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スペースマーケット重松大輔CEOインタビュー(後編)

おもしろいアイデアには、おもしろい“スペース”が必要だ

2015/12/24
小規模の会議室から数百人が収容できるイベントスペースまで、大小さまざまなレンタルスペースを1時間から予約できる「スペースマーケット」。シェアリングビジネスでは「Airbnb」や「Uber」などの海外勢が急拡大するなか、日本発のシェアリングサービス3回にわたり紹介する。最終回は、同社CEOの重松大輔氏へのインタビュー後半。
第1回:図書館も球場も。あらゆる「スペース」を気軽に貸し借り
第2回:Airbnbが最大のライバル。法律が許せば民泊に参入する

これから起業や独立を考える人には「お試し開業」として活用してほしい

――スペースを借りるユーザーのなかに、注目している活用事例はありますか?

重松:飲食店のポップアップショップ(空き店舗などを活用して、一定期間のみオープンする店舗)として使われているケースには注目しています。

飲食業界は、年間15万店が新規開業し、同じ数の店舗が廃業するといわれる世界。特にラーメンやそばなど、麺系の飲食店は開業から廃業までのサイクルが早い。でも、たとえば「味が受け入れられなかった」というケースなら、事前にポップアップショップでお客さんの反応を見れば、おおよその手ごたえは分かるはず。

莫大(ばくだい)な内装費や設備投資をかけて、いざ開業したら1カ月も持ちませんでした、という悲劇は防ぐことができると考えています。

「スペースマーケット」では、オーブンなどの調理設備がばっちり整った店舗の、空き時間利用もできます。本格的な開業準備としてそういった店舗スペースを借りて、何度か“実地訓練”を積んで、エリアもいろんな場所で試してみてから開店しても遅くはないはずです。

そこまで本格的な開業を目指さなくても、趣味と実益を兼ねた副業として飲食店やワークショップやセミナーなどに使用しているケースもあります。

これまで不動産業界の常識では「長く契約する」が基本スタンスでした。これが「短期間借りる」のが、当たり前の世界になれば、個人のチャレンジや多様な働き方は必ず増えると考えています。

重松大輔 1976年千葉県生まれ。早稲田大学法学部卒。  2000年NTT東日本入社。主に法人営業企画、プロモーション等を担当。 2006年、当時10数名の株式会社フォトクリエイトに参画。 一貫して新規事業、広報、採用に従事。ゼロから立ち上げたウェディング事業は現在、全国で年間約3万組の結婚披露宴で 導入されるサービスまでに育つ。2013年7月東証マザーズ上場を経験。2014年1月、全国の貸しスペースをマッチングする株式会社スペースマーケットを創業。

重松大輔
1976年千葉県生まれ。早稲田大学法学部卒。
2000年NTT東日本入社。主に法人営業企画、プロモーション等を担当。 2006年、当時10数名の株式会社フォトクリエイトに参画。 一貫して新規事業、広報、採用に従事。ゼロから立ち上げたウェディング事業は現在、全国で年間約3万組の結婚披露宴で 導入されるサービスまでに育つ。2013年7月東証マザーズ上場を経験。2014年1月、全国の貸しスペースをマッチングする株式会社スペースマーケットを創業。

「自宅の庭」でお金を稼げる可能性

――物件オーナーのスペース活用事例として、注目している事例はありますか?

「今まで、このスペースがお金になるとは思いもしなかった」というようなスペースが、レンタルによりお金を生み出しているケースを見ると、やはりうれしいですね。

人影もまばらな平日昼間の映画館を、1日だけ社員総会などに貸し出せば数十万円の収益になる。

実は、私の実家もスペースマーケットに登録してみたんです。千葉県富津市の片田舎にある、どこにでもある一軒家です。でも、改めて見ると、海に面した開放感のある風景は、都会から来る人間には魅力的に映る。

田舎の家は庭も広いので、器材があればバーベキューもできる。幸い、自宅近所に魚屋も肉屋もうまい店があるんですよ。夜は星を見ながら花火をしたり。

スペースマーケットのオフサイトミーティングでも何度か利用していますが、「重松の実家」ということを知らない一般ユーザーからも好評なんですよ。それで、実家には1回最大4万円の収入になる。片田舎の一軒家でも、使い方によってはそれだけの収益を上げられるんです。

首都圏以外にも、まだまだそういうニーズが眠っていると考えています。

千葉にある重松の実家も庭をスペースマーケットにて貸し出している。賃料は1回4万円になることも(写真提供:スペースマーケット)

千葉にある重松の実家も庭をスペースマーケットで貸し出している。賃料は1回4万円になることも(写真提供:スペースマーケット)

ユーザーは「感謝の気持ちを伝えたい」

――「スペースマーケット」では、ユーザー、オーナー双方がお互いを評価し合うレビュー制度が好評だと伺いました。
現在、実際に利用したユーザーの約3割が、感想のレビューを書いてくれています。スペースのレンタル時には、ユーザーとオーナーのみが直接やりとりできる個別のチャットもありますが、レビューは誰でも閲覧可能です。

当然、褒めるばかりのレビューではありません。たとえば、「近くにコンビニがなくて困った」「照明のスイッチの場所が分からずに困った」などのコメントもあります。

ユーザーの声によって、はじめて「そういう情報があるといいのか」と気が付くことって多いんですよ。

実際、スペースマーケット社内の会議室も貸し出していますが、「フロアに自販機がなくて困った」とか、指摘されるまで気が付きませんでした。指摘があれば、オーナーは「利用上の案内」に、その点を追記すればいい。

「エアコンがないので冬は暖かくして来てください」などのユーザーに配慮した情報や、「地元のうまい名産品が買える店舗一覧」など、地元ならではの情報もユーザーには喜ばれます。

そういうホスピタリティーの高いオーナーが提供するスペースには、自然とお礼のレビューが付き、人気物件へと成長していきます。

ユーザーがレビューを書くインセンティブは特に用意していなかったので、レビューの大半がオーナーへの感謝の気持ちから書かれているのは、私もむしろ驚いています。

――これから、スペースをレンタルしようとするオーナーに向けてアドバイスはありますか?

「会社の会議室が空いているから貸し出してみよう」という場合には、それほど抵抗はないかもしれませんが、やはり自宅の一部を貸し出すとなるとそうもいかないでしょう。

興味がある人に勧めているのは、「まずは一度貸し出してみること」です。できれば、最初の設定価格は、周辺の相場価格より少し安い方がいい。

どんな人が借りるのか不安はあると思いますが、本当にさまざまなニーズがありますし、嫌なら断ってももちろん大丈夫です。ユーザーからの申し込みを、オーナーが承認してはじめて成り立つ仕様ですから。

レンタルスペースとして古民家の人気が高いのですが、特に撮影会やロケでの需要が多いんですよ。撮影でスタジオを借りると数十万円の費用がかかるので、さまざまなロケ地のニーズがあることは、われわれもこのビジネスを始めてから知りました。

いろんなワークショップやセミナーなど、ふだん、自分が触れることのない世界が垣間見られて、楽しくなると思いますよ。それでプラスアルファの収益につながれば、スペースシェアの魅力にきっとはまっていくと思います。

古民家がたくさん掲載されており、ユーザーからの人気も高い(写真提供:スペースマーケット)

古民家がたくさん掲載されており、ユーザーからの人気も高い(写真提供:スペースマーケット)

多角化する企業とのコラボレーション

――さまざまな企業とのコラボレーションもすすんでいるとか。
そうですね。広告業界では、近年、“体験型”のイベント開催が注目されているので、広告会社やPR系企業とは、よくタッグを組んでいます。

個人事業主やベンチャー企業のサポートにも注力しているので、リクルートキャリアが運営する「サンカク」で、ベンチャー企業とビジネスパーソンを交流させるイベントを共同主催したりしています。

ほかにも、出張シェフのサービスや、イベントチケッティングの会社などの一般企業とのコラボレーションの他に、自治体とのつながりも増えていますね。

自治体は、企業イベントを誘致したい。スペースマーケットは、各自治体が持つ遊休地や歴史的建造物を宝の山だと考えている。

たとえば、お城は各自治体が所有しているケースが多いんですよ。「お城で社員総会ができるなら、レンタル料1日100万円でも安い」という企業担当者もいる。使用制限の問題もあり、交渉はスムーズではありませんが、補修費の捻出に苦労している自治体となら、お互いWIN-WINの関係を構築できると考えています。

大型イベントの場合には、われわれも「場所づくり」やイベントプロデュースから協力しますし、そこはさまざまなビジネスが動く場になります。今後も多くの企業や団体とのつながりは強化していきたいですね。

チャレンジの総量を増やしたい

――重松さんを動かす一番の原動力は、なんでしょうか。

どんどん、世の中が面白くなってほしい。成熟社会で「あれはダメ、これはダメ」って言われる世界は、つまらない。ちょっとした工夫でお金を稼げるし、みんなハッピーになれる。

スペースのレンタルが当たり前になり、ユニークな物件を持っている人はみんな「スペースマーケット」に登録している。そういうインフラになりたいですね。

「人間が変わる方法は3つしかない」という大前研一さんの言葉は真実だと思います。「時間配分を変える。住む場所を変える。付き合う人を変える」。住む場所は簡単に変えられなくても、会社の会議やイベントの場所を変えるのは簡単じゃないですか。

いつも同じ会社の会議室で、同じメンバーでうなって時間を浪費するぐらいなら、違う場所で、いつもと違うメンバーにも参加してもらってやってみたらいいと思います。驚くぐらい、効果があると思います。

そんなときに気軽に使ってもらえるインフラになるためには、まだまだ登録案件も増やしたいし、システムももっとシンプルに使い勝手のいいものに改善しなければならない。

開業する人、イベントをやりたい人、新しい商売を模索している人。そういう人たちの時間と手間を省き、新しいチャレンジの総量が増えたらうれしいです。

それが、2016年、40歳になる私のチャレンジです。

(取材・構成:玉寄 麻衣、編集:久川 桃子、撮影:福田俊介)

*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。