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楽天のボールパークビジネス(第1回)

野球場=テーマパーク。日本一でも最下位でも観客増の理由

2016/1/17

球団創設12年目のシーズンを迎えるにあたり、東北楽天ゴールデンイーグルスがチャレンジングな取り組みに打って出た。2016年シーズンの開幕に向けて、本拠地・楽天koboスタジアム宮城を人工芝から天然芝に改装中なのだ。

観覧車の設置なども含めて総額約30億円をかけた球場改装の意図について、スタジアム部の川田喜則部長が説明する。

「選手目線、ファン目線、球団のビジネスとしての目線がありますが、天然芝化はイーグルスにとってかなり重要なプロジェクトです。球界参入当初からボールパーク化の構想としてあったもので、慎重に検討を重ね、今が適切だろうと踏み切りました」

球界変革の象徴的存在

オーナーたちによる「球団削減、1リーグ化構想」、史上初となった選手会のストライキが勃発した2004年、球界再編騒動の末に誕生したのが50年ぶりの新球団となる楽天だった。

それから12年が経ち、古き慣習が続いてきたプロ野球界が変革していく過程でイーグルスが果たした役割は少なくない。その一つが、経営黒字化を目標に掲げたことだ。

伝統的に「親会社の広告塔」と位置付けられてきた各球団は、赤字経営が当たり前だった。その流れを変えた一つが楽天だ。

有言実行で、参入1年目の2005年には5000万円の黒字を計上。ビジネス面でも意欲的な楽天の姿勢は球界にくさびを打ち込み、今やソフトバンクやDeNAなど、黒字経営を目指す球団が増えている。

数々の「球界初」の試みを行ってきたイーグルス。たとえば昨年、コミュニティFMラジオを開局

数々の「球界初」の試みを行ってきたイーグルス。たとえば昨年、コミュニティFMラジオを開局

スタジアムとボールパークの違い

各球団がビジネス面に力を入れ始めたことで、顧客であるファンが恩恵を受けるようになった。

一人でも多く球場に足を運んでもらおうとファンサービスを重視するイーグルスの場合、創設された11年前と2015年を比べると、年間54万人ほど動員を伸ばしている。客足の増加は、顧客満足度の表れと言えるだろう。
 楽天1回表.001

仙台でファンを拡大するため、イーグルスは本拠地の宮城球場(現コボスタ宮城)を「スタジアム」ではなく、「ボールパーク」と定義した。英語にすればともに同じ意味を持つ両者の違いについて、川田部長はこう話す。

「スタジアムは、ボールパークの一つの要素だと思っています。ボールパークは演出など、球場の外での取り組みも含めたソフトの部分ですね。スタジアムより、もう少し大きい概念です」

毎年のように改装されているコボスタ宮城は、いつ来ても「新しい」と感じさせられる

毎年のように改装されているコボスタ宮城は、いつ来ても「新しい」と感じさせられる

100億円以上かけて球場刷新

1950年に建設された宮城球場に総額100億円以上をつぎ込み、イーグルスは毎年のように改装を重ねてきた。新球場を建設できるほどの費用をかけてリノベーションを行うのは、球団運営にとってハードは極めて重要であるからだ。

ディズニーランドと同様、「野球場=テーマパーク」とイーグルスは捉えている。顧客であるファンを楽しませるうえで、ハードの変化は目新しさを視覚的にも訴えやすい。

創設2年目の2006年、バックネット裏に広々としたボックス席を初めてつくり、以降、快適に観戦しやすいようにとテーブル付きの席を一塁側、外野と増やしてきた。今季の開幕に向けて一塁側と三塁側にVIPシートを設置し、サービスの向上を図っている。

一方、外野には芝生席を設け、寝転がりながらのんびり観戦できるようにした。2015年には「女子¥2000シート」(レディースユニフォームやドリンク券1枚などがセット)、「学生¥500シート」を発売し、好評を博している。家族連れから女性ファン、学生、接待と目的別にシートが分かれ、それがリピート率のアップにつながっているのだ。

リーズナブルに観戦できる女子¥2000シート。女子だけの空間で思うままに楽しめる

リーズナブルに観戦できる女子¥2000シート。女子だけの空間で思うままに楽しめる

魅力的イベントで滞在時間アップ

宮城野原公園総合運動場の中にあるコボスタ宮城には、広大な外周があることも特徴として挙げられる。イーグルスはこの敷地を生かし、テーマパークビジネスにとって極めて重要となるファンの滞在時間を伸ばそうとしている。

13時開始のデイゲームの場合、開場1時間前の10時からボブルヘッド人形のプレゼントなど、各種イベントを実施。バッティングのアトラクションを体験できる「わくわくホームランチャレンジ」や、アイドルのライブ、ダンス公演が行われる「イーグルスドーム」もあり、コボスタに早く来れば楽しめるとファンは考えるようになった。

ビアガーデン、動物園、ビーチなどの催しも行われ、試合後に残るファンも多くなっている。パ・リーグ6球団が出資するパシフィックリーグ・マーケティングのアンケートによると、来場動機としてイベント(プレゼント配布なし)を挙げたファンは、パ・リーグでイーグルスが最も多かったという。

球場の外の外周でもファンが楽しむことができる

球場の外周でもファンが楽しむことができる

宮城から東北に人気拡大

こうした積み重ねが、初の日本一に輝いた2013年の日本シリーズで結実した。第6戦、7戦ではチケットが完売したにもかかわらず、連日1万人のファンが外周で行われたパブリックビューイングに押し寄せたのだ。

上記の表を見てもわかるように、イーグルスの観客動員は2007年から2012年まで伸び悩んでいた。それが2013年に大きくアップしたのは、アンドリュー・ジョーンズ、ケーシー・マギーと大物外国人を獲得して開幕から好調を維持し、球団初の日本一に輝いたことが最たる要因だ。

同時に、動員ターゲットの拡大も理由の一つとして挙げられる。

2012年までの顧客ターゲットは仙台を中心とする宮城県だったが、翌年から東北全域に拡大した。仙台を除く5県に全選手、球団職員を担当として割り振り、各種イベントを行うだけでなく、ポスター貼りや清掃活動など地道な活動も続けてきた。

結果、仙台を除く東北5県のファンクラブ数は2010年の1万2539人から2015年には3万4880人まで増加。同年には山形、秋田、岩手、福島で、自主興行で行った地方試合がすべて完売となった(青森では一軍の試合を開催できる球場がない)。

球場の天然芝化は起爆剤となるか

ただし、ファン数は順調に拡大している一方、他球団と比べるとまだまだ劣っている。2015年の観客動員総数はロッテに次いで低い11番目だった。

川田部長が言う。

「東北には900万人が住んでいる中、イーグルスの観客動員は年間200万人に達していません。その人たちが1回でもコボスタに来てくれれば、すごいことになります。同じ規模の都市圏にあるマツダスタジアム(広島)は1試合平均約3万人の動員を果たしたわけですから、まだまだうちは努力不足かもしれない。望む道は高いです」

2016年、イーグルスは新たなフェーズに入る。さらなる拡大を目指しての策が、コボスタの天然芝化なのだ。

次回は、この狙いについて詳しく書きたい。

2015年7月に行われた「第1回楽天イーグルス花火大会には約1万5000人のファンが来場。3000発の花火を楽しんだ

2015年7月に行われた「第1回楽天イーグルス花火大会には約1万5000人のファンが来場。3000発の花火を楽しんだ

(写真提供:©Rakuten Eagles)

<連載「東北楽天ゴールデンイーグルスのボールパークビジネス」>
2004年に球団創設して以来、東北で着実にファンを獲得してきた東北楽天ゴールデンイーグルス。本拠地をボールパークと捉え、充実したファンサービスを行いながら球界に新風を吹き込んできた球団の取り組みについて、隔週日曜日にリポートする。