予測の3つのポイント
・第4次産業革命が従来の「産業分類」を再編成し、第4次産業とそれ以外に分類される。
・変化する日本の大企業が次々と現れ、活力を取り戻す。
・日本でもUberの雇用形態を取り入れる企業が現れる。
非常識がトクをする
あけましておめでとうございます。昨年に続き今年も1年を予測してみました。2016年のポイントは「非常識がトクをする」。非常識に挑戦し新たな常識で活力を取り戻しましょう。
1. 第4次産業革命が全産業を第4次産業化する
2015年は日本でも「インダストリー4.0」の言葉とともに、第4次産業革命が大きなトピックとなった。
第4次産業革命は「動力による機械化」「電気による量産化」「コンピュータによる自動化」に次ぐ4度目の産業革命という意味であり、収穫・加工・サービスで分類される第1次産業、第2次産業、第3次産業といった産業分類とはまったく異なる考え方だ。日本をはじめ主要国の公式経済統計でも第4次産業という区分は存在しない。
しかしインテリジェント化された「農業」は、後進国で比率が高いとされる第1次産業としてこれからも分類され続けるべきだろうか? 「労働集約的で属人的な従来の工場」や「教育」「医療」あるいは「コンサルティング業界」と、「スマートにネットワーク化されロボティクスやアナリティクスと融合し人間一人ひとりにマス・カスタマイゼーション化された産業」とを同一分類するのは、経済の成熟度を表す分類として正しいとは考えにくい。
第4次産業革命は「農林水産業」「工業」「サービス産業」それら既存のすべての産業の未来を第4次産業として再分類する。この新たな産業革命によって、先進国においては第4次産業化、つまりデジタル化された産業とそれ以外の産業の比率が注目されることになる。
2. チーフデジタルオフィサーは日本では生まれない
デジタル変革の担い手として期待されるチーフデジタルオフィサーは、日本では生まれないだろう。
日本の化学メーカーのある幹部は「ITをやるためにうちに入社した人間はいない」という。ある大手製造業では、モノを作る仕事や売る仕事に比べ、アフターサービスやITなどを下に位置づける言葉があるそうだ。
世界の先進企業の間では、デジタル変革の担い手の獲得や育成が大きな話題だ。マーケティング領域、研究開発とモノづくり領域、そして全社経営基盤やオペレーションなど主要なテクノロジー消費セクターで、それぞれのリーダーシップは発揮されるが、CEOが期待するデジタル変革はそうした個々の寄せ集めではない。
ソフトウェア主導型経済の中で全社のデジタル化を任せられる単一の相談先が、日本で生まれるのを期待することは難しいだろう。
3. 大企業の再生が始まる
しかし、ある大手製造業の役員が言う。
「私たちの世代は管理職になってコストを下げろとしか言われたことがなく、急に成長のためには投資しろと言われても実はカネの使い方がわからない」
代わりに使ってあげたいほどぜいたくな悩みだが、20年も停滞していたのだから桁の違う投資をしろと言われても、頭ではわかっても身体がついてこないのは自然なことで、正直な悩みだ。成長のボトルネックはとにかく「人」である。この現実を無視することはできない。
それでもトップは世界のスピードを知っている。危機感と投資意欲は本物だろう。一部の大企業は確実に強さと自信を取り戻す。
4. 米大統領選はオリンピック以上のテクノロジーの祭典に
今年11月、4年に1度のアメリカ合衆国大統領選挙が開催される。選挙戦はオリンピックを超えるテクノロジーの祭典として認識されるだろう。
前回選挙では再選を果たしたオバマ陣営が数十人のアナリティクス専門チームを雇い、機械学習など最新テクノロジーを駆使して個々の投票心理を正確に予測し、選挙活動を効果的に実施した。
今年はこれが大きく拡大し、報道の在り方や総選挙の在り方を再考するデジタル戦を目撃することになる。
5. ウバノミクスによる労働市場のイノベーションが始まる
アメリカでは「ウバライゼーション」や「ウバノミクス」という言葉が存在するように、Uber(ウーバー)のビジネスモデルがデジタル時代を象徴するものとして注目を集めている。
中でも日本では体験できないが「一般人を自らのリクエストでオンデマンドでウーバードライバー化し成果報酬を支払う」ワークスタイルと雇用形態は、賛否を含め大きな議論となっている。ウォルマートは200万人を雇用するが、ウーバーの仮想社員はすでに100万人を突破し、今もテレビCMを通じ呼びかけている。
ヒト・モノ・カネ、場所や時間を共有化し、遊休リソースを最適化するシェアリングエコノミーは、人口問題を抱える日本にとって労働生産性を飛躍的に高めるチャンスである。
自分が無価値と思う時間や知識も、コネクテッドな社会ではそれを必要とする誰かにとって価値となり、営業努力ゼロで課金させることができる。従来不可能だったあらゆる人材の活用を積極的に取り入れる企業が現れ、賛否の議論を経て日本に根づいてくるだろう。
(写真:千葉 格)