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慶応義塾大学卒業後、アンダーセンコンサルティング(現・アクセンチュア)を経て、ライフタイム パートナーズ(株)に入社。2001年からヘルスケア投資を行なう最古参投資家の一人として、同社の創業以来の全投資案件を担当。11年8月までフィナンシャル・サービス部担当部長として部門を統括し、自己勘定投資だけでなく、資金調達のアレンジャー、M&Aのアドバイザー、経営支援も行なった。11年9月に独立、施設介護オペレーターとして新会社(株)リビングプラットフォームを設立。現在介護事業の展開を進める。

慶應義塾大学卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)を経て、ヘルスケアファンドの先駆けとなるベンチャー企業にスタートアップメンバーとして参画。2001年からヘルスケア投資を行う最古参投資家の一人として、同社の創業以来の全投資案件を担当。2011年8月までフィナンシャル・サービス部担当部長として部門を統括し、自己勘定投資だけでなく、資金調達のアレンジャー、M&Aのアドバイザー、経営支援も行った。2011年9月に独立、新会社リビングプラットフォームを設立。現在介護事業の展開を進める

予測の3つのポイント

・建築単価の高騰、人材不足・人件費の高騰、介護報酬の減額という三重苦が介護事業者を悩ませている。

・介護報酬改定の影響の顕在化、地域の金融機関を通じた再編圧力により、倒産や廃業、承継などが大きく進む可能性がある。

・介護事業にリスクは多いが、そのリスクをコントロールすることのできる運営者のみが大きく成長できるはずだ。

2060年、2.5人に1人が高齢者

内閣府の「平成26年 高齢社会白書」によると、日本の総人口は2013年10月1日時点で1億2730万人。

65歳以上の高齢者人口は3190万人(前年3079万人)であり、2015年には3395万人、2025年には3657万人、そして2042年に3878万人でピークを迎えると推計されています。

また、2013年10月1日時点で、総人口に占める割合(高齢化率)25.1%(前年24.1%)は、2060年には39.9%に達して、国民の約2.5人に1人が65歳以上の高齢者となる社会が到来すると推計されていますが、そのときの国民負担率は70%を超えるといわれています。これは感覚的にも破滅的な状況です。

介護事業者を襲う三重苦

このように、急激に進展する少子高齢化の流れの中、安倍政権は特に介護施設の整備を促進する方針を打ち出していますが、東京オリンピック・パラリンピックの影響も受けた建築単価の高騰、景気の回復も手伝って人材不足・人件費の高騰、財政の均衡を図るための介護報酬の減額など、運営者は三重苦に悩まされている状況にあります。

そして、2000年の介護保険制度の施行前から、またはその後も含めた黎明(れいめい)期から事業を開始してきた大手といわれる企業でさえも、三重苦も含めた急激な環境の変化についていけず、業績悪化をとめられない状況にあります。

さらには、今年一部の事業者が虐待問題でメディアをにぎわせましたが、コンプライアンスへの見方はさらに厳しさを増しています。

このように立て続けに問題が発生したようにも見えますが、もともと業界が潜在的に内包していた(1)コンプライアンスリスク(2)人材確保リスク(3)介護報酬改定リスクなどのリスクが顕在化しただけであり、経営者の資質が試される状況にようやくなったとも捉えられます。

そしてこのリスクをコントロールすることのできる運営者のみが大きく成長できることもコンセンサスとなってきました。

このような業界の現況を前提として、少し大げさな言い方ですが、2016年の動きについていくつかの予測をしたいと思います。

予測1:倒産件数が過去最高になる

介護事業の保険収入は、3年に1度の介護報酬の改定により決定されますが、2015年4月の改定では、これまでにない報酬の削減が実行されました。

もともと、中小企業や訪問介護などの在宅サービスのみを運営する企業は、財務的に安定性が低い傾向にある中で、今回の改定の影響もあり2015年は過去最多の倒産件数となっているといわれています。

実はキャッシュフロー上、介護報酬の受領は2カ月後となりますので、4月の影響は6月から、つまり、まだ6カ月しかたっていないのです(2015年12月時点)。経営上の影響はこれから顕在化すると考えられます。

このように、ただでさえ楽観できない状況ですが、地域の金融機関主導で、運営者にはさらなる逆風が吹く可能性があります。

資金繰りが悪化している一方で従来地域の金融機関に支えられてきた企業は数多くありますが、地銀・信金の不良債権比率はそれほど高止まりしているわけではないので、延命が可能でした。

しかし、現在の地銀・信金再編過程における資産査定で、他行との情報公開上、早期の処理が進むケースがあります。これは1つ目の逆風となりうるでしょう。

また、石破担当相のもと進められている地方創生が2つ目の逆風となる可能性があります。つまり、地方創生は地域の金融機関が一つの有力な要素となりますが、ビジネスマッチングという名のもとに、運営者の再編が促進される可能性があります。

よって、介護報酬改定の影響の顕在化、地域の金融機関を通じた再編圧力により、倒産や廃業、承継などが大きく進む可能性があると考えています。

予測2:大型M&Aなど合従連衡が進む

2015年は、「ワタミの介護」に続き、虐待問題で大きくメディアなどでも取り上げられた介護施設の「メッセージ」が、損保ジャパン傘下に入る方針が示されるなど業界の再編が進みました。

多くのケースでは想定していた相乗効果がなかったり、承継企業の問題が事後的に発覚したりし、一方、ソニーやパナソニック、ALSOKなど他業種からの参入のニュースは枚挙にいとまがありませんが、必ずしも順風満帆ではないようです。

しかし、もともと需要が中長期的に過多である業界は希少であり、すべての事業者が破綻することにはならないため、潜在市場としては有力と考える企業が多く、予測1に記載したような業績が悪化した企業の承継を通じて参入する企業も出てくると考えられます。

実は、売り上げで最大手といわれるニチイ学館も赤字に陥るだけでなく、大手と呼ばれる企業の中にはリビングデッド化している法人も少なくないことから、そのような法人を対象にした大型のM&Aは増えるでしょう。

予測3:ドミナントとなりうる運営者が躍進する

従来、介護業界では自社による事業開発に重点が置かれ、事業承継つまりM&Aを駆使する企業は少数でした。

しかし、市場の規模が拡大し続け、久しくとどまりたるためしのないようなビジネスモデルにも一定の法則が見えてきており、かつ建築コストの高騰が新規開設に歯止めをかける中、市場の需要の伸びと国内マーケットにおけるその需要の時限性に着目する企業は、果敢に買収戦略を進めるでしょう。

さらにいえば、ヘルスケアリートという介護を含むヘルスケア関連不動産の投資の仕組みが2014年に大和証券のグループでできあがりましたが、不動産だけでなく、運営者の株式を対象にしたバイアウトファンドの参入も続いている中、その力を有効活用できる法人はその強みを発揮できる環境になってきました。

2015年いよいよ介護運営者のM&A市場が開花した感がありますが、このような金融知識のある、または活用できる法人の中に将来のドミナントプレーヤーはいると考えており、2016年には躍進するでしょう。

予測4:外国人の本格活用が始まる

厚生労働省が「2025年に向けた介護人材の確保〜量と質の好循環の確立に向けて〜」(2015年2月25日)において、2025年には30万人程度の働き手が不足するという見解を示しています。業界の最大のイシューは、人材確保と言っても過言ではありません。

そのような中、2016年からは外国人技能実習制度には介護職である介護福祉士が加わります。

今多くの事業者は海外の学校との提携などにより来年度の制度改正の準備をしていますが、従業員の雇用条件の改善など雇用の定着化等だけではなく、外国人の活用など大胆かつ根本的な対策を打つ企業が一挙に増えるでしょう。

介護業務には身体介護以外にも、家事援助など、言葉が多少不自由でも優しさや一定の技能があれば活躍できる部分が多くありますが、生産年齢人口の減少とともに就労人口の減少が不可避である中、必要不可欠な制度になるでしょうし、早期採用のメリットは大きいでしょう。

予測5:外資を取り入れるプレーヤーが出現する

これは2016年というと少し自信がありませんが、10年スパンでは間違いなくあり得るでしょう。

恐らく東京オリンピック・パラリンピックで高齢化社会の持続的な姿を世界に提示することにより、現在発展途上国といわれ、人口動態も若い国々にとっても今世紀中の少子高齢化はほぼ見えている状況の中で、いち早く問題が顕在化し、一定の試行錯誤が行われた日本市場でのノウハウを持つ企業の価値は海外において特に高まるでしょう。

そして、そのノウハウを取得するという意味において戦略的な資本提携が始まると考えています。

以上5点を予測してみましたが、2016年の年末、自分でも検証したいと思います。

(写真:TommL/iStock.com)