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心にすきま風が吹くようなむなしさでため息

40歳、これが「こころの定年」か

2016/1/20
NewsPicksには、さまざまな分野で活躍する有力ピッカーがいます。そんなスターピッカーに「ビジネスや人生の相談をしたい」という要望に応えて、相談コーナーを設けています。人生の悩みにお金の心配や不安はつきもの。長年ファンドマネージャーとして活躍したエコノミストの山崎元氏が、皆さんから寄せられた相談に、ユーモアを交えながらも深刻にお答えします。

【山崎先生への相談】

自分で言うのもなんですが、今まで脇目もふらずに働き、会社に貢献してきた自信があります。長年の望み通り役職にもつきました。なのに、最近なぜか、取引先との交渉、部下のマネジメントなどが、なんとなくすべておっくうなのです。まるで心にすきま風が吹くようなむなしさを感じ、ときおりため息をついたりします。
山崎さんもこのような中年の危機的な状況はございましたでしょうか。
(金融・40代・男性)

金融の40歳は先が見えている

40歳ないし40代は、ビジネスパーソンの場合、確かに能力的にはピークを過ぎているのかもしれません。

頭を使う商売のサンプルとして、将棋や囲碁のプロ棋士を見ると、成績だけからいうと彼らは20代が最も強く、資質のある者はこの時期にトップクラスに駆け上がり、永世名人資格保持者クラスの超一流棋士でない限り40代に入ると勝率が落ちてきます。速く読む能力、記憶力、そして何よりも集中を持続するための体力が落ちてくることが原因ではないかと推測されます。

ビジネスパーソンの場合、プロ棋士のように10代から修行をしているわけではないので、30代前半くらいが、頭脳・体力・経験のバランスが良く、最も働ける時期であるように思います。この時期以降、純粋に「能力が伸びる」ということは残念ながらほとんど見かけません。

30代後半、あるいは40代前半に「中年の危機」的な曲がり角があるのかどうかですが、徹夜仕事の能率が下がるとか、前日の疲れが残るといった、体力的な衰えを、多くの人が感じるのではないでしょうか。

回答者は、この年代に、体力の衰えを強く自覚する機会はありませんでしたが、それは、たまたま仕事があまりきつくなかったことによります(それ自体は、いいことではありません)。

ただ、将来、どのように働き、暮らすのかを考え始めたのが、この時期です。回答者の場合、組織任せに定年まで過ごす人生ではない人生計画を自分で作らなければならないという意識を持ちました。それまでに何度も転職していたので、普通のビジネスパーソンよりも早く考えなければならないと思ったのです。

大企業勤めのビジネスパーソンの場合、30代半ばくらいまでに組織内での人材としての評価がおおむね定まり、それが具体的な形に表れて見えてくるのが40代の人事であるかと思います。

相談者は、人事評価の決着が早い金融業界にお勤めなので、良いにしても、そうではないにしても、組織人としてはある程度「先が見えた」状況にあるのではないかと拝察します。金融にあって、40歳は、組織内での「先」が見える年齢です(自分で見えないとすると、鈍いのでしょう)。

幸い、「長年の望み通り役職に」ついたとのことで、慶賀の至りですが、端的に言って、新しい刺激が無くなったので、倦怠(けんたい)感が前面に出てきたのではないでしょうか。

新しい、やりがいの活動を

相談者が日常感じておられる「おっくう」「心にすきま風」といった気持ち、そして「ため息」の原因が、医療を必要とする健康の不調(体調不良だけでなく、うつも含みます)ではないとします。通常の健康診断で特に問題が無く、2日くらいたっぷり寝てみて疲れが取れるようであれば、一応問題が無いとして、物事を人生選択の問題として考えましょう。

「40代の危機」を乗り切るためには、大恋愛でもしていただくのが最も効果的かもしれないのですが、相談者のご家庭その他に波風が立つかもしれないので、この対策はお勧めしないことにします。中年の恋は、「これが最後だ」「後が無い」と思うためか、しばしば年がいのない暴走に至るので、気を付けてください。まだまだ「後」はあるので、慎重に…。

相談者に必要なのは、会社の仕事・人間関係から距離を取った、新しい、やりがいのある活動ではないでしょうか。

できたら将来の生活(≒稼ぎ)につながる何らかの「仕事」がいいでしょうし、仕事をするための準備でもいいと思います。あるいは、ボランティア活動など、社会的な意味のある活動でも構いません。

金融に就職されて、望む役職を得た相談者は、おそらく真面目で他人から評価を受けることに敏感な方でしょう。趣味でも構いませんが、他人との関わりやほどほどの競争のある活動が張り合いをお感じになるのではないでしょうか。

回答者は、40歳を過ぎる頃から、主に経済や資産運用の分野で、自分の意見を表明する原稿を実名で書き始めました。

ただし、当時、金融機関に勤めたままでは、顧客や監督官庁の意向を気にする必要があり、自由に何でも書けるというわけではなかったので、発言と時間が自由になる職場(日系のシンクタンクです)に転職し、一時は複数の会社に勤めるなど、稼ぎの形態を工夫して、現在のような働き方にたどり着きました。

経済分野に限らず、書き手としては、遅いスタートであり、「もっと早く始めていれば、もう少しいい仕事ができただろうに」という後悔が現在無いではありませんが、その後十数年以上を、「つまらない」という思いをせずに過ごすことができました。まずまず効果的な選択だったと思っています。

成長している感覚と新しい人間関係がカギ

回答者の過去を振り返るに、気分的な「張り合い」を持つことにプラスに関与したのは、自分がやっていることが多少なりとも進歩ないし成長している(かもしれない)という感覚と、新しい人間関係だったのではないかと自己分析しています。

前者は、新しいことを始めたが故の低レベルからのスタートだったという要因に多くを負っており、自慢できた話ではありませんが、本人がやる気を出したのだから、良かったのではないでしょうか。

後者については、かつて法人ビジネスの金融関係の知り合い・付き合いの割合が8割くらいだったものが、現在では、出版社・編集者などメディア関係や、個人の金融資産運用関係の方との付き合いが全体の7割を超えるようになりました。どちらの方がいいという優劣はありませんが、仕事を通じた新しい人間関係はいい刺激になりました。

加えて、これから手間もかかれば、お金もかかる、小5と小3の子供がいることも、負担でもありますが、大いに張り合いになっています。

回答者は、幸い気晴らし用としては十二分にお釣りが来る趣味を複数持っているので、気分転換は趣味に任せて、40歳を過ぎても金融関係の仕事に集中した方が稼ぎは良かった可能性があります。それでも、「気分」や「張り合い」の点では試行錯誤の結果たどり着いた「半自由業的な複業」である現在のスタイルで良かったように思っています。

金銭的対価のある仕事はもちろんそうですし、ボランティアも他人との関わりと期限に対する責任を伴う「仕事」です。仕事そのもの、または仕事に向けた何かだと、張り合いにつながりやすいように思います。

転職でも、副業でも、将来の仕事のための準備でも、何らかの意味で「新しい仕事」を見つけるのがいいのではないでしょうか。お勧めします。

山崎氏に相談をしたい方はこちらまでご連絡ください。

*本連載は毎週水曜日に掲載予定です。