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不動産活用の革命児たち 軒先 第2回

個人の空き駐車場もシェア。事前予約のニーズ取り込む

2016/1/21
ちょっとした空きスペースの貸し借りができる「軒先ビジネス」。個人宅の駐車場や月決め駐車場の空き区画を“予約ができる駐車場”として貸し出す「軒先パーキング」。両サービスを運営する「軒先」はどんな未来を目指しているのかを前後編でリポートする。
前編:「その軒先、貸してください」。デッドスペースが収入を生む

観光地、イベント、コンサート。「駐車場を予約したい」

「せっかくの休日に、ドライブに出たものの観光地は駐車場を探す車の列で渋滞している。車をとめるころにはくたくたになってしまった」。観光地に車で行って、そんな状況に陥ったことはないだろうか。

前もって駐車場が予約できれば、便利なだけでなく渋滞緩和にもつながる。“ちょっとした空きスペースの貸し借りができるサイト”として始めた「軒先ビジネス」の中でも、2008年の創業期から、予約ができる「駐車場」はひとつのカテゴリーとして人気があった。

それを「軒先パーキング」として、本格的なサービスに昇華させたのは2012年。利用シーンを駐車だけに限定し、サイトも独立させた。

きっかけは分譲マンションなどの空き駐車場の外部貸しについて、課税方針が変更されたことによる。それまで、1台でも外部に貸し出せば駐車場全体の収益が法人税などの課税対象となっていたが、「外部に貸し出している箇所だけ課税対象」と変更になった。

首都圏を中心に、マンション内の駐車場に空きスペースが増え、少しでも収入を増やしたい管理組合からの要請を受けての変更だった。さまざまな会社がマンションの管理会社へ駐車場活用の提案を行う中、軒先はまったく違う方向を見ていた。

「大きなスタジアムでコンサートやイベントがあるとき、駐車場さえ予約が取れれば車で行きたい人は多いはず」

過去のユーザーの行動にも、その傾向が見て取れた。軒先の代表の西浦明子は、そう狙いを定め、全国各地のドーム、スタジアムなどの施設周辺にターゲットを絞り、営業活動を展開。駐車場の登録数を急速に増やした。

西浦明子 1991年上智大学外国語学部卒業後、ソニー(株)入社。海外営業部に所属。94年ソニーチリに駐在、オーディオ製品などのマーケティングを担当。2000年、同社を退社後帰国。創業時のAll About Japanで広告営業を経たのち、01年(株)ソニー・コンピュータエンタテインメント入社。商品企画部にてプレイステーション2やPSPのローカライズ、商品開発などを担当。06年同社を退社後、(財)日本国際協力システムで政府開発援助(ODA)関連の仕事に携わる。07年、出産を機に同財団を退団。約半年の構想準備期間を経て、08年4月に軒先.comを立ち上げる。

西浦明子
1991年上智大学外国語学部卒業後、ソニー(株)入社。海外営業部に所属。94年ソニーチリに駐在、オーディオ製品などのマーケティングを担当。2000年、同社を退社後帰国。創業時のAll About Japanで広告営業を経たのち、01年(株)ソニー・コンピュータエンタテインメント入社。商品企画部にてプレイステーション2やPSPのローカライズ、商品開発などを担当。06年同社を退社後、(財)日本国際協力システムで政府開発援助(ODA)関連の仕事に携わる。07年、出産を機に同財団を退団。約半年の構想準備期間を経て、08年4月に軒先.comを立ち上げる。

イベントによっては1日5000円の日も

「軒先パーキング」の実際の利用者の声はどうだろうか。横浜市にある日産スタジアム近くで2カ所の駐車場を貸し出すオーナーに話を聞いた。現在は、所有・管理している賃貸マンションの住民用駐車場と、近隣の月決め駐車場で発生した空きスペースはすべて「軒先パーキング」に登録している。

「駐車場の貸出料金は、日産スタジアムのイベントの有無で決めている。特別なイベントがない日は1日500円、コンサートやサッカーの試合がある日は、価格を上げる。適正価格は手探りだが、大きなイベントでは5000円以上でも借り手がついた」と駐車場オーナーは話す。

月決め駐車場は、月1万3000円で貸し出している。大きなイベントが続けば、「軒先パーキング」の収入が、月決めの収入を上回る。このようにイベントや曜日ごとに臨機応変な値段設定ができるのが「軒先パーキング」の大きな特徴だ。予約も1日単位なので、契約した日は何度でも出入りは自由だ。

「賃貸マンションのほうは、住人の方が固定で借りたいと言えばそちらを優先させる。『軒先パーキング』では、次の借り手がつくまでの期間だけ柔軟に貸し出しができるし、コインパーキングのような初期投資も必要ない。登録しておくだけで臨時収入が見込めるのは、ありがたい」(駐車場オーナー)

過去、一度だけ、ユーザーが間違った場所に駐車するトラブルがあった。そのときに、軒先の担当者が迅速に丁寧に対応したことから、このオーナーは軒先のファンになったという。現在、月決め駐車場の1区画は、希望者がいても「軒先パーキング」用に空けている。

「軒先パーキング」では、オンライン上のプラットフォームを用意するだけでなく、ITを利用しないオーナー層にも登録してもらえるように、一件一件丁寧に説明し、登録数を増やしている。1830万人を超える会員を持つロードサービスのJAFとも連携し、2015年現在、登録件数は、全国で2500台分を超え、ユーザー数は8万5000人に達する。

「短時間の駐車なら、コインパーキング。観光地で駐車スペースを確保したい、何度も出入りする可能性があるなら『軒先パーキング』と、利用者は使い分けているようです」(西浦)

戸建て住宅の駐車スペースの登録も増えている。立地によっては、「軒先パーキング」の利用料で、ワンルームマンションに匹敵する収入を稼ぐケースもあるという。

ワーキングマザー、女性起業家として

起業とほぼ同時に出産。人生におけるビッグイベントが2つ、同時に重なっていたが、西浦はどちらもごく自然体で臨んできた。

「『出産・育児が落ち着いてから』と後回しにしないで良かったと思う。たくさんの人にサポートしてもらっているが、やってみると意外とできている。出産や育児を足かせに感じてしまうのは、すごくもったいない」

「病気による保育園からの呼び出し」にも、柔軟に対応ができた。仕事はどこでもできる。子どもを寝かし付けた後、自宅で仕事をすることもある。時間も体も100%ビジネスに注げる若手起業家を見ると、焦りを感じないと言えばウソになる。それでも、仕事も子育ても充実していることに何より満足している。

意外にも「シェアリングビジネスの拡大」を、それほど追い風に感じていないという。

「“シェアリングエコノミー”は、『軒先』のサービスを表す言葉ではない。『軒先』ではもっと身近な『駐車場が予約できると便利だよね』『あの店舗の一角が、もっと気軽に借りられるといいのに』という、目の前の課題を一つひとつ解決していきたい」

駐車場の予約も、ちょっとした空きスペースの貸し借りも、誰もが当たり前に使うサービスとして世の中に認知され、社会インフラになることが西浦の目標だ。マイルストーンは、東京オリンピックが開催される2020年。

「ユーザーにもオーナーにも喜んでもらえて感謝してもらえる。これが、私の原動力。しかもそれが、路上駐車や渋滞などの社会問題の解決の一助にもなる。目指す目標はまだまだ遠い先にありますが、着実に一歩一歩進んでいきたい」

(文中、敬称略)

(取材・構成:玉寄麻衣、編集:久川桃子、撮影:福田俊介)

*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。