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5年後、保険ビジネスはどう変わるのか?

岩瀬大輔は言う「ライフネットは成長痛のような段階だ」

2016/1/17
高齢化などの社会変化、消費者保護をより重視した業法改正やスマホシフト、アライアンスの拡大などにより、大きな地殻変動が起きている保険業界。今後5年間、保険ビジネスや販売現場の最前線はどのように変わるのか。古い慣習が色濃く残りつつも、今まさにイノベーションが起こり始めている保険ビジネスについて、業界の第一線で活動するライフネット生命の岩瀬大輔氏、ほけんの窓口グループの窪田泰彦氏が語り尽くした。
第1回:岩瀬大輔が語る「なぜ生命保険業界は変わる必要があるのか」
第2回:ほけんの窓口・窪田社長が大事にする「最優」という言葉の意味
第3回:岩瀬大輔が考える「保険業界でこれから来るトレンド」
第4回:ほけんの窓口が、9割の営業職員を「保険業界外」から雇う理由

乗合代理店の最大の特徴

質問者:窪田さんにお伺いします。ウェブ業界に勤める者ですが、ウェブ業界では乗合代理店のようなサイトがたくさんあります。

乗合のリスクとして、乗り合う会社、つまり各保険会社の売り上げに差が出ることがあると思うのですが、「ほけんの窓口」が今後も最大手であり続けるために、何が最も重要だと考えていますか。

窪田:まず、最大手や1位ということには、まったく興味がありません。しょせん、自己満足的な物差しです。やはりお客さまのためのビジネスですから、お客さまに支持されることが一番大切です。

乗合代理店の最大の特徴は、あらゆるカテゴリの商品ラインアップがあること。238もの商品を取り扱いできることで、社会の本質的、構造的変化に対応し得ると考えています。そのために、単なる商品知識にとどまらず、いろいろな知識や情報を身につけたプランナーを育てることがわれわれの役割です。

質問者:損害保険会社に所属する者で、損保の中で医療保険の開発を担当しています。生保(生命保険)の商品を研究しながら「損保として何ができるだろう?」と告知や審査で加入できなかった人をフォローするなど新しい商品を考えていますが、認可を取るにあたって金融行政の厚い壁がありまして。

そこで岩瀬さんにお聞きします。異業種から参入して起業して、行政の壁や資金集めなどで苦労したことを教えてください。

岩瀬:苦労は絶えないですが、たしかに行政の壁はありました。新しいものを持っていくと「前例がない」と言うし、前例を持っていくと「前例があればいいってもんじゃないから」と(笑)。僕たちが不勉強な点が多々ありましたが、昔に比べて、行政担当の方のマインドもずいぶん変わってきたと感じます。

会社をつくること、誰もやっていないことをやるのはすごく楽しいんですが、時間もかかるし思うようにいかないことも多い。周りから厳しい意見もたくさんいただく。そんなとき支えになるのは、自分たちがやっていることはきっと世の中の役に立っているという思いですね。

金融機関として脱皮しつつある

佐々木:ライフネット生命は今8年目に入っているじゃないですか。ここまでを振り返って、今はどういう段階ですか。

自分のことを言うと、NewsPicksの編集部がスタートして1年半ほどですが、今はまだ気分が高揚しています。でもこれが7年続くか?と考えるとわからないなというのが正直なところで。岩瀬さんのヒストリーはいかがですか。

岩瀬:2016年は、会社を共に立ち上げた会長の出口(治明氏)と出会ってからちょうど10年なので、今はまた次の10年頑張ろうと気合を入れているところです。

ただ、最初のお祭り騒ぎみたいなノリのベンチャービジネスから、だんだん金融機関として脱皮しつつある感覚があります。2年前に初めて金融庁検査が入って、会社の意識はけっこう変わりましたね。

ベンチャーであることと、社会に信頼される金融機関であることを両立したい思いもあります。今は成長痛のような段階でしょうか。

佐々木:大人の階段を上る思春期ぐらいですかね。

岩瀬:そうですね(笑)。

質問者:窪田さんにお聞きしたいのですが、2016年春から改正保険業法が適用になりますが、これに備えて変えたことがあれば教えてください。

窪田:一番変えたのは、先ほどもお話しした社員教育です。うちは過去に不幸な経験をしていますから(2013年の前社長による不祥事)、徹底的に変えました。

今までは、やっぱり「売る」教育でした。それを「お客さまの意向を聴く」ことを原点にして、正確に話を聴けること、お客さまの負担できる範囲内でプランを設計してあくまでも意向に合った商品を提案することに重点を置いて教育しています。

質問者:岩瀬さん、トンチン年金保険(応募者から払い込まれた金額に対し、終身年金が与えられる仕組み。長生きするほど生存リスクが高まるため、早く死亡した人の受け取り分が生存者に回される)についてお聞かせください。

保険の感覚でいうと、早く亡くなった人が受け取れないのは当たり前のことですが、ユーザーとして自分で受け取りたい感覚はあると思うんですよね。そこがビジネスとして消費者ニーズになると思うのですが、岩瀬さんは今後の商品開発についてどうお考えですか。

岩瀬:既存のリビングニーズとは違う形で、今おっしゃったような保険の買い取りは、すでにアメリカではあります。でもまだうまくいっているとは言いにくい。

トンチン年金については数理的な問題もありますが、意外にお客さんが喜ばないんです。ユーザーにグループインタビューをしたことがあるのですが、早く亡くなったら受け取れないのは嫌だね、やっぱり元本は保証されないとね、という意見が多くて。保険に限らず金融は、理屈で正しいものが必ずしも売れるわけではないですね。

今は規制があって導入が難しいことは認識していますが、マクロな視点でみると、お金を受け取れる方法が多いほうが、社会全体の厚生が高まると思います。

今後広がるニーズは

質問者:同性パートナーが保険金を受け取れる話がありましたが、他に今後広がっていくと思うニーズはありますか。

岩瀬:税制や社会保障制度など、国の制度そのものが伝統的な家族の形や価値観を前提にしています。たとえば主婦の控除。もっとさまざまな家族の形を受け入れる価値観、新しい生き方を応援する社会になればいいと思います。

佐々木:窪田さんは、先ほど介護保険の話をされましたが、それ以外に社会の変化によって生まれそうなニーズの保険商品は思いつきますか。

窪田:やはり高齢化による生存リスクですね。日本の医療費は年間で30兆~40兆円、そのうち、終末医療に関する費用が18兆円といわれています。こんな国、日本だけです。日本はこれだけ医学が進歩しているのに予防の概念が弱い。

対して、スウェーデンなど北欧の国々は終末医療にかかる費用はほとんどゼロです。予防に力を入れているから、終末期に入って医療費が出ていくことがほとんどない。

日本人は、損をしないように、出ていったお金を補填(ほてん)するのが保険だと思っているところがありますが、この構造を変えることが必要です。間違いなく高齢化になるんだから、もっと予防医学に保険が注目してもいいと思いますね。そうすれば需要はいくらでも出てきます。

質問者:内科の医師です。日本は国民皆保険制度があるので、患者さんの自己負担が3割で済むうえに高額医療制度があり、医療費の月額負担は数万円までにとどまります。

公(おおやけ)の保険制度が強いかなと思うのですが、ライフネット生命は民間の生保会社として、ノウハウを生かして健康保険組合にアドバイスをしたり協力をしたりということを今後考えていますか。

岩瀬:アメリカでは、民間の保険会社が健康保険組合のような役割を果たす「マネージドケア」があります。加入者が病気にならなければ保険会社の支払いが少ないから、病気にならないような予防の取り組みを保険会社がしているんです。

一方で日本は医療保険の保険料収入に対して保険会社の支払いがすごく少ないので、どの会社も「どうやって支払いを減らすか」に、あまり注目していませんね。

今後の大きな流れをみると、われわれが健康保険組合の事業を支援するというよりは、加入者の予防医学を応援する形のほうが可能性は高いですね。

これに関連して「自由診療をカバーする保険ができないか」という質問もよくされますね。これまでのような純粋な民間だけではなく、公的なものとクロスオーバーするところにビジネスチャンスがあると感じています。

(構成:合楽仁美、撮影:福田俊介)