(ブルームバーグ):仮想現実(VR)端末が登場して30年余り、2016年は本格的な製品が発売されるVR元年となりそうだ。米フェイスブックやソニーなどはVRを体験できるゴーグル型端末を今年上期に発売する予定だ。

ソニーで「プレイステーション(PS)VR」事業を統括する吉田修平ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)ワールドワイド・スタジオ・プレジデントは、VRの面白さは自身で体験しないと伝わらないと話す。VRならではの遊び方を吉田氏に聞いた。

臨場感と迫力

バンダイナムコエンターテインメントが制作した「サマーレッスン」という技術デモでは、プレーヤーが家庭教師役になり、少女キャラクターの宿題を手伝うという設定。ゴーグル型端末をかぶり、実際に首を縦や横に振って「はい」か「いいえ」で仮想の少女の問い掛けに答えて交流する。プレーヤーが少女から目線をそらし続けると、怒られたりする。

デモの中では、少女がノートに書いていある文章について質問し、プレーヤーがノートを見るため少女に近づくと至近距離で見つめられるという、ドキドキする場面も設定されている。

「ゲームのキャラクターが自分のことを見ている、自分の存在を認識して、自分のやることに対して反応してくれる。それってこれまでのゲームにはあり得なかった」と吉田氏。「同じ場所に別のキャラクターが存在して、そのキャラクターが自分に対して何か話し掛けたり、行動を起こしたり、ものすごく距離感を近くに感じる」という。

手で動かす

仮想の世界を見れば、自然とその世界にあるものを自分の手で触ったり、動かしたりしたくなるものだ。ソニーは、「PSMov e」というスティック型のモーションコントローラを疑似的な手としてVRの世界に登場させた。

PSMoveには、動きを感知するセンサーと、アナログのばねがついたトリガーボタンがついている。ボタンを押したり離したりして仮想の世界で物を持ったり、銃の引き金を引いたりすることができる。「トリガーは1本しかないが、すごく自然に感じられる」と吉田氏。人間は普段、思うほど一本一本の指を個別に動かしてないという。

ソニーでゲーム事業を手掛ける子会社のSCEが制作した「ロンドン・ハイスト」というデモでは、ゲームの中でPSMoveがプレーヤーの仮想の手として視界に入る。このスティック型コントローラーを使ってプレーヤーは仮想世界の引き出しから銃を取り出し、弾丸を詰めて敵を倒し、ダイヤの宝を手に入れる。

吉田氏は、従来のゲームコントローラとは違い「自分の手という意味で、自由に動かしたり、物を握ってみたり。それがPSMov eで実現できる」ことで楽しさが増すと述べた。

マルチ対戦

吉田氏によると、ゲームとロボットが好きな人向けには、 SCEが制作したマルチ対戦型ロボットアクションゲームのデモ「RIGS(リグス):Machine Combat League」がお薦めだ。仮想の世界でロボットの中に乗り込んで、自分がロボットを操作してほかのプレーヤーと対戦する。

「離れているところに人がいるのに、すぐそばにいるような存在感は楽しい」と吉田氏。「サマーレッスン」とは異なる意味で、ほかのキャラクターや人の存在を意識した体験ができるという。

12月時点でソニーは200以上の開発会社とVR向けコンテンツを制作しており、100本以上のゲームタイトルが作られていると吉田氏は明らかにした。

VR端末は1980年代から開発されてきたが、今年は台湾の宏達国際電子(HTC)の「Vive(バイブ)」やフェイスブックの「オキュラスリフト」が市場に投入される見通しとなっている。

ゲームを超えて

VRは教育、不動産、観光、航空などゲーム以外の用途も期待されている。吉田氏によると、VRはさまざまな物事の「視覚化」に使える。その1つの例として、PSVRが米航空宇宙局(NASA)の訓練に使われていると明らかにした。宇宙船の中でロボットの腕を遠隔操作することを体験する訓練で、地球からの指示が宇宙船に届くまで、伝達の遅れも忠実に再現しているという。

吉田氏によると、VRは自分がいないほかの場所に行くことに加えて、「自分ではない他の人の体験」ができる。例えば、子供になって子供の目線で物を見る体験や、車いすに乗っている体験などがある。

ゲーム用途以外でもさまざまな問い合わせがあることを吉田氏は明らかにしたが、「まだ具体的にゲーム以外では発表していない」と述べた。

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