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世界で「富裕層」と呼ばれる超高所得者たちは、どのようにお金をお金を使いこなし、運用・管理しているのか。その共通点から何を学べるのか。富裕層の資産運用をサポートするS&S Investmentsの代表であり、NewsPicksプロピッカーでもある岡村聡氏の最新著作『世界の超富裕層だけがやっているお金の習慣』の一部を抜粋・要約し、数回に渡ってお届けする。

反対されると喜びを感じる富裕層

本当の富裕層は生活している中での不満をビジネスチャンスに結びつけていますが、もう1つ富裕層と接していて生活の中での振る舞いとして共通していると感じることは、反対意見を出されても動じないことです。

そして、不満と同じく、反対意見からもビジネスチャンスを探しています。松下幸之助は「会議室で7割の賛成が出る意見は、もう古い」という言葉を残していますが、私の周囲の富裕層たちもこれを地でいっています。

友人や知人たちとビジネスについて話している時に、新しいアイデアを提案して賛成が多いともはや遅いとがっかりして、反対されるほど逆にまだチャンスがあるかもしれないと生き生きとしてくる方がほとんどです。

あまのじゃく
天邪鬼な姿勢に見えるかもしれませんが、世の大半の人が賛成するような意見は、もう既に取り組んでいる人が多くいて先行者との差を埋めるのが大変ですし、また何とかその差を埋めたとしても競合がひしめき合うレッドオーシャンになっていることが多く、大きなリターンが得られません。

このことは資産運用の世界にも強く当てはまります。シンガポール人の凄腕投資家Hさんは、自分と正反対の意見を言う人物の話をいつもニコニコしながら聞いています。

Hさんと一緒にミーティングに参加していて驚くのは、正反対の意見を持つ人に対してあたかも自分も同じ意見を持っているかのように思わせて、相手の意見の根拠をうまく引き出していくことです。

資産運用における見立ての違いは、ミーティングの場で埋まることはほとんどなく、結果マーケットがどう動いたのか分かる事後にしか決着がつきません。自分は違う意見を持っていると切り出してわざわざもめるよりも、相手に気持ち良くしゃべらせた方が、自分が知らない材料を知ることができるかもしれません。

こうした態度をとる敏腕投資家はHさんに限りません。前述のサブプライム危機で2兆円を稼いだといわれるジョン・ポールソンがいかにバブル相場を見抜きリターンを上げたのか、詳細を描いた「世紀の空売り」(文藝春秋)に同様のシーンが出てきます。

ジョン・ポールソンが不動産バブルの崩壊で損失が出るサブプライム・ローンを含んだ商品を誰が購入しているのか知りたいと銀行にリクエストします。そして、不動産バブルは崩壊せずにサブプライム・ローンを含んだ商品からリターンが得られると期待している人たちが、いかに不動産価格について非現実的な上昇を見込んでいるのかを知って安心するというシーンです。

私たちもこうした優れた投資家たちの振る舞いに学んで、ミーティングで異なった意見を持つ人がいたとしても、論戦を挑みたい気持ちをじっと我慢して、相手の意見の根拠の強さを冷静に見極めるようにしています。

2つの大きな選択肢は反対が多い方を

反対が多いアイデアの方が実はチャンスが多いことは私たちも実感しています。私が2007年のタイミングで、経営コンサルティングの仕事から、投資ファンドの仕事に転職した時は周囲のほとんどの人が賛成してくれました。しかし、ファンドへの転職後にすぐ金融バブルははじけ、リーマン・ショックの直撃まで受けたので間違ったタイミングでの選択でした。

一方、個人投資家向けの資産運用のアドバイスという事業で、夫婦2人で起業するというアイデアや、起業して3年で海外に進出し、さらに家族もシンガポールに移住するという決断は両方共に、多くの人に反対されました。今から振り返って見ると、この2つの選択は共に、ファンドへの転職よりはるかに正しかったと断言できます。

最近では、周囲の富裕層を見習って、ビジネス上の大きな決断をする時には周囲の反対が大きい方の選択肢を選ぶように心がけているくらいです。資産運用でもこの考えをあてはめて判断材料としています。それは逆指標という考え方です。金融市場は新しい材料の登場ごとに、どんどん変化していくため先読みすることはなかなか困難です。そして、先読みする能力に優れたスキルの高い投資家ほどうまく他人の意見を聞くばかりで、手の内を明らかにしてくれません。

そこで、この人が強気になったタイミングでは相場も過熱していて、早晩反転するという、その人の意見と逆をいけばリターンが出る逆指標となる人を見つけるようにしています。

この逆指標となる人は、総じて真面目な勉強家であることが多いです。それは、一所懸命勉強して、過去の値動きも上昇してきている理由もしっかりと理解して、これで安心と投資する頃には、相場が過熱して反転してしまうという傾向があるからです。

私自身も同じ過ちをしたのが、2007年のタイミングでの企業買収ファンドへの転職です。当時は株式市場が最高値となっており、金融業界でのボーナスも記録的な水準にのぼっています。

コンサルティング業界と比較して、桁違いに良い報酬が稼げるとつられて転職をする頃にはバブルも過熱しきっており、早晩下落に転じたという経緯は、私自身が転職における逆指標となってしまっていたことを示しています。

これらの経験から、資産運用においては、真面目で一所懸命勉強するがために決断が遅れがちで、慎重なこの人が踏み切ったすぐ後に、相場が下落するような逆指標となる人を探すようにしています。

この人が金投資や海外不動産投資に踏み切ったすぐ後に、市場が反転して下落したという知り合いがいて、もちろん本人に言うと傷つけることになるので言いませんが、逆指標として参考にしています。

特定の人を逆指標とするのが難しければ、世の中のランキングなども逆指標として有用です。就職ランキングで上位に来た企業の多くは5年・10年後にパフォーマンスが低下することは一般的に見られる現象です。情報に乏しい学生がこの業界が良さそうと思う頃には、その業界の繁栄もピークを迎えていることが多いということです。

皆さんも転職など人生の大きな決断や、何か新しいチャレンジをする時には、反対意見が多ければ多いほど喜ぶ富裕層の性質を見習って、反対意見にひるまないようにしてください。

(※本連載は毎週金曜日に掲載予定です)
 世界の超富裕層だけがやっているお金の習慣