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1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科終了。伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。  多摩美術大学非常勤講師。Gマーク審査委員。  日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、などがある。

1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。多摩美術大学非常勤講師。Gマーク審査委員。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、などがある

予測の3つのポイント

・小売り・流通を取り巻く環境が、大きな転換点を迎えている。特に今年は「リアル店舗の意味」が大きく問われることになる。

・ネット店舗にはないリアル店舗の優位性として、特に求められる要件は「即時性」と「直接性」の2つ。

・そのような「リアル店舗」では「編集力」、言い換えれば、消費者をワクワクさせる「生活」を想起させる「生活提案力」が求められてくる。

リアル店舗の意味とは

小売り・流通を取り巻く環境が、大きな転換点を迎えました。戦後、一気呵成(かせい)に進められてきた大量生産・大量消費の構図が塗り替えられようとしているのです。その先にある2016年、どんなことが求められていくのでしょうか。

大きく問われるのは「リアル店舗の意味」です。大量生産による均質なモノを大量に並べる業態が、2020年東京オリンピックに向け、数多く登場してくる予定です。それも、東京に限らず、地方や郊外都市においても、大型化による利便性をうたった施設が続々と予定されているわけです。

広々とした場に、衣食住遊知にまつわるショップが勢ぞろいする場は、1カ所ですべて済む利便性と、時間をつぶす娯楽性を兼ね備えることになるのでしょう。

ただ一方、同じようなショップが、同じように集められ、同じように並んでいる場に、消費者は飽きているのです。大量生産による均質な商品とお店を延々と並べられても、大量消費に結びついていかないのです。

送り手である企業が、大量消費を前提としたシステムを効率化しようとすればするほど、使い手である消費者との乖離が広がるのではないでしょうか。

つまり、大量のモノの中から比較して買う行為に対応するチャネルとしては、リアル店舗よりネット店舗が便利で有用なことに、多くの消費者は気づいているのではないでしょうか。

そして、合理的・効率的な視点から小売り・流通をとらえれば、ネットに軍配が上がることは改めて触れるまでもありません。

それに対するさまざまな挑戦が、2016年は出てくると思います。従来の枠組みを超えた「リアル店舗」が、実験的に生まれてくる年になると思います。

CCCと三越伊勢丹の協業

昨年はカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と三越伊勢丹が協業して、新ビジネスを始めるニュースが話題を集めました。百貨店という業態の枠組みを超えた小売りに挑戦する三越伊勢丹と、音楽と本のレンタル業という枠組みを超えて、家電や図書館づくりに挑戦しているCCCが、ビッグデータを背景に置いた「リアル店舗」を築こうとしているのです。

昨年12月7日にifs未来研究所主催による「川島蓉子と社長の未来のおしゃべり会」番外編が開催された。当日は株式会社三越伊勢丹ホールディングス 代表取締役社長執行役員の大西洋氏(写真中央)と、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 代表取締役社長兼CEOの増田宗昭氏(写真右)を迎えて「みらいの百貨店、みらいのビジネス」をテーマに鼎談を実施した。

昨年12月7日にifs未来研究所主催による「川島蓉子と社長の未来のおしゃべり会」番外編が開催された。当日は三越伊勢丹ホールディングス社長執行役員の大西洋氏(写真中央)と、カルチュア・コンビニエンス・クラブ社長兼CEOの増田宗昭氏(写真右)を迎えて「みらいの百貨店、みらいのビジネス」をテーマに鼎談を実施した

「リアル店舗」に求められる要件は、大きく2つあると思います。1つは「即時性」。昨年、アマゾンが即日配達を始めましたが、それでも、その時その場で手に入れられるわけではありません。買ってすぐ使える優位性は、「リアル店舗」にあるのです。

欲しいものが見やすくわかりやすく並んでいる、試着などの使用感やレジ決済が早い…そういった「リアル店舗」の優位性こそを、徹底的に追究する必要があると思います。

もう1つは「直接性」。リアルな空間の中で、五感で直に触れることができるのは「リアル店舗」ならではのもの。特に、味覚、嗅覚、触覚においては、今のところ、ネットにはまだ限界があります。五感を動かして新しい何かに出会えるワクワク感みたいな「直接性」は、「リアル店舗」ならではのものなのです。

ただここでは、ワクワク感ということになると、小売り・流通サイドの「編集力」や「接客力」の専門性が、厳しく問われることになってきます。

ファッションビルの雄として勢いを得ている「ルミネ」が、今年春、新宿南口に新しい商業施設「ニュウマン」をつくります。OLに向けたファッションを主体としてきた「ルミネ」が、ファッションビルの枠組みを超えた発信を行っていく場とうたわれていますから、新しい「編集力」が発揮できるかどうかが、成否を分けていくと思います。

一方、銀座では、春は数寄屋橋交差点に「東急プラザ銀座」が、秋は松坂屋跡地に「G6」が登場します。いずれもインバウンドを視野に入れ、ラグジュアリーをはじめとするショップをラインアップした新施設として、脚光を浴びることになるでしょう。

ただここでも、単に「新しいブランド」「著名なブランド」を集積させるだけでは意味がないのです。物量の豊富さでいえば、ネットに軍配が上がるわけですから。

本来の意味での生活提案

どんな商品をどのように組み合わせて見せるか、あるいは、どんなショップをどのように配置して見せるか。そういった「編集力」、言い換えれば、消費者をワクワクさせる「生活」を想起させる「生活提案力」が求められてくるのです。

それも、かたちだけ雑貨を置いたり家具を置いたりするのではなく、ある世界観にもとづいたストーリーが伝わることが、本来の意味での「生活提案」であり、館全体として表現されているかどうかが重要。そうでなければ、一過性の物見遊山で終始することになると思います。

一方、コンシェルジュという言葉が多用されることに表れているように、一人のお客に向けた厚い接客は、「リアル店舗」の価値づけとしてはずせないポイントになっています。

ある時は、単なるノウハウや勧め上手という域を超えて、ブランドのストーリーを五感で伝える伝道者として、ある時は、そのお客の五感に訴えかけてワクワクさせてくれるエンターテイナーとしての「接客力」が問われてくる。人材不足の中で、優秀販売員の争奪戦が起きてくると思います。

転換期だからこそ、異分野との協業や競業によって、新しい小売り・流通が生まれてくるのが2016年。後から振り返ると、あの地点が節目になったと言われるくらい、重要度の高い年ととらえています。

(写真:winhorse/iStock.com)