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混迷していたロボット部門に変化の兆し

グーグルからロボットが生まれる日は近いか

2016/1/21

ロボット部門が「X」の傘下に

先週、グーグルにまつわるロボットの話に触れたところだったが、折しもグーグルのロボット部門に新しい動きがあった。これがけっこう興味深いので伝えておきたい。

ニュースは、グーグルのロボット部門が「X」の傘下に入るというものだ。Xは、かつて「グーグルX」と呼ばれていた同社の先端リサーチ部門である。ここでは、話題を呼んだグーグル・グラスや自律走行車、世界の隅々にまでインターネットを広めるために巨大な風船を用いるプロジェクト・ルーン、ドローンで配達を行うプロジェクト・ウィングなどが進められてきた。

グーグルは昨年全社の組織改編を行って、持ち株会社のアルファベットとその下にグーグル(検索、アンドロイド、マップ、ユーチューブなど)、グーグル・ベンチャーズ、ネストなどの各社が連なる組織体になっているが、Xはアルファベット直属の部門。世界が抱える大きな問題を抜本的に解決する方法を探るために、画期的なテクノロジーを用いるという、大きなビジョンを持っている。

一方のロボット部門は、周知の通り2013年に次々と買収された8社のロボット会社が中心となっている。もともと買収を指揮したのは、アンドロイドの生みの親でもあるアンディ・ルービン。若い頃からのロボット好きと言われていたのだが、その彼が2014年に突然グーグルを辞めてしまってから、いったいロボット部門はどうなるのかと懸念する声が高まっていた。

何しろ、買収された会社はいずれも世界一級レベル、あるいはかなり新しいアプローチのロボット技術を持っていた。日本のシャフトはもとより、軍事用運搬ロボットを開発してきたボストン・ダイナミクスや、コンピューター ・ビジョンで優れた インダストリアル・パーセプション、ロボット・アームのレッドウッド・ロボティクス、ユニークなソフトウェア制御を行うボット&ドリーなどである。

もともと秘密主義のグーグルだが、ロボットについてはことさら口が堅く、どんな開発を行っているかがまったく不明だった。買収されたロボット技術を組み合わせると何ができるのかと、多くのロボット関係者が頭をひねってきた。

唯一、中国のフォックスコンと製造ロボットを開発中といううわさもあり、製造やロジスティクスに関わるロボットを開発中なのであろうというのが、もっとも妥当な推測だったようだ。

課題に合わせて技術を開発か

だが、今回Xへ統合されるということは、これからのアプローチは逆になる可能性もあるということだ。

「逆」というのは、技術ありきで、そこから開発可能な製品やサービスを考えるのではなく、まずは大きな課題を探してそこに合わせて技術を開発するという方法だ。それがXのやり方だからである。

そもそもすでにXで進んでいるプロジェクトにはロボット技術に関連したものもある。自走車しかり、ドローンしかり、また凧(たこ) で高度の風力発電を行うというプロジェクトもある。前回触れたように、Xからスピンアウトされた生命科学関連の会社が医療会社と合弁会社を作り、医療ロボットを開発中という流れもある。その意味では親和性も高いだろう。

世界が抱える大問題の中からロボット技術で解決できるものを特定し、そこへ技術を収斂(しゅうれん)させていくという方向性が、ロボットでは今何よりも求められていることで、これがロボット部門にも適用されるのならば楽しみだ。ロボット開発者たちはいつもロボットの中の高度な技術問題に取り組んでいるのだが、現実社会において解決すべき具体的課題があるのとないのとでは、開発のアプローチも異なってくる。

Xでは現在、技術の整理をしながら、その大きな問題を特定しようとしているらしい。グーグルが買収したトップクラスの頭脳をもってすれば、意外なところで意外なアプローチをするロボットが出現してくるかもしれないのである。

綿密な戦略を立てて製品化か

ただし、Xだからといって 延々に 「ムーンショット」的な研究が続けられるわけではない。たとえば、かなり商用化に近いと思われていたグーグル・グラスのプロジェクトが、何年もの開発後あっさりと中断されたことで、Xには厳しい評価軸があることがわかった。

今回グーグルはロボット部門をまとめるトップも雇い入れたが、彼はロボット的な経歴はあまりないものの、起業家であり、またプロダクト管理の経験が豊富な人物である。製品化へ向かって綿密な戦略を立てながら開発が進められることになるだろう。

おそらく、これまでのロボット部門は技術と人材が豊富にあるにもかかわらず 焦点の定まらない状態だったのだと見受けられる。今回の動きで、グーグルからロボットが生まれてくる日が近づいたのだと期待したい。

*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。

(動画:Google/YouTube)