talk09-banner01_rev

イノベーターズ・トーク Part 1

【小林×西田(1)】自民党のファンを増やすための戦略とは

2015/1/18
西田氏は、「自民党のメディア戦略は、野党時代も含めて試行錯誤の軌跡が見えて、他党と比較しても抜きん出ている印象がある」と語る。その中で、政府与党のIT情報戦略を率いるキーパーソンである小林氏は、どのようにして有権者にアピールしているのだろうか。

自民党の情報戦略とは

西田:小林議員は1983年生まれの32歳。上智大学理工学部からNTTドコモに入られて、2012年の第46回衆議院選挙で初当選。翌13年から自由民主党の青年局次長、ネットメディア局次長といった役職を担っていらっしゃいますね。

僕は政党の情報戦略について研究している立場ですが、政府与党のIT情報戦略を率いるキーパーソンであり、同い年でもある小林議員とお話できる機会を楽しみにしていました。

小林:こちらこそよろしくお願いします。ご著書『メディアと自民党』、興味深く読ませていただきました。

西田:ありがとうございます。本書で試みたのは、日本の政治の主要なプレーヤーであり続けている自民党がどんな情報戦略をとってきたのか、メディアに対するアプローチを切り口に、できるだけ予算や手法などの具体的な結果と効果を明らかにしようというものでした。

同時に、メディアと政党の関係性の「慣れ親しみの関係」から「対立・コントロール」へという変容についても、象徴的な事例を挙げながら分析しました。

小林:「情と理」という表現を自評でも書かれていましたが、非常に納得感がありました。

西田:長く官房長官を務めた、故・後藤田正晴氏の回顧録の題から引用した言葉ですね。政治というのは、感情論や「好きか嫌いか」という印象論で左右される部分が大きい。一方で、実際にやろうとしている政策の中身や実績を、客観的に評価する「理」の視点も不可欠であるという政治観です。

小林:その両面のバランスを取る有効な手法の一つが、メディア戦略であるということですね。メディア戦略の視点で自民党70年の歴史を整理することができ、その先を私たちが描こうとしているのだという認識がより強まりました。

西田:では、さっそく。小林議員が自民党で何をしようとしているのか、情報戦略の側面をNewsPicks読者と僕に教えていただけますか。

小林:ご紹介いただいたように、党内でネットメディア局次長という立場でITを中心とした情報戦略を担当していまして、昨年から青年局の学生部長も兼務しています。18歳選挙を見据えた若年層へのメディア対策ともリンクさせて活動しているということです。

小林史明(こばやし・ふみあき) 自由民主党・衆議院議員 上智大学理工学部卒業後、NTTドコモに入社。法人営業を経て人事部採用担当を務める。2012年、第46回衆議院選挙において自民党の公認を受け広島7区(福山市)から出馬、初当選。現在、自民党青年局学生部長・総務部会長代理・ネットメディア局次長として、SNSや生放送番組の積極活用に取り組む。

小林史明(こばやし・ふみあき)
自由民主党・衆議院議員
上智大学理工学部卒業後、NTTドコモに入社。法人営業を経て人事部採用担当を務める。2012年、第46回衆議院選挙において自民党の公認を受け広島7区(福山市)から出馬、初当選。現在、自民党青年局学生部長・総務部会長代理・ネットメディア局次長として、SNSや生放送番組の積極活用に取り組む

西田:先日、メディアで話題になった学生向けの勉強会を取り仕切っていらっしゃるのも小林議員という理解でよろしいでしょうか?

小林:牧原青年局長を筆頭に青年局学生部長として担当しているのは私です。先日は100人の学生さんと意見交換会を実施しました。

今後、全国の高校や大学、学校外も含めて議員が出向いて対話をする機会を増やしていこうと思っています。リアルの接触を重視していますが、機会をつくること、その効果を高めるものとして重要なのが、やはりネットメディアです。

ネットメディア局次長としては、自民党が野党だった時代に始めたインターネット放送「カフェスタ」をいかに展開していくかが、第一のミッション。具体的にはコンテンツの企画・運営です。

野党時代には人間性を前面に出す柔らかい企画や、野党だからこそ言える政権への課題指摘がメインでしたからわかりやすく面白かった。

ただ、与党となると自分たちでつくった政策ですから、解説する側となる以上同じようなかたちでの発信は難しくなります。

一方で、強みとなるのが“情報”“実績”といったストックです。政策をつくった政権与党だからこそわかる政策立案の背景・経緯や、部会で議論されている論点から見えてくる「将来はこうなっていく」という現実味のある予測情報が、まさに手元にある。

その見通しがついている情報をしっかり前に出し、明確に説明できるコンテンツづくりに力を入れています。

コンテンツ制作の内情

西田:年齢的にも若い世代に近く親近感があり、IT企業での業務経験をお持ちで、さらに若年世代はITやモバイルをよく利用しますから、まさに合理的かつ適任に思えます。具体的な企画の内容としてはどういうものがありますか?

小林:私が担当しているカフェスタ番組「キーパーソンに聞く!」では、政策通の議員に出演してもらい、対話形式で話を進めていきます。

政策について一番詳しいのはその政策を担当する部会長なのですが、なかなかTVなどのメディアに出してもらえない。

そこで、自由に語れるネットメディアを活用し、部会長や政策立案の当事者に政策の意義や背景を語ってもらう番組制作をしています。これは戦略というか、単純に頑張っている人に光を当てたいという思いが強いですね。それぞれの政策に想いがこもっていて血が通っていることを知ってほしかったんです。

一方、戦略的に実施しているのは、安保法案のときもそうでしたが、世の中で関心が高まっているテーマや特に批判が多いものについて、細かいところまで理解した人物から丁寧に説明するコンテンツ制作です。

「コンテンツの価値=関心度×タイムリー性」ではないかなと考えており、今後はコンテンツ提供のタイミングによりこだわっていきたいと考えています。

西田:部会長を表に出す、というのは非常に重要だと思います。

自民党が掲げた公約は、現在の政治環境では、最終的には政策になっていくわけですが、そのコアが決まるのは政策原案が練られる段階ですよね。その原案に最も深く関わり、内実に詳しい立場の方が、ネットを通じて編集されていない生の声を出す。

そして、有権者が見ようと思えばいつでも見られる場所にある。政党のネット利用方法として、有意義な取り組みだと思います。

自民党のメディア戦略には、野党時代も含めて試行錯誤の軌跡が見えて、他党と比較しても抜きん出ている印象があります。

小林議員が若い世代に直接働きかける学生部長と、ネットコンテンツ企画のキーマンを兼任されているという点にも、「ネットとリアルの広報を連続させていく」という党としての意志を感じます。

西田亮介(にしだ・りょうすけ)  東京工業大学准教授 1983年京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。(独)中小機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学特別招聘准教授などを経て現職。専門は情報社会論と公共政策。

西田亮介(にしだ・りょうすけ)
東京工業大学准教授
1983年京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。中小機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学特別招聘准教授などを経て現職。専門は情報社会論と公共政策

小林:ネットだけで選挙に勝てるかというと、そうではない。バーチャルの接触だけでは、“ファン”(支持者)はつくれない。

しかし、事前にバーチャルな接触をすることによって、その後のリアルでの接触の価値が高まる効果は間違いなくある。ネットとリアルの合わせ技は、これからの重要な戦略です。

牧原青年局長からも、党のネット広報との連携を意識しての人事だと言われました。

民間感覚を生かす

西田:NTTドコモ時代の“民間感覚”を生かされている面もあるのではないでしょうか。

小林:現在の取り組みではまだまだだとは自覚していますが、人事の採用担当を2年ほどやった経験は確かに生きているとは思います。

企業の採用戦略も「いかにファンになってもらうか」という側面が大きいですよね。当時やっていたのは、「もともとファンだった層」と「まだファンではない層」で手法を分けてアプローチする戦略でした。

すでに興味を持ってくれている人たちにはネットでの接触回数を増やしてロイヤルティを高めていきました。

その一方で、もともとファンではない人たちには、その形では効果が上がりません。そのため、まずはリアルな場で人間性に触れてもらい、人的な興味から組織や仕事へ興味を高めていくように情報を出していきました。それがとても効果的でした。

自身の日ごろの活動や選挙活動を通じて、政治の広報も共通すると考えて、今実行しているところです。

(構成:宮本恵理子、撮影:竹井俊晴)

*明日掲載の「政治にも求められるネットとリアルの融合」に続きます。

*目次
第1回:自民党のファンを増やすための戦略とは
第2回:政治にも求められるネットとリアルの融合
第3回:変われないメディア、変わろうとする政治
第4回:これからの政治のキーワードは「オープン化」
第5回:自民党のメディア戦略が抱える課題