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映像ディレクター・江口カン氏(後編)

【江口カン】映像は国と国との友好に最高にいいツール

2016/1/14
今、日本と世界は大きな転換期にある。そんな時代において、世界レベルで飛躍する、新時代の日本人が生まれ始めている。本連載ではビジネス、アート、クリエイティブなど、あらゆる分野で新時代のロールモデルとなりえる「グローバルで響いてる人の頭の中」をフィーチャー。経営ストラテジストの坂之上洋子氏との対談を通じて、各人物の魅力に迫る。第2回は、映像ディレクターの江口カン氏と対談。
前編:世界を魅了。860万回再生の動画を創った男の思考術
中編:カンヌ広告祭で金賞の男は表彰式に行かない

競輪の面白さ

坂之上:これから江口さんはCMだけでなく映画やドラマも撮られたいんですよね?

江口:映画やドラマに関しては、まだまだ僕はやや蚊帳の外にいて、「じゃあ俺はどういうやり方をしていこうかな」と、じわっと考えてるところです。

坂之上:どんな内容を考えられているんですか?

江口:たとえば競輪を舞台にしたドラマをつくりたくて、ただいま構想中です。

坂之上:競輪?

江口:競輪って日本発祥なんですけど、今やKEIRIN(ケイリン)っていう言葉が世界中で使われてるくらい、世界的なスポーツになってるんですよ。オリンピックにもトラック競技でKEIRINっていう種目があるぐらいですから。

坂之上:えっ、競輪って日本で生まれたのですか?

江口:そう、九州の小倉発祥ですよ。

坂之上:知らなかったです。

江口:競輪の何が面白いかって、一番年齢の高い選手は60歳近いんですよ。

坂之上:60歳近くで現役なんて可能なんですか?

江口:そうなんです。だから地方のクラスが低い選手とかも含めると、プロの人口が日本で一番多いスポーツです。野球より全然人数が多いんですよ。

坂之上:年齢が高いと不利そうだけど。

江口:経験を積むことで若い人より有利になる部分があるんです。駆け引きが年齢とともにうまくなるみたいですよ。これはツール・ド・フランスなどのロードレースでも一緒です。

坂之上:経験を重ねることが強みになるスポーツ?

江口:そう。実は、僕もこの世界では遅咲きなんです。CMを撮り始めたの結構遅いので。

坂之上:そうなんですね。

江口 カン(えぐち かん) 福岡生まれ。九州芸術工科大学 画像設計学科卒業。 1997年 KOO-KI 共同設立。CMや短編映画、ドラマなどエンターテインメント性の高い作品の演出を数多く手がける。2007〜2009年 世界で最も重要な広告賞として知られるカンヌ国際広告祭で三年連続受賞(Bronze/Bronze/Gold)。Boards Magazine(カナダ)主催「Directors to Watch 2009」14人のうち1人に選出。 2010年より3年連続でクリオ賞(アメリカ)審査員。 2013年 東京五輪招致PR映像「Tomorrow begins」のクリエイティブ・ディレクションを務める。 同年、ドラマ「めんたいぴりり」の監督を務め、日本民間放送連盟賞優秀賞、ATP賞ドラマ部門奨励賞、 ギャラクシー賞奨励賞受賞。2015年 続編「めんたいぴりり2」が放送。 同年、Webムービー「TOYOTA G’s『Baseball Party』」の企画・監督を務め、Youtubeで860万ビューを超える盛り上がりを見せ、MLB公式サイト、TV局CBSスポーツ電子版ADWEEK(アメリカ)のサイトに取り上げられるなど話題を呼ぶ。

江口カン(えぐち・かん)
福岡生まれ。九州芸術工科大学画像設計学科卒業。1997年、KOO-KI共同設立。CMや短編映画、ドラマなどエンターテインメント性の高い作品の演出を数多く手がける。2007〜09年、世界で最も重要な広告賞として知られるカンヌ国際広告祭で3年連続受賞(Bronze/Bronze/Gold)。Boards Magazine(カナダ)主催「Directors to Watch 2009」の14人のうち1人に選出

いい面もあれば、悪の面もある

江口:だから人間って年を取ると「終わったね」なんてよく言われるけど、年を取ったから終わるなんてことはない。

坂之上:年を重ねて人は深くなるという?

江口:そうです。あと、やっぱりいい面だけを描くものではないと思っているんです。人間にはいい面もあれば、悪の面もある。

坂之上:人の「悪」の面ですか?

江口:たとえばね、ネット民たちは彼らにとってよくないと思うものを、一斉にギャーッと批判するじゃないですか。

坂之上:はい。

江口:人間って、それを自分が好きじゃないというだけで、あそこまで攻撃的になれる人たちだったかなって思っちゃうわけです。

坂之上:実際に会えばそこまで言わないですよね。

江口:議論するのはいいけれど、自分が好きになれないものの存在も認めて生きていくのが本来の姿でしょ。それが集団の力になったとき攻撃に変わるのが恐ろしい。

坂之上:今、カンさんが表現者として一番気になっているのはそこですか。

江口:気になっていることの一つではありますね。「いろんな人がいていいんじゃない」って認められるのが社会の成熟であるはずでしょう。世界中の人たち、感じること突き詰めたら、同じだと思うんです。

坂之上:だからこそ、やっぱり、映像ってすごく強いツールだと思います。

私ね、高倉健さんが亡くなったときに、北京にいたんです。そしたら、追悼ニュースとか特集がすごかったのですごく驚いたんですよ。当時かなり反日ムードだったのに。

江口:へぇ。

坂之上:それで、そのときまで私も全然知らなかったのですけど、中国の50〜60代の男の人がみんな角刈りをしてたのは、あれは高倉健の髪型をマネしてたんだって。聞いて本当にびっくりしちゃいました。

江口:(笑)。国が嫌いって言ってるのは、今の政治が嫌いだと言ってるだけの話だから。友好に関しては、本当にカルチャーの果たす役割は大きいよね。

坂之上:日本の映画やドラマは、一般の中国人にこんなに影響を及ぼしうるんだなぁってしみじみ思いました。中国で「おしん」をテレビドラマ流してたときはその時間、北京の市内から人が消えたって話聞いたことありますし。

江口:心の底からというか、腹の中から、ちゃんと伝わるツールとして、映像というのは最高にいいなと思いますね。

坂之上:江口さんの映画が世界中でブームを巻き起こしてくれる日が早く来るのを楽しみに待っています。
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Mandom (China) Gatsby [G.T.G] from KOO-KI on Vimeo.
 categorytype: TV-CM
 Client: マンダム中国
 Service/Product: Gatsby
 Title: G.T.G
 Director: 江口 カン

(撮影:遠藤素子)