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強い組織をつくるために必要なこと

【AKB48・高橋みなみ】リーダーの最後の仕事は、任せること

2016/1/14
AKB48の総監督として活躍し、今年4月での卒業を発表した高橋みなみ。総勢300人を超えるグループをまとめあげたリーダーシップは、ファンだけでなく、各方面から注目を集めている。そんな高橋が、活動10年目の節目に出版した『リーダー論』。もともとはリーダータイプではなく、「私は劣等生」「凡人なりにもがき続けた」と語る高橋が、苦悩の末に導き出したその答えとは。2日連続全2回。

一対一の関係性を築く大切さ

──本書は、初版だけで6万部ということでも話題ですね。ファンだけでなく、ビジネスパーソンも読んでいる実感はありますか。

そうですね。ツイッターなどを見ていると、私よりもずっと年上の方が、「期待していなかったけど、面白かった」とコメントしてくださっていて、うれしかったです。

私はまだ24歳ですし、アイドルグループの「キャプテン」や「総監督」というリーダー経験ということもあって、「自分なんかが……」という思いもありました。

でも、仕事内容や世代を問わず、共通する悩みは一緒のところがあると思ったんです。だから、少しでも皆さんのヒントになればいいなと考えています。

──高橋さんは、AKB48の1期生として2005年から活動されています。2009年にはAKB48内のグループ「チームA」のキャプテンになりました。

私が初めて任命されたのは、1チーム16人のキャプテンでした。「グループだからキャプテンが必要だろう」くらいの理由で、当時3チームだった、A、K、Bから1人ずつ選ばれたんです。前例がないこともあって、すごくもがきながらの毎日でした。

そこで、私が一番大切にするようになったのが「一対一の関係性」。どれだけ一人ひとりと一緒の時間を過ごして、濃い密度の関係を築けるかということでした。

たとえば、メンバーの名前を早く覚えて、「あなたのことを知っているよ」という思いを伝えてあげる。小さいことに見えるかもしれませんが、メンバーは「私のことを見てくれている」という気持ちになって、距離が縮まります。

そうすると、同じ言葉で叱っても、届き方が違います。きちんとした関係性がないと、伝わるものも伝わらなくなってしまうと思うんです。

──関係性を築くうえで、若い女性グループならではの難しさもあると書かれていますね。

女の子って個々に指摘されることを嫌がるんです。中には、プライドが高くて、その日の仕事に支障を来す子もいます。「今日は無理です。おなかが痛いので帰ります」となることも(笑)。そのため、一人に言いたいこともみんなに向かって話していました。

──メンバーから相談を受けたときは、どんなコミュニケーションをしていましたか。

女の子は、まず悩みを聞いてほしいものだと思います。だから、いきなり解決策を渡すよりも、話を聞いてあげるようにしていました。

それに、人に言われたことはやらなかったり、自分の選択にこだわったり、「大人の力を借りたくない」と言う子もいます。

もちろん、それだとうまくいかないことも多いので、私からは悩みがあるメンバーに少しずつヒントを渡すようにしていました。そうすると、自分の頭で考え、答えを導けるようになります。

すぐに解決策を教えるほうが簡単です。コミュニケーションの時間が長いと、お互い大変でもあります。でも、そのほうが相手のためになると思うんです。

高橋みなみ 1991年4月8日生まれ。東京都出身。 2005年にAKB48の第1期メンバーとして活動開始。2009年にAKB48・チームAのキャプテンとなり、2012年には300人以上のメンバーをまとめるAKB48グループ総監督に就任。活動10周年をめどにAKB48から卒業し、卒業後はソロ歌手として活動する。

高橋みなみ(たかはし・みなみ)
1991年4月8日生まれ。東京都出身。2005年にAKB48の第1期メンバーとして活動開始。2009年にAKB48・チームAのキャプテンとなり、2012年には300人以上のメンバーをまとめるAKB48グループ総監督に就任。活動10周年をめどにAKB48から卒業し、卒業後はソロ歌手として活動する

組織の拡大で生まれた温度差

──2012年からは、全体のリーダーである「総監督」になりました。この10年で、新メンバーが続々と加入し、AKB48だけで100人、姉妹グループを合わせると300人以上の大所帯です。

総監督になったときは、メンバーの規模感が大きく変わっていました。

それに、姉妹グループのSKE48、NMB48、HKT48などは、それぞれ愛知、大阪、福岡と活動場所も違います。全員で会う機会は、年数回の大きなライブくらい。しかも、集合するたびにメンバーが増えるような状態でした。

──メンバー間のモチベーションや、方向性のすり合わせも難しくなりますね。

そうですね。さらに、AKB48の中心だった前田敦子が、ちょうど卒業するタイミングでもありました。

そこで、当時の選抜総選挙で1位になった大島優子と2人で「どうすれば今後も良いかたちでAKB48が続くのか」と話し合ったんです。

私たちは、お客さんが本当に少ないところからスタートしたけれど、今AKB48に入る子は、そのことを知らない。

それに、目的も違います。もともと私たちはAKB48になることが目標ではありませんでした。みんな歌手や女優になりたかったけれど、オーディションに受からなかった。そんな子たちが、バラバラの夢を持ってAKB48に入ったんです。でも、今のメンバーはAKB48に入ることそのものを目標にしている。

この温度差、意識の違いはそろえるべきなのか。つまり、「昔は売れていない時期があったんだよ」「ここに至るまで大変だったんだよ」と教えて、自分たちのスタイルを受け継いでもらうべきなのか。

後輩の人数が増えると、私たちとは違う価値観やスタイルも多くなります。でも、それを頭ごなしに否定せずに、「じゃあ、私も同じようにやってみようか」と、まずは一緒に合わせてみる。

その中で、つまずくことがあったときに「自分たちは、こういう乗り越え方をしたよ」と、エッセンスを話すようにしました。

そのほうが、自然と本当に大切なことも受け継がれますし、組織もどんどん変化して面白くなっていったんです。

任せることに対する気持ちの変化

──その中で、先ほどお話しされていた一対一の関係性にも変化が生まれたのでしょうか。

AKB48グループは300人を越えてしまったので、これまでと同じような関係性を築くのは難しくなりました。そこから徐々に、それぞれのグループのリーダーに「任せる」ことが大事だと思い始めました。

NMB48だったら山本彩、SKE48だったら松井珠理奈、HKT48なら指原莉乃。でも、「妥協しなきゃいけなくなった」という思いもありましたね。

──そこで葛藤があったんですね。

はい。でも今思えば、もっと早く気づけたら良かったと思います。人は、任せると成長すると思うんです。

私自身、自分でやるほうが仕事は早いと考えて、ライブ中にMCが7回あっても、すべて自分が担当していた時期もありました。

でも、人数が増えたら、やっぱりほかのメンバーにもチャンスを渡す必要があると思うんです。経験を積まないと、個人としては弱いままです。1人のスキルが上がるだけでは、メンバーにもチームにも良くない。

組織って、ただ「みんな」が集まるんじゃなくて、力のある一人ひとりが集まって「みんな」になることで、強くなれる。

そのためにも、姉妹グループのリーダーが独り立ちして、チームのメンバーを伸ばしていくことが大切だと思います。

リーダーの役割を担うようになった子たちは、「たかみなさんがやってきたことを、自分に任せてくれた」と思ってくれて、生き生きとした姿を見せています。

この本でも強調していますが、リーダーは任せることが最後の仕事だと思います。

──いざ任せるとなったときは、どんなお話をされたんですか。

プレッシャーになるといけないので、「任せる」という言葉自体は使わないようにしていました。

そして、彼女たちとファンの方々との間には、これまで築き上げた物語があります。大阪には大阪の「地熱」があるんです。だから、私は基本的に口を出さずに、そのまま生かしたほうが良いと考えました。

そのうえで、「どう見ても悩んでいるな」「グループとしてちょっと大変な時期だな」と思ったときに、「ちょっと、ご飯に行こうか」と誘って話をすることが多かったですね。

 ③

「まな板の鯉」になる覚悟

──高橋さんは、AKB48の運営スタッフをはじめ、大人との付き合いで学ぶことも多かったと思います。

そうですね。大人に興味を持つことは、自分の人生を豊かにしてくれると思います。どうしても「大人は私たちの気持ちがわからない」と言いがちですけれど。

私も、AKB48で選抜総選挙をやると決まったときには、運営スタッフの方に反発しました。でも、そこで不満を言うだけじゃなくて、「なんでそれをやろうと思ったのか」を知るべきだと思ったんです。

そこで話をすると、今後のAKB48のためだとわかるところもありました。その本質的な思いを、ちゃんとメンバーにつなぐことも、自分の役目だと思います。

──選抜総選挙をはじめ、AKB48にはさまざまなサプライズが起こります。高橋さんは、どんな場合でも「やるしかない」と思って取り組むことが大事だと書かれていますね。

はい。AKB48には思ってもみなかったことや矛盾も多いと思うんです。

でも、自分がAKB48という船を選んで乗ったわけだし、それが次の夢にもつながる。だったら、「嫌だな」と思うよりも「やってやる!」と、取り組んだほうが前に進めます。「投げられたボールを打ち返そう」という気持ちが大事なんです。

秋元(康)さんが、「まな板の鯉になれ」とお話ししてくれたことがあります。自分が調理されることを楽しみなさい、と。

「私はこの調理方法でしか、おいしくありません」と言うのではなく、「どんなことでも、やってみることで可能性が広がる」と考えたほうが良いんです。

実際、気持ちの持ち方次第で、成長の伸び率がまったく違うと思います。

自分の考えだけが正解だと思ってはいけないんです。「私はこう思うから、やりたくない」「私にはこれが一番向いている」と思ってはダメ。外からの視点がすごく大事です。

──自分自身を、客観的に見ているんですね。

そういう私も、過ちを繰り返しているんですよ。「客観視って何だろう」と考える中で、「人生は、すべて対人関係で成り立っているな」というところに至ったんです。

相手にどう見られているのか、どうすれば伝わるのかを意識することが大事だと思います。

(撮影:是枝右恭)

*続きは明日掲載します。