【マスター】バナーテンプレート.001 (1)

日本企業のイノベーションは30代から始まる

【大企業30’s】大企業でイノベーションを起こす方法とは

2016/1/20
新しくて面白いものをつくるのはベンチャー企業。そんなムードに押されがちな大企業も、本当は豊富なリソースを武器にもっとイノベーションが生み出せるはず。そんな想いを抱いた大企業の30代社員とNewsPicksがコラボレーションし、イベント「大企業30s――日本企業のイノベーションは30代から始まる」を昨年11月に開催した。大企業で働く30代社員のリアルなトークを通じ、大企業ならではのカルチャーやその難しさ、面白さや可能性の大きさについて一緒に考えた。

大企業の強みとは何か

濱松:パナソニックの濱松誠です。1982年生まれの33歳で、2006年にパナソニックに入社しました。北米向けの薄型テレビのマーケティングやインド事業推進などを経て、今はコーポレート戦略本社人材戦略部で人事の仕事をしています。

2012年に、社内でOne Panasonicという有志グループを立ち上げました。社員の交流を通じて社内のヒューマンネットワークを拡大し、そこから面白い商品やサービスを生み出す土壌づくりをするというミッションで活動しています。

One Panasonicの話の前に、まず簡単にパナソニックの紹介をします。約100年前に松下幸之助が創った会社で、売上高が約7兆7000億円、従業員は約25万人です。4つのカンパニー体制をとっており、37の事業部をもっています。「古くて、大きくて、複雑な会社」。そんなふうにも言えるかもしれません。

似たような状況の会社に勤める方も多いでしょうが、このような大企業で働いていると、「やりたいことがやれない」と感じることはありませんか。私がOne Panasonicを立ち上げたのは、そこに風穴を開けたい思いがありました。

One Panasonicが大切にしていることは3つあります。まずは「社会により良い価値を提供しよう」という「志・情熱」です。2つ目は「知見」です。そして3つ目は「つながり・人脈」。今日のキーワードでもあります。

大企業病の症状とは

“大企業病”の症状は一般に、スピードが遅い、組織が縦割りで細分化している、リスクを取らない「ことなかれ主義」、安定志向などです。それに対し、社員は不満や愚痴をこぼしますが、一番怖いのは、行動が伴わないよりも何よりも「うちっておかしいよね」とか「何かやろうよ」と声を上げなくなることです。いわゆる「言っても無駄症候群」です。

では逆に、大企業の強みとは何でしょうか。私が思う強みは、ブランド、人、技術、信頼、顧客、ビジネスパートナーなど「有形無形の資産を豊富にもっている」ことです。

にもかかわらず、たとえば、「人」にフォーカスすると、会社の中の「人」って、実はあまりつながってなくないですか? これはパナソニックだけではなくて、従業員が1000人以上になると社員同士がつながっていない会社のほうが多いと思います。

たとえば、全員がこうだとは言いませんが、カメラの部門にいる社員はカメラのことしか考えないし、ビューティーケア部門にいる人はドライヤーやヘアアイロンのことしか考えません。

でも、人が交流して「掛け算」になったほうが新しいアイデアやイノベーションは起こりやすいですよね。だからOne Panasonicでは、自分の領域から一歩外に踏み出し、社員同士がつながることを主眼としているのです。

人がつながるための活動として、勉強会や交流会をしたり、ハッカソン(プログラマが開発技術を競うイベント)をしたり、何でもやっています。パナソニックOBであるマイクロソフト会長の樋口さんやサイボウズ社長の青野さん、ハードウェアベンチャーCerevoの岩佐さんたちを招いて交流会もしました。

その中でも、やってよかったなと思うのが「モノ博」です。「会社で開発した商品を全部集めよう」という取り組みです。ショールームでしか見たことのない商品もあるし、そもそも事業部が37もあると、社員でも会社の商品をすべて知っているわけではない。

さすがに全部の商品は集められませんでしたが、自分たちが紹介したい商品を集めて「モノを通じた人の交流」を試みたところ、やはりメーカーだからか、この取り組みはすごく盛り上がりました。

濱松 誠(はままつ まこと)  パナソニック株式会社 有志の会One Panasonic 発起人・代表 1982年京都市生まれ、大阪在住の32歳。2006年松下電器産業(現 パナソニック)に入社。海外コンシューマー営業、インド事業推進に6年半従事した後、2012年に社内公募で本社人事へ異動。パナソニックグループにおける人材戦略を推進する傍ら、2012年に立ち上げた有志の会One Panasonicにて「人・組織・風土」の活性化や、社内外を巻き込んだオープンイノベーションに取り組んでいる。

濱松 誠(はままつ・まこと)
パナソニック有志の会One Panasonic発起人・代表
1982年京都市生まれ、大阪在住の32歳。2006年松下電器産業(現パナソニック)に入社。海外コンシューマー営業、インド事業推進に6年半従事した後、2012年に社内公募で本社人事へ異動。パナソニックグループにおける人材戦略を推進する傍ら、2012年に立ち上げた有志の会One Panasonicにて「人・組織・風土」の活性化や、社内外を巻き込んだオープンイノベーションに取り組んでいる

意識と行動は間違いなく変わる

このような活動をしていて、「何が変わったの? 成果は何?」と聞かれますが、One Panasonicは成果を出すことを目的にはしていません。ただ、意識と行動は間違いなく変わっています。

「やろうと思えば、何でもやっていいんだ」と思えるようになったという参加者が多く、実際にいろいろな人とつながった。イノベーションは一人では起こりませんから、いろいろな人とつながることが大切です。

この「人とつながる」についてもう少しお話しすると、社内の横のつながり、トップから内定者までの縦のつながりももちろん大切ですが、イノベーションのインパクトが大きいのは社外とのネットワークなんです。とはいえ「社外はちょっと」「うちの会社のことわかってないし」という風潮はどうしてもあります。

そこで大切にしたいのが、会社の卒業生(OB・OG)とのつながりです。会社のことをよくわかっているOB・OGと「何か面白いことできたらいいよね」と。その文化があるのが大企業だとリクルートです。

パナソニックでいえば、先ほどもお話ししたサイボウズの青野社長、日本マイクロソフトの樋口会長やNTTドコモ執行役員の栄藤さんなど、面白い人がたくさんいます。

当たり前のことですが、会社を辞めた人は、裏切り者ではなくて大事なパートナーです。どんどんつながって面白いことをし、卒業生から「パナソニックにこんなことできるとは思わなかった」と言ってもらえれば最高ですよね。

卒業生とのネットワークはリクルートだけができることではありません。皆さんの会社にその文化がないのなら、自分でつくってしまえばいい。私はこれを、強くお伝えしたいと思います。

私がもう一つ重視しているのが、社内の幹部社員とのつながりです。専務や常務、役員や本部長クラスにもフェイスブックをやっている人が結構いますから、どんどんメッセージを送ってご飯を食べに行って、自分の思いを伝えています。

なぜ私がトップとのつながりにこだわるのか。大企業を動かす意思決定は、上から順が基本だからです。ボトムアップを否定はしませんし、ミドルの意思決定力も大事です。でもトップが「うん」と言わなければ、大きなことは起こりません。

だから自分で直接伝えたり、卒業生など社外のパワーを利用したりする。こうすることで、大企業は少しずつでも動いていくと感じます。

One Panasonicの活動をいろいろなメディアを通じて発信していると、さまざまな会社の有志グループと出会いました。

今日も登壇している富士ゼロックスの「わるだ組」や、JR東日本の「Team Fantasy-sta」、NTT東日本の「One Den」、リコーの「ONE RICOH」など、これらのグループと出会う中で、面白い人がたくさんいることに気づきました。

今まではIとかmyselfで語っていたことがOne Panasonicになり、大げさに言えばOne JAPANというぐらいの広がりを感じるようになりました。

やるか、絶対やるか

では、このような私たちの活動が生み出せる価値は何でしょうか。今回登壇するにあたり、改めて考えてみました。

まず思い浮かぶのは、誰かの心に火をつけること。これは絶対です。情熱を失った若手を社内外でたくさん見てきて、彼らの火をともすモチベーターでありたいと思いました。

2つ目は、人をつなげること。本業でもそうですが、物事を自前主義でできる時代は終わりました。これからはオープンイノベーション、コクリエーションの時代。新しいことを生み出すには、いろいろな人とつながることが大切です。私たちは人と人をつなげるコネクターでありたいと思っています。

その延長にあるのが3つ目で、ゼロからイチを生み出すこと。商品やモノでも、アルムナイネットワーキングパーティーを企画するとか何でも良い。とにかく動いてつながってこそ、今までになかったものが生み出せます。

4つ目は、インフルエンサーとしてこのうねりを大きくすること。One Panasonicは本来社内の活動ですが、社外への発信にも力を入れています。こうすることで「実は私も同じことを思っていました」とか「うちの会社でもやっています」と共感してくれる人と出会え、会社を良くするための活動が、社会を良くするための動きにつながっていきます。

この4つが、私たちが生み出せる価値だと考えました。

大企業でもコミュニティでも組織に属する者は、染まるか、辞めるか、変えるか。この3つしか選択肢はありません。もし自分がそのコミュニティに残るという決断をしたなら、満足していないことを「変える」選択をしようじゃありませんか。

じゃあ私やOne Panasonicがパナソニックを変えているのかといえば、まだまだです。7兆7000億円、25万人の企業はやっぱり大きいですから。

でも、良い方向に向かっていると思います。大きな船は急に方向転換できませんが、ゆっくり、少しずつなら方向を変えることができます。今は大企業が少しずつ動く醍醐味を味わっています。少しであっても、世の中へのインパクトは大きいので。

最近好んで使っている言葉は「やるか、やらないか」ではなく、「やるか、絶対やるか」です。絶対に変えないといけないことは、絶対にやる。イノベーションを起こすには、情熱と人脈、この2つではないでしょうか。

今ここにいる皆さんは、すでに問題意識を持っていたり何か活動をしていたりすると思います。だから私が今日お話ししたことを、皆さんの周りにいる、もがいていたり、くすぶっていたり、やる気を失ったりしている人たちにぜひ伝えてください。

皆さんがメッセンジャーとなって、社内にも社外にもネットワークを広げていきましょう。

(構成:合楽仁美、撮影:福田俊介)

*続きは明日掲載します。