世界で「富裕層」と呼ばれる超高所得者たちは、どのようにお金をお金を使いこなし、運用・管理しているのか。その共通点から何を学べるのか。富裕層の資産運用をサポートするS&S Investmentsの代表であり、NewsPicksプロピッカーでもある岡村聡氏の最新著作『世界の超富裕層だけがやっているお金の習慣』の一部を抜粋・要約し、数回に渡ってお届けする。

本当の富裕層は人脈でリスク回避する

私たちの周りで、これから資産を形成していく20代・30代の方にも、老後に備えるために資産運用を始めたいという人が多くいます。ただ、富裕層の中からはあまりこうした声が聞こえません。富裕層だから、老後の不安がないのは当然だと思うかもしれません。

しかし、富裕層が老後のお金の心配をしないのは、老後の問題などの長期的なリスクには、お金だけでは対応できないと彼らが考えているからです。

なぜ、お金を持っているだけでは老後の問題など長期的なリスクには対応できないのでしょうか?

それは、今後数十年で経済構造や社会構造が大きく変わり、例えば1億円といった現在は老後に備えるうえで十分と考えられる資産があったとしても、大きく円安が進んだり、インフレが進んだりして、十分な金額とはならない可能性があるからです。

また、老後に向けて資産を構築しようにも、今の仕事で引退までの数十年間、十分に収入が稼げるのかも誰にも分かりません。これからはありとあらゆる業界でグローバル化が進み、新興企業が大きく躍進する一方、伝統的な企業が衰退する傾向が、より加速していくでしょう。

ほんの10年前まで、日本政府と一体とみなされ、破綻リスクなどないと考えられていた日本航空(JAL)が倒産し、東京電力が福島の原発事故により存亡の危機に瀕する事態となったことは多くの人にとって驚きだったでしょう。

また、破綻には至っていませんが、同じく10年前は液晶パネルで世界最大手であったシャープが、スマホにシフトする業界構造の変化に対処できず、銀行主導で債務再編が行われ、大きなリストラや液晶事業の売却検討をせざるを得ないところまで追い込まれていることや、同じく電機業界の雄である東芝が、複数の事業に渡って数千億円にのぼる粉飾を行い、歴代の社長が辞任する事態にまで発展したことなど、どの事例をとっても、少し前には考えられなかった、日本の大企業の不振ぶりです。

製造業に限らず、大手新聞の発行部数が1年で数十万部も減ったり、ファストフードの既存店舗の売り上げが1年で10%以上落ち込んだりと、さまざまな業界で大手企業の失速が報じられています。今後数十年は経済構造の変化が加速し、もっと想定できないことが次々に起こるでしょう。

人的ネットワークを張り巡らせてリスクヘッジを

では、富裕層はどのようにリスクヘッジをしているのでしょうか。最大の対策は人脈です。環境が変わったとしても、しっかりとした人脈があればたとえ自分の仕事がうまくいかなくなったとしても、人脈から新たな仕事を生み出し稼ぐこともできます。

人脈でリスクヘッジしているのは私たちも同じです。起業当初はもちろん、今でもたまに「なぜマッキンゼーを辞めて起業したのですか」「なぜ夫婦で高収入の金融の仕事を辞めて、個人向けの投資アドバイザーになったのですか」と聞かれることがあります。

自分たちが主導して世の中に必要だと思う仕事を創り出して、それが世の中で評価される以上の喜びはないから、というのが私たちの答えですが、多くの方には納得してもらえません。多くの人は起業のやりがいよりも、なぜそのようなリスクを取ったのかというところが気になるようです。

私たちは起業することをリスクとして考えていませんでした。その理由はもし起業たしてうまくいかなくなったとしても、金融業界に戻って起業資金を貯めて、またチャレンジすればいいと割り切っていたからです。

ファンド業界で活躍する40代のAさんという方がいます。Aさんとは縁が深く、大学の研究室、マッキンゼー、アドバンテッジ・パートナーズと私が在籍したこれらの組織の全てで先輩にあたります。

Aさんには起業してからもお世話になり、起業当初なかなかお客様が集まらなかった頃には、彼がファンドを通じて投資をしている証券会社の顧問をやらせてもらうなど、さまざまなサポートをしてもらいました。

精一杯やった結果、起業がうまくいかなければ、またファンド業界に戻ってきて頑張ればいいとAさんに言ってもらったことは心理的に大きな支えとなりました。今では、Aさんも私たちのお客様になってもらい、個人の資産運用のアドバイスをさせてもらっています。

ただ、Aさんとこうした信頼関係ができるまではなかなか大変でした。生き馬の目を抜くファンド業界で成功しているAさんは働きぶりも猛烈で、独立する前に一緒に投資案件を評価したときには、元旦をオフィスで迎えたほどでした。

午前3時、4時まで企業価値を算出するモデルについてインプットがあり、明朝までに修正するように言われた時にはかなりつらい気持ちになったことを覚えています。しかしながら、こうして一緒に仕事をした時に絶対に逃げずに食らいついたことで、こいつはなかなか諦めないと評価してもらえ、起業してから何の実績もないにもかかわらず資産運用のアドバイスを任せてもらえたのだと思います。

多くの富裕層は人的ネットワークを世界中に張り巡らせ、自国経済の調子が悪い時には外国の友人の仕事を手伝ったり、投資したりすることでリスクを回避しています。また、起業家たちで自分のビジネスがうまくいかず、最悪倒産したとしても、一所懸命やっていたことを理解している仲間がいることで、また資金を募って再起を果たしている人も珍しくありません。

不振の例に出したシャープでも、例えば片山前社長は日本を代表する経営者である日本電産の永守社長にその手腕を買われ、日本電産の代表取締役に就任しました。

私自身の仕事を否定することになるかもしれませんが、20代や30代から老後のことを心配して資産運用をするくらいであれば、充実している気力・体力を活かして思いっきり仕事をして、自分を買ってくれるメンター的存在の先輩を1人でも2人でもつくるほうがよっぽど長期的なキャリアアップにもつながり、お金の面でもプラスだと思います。

こうしたメンターがいれば、多少リスクを取ったチャレンジをして、失敗をしたとしても再起の方法を一緒に考えてくれるでしょう。長期的なリスクをお金だけで回避しようとしても、刻々と変わる環境次第で、不安がいつまでたってもつきません。

どんな環境でも自分のことをサポートしてくれるメンターを、目の前の仕事に全力で取り組む中で、自分から探すようにしてみてください。

(※本連載は毎週金曜日に掲載予定です)
 世界の超富裕層だけがやっているお金の習慣