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次世代の経済システムの姿とは

資本主義は終焉を迎えたのか。読書を通じて「その先」を考える

2015/12/18
年末年始の時間のあるときにこそ、読書に取り組もうという人も多いだろうが、果たして何の本を、どのようにして読めばいいのか。そんな疑問に答えるべく、「AERA」とNewsPicksの共同企画として、5日連続でムック『AERAの1000冊』の人気記事を紹介。今回は「資本主義」を考えるうえで必読の書を、白井聡氏、赤坂真理氏、永濱利廣氏、渡邉格氏が語る。
第1回:【ヤマザキマリ×磯田道史】歴史は“趣味”ではない。“実用品”だ

会社中心主義から脱却するために

白井聡(政治学者)
 資本主義著者.001

資本主義の死ということがいわれています。資本の側からいうと、これを乗り越えるためには大きな破壊をやるしかない。戦争ですね。今は戦争になるのか、違うシステムに移行するのかの瀬戸際にあると思います。

普通にやっていて利潤率が上がらないというのは、パイが増えないということ。新自由主義は、成長がないときに自分のパイを増やそうとして、社会的な財産を私有権によって囲い込んで奪っていく運動ですが、これが進んでいくとどうなるか。社会が崩壊します。個人は社会から奪えるだけ奪って、社会に何も還元しなくなるからです。

戦後日本資本主義がうまくいったのは、アメリカ型資本主義とソ連型社会主義のいいとこどりをやったからです。

ある時代まで、経団連主流派、労使協調路線の労働組合、民社党などは、自分たちのやり方は社会主義的なのだという意識があった。

われわれはアメリカ型資本主義とも違うし、ソ連のような社会主義でもない、どちらよりも優れたものなんだという自負を持っていて、それはとてもうまくいった。生活水準も全般的に上昇して、それは日本のナショナルプライドまでつくった。

でも今見えてきたのは、その代償がいかに大きかったかということです。1つは会社の担う社会的機能が高度化しすぎた結果、ほかの中間団体がなくなった。

その結果、会社の利潤が上がらなくなってしまったら社会が崩壊するということです。それから会社中心主義ですから人は社畜になる。世界一従順かつ無気力な労働者階級が生まれてしまった。

結局、この国には会社があるだけで社会がない。実は権利もそう。権利主張や、権利侵害などへの異議申し立てに対して弱い者いじめをするのが、大変嫌な社会的なトレンドになっていますが、全員が無権利状態にある中で、権利を主張する人は特権を主張するように見える、あるいは不当な利権に見えるということなのでしょう。

利権は理解できるが権利は理解できない。そのことと日本人の幼児性はとても深く関連しています。戦後、経済大国化していく過程で、同調圧力の強い、幼いメンタリティをフル活用して日本資本主義は発展してきた。しかしそれが立ち行かなくなったということです。

時間・労働・支配』は『資本論』の高水準な研究書。商品の生産と交換を通して生活をするということの巨大な意味を考えさせられます。

ショック・ドクトリン』は暴力なしに資本主義は回っていかないということをヴィヴィッドに描いています。

現状把握の意味では面白いのは『通貨燃ゆ』。著者は安倍首相のスピーチライターです。アメリカの内実はスカスカなのに、なぜドル基軸体制が維持され続けているのかということに一つの答えを与えています。首相官邸とその周辺が、どういう考えで政治経済を動かそうとしているのかを知るためにいい本です。

日本の戦後はどこから来たのか

赤坂真理(作家)
 資本主義著者.002

時代を見るときは、「何と何が同期か?」と見ると、意外な全体性が見えてくると思っています。モガは『女工哀史』と同期。全共闘は集団就職と同期。するとバブルは……オウムと同期、なのだと思います。あれほどのタナトスがあってのお祭り騒ぎだったのだろうと。

若者殺しの時代』がとても面白かった。おカネを使わないと恋愛ができなくなった、とか1980年代に何もかもが資本主義にされて若者が殺されていったという話。その続編が『やさしさをまとった殲滅の時代』。とても怖いことがさらっと書いてある。

私は『東京プリズン』で、戦争と戦後のことを書きました。占領期には関心があります。占領期には秘密がある……といわれますが、『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』を読むと、アメリカと日本の関係は秘密でも何でもなく、日米安保条約や日米地位協定に全部書いてあるということがわかります。

浮浪児1945‐』も衝撃でした。ある戦災孤児がバブル経済期に億万長者になった話が出てくる。戦災孤児の半生を通して「バブルの本質」をわからせてくれたことが、本書の最大の収穫。結語などに少し物足りない部分もあるのですが……。

バブル以降世代は、バブルってただの景気のいい時代だと思っている節がありますが、そんな牧歌的な話ではない。戦争の底なしの闇があったからこその、天井知らずのお祭りだった。

今、仮にあれが起こっても、人々はあんなに舞い上がらないだろうと思う。今の人は生まれたときからそこそこ裕福だから。

私は家の事情でバブルの最中に不動産売買をせざるを得なくなったことで、戦争に向かう感じってこんな感じなのかとわかった。思考停止になってくる、歯止めがなくなっていく感じ。何だろう、あの視野狭窄(きょうさく)な感じは。

不動産があったから商売をやっていた父も借金ができたわけですが、担保があるから、回収できるから貸しますって、投資じゃないですよね。事業計画も何もない。

それが日本の資本主義がまねごとの資本主義といわれる一因でしょう。投資や経営ではなく、人質的なものでおカネが行き来する。だから起業もしにくいし、一回失敗したら再起もしにくい。

東京には、1時間通勤をすれば家賃が何万安くなるといった、身体感覚がすべておカネに換算されるようなところがある。

都市って本来、京都や大阪くらいのサイズ感。純粋な移動時間というのが東京に住んでいるとあり、それを受け入れて暮らしているけど、なんでこんなに移動しないといけないのかと、はっとわれに返る瞬間があります。

永続敗戦論』の白井聡さんとは先日週刊誌で対談しましたが、この本と私が書いた『愛と暴力の戦後とその後』は似た問いを持っていると思います。

つまり、日本の特殊な戦後はどこから来たのかということ。天皇の戦争責任の免責と戦後の日本経済繁栄の関係、ということです。

危機だけでなく解決策も見える

永濱利廣(第一生命経済研究所主席エコノミスト)
 資本主義著者.003

リーマン・ショックで市場が混乱した2008年の秋以降、資本主義の危機を語る経済書が次々と出版されています。『資本主義の終焉と歴史の危機』も、資本主義の終焉を断言しています。主題の一つは、世界総ゼロ金利時代の後に何が起こるか。もう一つは、資本主義の終焉で日本にチャンスが生まれるという主張です。

特に「世界総ゼロ金利」の議論は説得力十分。資本が利潤を得られる空間はもはや残されておらず、これは人類史上初の現象と指摘しています。

また、バブル崩壊による壊滅的な危機を防ぐための政策運営も、丁寧に論じられています。著者は、証券会社のエコノミスト、民主党政権時代の内閣府審議官を経て大学で教べんを執られていますが、本書はその経験から「ゼロ成長社会で純投資をなくせば、経済は買い替えだけで循環することが可能」と主張するのです。

このように、できるだけ利潤がつくられないようにすることで、「定常状態」を実現することは至難の業ですが、危機を煽るだけではなく、解決策も垣間見ることができるのです。

中でも共感したのは、「いまや資本が主人で、国家が奉公人のような関係」という著者の主張。これは、国家同士が連帯、協調してグローバル資本主義に歯止めをかけるのは非常に困難ということを意味しています。

図解雑学 資本主義のしくみ』は、資本主義の本質が図でわかりやすく解説されており、経済の初心者でも楽しめる内容となっています。

主な内容は、資本主義の仕組みと歴史。なぜ資本主義なのかから始まり、分業や交換、拡大再生産、利潤、資本の種類、使うものと使われるものなど、簡単な言葉を使いながら資本主義の核心部分を説明しています。

歴史については、東ローマ帝国最盛期から産業革命、社会主義の勃興を経て近代に至るまでの資本主義の変遷を整理することができます。

マネー資本主義―暴走から崩壊への真相』は、金融の世界の最先端で起きたことの実態を、多面的に浮かび上がらせています。面白いのは、リーマン・ショック前夜の2000年代前半の住宅バブルをわかりやすく伝えているところ。そして、それがNHK番組向けの取材がもとになっている点です。

当時のサブプライムローン専門業者が流していたテレビCMのセールストークや、テレビの「家転がし番組」に触れ、一般人が投機目的でローンを組んで家を購入し、価格が上昇したら売り払って荒稼ぎをするという社会現象を臨場感あふれる表現で伝えています。

こうした投機熱を支えていたサブプライムローンの危険性もわかりやすく解説。それを可能にした金融工学とバブルの心理状態をも描き出しています。

当時の米国内の低金利と並行して実行されたドル高政策などもあいまった投資資金の流入により生じたカネ余りが、状況をより深刻にしたという事実が浮き彫りになっています。(寄稿)

匠の集団こそ共同体を再構築

渡邉格(パン職人、『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』著者)
 資本主義著者.004

私は経済成長期に育ったので、資本主義は悪くない、希望が集積したものだと思っていました。高校卒業が1990年、バブルの最後の時期です。卒業後はフリーターとして過ごし、外国と比べると日本はいいな、などと思っていました。

しかし、物質的豊かさが満たされると“希望”の資本主義が“欲望”の資本主義に変わってしまった。そしてその欲望は、リーマン・ショックで“絶望”になったと感じるのです。

高校生からわかる「資本論」』ですが、資本主義が発展して社会が豊かになっても働く人が苦しくなっていく仕組みを解説しています。『資本論』を読み解きながら社会と働く人が両方発展するにはどうするべきかという問題を投げかけてくれます。

マルクスのような素晴らしい思想があっても、人間はこれまで何度も戦争を繰り返しています。世の中ってなんだろう、と経済学だけでは理解できないことを構造主義が教えてくれます。

寝ながら学べる構造主義』ですが、私たちは自分では判断や行動の「自律的な主体」であると信じていますが、実は社会観念によって構造的に規定されているといいます。

しかし「自律的な主体」とは、人間とそれを取り巻く環境の中に人間の意味を探していく主体ともいえます。そこにこそこれからの希望が見いだせるのかもしれません。

私はパンづくりを追求しながら、「自律的な主体」とは、同じ商品を追求する自由な共同体の中にあると考えるようになりました。

その共同体とはいわば匠(たくみ)の集団です。商品を媒介としてつながり、技が尊敬され、その技を磨くことで感性も身体性も高まり、働くことが楽しくなります。これからは物質的豊かさのみでなく、生活の質を高めるという方向で資本主義の“希望”の部分まで立ち返れば、職人だからこそ豊かな仕事を追求していけると思うのです。

棟梁』は宮大工の棟梁(とうりょう)への聞き書きの本。親方と弟子がともに暮らしともに働く。真摯(しんし)な、確実な建造物を建てる。これだけで技は伝わっていく。

本物を覚えるのには時間がかかるが、それが身についたら体は嘘を嫌うようになるといいます。資本主義の中でも強い匠の集団ができるという実践例で、資本主義だから本物ができないというのは言い訳だと教えてくれます。

私は今後、食に関する匠の集団をつくっていきたいのです。競争力を持った商品を共同でつくる。個性を出すことが目的ではなく、資本主義的商品力を追求することが個性となるのです。私はこれからも商品力を追求し続けていくつもりです。

本物の技を磨く集団をつくることが、共同体の再構築につながる。それが静かなる革命であると、私は信じています。

(構成:AERA編集部 小柳暁子、岡本俊浩)
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