リーダーに必要な度量とは
【高橋みなみ】失敗を許す力―AKB48の危機を乗り越えて見えたもの
2016/1/15
AKB48の総監督として活躍し、今年4月での卒業を発表した高橋みなみ。総勢300人を超えるグループをまとめあげたリーダーシップは、ファンだけでなく、各方面から注目を集めている。そんな高橋が、活動10年目の節目に出版した『リーダー論』。もともとはリーダータイプではなく、「私は劣等生」「凡人なりにもがき続けた」と語る高橋が、苦悩の末に導き出したその答えとは。2日連続全2回。
前編:リーダーの最後の仕事は、任せること
チームの雰囲気はつくれる
──本書では、「失敗を許す力」についても触れられています。昔、失敗した人に対して「あなたのせいで私の人生が狂わされてしまう」と声を荒げたというエピソードは印象的です。
失敗をすることは、誰にでもあることです。私もいろんな失敗を見て、自分も失敗をしました。そこで、周囲から支えてもらううちに、少しずつ許すことができるようになりました。おかげで、リーダーとしても強くなれた気がします。
リーダーが失敗を許せないことで、チームからこぼれてしまう人もいます。だから、上に立つ人は、それをすくう度量を持たなきゃいけないんだと思います。
──AKB48は、グループとしてピンチを経験したこともあると思います。リーダーとして、危機的状況においては、どうやってまとめているのでしょうか。
私自身、グループがどうなるかわからないという危機に直面して、動揺することもありました。
でも、失敗をしてしまったメンバーであっても、いろんな苦楽をともにしてきた仲間。一度の失敗で終わってしまうような軽い絆ではないんです。
チームの雰囲気は、つくることができます。リーダーが率先して、大変な状況にあるメンバーを、みんなが見えるかたちで支えてあげる。そのときは、肩を叩きながら「大丈夫か、頑張ろう」だけでいいんです。
それで泣いちゃう子がいても、周りの子は話しかけやすくなります。「大丈夫?」と、言いたくても言えなかった子もいるんです。
10年間で、こんなことが起きるのかと思うほど、本当にいろんなことがありました。決していいときばかりではなく、たくさんピンチも経験してきました。
──そうしたピンチを乗り越える力はどうやって身につけたのでしょうか。
想定外のことに対するマニュアルはないので、一つひとつに立ち向かっていかなきゃいけません。それを攻略するたびに、少しずつ身についたと思います。
ゲームでいえば、レベルを上げてセーブしたから、「次の敵はこれで倒せる」ということじゃないんです。再開したら、突然、別の章に飛ばされて「今までのプレイが、関係なくなってる!」というイメージ。
でも、その中だからこそ、いろいろと学ばせてもらったなとは思います。
後継者は、あえて違うタイプに
──高橋さんの後継者である、次期総監督は横山由依さんです。後継者選びではどのようなことを考えていましたか。
次期総監督は、私の中でずっと横山でした。秋元(康)さんも、私から話す前に「横山しかいないな」と言っていました。
彼女はすごくひたむきですし、努力家で頑張り屋。上からも下からも認められています。
横山の場合、彼女の足りない部分をメンバーみんなが補ってくれるんです。その中で、自然とみんなの士気が高まっていく。その才能に、彼女に賭けてみたいと思いました。
──後継者に同じタイプを選ぶ人もいると思いますが、その点はいかがですか。
私は同じタイプを選ばなくてもいいと思います。未来は見えなくて、踏み出さないとわからないことばかりです。それに、同じことをやってもしょうがないですし、改革するなら違う人のほうが良いですから。
私自身が、もっと違うAKB48を見てみたいと思ったことも、卒業を決めた理由の一つです。私はAKB48を十分に満喫させてもらったので、自分がいなくなったAKB48の未来が楽しみなんです。
チャンスがある女性は挑戦の道を
──ちなみに、女性活躍が今叫ばれていますが、女性管理職やリーダー的なポジションに抜てきされても断る人が多く、課題になっています。そういう方にアドバイスはありますか。
私も最初からリーダーのポジションに就きたいと思っていたわけではないので、そういう方と一緒だと思います。
いざなってからも、本当に悩むことが多かったんです。「なんで自分がやらなきゃいけないんだろう」「なんで自分はつらいんだろう」って。
総監督になって仕事も増えました。ライブでも、歌だけを歌って楽しく終わる子もいる中で、私はMCをさせてもらっていました。そこでミスをしたら落ち込む。みんなは気楽でうらやましいなと思ったこともありました。
でも、それをやり通したことで皆さんに「AKB48の総監督はあの子だよね」と覚えてもらえたり、ほかの子にはできない経験をしたりできたので、私はやってよかったなと思います。
最近、甲本ヒロトさんと真島昌利さんと番組でご一緒したとき、「ない階段は踏めない」という言葉をいただきました。目の前に階段が出てこない人、つまりチャンスが現れない人もいる、ということ。
「せっかく目の前に階段が出てきたなら、踏んだほうがいいよ」「なんでも楽しんでやれば良いんじゃない」と言われて、本当にそうだなって思いました。
だから、誰もが女性で管理職の話をいただけるわけじゃないと思うんです。「この人ならできるかもしれない」と期待された機会であれば、チャレンジしてみてもいいのではないかと思います。
自分の価値を決めつけない
──今後はソロで活動されていきますが、これまではチームでの活動でした。そこでの経験は、個人で活動するうえでも生きると考えていますか。
はい。この本でも、リーダーとしてまとめる力と一緒に、人とのつながり方についても書いているのですが、そこは特に生かせると思います。
私にとって、AKB48のスタッフさんはもちろん、番組で関わる方も「いちスタッフさん」ではなくて、大切な存在です。
たとえば、「ミュージックステーション」にも、仲良くさせていただいている音声さんがいます。私が番組に出始めてから、ずっとマイクを渡してくれていた方です。
昨年、私がAKB48として最後の「スーパーライブ」に出演させていただいたときに、「実は、僕もこの現場から卒業なんです」と声をかけられたんです。
そして、「高橋さん、これからも歌手をやりますよね。僕もその現場に入れるように頑張りますから」と言ってくださって、「一緒に頑張りましょう!」って、ギュッと握手したんです。
こういう一つひとつのつながりが、一生の宝だなって思います。
──それでは、今後の具体的な目標について教えてください。
AKB48に入った当初の目標は「誰からも好かれる歌手になりたい」程度しか思いつかなかったんですけど、10年間の活動を通して、いろんなかたちで役立てることがあるんだと強く実感しました。
東日本大震災の被災地での訪問活動もそうです。震災から3カ月後、初めて現地に行きました。邪魔かもしれないという怖さもあったんですけれど、子どもたちが集まって喜んでくれました。
その後、関係者の方に、「ずっと笑顔がなかった子どもたちが笑顔になった」というお話を聞いたんです。そこで初めて、「私たちだからできることもあるんだ」「アイドルになってよかった」と思えました。
だから、将来について、まだわからないことも多いんですけれど、それで良いなって考えているんです。自分の価値は、自分で決めるものじゃないと思うんです。
──人との関わりの中で、ご自分の気づかなかった可能性を見つけた経験が大きかったんですね。
はい。そのうえで、自分の弱さを現実として見なきゃいけません。それをちゃんと認められるのが強さだと思うので、浮足立つことなく、ゆっくり学んでいきたいなと思います。
──お話を伺っていると、今後高橋さんにどんな大変なことが起きても、慣れたものかもしれないなと思いました。
慣れたもの(笑)。この前、前田敦子と話したんですけど、「AKB48よりもめちゃくちゃなことって、あんまりないよ」って、笑っていました(笑)。
これからも、きっと大変なことはあると思います。でも、みんなで困難を乗り越えてきた経験を生かして、頑張りたいですね。
(撮影:是枝右恭)