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経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、獨協大学特任教授、株式会社マイベンチマーク代表。1958年、北海道生まれ。1981年東京大学経済学部卒業、三菱商事に入社。その後、野村投信、住友信託、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て現職。資産運用及び経済全般の分析・評論が専門

経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、獨協大学特任教授、株式会社マイベンチマーク代表。1958年、北海道生まれ。1981年東京大学経済学部卒業、三菱商事に入社。その後、野村投信、住友信託、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て現職。資産運用および経済全般の分析・評論が専門

2016年の運用で考えておきたい4つの事情

・長期金利も含めて、超低金利であること。

・米国の利上げが始まった後であること。

・2017年の消費税率引き上げが延期される可能性。

・「五輪前」のブームをどれだけ信じるか?

新年のごあいさつ

NewsPicks読者の皆さま、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

さて、年頭に当たり、筆者には残念ながらお年玉を読者全員に配るほどの財力がないので、代わりに、2016年版のお金の増やし方について、書いてみようと思います。

運用される金額は、人によってさまざまでしょうが、だいたい数百万円から数億円くらいまでは、こんな感じでいいだろう、という(1)考え方と(2)方法(この順番は大切です)を書こうと思います。

率直に言って、お金の運用が趣味でも仕事でもない方は、考え方のポイントを押さえて、シンプルな簡便法でお金を増やすことを目指しつつ、(1)何をして稼ぐか、(2)異時点間の支出をどう配分するか(いくら使って、いくらためるか)、そして何よりも(3)どうやって気持ち良くお金を使うか、について考えることが生産的な人生を送る近道だと思います。

運用には、ほどほどの関心を持っていただけたら十分です。

時々のお金の運用には、変わらない原則と、その時々で考慮すべき事柄の、2種類のポイントがあります。今回は、「運用の不変の原則」と「2016年の事情」を、それぞれ4つ挙げて、その後に「お金の運用の簡便法」を書きます。

お金の運用不変の4原則

【原則1】お金の運用では他人の判断を頼らない

近年、個人のお金の運用についてますます強く思うことがあります。それは、お金の運用にあって「危険」なのは、市場のリスクよりも人間だということです。

株価のリスクは確かに問題ですが、将来の株価は、予想よりも下がることもあれば、上がることもあります。しかし、金融マンは、顧客からより多くの手数料を獲得することを生業としています。彼らとの関わりが深まれば深まるほど、コストが膨らむ仕組みになっています。

加えて、金融機関・運用会社は顧客が判断を間違えて余計な手数料を払うような商品の開発に注力しています。

また、当然の経済常識として、「市場の条件よりも割のいい儲け話」を知っている人や会社は、これを他人に教えるよりも、自分で利用するでしょう。相手がプロであればなおのこと当然ですし、友人・知人の口コミも危ない(人間は悪意がなくても、自分がヤバイ話に関わると、なぜか仲間を増やしたくなる傾向があります)。

運用商品は、自分が内容を理解できて、損得を計算できる商品のみを購入・保有の対象にしましょう(この条件だけで、大半の生命保険、通貨選択型毎月分配投信、すべての仕組み債券、ラップ口座などが除外されるはずです)。

加えて、お金の運用について、「相談する相手」と「金融商品を購入する(かもしれない)相手」は別々の相手にすることが肝心です。

金融機関での相談は、たとえ無料でも厳禁です(素人が、プロの繰り出す「ご提案」をその場で的確に否定するのは大変です)。

たとえば、退職金が振り込まれた銀行の銀行員に、退職金の運用について相談してみる、というような行為こそが、「愚かな顧客」の典型的な行動です(注:拙著では「顧客」という漢字をしばしば「カモ」と読ませます。「俺は大切なお客様だぞ」という意識は、しばしば大きな失敗の原因になります)。

【原則2】「お金の使途」や「投資家のタイプ」にこだわらない

お金には、使い道は後から決められる「使途の自由」と、投資金額はちがっても同じモノに同じだけ投資すればリターンは同じになる「(投資)スケールの自由」の2つの自由があります。

お金の使い道はお金を増やした後で考えたらいいし、お金の運用の目的は、老若男女、初心者もベテランも、「お金を増やすこと」以外にありません。効率的に増やして、自由に使えばいいのだから、正しいお金の増やし方は基本的に皆同じなのです。

使い道が、数十年後の老後の生活資金なのか、数年後の子どもの教育費なのか、年金を補完する生活費なのか、といったお金の使い道で、適切な運用対象(商品)が変化することはありません。

また、年齢・性別・知識などが異なっても、「非効率的な運用」が嫌なのは、皆同じでしょう。考えてみると、当たり前のことです。

資金使途、運用期間、投資家のタイプなどによって、選ぶべき運用商品が異なるというのは、金融ビジネス側が、くだらない運用商品も売れるようにつくったフィクションであり、彼らのマーケティング戦略の一環なのです。
金融マーケティングの影響を解毒し、運用はシンプルに割り切りましょう。

【原則3】運用のリスクは投資額でコントロールする

多くの人にとって、しばしば盲点になるのは、運用のリスクの大きさは、リスク資産に投資する額の大小で、「自分で」コントロールするのがわかりやすいし、確実だということです。

たとえば、1000万円を株式と債券が半々の投資信託に全額投資するよりは、500万円だけ株式で運用する投資信託を買い、500万円は個人向け国債(変動金利10年満期型を勧めます)でも買う方が、中身が自分で把握できるし、何よりも手数料が大幅に安い。

リスクが過大だと感じたら、株式に投資する投信の一部を売却することもできます。シンプルかつ低コストで、しかも柔軟です。

また自分が持っているお金の額を金融機関に知らせつつ取引をするのは、強欲な商人を相手に財布を開いて買い物をするくらい愚かです。

「当面使わないお金が1000万円ほどあるのですが、どう運用したらいいでしょうか?」と金融機関に質問するような、「顧客(=カモ!)」になってはいけません。

【原則4】運用商品はまず手数料で選ぶといい

たとえば、国内株式で運用する投資信託について考えてみましょう。投資家にとってのリターンは「(1)(国内株式)市場のリターン+(2)運用のスキルのリターン−(3)手数料」です。

これらのうち、(1)は国内株式で運用する投信すべてに共通ですし、(2)はプロにも素人にも「事前」には評価不能であり(ちなみに、過去の運用成績と将来の運用成績は無関係なのです)、確実な差があるのは(3)の「手数料」です。

つまり、同一カテゴリの運用商品にあっては、相対的に手数料が高い商品に出る幕はない、ということになります。たとえば、国内だけで5千本以上ある投資信託の99%は、はじめから検討の必要がありません。

現状では、「国内株式」については、TOPIX連動型のETF(株価指数連動型上場投資信託)一択であり、積立投資の場合のみ、ノーロード(販売手数料ゼロ)で運用管理手数料(信託報酬)が最低のインデックス・ファンドを選べばいい。

日本の普通の投資家にとって、「外国株式」に投資する選択肢は、先進国中心に世界の株式を広く含む株価指数に連動するインデックス・ファンド以外に選択肢以外にはほぼあり得ませんが、ノーロードで信託報酬の低いインデックス・ファンド(積み立てに便利)、国内上場のETF(安定してきました)、海外上場のETF(運用金額が大きい場合に良い選択肢になり得ます)、の3者が拮抗(きっこう)しています。

その他、細かな理由は省きますが、「外国債券」「オルタナティブ投資」等、内外の株式以外のアセット・クラス(資産の大分類)に投資する商品は、当面投資に加える必要はありません。

2016年の運用で考えておきたい4つの事情

時々の事情を斟酌し、将来を予想し、これを運用に反映させることはプロにも素人にも難しく、「運用の簡便法」のみをご紹介することが、本来の親切なのかもしれませんが、せっかく新年なので、今年のお金の運用で考えておきたい注目材料を4つ挙げておきます。

【事情1】長期金利も含めて、超低金利であること

これは、当面の運用にも反映させるべき、重要な環境要因です。

現在、主に日銀の金融政策の影響で、10年国債を買っても利回りは約0.3%といった超低金利の環境にあります。

日銀は、先に「補完措置」の一つとして、満期までの期間がより長い国債の買い入れを増加させることを発表しており、「長期も含む、超低金利」の状態はしばらく続きそうですが、(1)長期金利にこれ以上の下げ余地がほとんどなく、長期金利には上げ余地が一方的に大きく(長期金利が上昇する場合、債券価格は下落します)、同時に(2)政府はデフレ脱却を目指し、その暁には、長期金利が上昇する(正常化する)と、想定しています。

まず、「景気が悪化すると、株価は下がるが、長期金利が低下し債券価格は上がる」といった株式と債券の補完的な関係が、現在、少なくともかつてのようには働かないし、期待できない環境にあることが重要です。

過去のデータをそのまま将来に延長して、株式と債券を組み合わせたアセットアロケーション(資産配分)は、有効ではありません。

長期債を買ってもほとんど利回りがなく長期金利に上昇リスクがある環境で、個人にお勧めできるのは、個人向け国債の変動金利10年満期型です。

内外の株式に投資する以外の、おおむねリスクなしで運用したいお金のうち、当面動かさないお金は個人向け国債の変動金利10年満期型、動かすかもしれないお金は、銀行の普通預金か、証券会社のMRF(マネー・リザーブ・ファンド)がいいでしょう。

なお、銀行の普通預金は、ほかの運用手段の利回りが下がったことで、普通預金の利便性を手に入れる対価としてほかの商品の利回りを諦める「機会費用」が小さくなっているので、現在、案外悪くありません。「1人、1行、1千万円まで」の預金保険の制限は守る方がいいと思いますが、今の銀行で運用に使えるのは、普通預金と個人向け国債だけだ、と申し上げておきます(なお、投資信託や保険は、私が知る限りで、「すべてダメ!」です)。

【事情2】米国の利上げが始まった後であること

当面、まずまず無事な始まりだったと思いますが、FRBの利上げが始まり、米国の金融政策が引き締めに向かっています。金融危機からの経済回復過程と株価の上昇は、世界の大規模な金融緩和が後押ししたもので、世界の金融緩和をリードして最も大きな影響力を持った米国FRBの政策の方向性が変わったことは重要な変化です。

「後半」「終盤」「末期」、のいずれの言葉を当てはめたらいいのかはわかりませんが、株価的に、世界の上げ相場が仕上げの段階に入ったかもしれないという警戒感が必要です。

ただし、この場合、具体的な対応は、内外の株式に対する投資額を、標準だと思う金額から、せいぜい2割くらい引き下げる程度が妥当です。自分のお金の運用なので「すっかり売り切る」のもご自由ですが、それに見合うほどの予測能力を持っている人は、プロでも素人でもまれだと申し上げておきます。

「もう天井だろう…」と思っても、次の【事情3】のような好材料が生じる可能性があるのが相場ですし、資本を提供し続けて生産の果実を受け取ることに「投資」の意味があります。

なお、米国利上げの悪影響は、米国の株価に対してよりも、新興国の株価に対して大きく表れる可能性があります。この場合、新興国株式が、後から振り返ると「絶好の買い場だった(のに……)」と思う局面を迎える可能性があります。

簡便法からは、逸脱しますが、2016年の投資チャンスの可能性として挙げておきます。

なお、もう一つの大要因である原油価格の下落は、年前半には産油国・新興国の財政悪化や資源プロジェクトの破綻の可能性から波乱要因ですが、年後半には日本を筆頭としてエネルギーを消費する経済にとってプラス要因として働いてくる公算が大きいでしょう。

【事情3】2017年の消費税率引き上げが延期される可能性

2016年は7月に参院選がある「政治の年」です(米国の大統領選挙もあります)。

詳細は省きますが経済政策としての適切性(税率引き上げはインフレ目標達成後の方がいい)と、選挙を前にした政治的な有利性の2つの観点から、与党側が、参院選の前に、2017年に予定されている消費税率の引き上げを延期する意向を発表する可能性があります。

参院選と同日の投票日で総選挙をぶつける「ダブル選」の可能性も取りざたされていることは、読者もご存じの通りです。

消費税率引き上げ延期の政策オプションは、野党の側にもあり、率直に言って、「消費税延期の旗」を与党に先に取られると、民主党をはじめとする野党は(与党への批判を期待して共産党は伸びる可能性がありそうですが)、壊滅状態になる可能性があると、筆者は考えています。

お金の運用の話として横道にそれますが、運用の「8%の失敗」をすでに見ていてなおも「三党合意」にこだわり、2017年の消費税率引き上げを前提に軽減税率への細かな批判に終始する最大野党・民主党の現状は歯がゆい限りです。

政治を別として、経済と市場のことを考えると、「消費税率引き上げの延期」は、経済にも資産価格にもプラス材料です。

主に選挙前までに生ずるかもしれない「ポジティブ・サプライズ」の可能性として、投資家も頭に入れておきたい要素です。

【事情4】「五輪前」のブームをどれだけ信じるか?

「2020年の東京五輪までは大丈夫です!」と不動産屋は口をそろえます。確かに、日銀は当面超低金利を続けざるを得ませんし、外国人の不動産投資意欲も旺盛ですし、人手不足で建設コストは高騰し、不動産購入促進が政府のデフレ対策の一環でもあります。

だが、「〜までは大丈夫」と大方が言っていた状況が、その一歩手前でついえるのは相場ではよくある出来事ですし、人口が減る日本で、東京五輪後にそれ以上の需要創出要因があるのか、という問題もあります。

一方で空き家が増えながらの不動産ブームはいつまで続けられるものなのだろうかという問いも必要でしょう。不動産市況にとっては、今が、これ以上ないほどの好条件に見えるだけにむしろ不気味です。

「持ち家か、賃貸か?」は、期待される家賃をセーブできることの経費込みの実質的な利益が、十分リスクに見合う投資として採算に合うかどうか、で考えるべき問題です。

付け加えると、自分が住む家は「自分が店子(たなこ)の不動産投資」として考えるべきなので何ら特別ではありませんし、住宅ローンは、現金での購入よりも金融機関の儲け分だけより損だ、というのが基本的な損得判断の前提条件です。

不動産については、「安ければ買えばいいし、高ければ買わない方がいい」というのが、お金持ちにも、そうでない人にも共通の大原則です。基本となる考え方は、株式投資など金融資産への投資と同じです。

そう考えると、自宅の購入も含めて不動産投資は、住宅ローンで長期間かつ大規模なレバレッジを掛けられますが、投資としては一つの物件にリスクが集中しがちであることに加えて、流動性が低く、建設・不動産業者の利益や税金(手数料に相当)を考えると、好条件な案件が少ないので、慎重に判断しましょう。

現金で余裕を持って家を買える人はともかく、多額のローンを背負ってまで家を買うのは「よほどの決断だ!」と申し上げておきます。

ただし、家を買ってローンを払い続けることは、リスクの割に利回りが悪くとも一種の強制貯蓄なので、貯蓄も投資もせずに所得を消費に回してしまった人よりも、晩年に経済的に豊かになる可能性があります。後者の方は(筆者もキリギリス型の消費者であり、お仲間ですが)、それなりに注意が必要でしょう。

若い方にとっては、住宅ローンを背負ったつもりで、ローン返済に回すお金を積み立てて金融資産の運用を行うことが、資産の運用面では、最も得になる可能性が大きいでしょう。

具体的な「運用簡便法」

端的に言って、多くの人が、余計なことを考えて運用に失敗します。

目下の状況で、運用対象とする商品は、当面使うかもしれないお金を置いておく銀行の普通預金(か証券会社のMRF)を除いて、(A)国内株式インデックス・ファンド、(B)外国株式インデックス・ファンド、(C)個人向け国債(変動金利10年満期型)の3つだけで十分です。

大半の個人にとって、ほかの金融商品を検討することは、失敗の原因になります。厳密にベストではないかもしれないが、おおむね無難でベストに近いなら、それでいいのではないでしょうか。無駄な金融商品を検討するよりも、人生を充実させることに時間を割いてください。

(A)と(B)をおおむね4:6に組み合わせてこれを「リスク資産」と考えましょう(平均的な機関投資家のリスク・リターンに関する前提条件と、現実的な内外の債券利回りとから計算しました)。

「リスク資産」を「1年間に、最大3分の1損するかもしれないが、それと同じ確率で4割くらい儲かるかもしれず、平均的には年率で5%くらいの利回りがある資産」だと考えて、最大の損を想定してもいくら投資することができて、この「リスク資産」にいくらまで投資したいかを考えて、「リスク資産」への投資額を決めてください。一人ひとりが考えるべきポイントは、ほぼこれだけです。

残りを、「無リスク資産」として、当面使わないお金を個人向け国債(変動金利10年満期型)、使うかもしれないお金を普通預金かMRFにしておけば、それでOKです。

付け加えるとすると、税制面で有利になる、確定拠出年金やNISA(少額投資非課税制度)は、使える限り有効に使ってください。

あとは、毎日、NewsPicksを読みながら、相場を眺めつつ、健やかに働いて、好結果を祈っていればそれでいいと思います。

くれぐれも、ありもしない「うまい話」にだまされて悔しい思いをしないでください。

ご幸運をお祈り申し上げます!

(写真:Andrew Rich/iStock.com)