

一方、「線で打つ」打者はストレートに対する場合、ボールの軌道に対してバットをラインに入れる。そうすることで、極端に言えば身体の50センチ前でも20センチ前でもバットとボールがぶつかることになる。イチロー(マーリンズ)や青木宣親(マリナーズ)がこの打ち方だ。

理論を知り、感覚と合致

雄平は動作解析してもらい、左肘の効果的な使い方について初めて理解できた。

「左肘の入り方が重要というのは、動作解析している人の理論的なことじゃないですか。僕らは感覚でやっています。インサイドアウトはわかっていたんですけど、『線で打ちにいけ』という話もあれば、『点で打ちにいってもいい』という意見もある。それが動作解析をしてもらったときに『バットを最短距離で出せというのは、左肘の入り方のことだ』と言われて、全部の話が一致しました」

今年、雄平は再び筑波大学野球班に動作解析を依頼した。春に開幕するシーズンに向けて、新たな打ち方をつくりあげているからだ。

雄平がその目的を明かしたのは、昨年12月の契約更改直後だった。

「今年は自滅。苦しかったが、今後の野球人生に生きるシーズンになった。来年は選球眼を良くして、長打も打ちたい」

フリー打撃で85スイングし、納得のいく打席を自ら選んで動作解析してもらった

フリー打撃で85スイングし、納得のいく打席を自ら選んで動作解析してもらった

新フォームに込められた目的

昨季は2014年と同じ141試合に出場し、打率2割7分、8本塁打、60打点とすべての成績を落とした。その理由の一つに、打撃フォームがスウェー(ステップする際、身体の重心が前=投手寄りに傾くこと)することがあった。

これを改善すべく、前掲したスティックピクチャーの「新フォーム」のように、今オフは右足を昨季より高く上げ、バットをやや寝かせる打ち方を試している。そうすることで「割れ」をつくり、スウェーしないようにするのだ。

割れを簡単に説明すると、スイングする前の姿勢のことだ。打撃の初期動作では上半身と下半身が異なる方向に動いているため、ステップした足(左打ちなら右足)とトップに一定の距離をつくり、適度にバランスを取ることが重要だ。専門的な話なので、ここでは「適切な間を取ることが重要」くらいに考えてほしい。

スウェーしなければ、打つ確率増

雄平の場合、すり足で打つと前足をステップするときに身体が前方に行きやすく、打つ前の姿勢が崩れてしまう傾向があった。そこで右足を上げて割れをつくることで、スウェーしないようにと考えた。

「スウェーしなければ、狙った球が来たときに打てる可能性が高くなります。打ち損じが少なくて、どのコース、球種でも狙ったときには打てるくらいの準備をしておきたい。狙っていない球の場合でも、スウェーしちゃうと手だけでバットを出すしかないんです。それだと強い打球を打てない。しっかり割れていると、真っすぐだと思って打ちにいって変化球だった場合でも、グッと体重移動を止めることができる」

さらに、スウェーしたときには目線のブレが生じるため、悪影響が出る。

「前に行くと、フォークや低めの球がストライクに見えるんですよ。スウェーしなければ、低めの球はボールに見えてきます」

ボールを自分のミートポイントまで呼び込み、力強いスイングでたたいていく

ボールを自分のミートポイントまで呼び込み、力強いスイングでたたいていく

技+体+心で感覚ができる

バットをやや寝かせたのは、操作性を上げることが目的だ。「昨季は結構脇を開けていた」が、寝かせることでライン(ボールの軌道)にバットを入れやすくなる。立てるほうが飛距離を出しやすくなるものの、雄平は違う方法を選択した。

「トップの位置からバットを早く出せるので、ボールを長く見られます。ラインの中で長く見るんです」

そうして選球眼を高めようとしているのだ。

「基本的に、ストライクで結果球を終わりたいんです。そのほうがヒットを打てる可能性が高いじゃないですか。ボール球をヒットにしても、自信にならないし。ストライクを打つ練習をしているわけですから」

投手がストレートを投げてから1秒未満の間にキャッチャーミットに収まる野球は、繊細な感覚が勝負を分ける競技だ。だからこそ技や身体はもちろん、メンタルも重要になる。それらが結集されて感覚をかたちづくるからだ。

選択肢を増やし、後悔を減らす

言葉では表しづらいような感覚を追求するプロ野球選手だからこそ、根拠を持つことが重要になる。理由づけの有無が、不調時を左右すると雄平は言う。

「いろいろな知識を得ていると、調子が悪くなったときに『こうかな』と選択肢が増えるので。いつかコーチをやってみたいですし、理論的に野球を見るのも大事です」

畑が違う他者の視点を入れることで、自分の感覚を磨く際のプラス材料になる。そうして自身の道を追求しているのだ。

「何をやるのか最終的に決めるのは僕なので、責任は全部自分にあります。でもサポートしてくれたり、僕が知らない情報をどんどん入れてくれたりする人がいる。選択肢が増える中で、自分で後悔のない野球をしたい。僕はそういう性格なんだと思います」

自分を知り、どうすれば向上できるかと考える。2016年の目標は、打率、本塁打、打点ともにキャリアハイ。動作解析やさまざまな情報をインプットしながら、雄平は理想の打者像を模索している最中だ。

「ホームランも打ちたいし、打率3割も打ちたい」という雄平。打者として目指す頂は高い

「ホームランも打ちたいし、打率3割も打ちたい」という雄平。打者として目指す頂は高い

(撮影:武山智史)