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ベンチャーキャピタリスト。グロービス・キャピタル・パートナーズで、コンシューマ・インターネット領域の投資を担当。戦略コンサルティングファーム、ハーバードMBAを経てグロービスに参画。

ベンチャーキャピタリスト。グロービス・キャピタル・パートナーズで、コンシューマ・インターネット領域の投資を担当。戦略コンサルティングファーム、ハーバードMBAを経てグロービスに参画

予測の3つのポイント

・スマホ最適化のテーマは残り少なくなってくるが、「6 Tech」に代表されるような新しく大きなテーマも数多く勃興してきていている。

・ネットがリアルを変える大きなテーマを扱う場合は、その業界を知り尽くし、泥臭く事業開発やオペレーションを回せるか人がいるかが重要。ベテランの起業家・経営者にとってチャンスと言える。

・マクロ環境を見ると、手放しで楽観視できた2015年と異なり、2016年はリスク含みと言える。経営者は今まで以上に、外部環境の変化にアンテナを立てて、慎重な舵とりが求められる1年となる。

IPO企業数92社、活況の2015年

2015年は日本経済全体にとっても、スタートアップ業界にとっても素晴らしい一年だった。日経平均は、6月には年初来高値2万952円を記録し、リーマン・ショック前の水準を超え、2009年には19社と鳴りを潜めていたIPO数も、2015年は92社にのぼる見込みだ。

ベンチャーキャピタル(VC)国内投資額も、2011年度(2011年4月〜2012年3月)の505億円から、2014年度年3月には740億円にまで拡大している。スタートアップにとって、2016年も引き続き、良い流れの始まりとなるだろう。

スマホ最適化テーマの弾切れ

ここ数年のテーマは、なんといってもスマホが大きかった。ガラケーからスマホへのデバイスシフトにともない、PCやガラケーで規模化していたサービスをスマホに最適化することが大きな事業機会となっていた。

PCやガラケーで規模化していたということは、ユーザーニーズや市場性はすでに検証済であり、デバイスシフトにともない競争環境が白紙に戻ったホワイトスペースを、スマホに最適化することで獲得すればよかった。

それが、2015年にスマホ普及率が50%を超え、ゲーム、ニュース、EC、音楽、電子書籍などの大きなホワイトスペースはいったん塗りつぶされた。

もちろん引き続き空白の領域は残るが、相対的にはどんどん小粒になっている。大きな規模ではないが、バーティカル(特定のニーズをもった類似業種、顧客セグメント)を熱量高く囲い込み、ユーザーあたりの単価を高くマネタイズしていく勝負になってきている。

ネットがリアルを変える6 Tech

一方で、新しい大きなテーマも数多く勃興してきていて、事業機会にはこと欠かない。「6 Tech」と呼ばれるFin Tech(金融xIT)、Edu Tech(教育xIT)、Healthcare Tech(ヘルスケアxIT)、Home Tech(住宅xIT)、Auto Tech(車xIT)、Frontier Tech(宇宙など人類未踏の地開拓)に加え、シェアエコノミー、AR/VR(拡張/仮想現実)などが、大きなテーマとして挙げられる。

国家プロジェクト並みの投資と時間がかかるFrontier Techはひとまずおいておくとして、そのほかに短中期的なテーマとして共通するのは、ネットやITがリアルに浸み出していき、ネット/ITセクター以外の産業の課題を解決、競争原理を変えようとしている点だ。

業界のベテランにチャンス

ネットやITがリアルに浸み出す時代のスタートアップにとって、ポイントは「Fin Tech」や「シェアエコノミー」といったテーマ軸で事業機会を探してはいけないということだ。

浸み出していこうとする産業に深く入りこみ、その産業の実需や顕在化している課題をから出発して、事業プランを組み立てることが重要だ。

シェアエコノミー、たとえばライドシェア(近くの車と乗りたい人をマッチングする)のウーバー(Uber)を見てみよう。乗りたい場所・時間にタクシーがつかまらない、電話で呼んでも時間がかかる、料金が高いという実課題からスタートしている。

それに対して、ライドシェアは本来その課題を解決する一つの手段に過ぎない。ほかにも既存のタクシー会社の効率化、カーシェアなどさまざまな解決策が考えられる。

しかし、国ごとの社会構造、ユーザーや彼らのニーズ、競争環境、業界構造など産業の本当の実態を前提としたときに、ライドシェアが最適な解決策としてフィットした時にはじめて規模化する事業機会となった。

国ごとに、ライドシェアの立ち上がりの成否、普及のスピードが異なるのは、まさにそのフィット感が国ごとに異なるからだ。

その点、アプリさえつくれれば学生でもチャンスがあったスマホと違い、その業界を知り尽くし、泥臭く事業開発やオペレーションを回せるかが重要で、ベテランの起業家/経営者にとってチャンスと言えるだろう。

大きなテーマの参入タイミング

長期的な視点でみると、AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)は、技術の革新性が大きく、世の中を破壊的に変革する可能性を秘めている。その一方、テクノロジーアウトで、技術の話題だけが先行し、マーケット視点で何の課題を解決するかは、まだ明確になっていない。

また、普及のためには引き続き技術開発やインフラ整備(通信帯域、データ処理や保存の標準規、法制度など)も必要だ。そのような意味においては、まさにガートナーのハイプサイクルの「過度な期待期」にあると考えている。

破壊的に大きなテーマながら、短期的に事業として規模化することは、時期尚早な感はあり、技術とマーケットがもう少し折り合ってからの参入か、長期的に腰を据えて取り組む覚悟で臨むことが必要だろう。

リスク含みのマクロ環境

「VCもクライアントも、大抵の人は過去の景気循環を知っているんだけど、若いスタートアップ経営者だけが経験がない。一番危機に弱い立場なのに、一番冬に対しての備えが遅い気がする(中略)。ただ、2008年に会社を潰しかけた身からすると、目先のバリエーションよりも、安全策を取るほうに舵を切って欲しいと切に思います。Cash is king.」

(松本龍祐 元コミュニティファクトリー代表取締役 2015/12/21)

これは、シリアルアントレプレナーで、コミュニティファクトリーをヤフーにバイアウトした経験をもつ現メルカリ執行役員である松本龍祐さんの言葉だ。

マクロ環境としては、手放しで楽観視できた2015年と異なり、2016年はリスク含みと言えよう。中国のバブル崩壊、米国の利上げによる資金の流れの変化などリスクはまだ大きく顕在化していないものの、火種はある。

米国の上場後のテクノロジーセクター及び未上場スタートアップでは、過熱したバリュエーションに対する警戒感が高まっており、複数のユニコーン(未上場で10億ドル以上つけるスタートアップ)が、前回バリュエーション割れしてのIPOをするなど、調整はすでにはじまっている。

冬の時代に備える2大ポイント

では、スタートアップは冬の時代に備えて何をすべきか。シンプルに2つしかないと思っている。

(1)筋肉質な事業構造づくり=キャッシュフローの安定化

(2)兵糧の蓄積=手元資金の確保

だ。それぞれについて概要を考えてみよう。

(1)筋肉質な事業構造づくり=キャッシュフローの安定化

事業環境が悪くなろうとも、事業からのキャッシュフローが黒字化していれば安心だ。少なくとも、いざという時にコストをコントロールすれば生き残れるくらいに赤字幅は縮小しておくことが望ましい。

そのためには、売り上げの安定化を図ることが重要だ。優良固定客や定期購買型からの継続的売り上げを確保すると同時に、特定の顧客やチャネルへの依存度を下げリスクを分散する。

また、キャッシュアウト側のコントロールも必要だ。売上に直接貢献しない費用を最小化すると同時に、可能な限り固定費を変動費化していざとなったら縮小できるようにしておく。

なお、スタートアップで見落としがちなのが、運転資金の最小化だ。支払/回収サイトを改善し、運転資金として縛られるキャッシュを減らす。運転資金の最小化は、痛みが少ない上に、比較的交渉しやすく実現しやすい。

(2)兵糧の蓄積=手元資金の確保
理想的には不確実性が高い環境下では、手元資金は1.5〜2年分程度あると、余裕を持って経営できる。

最低でも1年分は欲しいところだ。そのためには、株式、借入などあらゆる手段を検討すべきだろう。

スタートアップの資金調達として、ぱっと思いつくのが、株式での調達だ。ここで気をつけるべきは、環境を考慮した上で、「意図をもって最適な」バリュエーションにすることだ。バリュエーションが高ければ高いほど、大きな資金を、希薄化を少なく調達できる。

一方で、次回以降の調達が想定される場合、環境が悪化していると、相場観とのバリュエーションのかい離が大きくなり、次回調達が難航するリスクをはらんでいる。

もちろん、戦略的意図をもって今回多めに調達し、IPOまで走り抜ける手もあり得る。つまり経営者としては、無自覚に「高いことはいいことだ」という一元論でバリュエーションを引き上げず、環境の不確実性を加味して、戦略的・意図的にファイナンス戦略を考えることが重要だ。

また、見落としがちなのが、スタートアップでも利用可能な借入があるということだ。自治体や政策金融公庫の創業融資制度などは、金額は数千万円台前半とさほど大きくはないが、収益がたっていないスタートアップでも利用可能なものがある。しかも、「創業」と銘打ちながら創業後5年とか7年の企業でも、対象となる場合があるので要確認だ。資本コストを考えると一考の余地はある。

夢を語り、最悪に備える

一本調子だったここ2014年、2015年と異なり、2016年は、テーマという点でも、マクロ環境という点でも、変局点となる可能性がある。

経営者の仕事は「バラ色の夢を語り、最悪に備える」こと。今まで以上に、外部環境の変化にアンテナを立てて、慎重な舵とりが求められる1年となるだろう。

(写真:BraunS/iStock.com)