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職場内恋愛の「ハイリスク性」とは

部下のセクハラ、どう対応すべきか

2016/1/6
NewsPicksには、さまざまな分野で活躍する有力ピッカーがいます。そんなスターピッカーに「ビジネスや人生の相談をしたい」という要望に応えて、相談コーナーを設けています。人生の悩みにお金の心配や不安はつきもの。長年ファンドマネージャーとして活躍したエコノミストの山崎元氏が、皆さんから寄せられた相談に、ユーモアを交えながらも深刻にお答えします。

【山崎先生への相談】

隣の課の同僚から、「うちの課でセクハラが起きている」と聞き、驚きと戸惑いを覚えています。私は10人ほどの課の課長です。

教えてくれた同僚によると、うちの課に4月に来た女性新入社員に対して、そのメンター役である30代前半の男性が言い寄っている。その女性が隣の課の同僚に対して「どうしたらいいか、困っている」と隣の課の忘年会で漏らしていたというのです。

自分がまったく気付いていなかったことにショックを覚えるとともに、どう対応すべきか悩んでいます。彼女から私への相談があれば、なんらかの対処をするのですが、言ってもこないものをウワサをもとに、本人たちに問いただすべきなのでしょうか。

もし、本人たちの合意があれば、変に介入するのも野暮だなという思いもあります。ただ、深刻な状況だとしたら自分の課だけに、大きな問題になる前に何とかしたほうがいいのではないかと責任も感じています。山崎さんなら、どのようにされますか。アドバイスをお願いします。

(メーカー、男性、40代)

近くの異性は魅力的に見えてしまう

平凡な男性には、日常的に繰り返し見ている女性が実際以上に魅力的に見えてしまうことが、しばしば起こります。

世の中でいわゆる職場結婚が多いのも、「これは本当に美人なのか?(かわいいのか?)」と思うような女性が、テレビで繰り返し出てくると、やがては「魅力的な女」に見えてしまい人気を博するような現象が起こるのも、この効果のせいでしょう。

女性から男性、さらには、同性愛の人々にとってもどうなのかは、実感を伴って理解できませんが、惚れるテンポに違いはあれど(「女性→男性」よりも「男性→女性」のほうが好きになり、頭が熱くなるのが早いようです)、似たような現象はあるのだろうと推測します。

一方、「付き合う相手」あるいは将来の「結婚相手」として考えた場合、同じ職場の異性は(同性もでしょうが)、一般的にいって条件のいい相手ではありません。

職場内の恋愛関係が大っぴらになると職場の雰囲気を乱すことがありますし、後に別れる場合に悪評を残すこともあり、社内評価上、傷となることがあります。端的に言って、一般の恋愛よりもハイリスクです。その分、妙に張り合いがあったりするので、厄介です。

もちろん、相談者が気にしておられる「セクハラ問題」につながるケースもあり得ます。また、結婚に至った場合でも、会社の制度や職場の様子を含めて相手に職場の状況を隅々まで知られていて、窮屈な場合があります。

たとえば、三菱商事の男性は三井物産の女性と付き合うほうがはるかに低リスクだ(同時に、たぶん、新鮮でもある)。貿易を業とする商社マンが、自社の女性社員とばかり付き合い、頻繁に社内結婚するのはまったく情けない話だ。と、若い頃にモテない商社マンだった回答者はそう考えていました。

この考え自体に、今でも一理はあると思いますが、残念ながら、人間が見えていません。近くの異性は良く見えるし、気になるし、近くの異性にすら惚れられない自分が、遠くの異性を獲得する道は遠い……。

さて、ご相談の状況は、いかにも起こりそうな一般的問題であり、上司である相談者にとって、初めから可能性を想定しておくべき問題でした。一日も早い処理が必要です。

まずは男性社員側に働きかけるのが無難

具体的には、まずメンター役の男性社員側に働きかけるのがいいでしょう。

両方にヒアリングすると、引っ込みがつかなくなって、かえって問題を大きくするリスクがあります。特に女性の側から明確に苦情を聞いてしまうと、これを正式な問題として取り上げざるを得なくなります。

基本方針は、部下の男性に、本件の「リスク」と「期待リターン」を正確に伝えて、正しい意思決定をさせることです。

回答者なら、まずは、問題の男性の部下を誘って飲みに行きます。

この際、率直に聞いてみましょう。「君に指導をお願いしている新人の○○さんだけど、このごろ様子はどうかな。ところで、君は、彼女のことが好きなの?」とでも、酔っ払う前に単刀直入に質問しましょう。

彼の答えがどうであれ、あるいは彼が答えなくても、「実は、彼女が、社内のほかの女性に君から言い寄られていて、どうしたらいいか対応に困っていると相談しているという話が、回り回って私の所に聞こえてきている」ともう一つ情報を与えます。

この後、ゆっくりお酒を飲みながら、彼に理解させるべき状況は、次の2点です。

彼女は困惑しており、すでに社内で別の社員に話をしており、そのことが社内に伝わりつつある。社内に大っぴらになると格好が悪いし、昨今の世情に鑑みるに最悪の場合、男性の行為(本人は単に「好意」のつもりでしょうが、第三者的には「行為」)は、「セクハラ」と解釈されて問題化する可能性がある。つまり、これ以上彼女にアプローチすることの「リスクは大きい」。

第三者的に見て、彼女が社内の女性に自分のことを話しているということは、彼女が自分を異性として好きである可能性は小さい。つまり、これ以上アプローチしても彼女の好意を引くことはできない公算が大きい。つまり、「期待リターンは低い」。

相談者は、部下の男性に、リスクの大きさと内容を具体的に説明し、残念ながら期待リターンが小さいことを親身に丁寧に伝えるべきでしょう。

相談者の説明材料を追加するなら、仮に彼女が部下の男性に好意を持つに至ったとしても、今の段階で社内の同僚に話をするような口の軽い女性は、社内恋愛の相手にふさわしくないし、妻とするにしても賢い妻にはなるまい、と付け加えることができるでしょう。

「女はほかにもいるよ」と言って、別の女性を紹介できるほどの実力が相談者にあれば(残念ながら回答者にもありませんが)、たぶんこのご相談はなかったのでしょうが、別のもっと割のいい「リスクと期待リターン」を提示できるなら、単に彼の上司としてだけではなく、人生の師として相談者は素晴らしい。

万一、「どうしても彼女が好きなのです」と部下に訴えられた場合は、一度だけ、上司立ち会いのもとに彼女に思いを告白させるチャンスを与えてもいいでしょうが、「リスク」を十分説明して、彼の職務を彼女から離すことを、部下に伝えるべきでしょう。

「セクハラ」と解されるリスクを負わせたまま彼女にアプローチするような愚行を部下にさせてはいけません。この点は、あくまでも部下の利害の立場からの説明として、とことん伝えるべきです。

「君はいい年の大人なのだから、あくまでも大先輩としての距離感を持ったうえで、ビジネスライクに彼女のことを指導してほしい」と話を締めくくって、気持ち良く勘定を払って送り出すなら、部下の男性が、普通の常識があるビジネスマンであれば、その後の行動をすっかり変えるでしょう。

ただし、その後1カ月くらいの間は、注意が必要です。部下の男性が、思いを募らせて暴発しないか、ひどく気落ちしないか、自分の好意を受け入れない相手女性を逆恨みしないか、等に気を配る必要があります。部下の男性の様子に目配りするのとともに、彼とくだんの新人女性を2人きりにしないことなどに気を付けましょう。

「指導期間」が終わったら、なるべく早いうちに、仕事上の2人の関係を引き離すようにすべきでしょう。

女性からの訴えはフェアに扱うべし

現段階では、こうしたかたちで大きな問題にならないうちに問題の収束を図ることが可能ではないかと思います。

しかし、新人女性から何らかの訴えがあった場合には、問題を握り潰すようなことをしてはいけません。部下の男性にも改めてヒアリングしつつ、事実に基づいて、必要があれば「セクハラ問題」として社内的に正式な処理をすることが必要です。上司は何よりもフェアでなくてはなりません。

女性は、すでに他部署の同僚にも話をしているわけですから、正式に訴えられた場合に相談者が問題を隠蔽(いんぺい)しようとすることは、それ自体が正しくもありませんし、相談者にとって大変危険でもあります。

このことは、部下の男性との2人飲みの席で、事前に伝えておくべき内容でもあるでしょう。

年下の部下とはいえ、十分オッサンの30代男性のありふれた恋心のために、これだけの手間をかけることは、相談者にとって不本意かもしれませんが、人生の一コマとして、悪くない努力ではないでしょうか。

回答者は、現在こうした人間関係への関わりを仕事上は持っていないので、相談者の状況に対して、懐かしいような、むしろ、うらやましいような気持ちを抱いていることを付け加えておきます。早速、部下の男性を連れ出しましょう。

うまくやってください。

山崎氏に相談をしたい方はこちらまでご連絡ください。

*本連載は毎週水曜日に掲載予定です。