名波浩監督インタビュー(第3回)
【名波浩】選手が自主的に繰り返したミーティングが流れを変えた
2016/1/20
名波浩は2014年9月に古巣・ジュビロ磐田の監督に就任すると、昨季J2で2位になってJ1復帰を果たした。43歳の若き指揮官のマネジメント術に迫る。
第1回:若き指揮官・名波浩は弱体化した名門をいかに再生したか
第2回:ラスト2割の詰めが甘いチームは勝てない
跳ね返りや自主性を歓迎
──監督流のマネジメントが浸透していく変化は、どの時期から感じましたか。
名波:マネジメントの変化は選手とか、その組織の人間が判断すればいいし、責任者である監督が自分で評価するものではないんでね。
ただ、自分の描いていた色は出せたとは思う。選手からの跳ね返りも時間が経つにつれて、非常に良くなっていったし、一番感動し「あぁ、これはすごいな」と感じさせられたのは、こちらが声をかける前に、選手同士でパッとくっついて話す回数がみるみる増えていった様子だった。
ちょっと耳を立てていたら、会話のクオリティも良くなってきている。言葉遣いも含めてね。
選手間の特徴を引き出す声かけ
──耳、立てたんですね。言葉遣いまで?
お互いのQ&Aが、サッカーでより深い部分で交わされる。今のワンプレーといった断面ではなくて、そのプレーを選択した選手の考え方やアプローチについて話をしている。
ピッチでの言葉遣いに関しては、W杯に多く出場した駒野(友一)とか松井(大輔)といった大ベテランたち(ともに2010年南アフリカW杯でベスト16)が、19歳の川辺(駿)に対して、「お前はこうだ、ああだ」と頭ごなしにプレーを注意するんじゃなくて、「お前の特徴は、こうしたほうが良く出るんじゃないか」と声かけを率先し始めて、「あぁ、ばらけた感じが変わったな」と。
言葉の温度を大切にする
──いつ頃ですか。
昨年7月ごろかな。あの時期から一体感が生まれたように感じ、選手間の言葉の質も良くなっていった。
もう1つは、オレからの声かけ。アドバイスなのか、時には選手にとってきつい言葉なのかもしれないけれど、言葉の温度みたいなものを瞬時に感じ取るようになった。
言葉の端々だけで、ピシッと締まり、ピリピリするような緊張感が生まれる。大げさではなく、監督の笛の音一つで、「カントク、今日は機嫌悪いな」とか「今のこの状況だから、何とかしなくちゃ」といった空気が選手から伝わるのが本当にうれしい手応えだった。
自然に始まった選手ミーティング
──バラバラだったチームが、面倒でもパズルをやり直すうちに互いを生かす、といった考え方に変化した。
選手間でのミーティングを自主的に、ひんぱんにするようになったのもうれしい変化だった。就任した頃は、「選手だけでもちょっとやったほうがいいんじゃないか」と、何気なく促す場合もあったから。ところが昨シーズンは一度も言っていない。
最初に選手から言われたのはゴールデンウイーク中の連戦。福岡にホームで負けて(0-1)、アウェーの札幌にもコテンパンにやられ(0-3)、磐田に帰るより、C大阪戦前にリフレッシュしよう、と札幌から大阪のアウェーに直行したときだった。
前日に「選手間でミーティングをやってもいいですか?」と聞かれ、「おぉ、やれやれ」とね。あれが最初。その次は6月6日の金沢戦前。ジェイ(FW、ブラジル)が選手間でミーティングをやらせてくれと言ってきた。
──スイッチが入ると変わるものですね。
年長者が果たしてくれた役割
終盤(8月23日)から13戦負けなしがスタートするときも、選手で話をしていた。ターニングポイントで、しかも良い流れを引き寄せるミーティングはすべて彼らが開いたもの。
年長の選手たちがさり気なく、若手について彼らなりの考えや助言をこちらにスッと入れてフォローしてくれるなど、バラバラだった組織に血が通い、体温を感じられるようになった。
──ピッチ外は?
今までは、先輩に誘われたって「僕はいいです」と答えていたような選手たちが、自分の意志を伝え、若手の意見も吸い上げられるようになった。クラブの外で、先輩が気持ちよく若手に食事をさせる機会を持てば、おのずと敬意や連帯感も生まれるでしょう。
──彼らの振る舞いはチームを引っ張った。
しかも、W杯のような舞台で、監督よりもずっと豊富な経験をしたような松井や駒野たちが、メンバーを外されても文句一つ、不満な態度一切出さずに若手を引っ張った。本当に頭が下がる。
(写真:星野裕司)