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予測の3つのポイント

・今、横丁を利用する現地のシニア客と、そこを訪れる若い女性客との交流が活発化しているとリクルートホールディングスのホットペッパーグルメリサーチセンターが発表した。

・その現象は「横丁ルネサンス」とネーミングされ、リクルートが12月15日に開催した「2016年のトレンド予測」発表会でも、「横丁ルネサンス」は2016年の飲食分野のトレンドになると発表された。

・横丁の活性化は地域経済に貢献しており、2016年はさまざまな地域で「横丁ルネサンス」の動きが出てくる可能性がある。

ハーモニカ横丁、呑んべ横丁

『ALWAYS 三丁目の夕日』のヒットから10年、今再び、昭和ブームが再来する。そんな兆しを見せるのが、赤ちょうちんがぶら下がる昭和ムード満載の居酒屋の復活現象「横丁ルネサンス」だ。

リクルートホールディングスのホットペッパーグルメリサーチセンターは12月15日に「2016年のトレンド予測」を発表した。これによると、今、横丁を利用する現地のシニア客と、そこを訪れる若い女性客との交流が活発化しているという。

ハーモニカ横丁(吉祥寺)や呑んべ横丁(立石)、野毛たべもの横丁(横浜)など、昭和の風情が漂う飲食街の活性化を通じて、地域創生にもつながるとの期待もある。

ホットペッパーグルメリサーチセンターが「横丁ルネサンス」と呼ぶ、こうした現象の背後にはなにがあるのだろうか。発表資料をもとに、今後の動向についてリポートする。

検索ワード数もアップ

振り返れば2015年という年は、昭和を想起させる社会的な出来事も多かった。

まるで高度経済成長時代を感じさせる「一億総活躍社会」のフレーズ、安保闘争と類似性を感じる「集団的自衛権デモ」、そして先の『ALWAYS 三丁目の夕日』でも象徴的に描かれた「東京オリンピック」への再びの開発ラッシュ……。

そのような中で、横丁というワードの検索数も、増加傾向を示している。
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そして横丁が注目されつつある今、各地で観光客による利用が増加している。

たとえば、みろく横丁(八戸市)には中心街だけで8つもの横丁があるが、現在、同横丁の利用客の6割が観光客で、地域経済に貢献しているという。

また、広島駅西側は「エキニシ」と呼ばれ、若いオーナーが新店舗やリノベーション店舗をオープンさせ、観光客が増えつつある。

横丁が、とりわけ若い女性客に受け入れられているのはなぜだろうか。

昭和を「観光する」若者たち

「友人がインスタグラムで横丁の写真をあげているのをみて、行きたいと思った」

「おじさんのほうが話せる。同年代にお店で話しかけられると、身構えちゃう」

マクロミルの調査によれば、横丁経験に対して20〜30代女性の92%が満足しているという(N=240、首都圏在住女性を対象)。

事実、引用した2つのコメントは、どちらも20代女性のものだ。

横丁経験がSNSなどにおける「ネタ」として最適であるということ、そして横丁での年配客との交流のほうが「しがらみがなく楽しい」という気分が読み取れる。

それは女性客にとって、横丁というものがある種の「観光」として捉えられているからだ。

ホットペッパーグルメリサーチセンター長の稲垣昌宏氏は、「若い男性客は家の近くにいつでも通える店を欲しがるのに対し、若い女性客は飲み屋を“観光”として捉える傾向がある」という。

また、マクロミルの別の調査では、20〜30代女性の約74%が「横丁で飲みたい」という意向を持っているという結果もある(N=206、首都圏在住者を対象)。
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興味深いことに、前述の調査によれば20〜30代女性の88%が「横丁で飲むならほかのお客さんと会話する」ことを想定しているという(N=206)。
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さらに「横丁での交流内容」を20〜30代女性に聞いたところ、ほかのお客さんとの「乾杯経験」は約44%、「ごちそうされた」は約33%に上る(N=240、首都圏在住者)。
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反対に、横丁で若い女性客を迎え入れる側も、来店する「若者を受け入れる意識」が高い傾向にある。

若者が来店することへの抵抗感については約84%が「以前より抵抗がなくなった」と回答している(N=206、首都圏在住者)。また、地元の飲食店に他地域から若者が来店することに対しては、40〜50代男性の約84%が「地元のために意味がある」と答える(N=309、首都圏在住者)。
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これらの事実から、若者も横丁的なレトロムードの居酒屋を求める一方で常連の年配層もまたそうした若者を迎え入れようとしているムードがうかがえる。

こうした「横丁ルネサンス」ブームは、かつて社会学者レイ・オルデンバーグが提唱した、「サードプレイス」という概念で捉えることもできる。

いわく、

「『とびきり居心地よい場所』を(第一の家、第二の職場に続く)『第三の場所』と称するが、それらはインフォーマルな公共の集いの場だ」(レイ・オルデンバーグ著『サードプレイス―― コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』〈みすず書房〉、17貢)。

彼はサードプレイスの特徴として以下の4点を挙げる。

(1)いつも常連がいて

(2)飾り気のない外観をしており

(3)誰でも受け入れる環境であり

(4)会話がなされていること

地域の結束が必要

ただし、「横丁ルネサンス」を持続させていくためには、地元住民同士の結束が求められる点にも注意が必要だ。

恵比寿横丁などの再生型横丁をプロデュースしてきた浜倉好宣氏によれば、今後は「地域がどこまでまとまれるか」が問われるという。

現代人はビルで過ごす時間が長くなっているからこそ、「地面や風を感じるオープンな場所で飲みたくなるものだ」という指摘も興味深い。

先述のオルデンバーグもまた、こう述べていた。

「サードプレイスの一番大切な機能は、近隣住民を団結させる機能だ」

「こうした場所(サードプレイス)は、あらゆる人を受け入れて地元密着であるかぎりにおいて、最もコミュニティのためになる」と(前掲書、17貢)。やはりあくまでも地元密着型であること、地域に根づいていることが肝要のようだ。

近年では、再開発の進む江東区・門前仲町エリアやアクセスが改善しつつある足立区・北千住西口エリア、さらに新店が続々と出店している杉並区・西荻窪南口エリアなど、新たな地域での横丁文化も生まれつつある。

2016年はこれらさまざまな地域で「横丁ルネサンス」の動きが出てくるのではないだろうか。

(構成:青葉 亮、写真:nickfree/iStock.com)