大人になりきれてない「ジャイアン」を成長させたい
デジタルマーケの旗手、本間充が語る マーケティングの本質
2016/1/27
花王でインターネット黎明(れいめい)期からウェブサイトをはじめとしたデジタルマーケティングを切り開いてきた本間充氏が、アビームコンサルティングに移籍した。事業会社での経験をコンサルタントとしてどのように生かそうとしているのか。そこには、日本のマーケティングの質をもっと向上させたいという本間氏の思いがある。
CMOとCIOの間にある溝を埋めたい
――本間さんは、インターネット黎明期の1990年代初頭から、花王でウェブサイトの構築やデジタルマーケティングに関わってきました。総合コンサルティングファームのアビームコンサルティングに転職した今、改めて日本のデジタルマーケティングの現状について、どのように捉えているのでしょうか?
本間:花王でデジタルマーケティングを構築しながら、日本アドバタイザーズ協会のWeb広告研究会の代表幹事もやっていた関係で、あらゆる業界のデジタルマーケティングを見聞きしてきました。
そういう中で感じたのは、日本のマーケティングの組織があまりにも“子どもっぽい”ということです。まるで「ドラえもん」のジャイアンのように、「みんな、やろうぜ!」とかけ声をかけるだけ。
本来であれば、「こういう会社に育てたいから、こういうマーケティングをしよう」という議論がしっかりとなされるべきですが、そこがすっぽり抜け落ちている会社が多い。日本のマーケティングはもっと大人の組織になるべきです。
――日本のマーケティングは、大人になりきれていないということですか?
そう感じますね。だからこそ、これからはコンサルという立場から、マーケティング組織を成熟した大人の論理で動く場にしていければと思っています。
もうひとつ、私がやりたいことは、マーケティング部門の最高責任者であるCMOと情報システム最高責任者であるCIOの間で、きちんと共通言語を持ってコミュニケーションができるようにしたいということ。
情報システムに強いアビームにはCIOの、デジタルマーケ畑が長い僕にはCMOのトップクラスの人脈があります。両者の人脈を引き合わせることで、新しいマーケティングのスタイルが生まれるはずです。
――マーケティング部門と情報システム部門では、相互理解があまりできていないということでしょうか?
一般的にこのふたつの部門には、大きな溝があるというのが現実だと思います。マーケティング部門はジャイアンのように「こんなことをやってみたい」と単純に主張するだけ。そのために当然分析すべきデータから学ぼうとしていない。
一方で情報システム部門はマーケティングをやみくもにリスペクトしすぎる傾向があります。結果として、マーケティング部門に助言すべきことも言えずにいたりする。
共通言語を持たず相互理解ができていないマーケティング部門と情報システム部門の溝を橋渡しすることで、本質的なコミュニケ―ションを実現していきたいですね。
――なぜマーケティング部門と情報システム部門は共通言語を持てないのでしょう。
マーケティング部門は、本来、新しい市場を開拓するのがミッションです。しかし、リーマン・ショック以降、市場の開拓より「売り上げの前年割れを回避する」ことが命題に変わってしまった。その一方で、ライフスタイルの多様化やローカライゼーションが進み、もはや「マスマーケティング」というものが成立しなくなっているのです。
この現実にしっかりと向き合い、マーケティング部門が自分たちの言葉で「マスマーケティングが崩壊している」と社内外へ語る必要があるはずです。そのうえで、「崩壊したマスマーケティングの代わりとなる新たな戦略を練るためにデータ分析が必要だ」と、情報システム部門と連携していくべきでしょう。
それなのに、マスマーケティング崩壊という現実を見つめないまま、前年割れしない売り上げだけを追いかけている。そういう現状認識の甘さが、CMOとCIOの会話を成り立たなくさせているのだと思います。
インターネット黎明期にさまざまなチャレンジ
――ところで、本間さんはもともと研究者として花王に入社されたそうですね。どのような経緯でデジタルマーケティングを手がけるようになったのですか。
大学では数学が専門で、花王に入社後は研究所で数値シミュレーションを担当していました。1990年代になって企業がインターネットを徐々に導入する過程で、マルチメディアや情報システムに詳しい人間として社内で認識されるようになりました。その結果、研究所から広告関連の部署に異動し、デジタルマーケティングの道に進みました。
その後、インターネット推進室を立ち上げました。とにかく新しいことばかりだから、いろいろな壁にもずいぶんぶち当たりました。でも、そういうときこそ「どうしたら、おもしろくできるのか」を追求するようにしていましたね。
そもそも、僕は「誰もやったことがない仕事」にワクワクするタイプ。そういう意味では、王道よりも亜流を歩んできたといえます。新しい領域とは、圧倒的にライバルが少ないもの。多少粗削りでも1番を取りやすいというアドバンテージがある。僕は新しいチャンレンジを楽しみながら、結果を出すのが得意なんですよ。
「コンサル=虚業」のイメージが変わった
――新しいチャレンジを常に楽しむ本間さんが、総合コンサルティングファームのアビームへの転職を決意した理由はなんだったのでしょうか?
昨年、48歳の年男を迎えたときに、60歳まであと一回りしかないと強く意識したのがきっかけです。「人生でのキャリアが、1社だけで終わっていいのか」と考えるようになりました。もうひとつ、将来的に社会人の先輩として若者育成に関わりたいという思いがあり、その点でも、もう少しいろんな会社を知っておくべきではないか、と。
でも、実は、当初はコンサルに転職するつもりは全然ありませんでした。むしろ、コンサルは“虚業”というイメージだったくらいです。
――“虚業”と思っていたコンサルティングファーム。そのイメージを覆したものは何だったのでしょうか?
採用面接を受けているうちに、それまで持っていた「コンサル=虚業」というイメージはちょっと違うな、と気づきました。
アビームが立ち上げようとしているデジタルマーケティングの組織でなら、僕が考える“マーケティング組織の大人化”や、“CMOとCIOのコミュニケーション”を実現できそうだと感じたんです。
コンサルはいろいろな会社を深く知ることができるという点も、僕にとっては魅力でした。
――実際にコンサルティングファームで働くようになって、事業会社での経験がどのように生かされているのでしょうか?
事業会社だけにかかわらず、日本企業特有の「仕事の回し方」がよくわかっているのはひとつのメリットですね。相手を説得するには、どのようなアプローチをするのがよいのかということは熟知しているつもりです。
もうひとつは、自分がいた花王に限らず、さまざまな事業会社との付き合いを重ねてきたので、本音ベースのデジタルマーケティングの実情というのを知っています。
メディアでは成功している部分のみがクローズアップされがちですが、実はさまざまな課題を抱えていたりする。そういう点で、コンサルとしてどのような提案をしていくべきか、判断がしやすいと思っています。
マーケティングに外的基準を提供する
――具体的には、クライアントに対してどのような価値を提供されるのでしょうか。
1月27日より、「マーケティングBPRソリューション」を新しく立ち上げます。キャッチコピーは、ずばり「マーケティング部門のデジタル化」です。
マーケティング部門にIT投資が必要なことは、すでにみなさんが理解されています。そこで最初のステップとして、マーケティング部門のデジタル化の推進状況、その課題や改善点を明確にする「マーケティングオペレーションアセスメントサービス」を提供します。
マーケティングには、ほかの部門のようにアセスメントをするための明確な外的基準やルールというものが存在しません。そこで、アビームでは、僕自身のこれまでの知見と他の会社の実情に基づき“本来あるべきデジタルマーケティングの姿”を独自で定義。それに合わせて現状を客観的に評価することで、次のステップへと進んでいきます。
――客観的な指標に基づく現状分析と評価をし、その先にそれぞれの企業に応じた戦略を提供していくということですね。
その通りです。
アセスメントの結果、どのような可能性を伸ばすかは、それぞれの企業で違ってくるもの。そこはもちろん、オーダーメイドで戦略を立てます。マーケティング部門がすべき投資計画、組織・人事計画の実現に向けたロードマップの策定支援、さらにデジタル化に必要なテクノロジーの選定から導入、有効活用するための業務フローや制度作りなどを提供します。
――最後になりますが、日本のデジタルマーケティングは、これからどのように変わっていくとお考えですか?
今までの日本のマーケティングは、単一で均一な日本人を相手にすればよかった。そういう意味では、世界的にも特殊で安定した分野でしたが、今後はどんどん変わっていくはず。
たとえば、私たちにとっては新鮮な「民族マーケティング」も、世界ではごくごく当たり前のこと。市場開放が進む中で、自分たちとは違う、新しいカルチャーに向けたマーケティングを積極的にやっていく時代が到来しています。これからは世界標準のマーケティングが主流になっていくでしょう。
(聞き手:久川桃子 構成:工藤千秋 写真:福田俊介)
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