talk09-banner04

イノベーターズ・トーク Part 4

【小林×西田(4)】これからの政治のキーワードは「オープン化」

2015/1/21
世の中に開かれ、かつスピード感を持って課題を解決する新たな仕組みをつくるために必要なこととは。求められるのは政治の「オープン化」だという。

オープンな形式の導入が必要

西田前回の最後で、自民党はもっと情報を出していくべきで、特に政策の「結果」について発信していくべきだという話題が、小林議員から出されました。ということは、自民党は、より透明度を高めて政策のPDCAを回していく。ゆくゆくは、うまくいかなかった政策も含め、一般に公開していったほうが良いとお考えだということでしょうか。

小林:私はそう思います。なぜなら、これからの政治のキーワードは「オープン化」だからです。政策プロセスと結果をオープンにしていくと同時に、政策を決定していく段階でさまざまな立場の人の知恵を取り入れていく仕組みが重要だと感じています。

今でも政府は諮問会議等、党では部会で民間や有識者からのヒアリングの機会を設けていますが、さらにオープンな形式の導入が必要だと思っています。

西田:日本の政府与党の中で、具体的にどのような議論がなされて法案になっていくかというプロセスは、現代史や政治経済の授業でもほとんど扱われていません。政治部の記者や、研究者は知っているかもしれないが、世の中には全然知られていない。

小林:おっしゃる通りです。永田町の中で何が起きているのかというのがほとんど見えていない。

西田:見えないから、何となく陰謀論が出たりすることもある。安倍内閣や自民党がメディアを支配しているといったような。

小林:メディアと政治の距離が遠ざかったというご指摘がありましたが、民間との距離も遠ざかっていると思うんです。

戦後まもない時代というのは、大卒のエリートというのはほんの一部で、同級生の間である人は官僚になり、ある人は企業人になり、ある人は新聞社に入っていった。良くも悪くも連携しながらスピーティーに政策決定をして戦後復興を遂げていった、というストーリーだったんじゃないかと推測するわけです。政治も産業も地続きだった。

それが「癒着がまずい」ということで一度引きはがされてしまって、同時に大学進学率が上昇して知識層が増えた。昔に比べて、「政治を考え、語れる人」は格段に増えたのが現代であるはずなんです。
 1

西田:そうなったときに、政党としての情報の出し方も当然変わるべきだということでしょうか。

小林:はい。もっと政策プロセスをオープンにして、「どこにアプローチすればルールが変わるのか」をわかりやすく伝えることの価値は高まっていると思います。「ルールを変えるためのアクセス方法」を啓蒙していくことが大事だと強く感じています。

実は今、マイナンバーの制度を軸にしてIT系のベンチャー経営者とできるだけコミュニケーションを取るようにしているんです。彼らは自分たちの力で事業を切り開いてきていますからすごく優秀です。

ただ一方で、あまりにも政治を信用していない、もしくは活用する意義を感じていないことから規制や曖昧なルールにぶつかっていることに気がついたんです。

日本国内で規制されている時代遅れのルールにぶつかりながら、何とかその隙間をかいくぐろうと知恵を絞っている。そこにエネルギーをかけるくらいなら、われわれ政治家をうまく使ってもらってルールそのものを変える方がずっと効率的です。ビジネスを促進するために政治家にもっとアプローチしてほしい、と伝えています。

新たなプラットフォームの必要性

西田:面白いですね。一般に流布しているイメージでいえば、自民党という政党は特定の業界とクローズドで深い関係性を築いていて、ルール変更をどのようにアピールしていけばよいかという方法すら知られていませんでした。政策は、いわば「閉じた世界」で決まるものと信じられていたように思います。

ところが小林議員の今のお話だと、現代は多様なアクターが活躍する時代であり、そんな時代に対応するために政治ももっとオープンにしていくべきだという考え方ですね。そして、それでも自民党はやっていける、と。

小林:はい。まだ党全体に広がってはいませんが、時代の変化による問題は至る所で顕在化しています。

一つの変化としては、ニーズの多様化ですね。政治家のミッションとして「多数の人々の課題を解決すること」がありますが、そのためにはニーズの吸い上げが第1ステップになります。

今はニーズが多様化していて、「あなたが言っている課題は、たった一人の課題なのか、多数の合意形成に基づくものなのか」という判断が難しくなっています。その判断を簡略化するために◯◯会のような業界団体があったわけですが、最近は団体の力も昔のようには機能していません。

西田:従来でいえば、業界ごとに業界団体があって、そこで合致した意見はおおむね世間の意見と一致しているということにして、それを聞いておくのが政治家にとってスピーディーで、確実なコミュニケーションでした。

ところが現在はどの団体も加盟率が下がってきているし、団体内でも世代間ギャップが大きくなっています。必ずしも、団体の意見が、世間の感覚や意見と合致しているとも限りません。

小林:そうなんです。組織化が難しい時代になっているとすれば、いろんな人が意見を伝えられるオープンな仕組みを新たにつくるほうが合理的ではないかと考えています。

西田:たとえば、誰でも意見を表明できる場がネット上でオープンになっていて、かつ誰でも見られるかたちにしておいて、「5人のうち3人がAと言っているから、Aがマジョリティの意見なのかもしれないな」とつかめるようなイメージでしょうか。NewsPicksみたいなものですね(笑)。
 ST_1040

小林:そうですね。AかBかの選択というよりは、そもそも見えていなかった課題の発見や、重要度を把握するイメージです。民意をデジタルに測ることは大きな力になると思うんです。

たとえば、LGBTの課題や選択的夫婦別姓など、現実に課題が表出しているにもかかわらず、なかなか優先度が高まらない案件を押し上げることもできるのではないかと思います。

そういったプラットフォームを提供することを与党のうちに実現すべきだと思っています。そこで課題やアイデアを拾い上げ、実際に政策に反映することが可能です。今やらなければマズイくらいの時期にきているかもしれません。

政治の「理」が届けられていない

西田:ちなみにですが、SEALDs的な行動や意見表明の在り方については、どのように思われていますか。

小林:SEALDsのメンバーの皆さんも、課題意識を持ち政治への関心が高いのは良いことだと思っているんです。

ただ、あの行動は、政治を形成する「情と理」の「情」の部分が強く、政治の原動力でなる「パッション」の比重だけが高くなっているように見受けられます。

その中で、実際の議論や政策過程に発展する「理」をいかに提供していくかが、政治の役割でもあると感じています。運動するほうも「理」の部分がついてきたときに、また考え方も変わるはずですから。

それにより、健全な民主主義が生まれ、政治参画が育まれていくと考えています。

ですから、今回の件は、国民が議論するために必要な「理」が、政治家から届けられていないというアラートなのだと認識しています。

西田:なるほど。ところで、これほど強い問題意識を持って、党の情報化を推進していらっしゃるというのは、自民党の野党経験も踏まえての進化と捉えてよいのでしょうか。

小林:党内に野党を経験したことによる緊張感があることは間違いありません。私個人としてはスピード感をもって根本的問題解決に取り組まなければ間に合わないという危機感があります。

そのためには「孤掌難鳴」、政治・行政・民間が一体感をもって動くことが必要です。そのための政治のオープン化は重要なキーワードになると思います。

(構成:宮本恵理子、撮影:竹井俊晴)

*明日掲載の「自民党のメディア戦略が抱える課題」に続きます。

*目次
第1回:自民党のファンを増やすための戦略とは
第2回:政治にも求められるネットとリアルの融合
第3回:変われないメディア、変わろうとする政治
第4回:これからの政治のキーワードは「オープン化」
第5回:自民党のメディア戦略が抱える課題