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ベトナム代表監督・三浦俊也インタビュー(第3回)

ベトナム代表の日本人監督が抱く組織論「指導者こそ学ぶ姿勢を」

2015/12/16

2011年8月にJ1のヴァンフォーレ甲府の指揮官を退任した三浦俊也は、2014年5月にサッカーのベトナム代表監督に就任するまでの期間をいかに過ごしたのか。

約3年間の“空白期間”において、三浦は新たな学びを求める。「指導者こそ、常に学ぶ姿勢を持っていなければならない」という自身の考えに基づいた行動で、ベトナム代表の監督就任につながるきっかけを得ることになった。

インタビューの最終回では、異国の地で人心を束ねる三浦が、自身の組織論などを語る。

三浦俊也(みうら・としや) 1963年岩手県生まれ。駒澤大学卒業後の1991年に指導者を目指して、ドイツにコーチ留学。ケルン体育大学でA級コーチライセンスを取得した。帰国後に大宮アルディージャ、コンサドーレ札幌、ヴェッセル神戸、ヴァンフォーレ甲府の監督を務め、大宮と札幌をJ1昇格に導く。2014年5月8日に、2年契約でベトナム代表の監督に就任。リオデジャネイロ五輪を目指す同国のU-22代表監督も兼任している

三浦俊也(みうら・としや)
1963年岩手県生まれ。駒澤大学卒業後の1991年に指導者を目指して、ドイツにコーチ留学。ケルン体育大学でA級コーチライセンスを取得した。帰国後に大宮アルディージャ、コンサドーレ札幌、ヴェッセル神戸、ヴァンフォーレ甲府の監督を務め、大宮と札幌をJ1昇格に導く。2014年5月8日に、2年契約でベトナム代表の監督に就任。リオデジャネイロ五輪を目指す同国のU-22代表監督も兼任している

指導者の育成が最も大事

──最終回は組織論をお伺いします。東南アジアの選手たちの能力を伸ばす方法はありますか。

三浦:正直に言うと、ベトナムの選手はまだ能力を引き出されていない部分が多いです。代表選手たちに、代表チームと所属クラブの練習を比べた感想を聞くと、「代表での練習はきつい。クラブの練習はこんなに強度は高くない」と全員が口をそろえて言います。練習のインテンシティが低いと、試合のインテンシティも低い。当たり前のことです。

──その部分をどうやって変えていったのですか。

たとえば、日本の選手は真面目で100%の力で練習をやりきります。コーチの要求するレベルも高いので、毎日の練習がフルパワーの状態で行われている。だからこそ急激に伸びる選手が若手にたまにいますが、そんなに多くはありません。いくら優秀な外国人監督が指導しても、簡単にJリーグで勝てるようにならないのはそのためです。

要はコーチのレベルが上がらないと、インテンシティの高い練習はできません。コーチのレベルが上がれば、おのずとクラブやリーグのレベルも上がります。コーチのレベルアップはこの国では不可欠だと思います。

“メディアの洗礼”への対応

──東南アジアにおける指導者ライセンスはどうなっていますか。

(アジアサッカー連盟公認の)AFCライセンスを取得すれば、ベトナムリーグにおけるクラブの監督になれます。将来的には、2017年からAFCチャンピオンズリーグ(ACL)に出場するクラブを率いるには、AFCインターナショナルライセンスが必要となります。

研修は今年から始まり、僕も頼まれて一度だけ試合分析をやりました。そこでは、ベトナムのトップクラブの監督が全員そろい、AFCの講師が来て3週間ほどのコースを行っていました。

──外国人の指導者の役割も、そこにあるということでしょうか。

できるだけ足りないところを発信しよう努めています。ただ、ベトナムでは違うところに興味があるような感じです。特にメディアがそうです。

──メディアにはどのような特徴がありますか。

私は読めませんが、聞くと多くのサッカーの報道はネガティブなものが多いようです。すべてではありませんが、記事をおカネで買える文化があります。現在私のことをバッシングしている一部の記事も、おカネが払われたことで書かれていたりします。

──それはクラブのオーナーなどが、おカネを払っているということですか。

日本で買えるものは広告だけですが、ベトナムでは記事自体を買えるのです。残念なことですが、メディアは中立の立場ではありません。

──以前、日本のメディアでも東南アジア全般にある問題として指摘したことがあります。ただ、日本での“メディアの洗礼”とは本質的に意味が違います。

東南アジアで指導していくためには、そういった文化の違いを理解しなければいけません。それができない方にとっては、難しいと思います。

ドイツでコーチングライセンスを取得し、Jクラブの監督を歴任。再び海外での挑戦に身を投じた

ドイツでコーチングライセンスを取得し、Jクラブの監督を歴任。再び海外での挑戦に身を投じた

平田竹男氏から受けた言葉

──2011年8月にヴァンフォーレ甲府を離れて、2014年5月にベトナム代表の監督に就任されるまでの期間について教えてもらえますか。

短期留学ではありますが、南の島で英語の勉強をしていました。それと、2012年に早稲田大学スポーツ科学研究科の修士課程1年制コースにも通いました。テレビ東京のアナウンサーである大橋未歩さんも通われていて同期になります。平田竹男さん(元日本サッカー協会専務理事)のゼミで学びました。

──平田さんからは何を学ばれましたか。

多くのことを学びましたが、「選手がこれだけ海外に移籍する時代。指導者も海外に出ていかなければいけない」という指摘がありました。今振り返ってみると、自分のキャリアはその通りになっていますね。

──この“浪人”期間の過ごし方が、結果として代表監督につながったと思います。

そう言えるかもしれませんね。僕は指導者こそ、常に学ぶ姿勢を持っていなければならないと思っています。また私の仕事は選手やスタッフからリスペクトされなければ難しくなるのですが、そうなるような言動や行動が必要であると思います。

ACLに挑戦してみたい

──今後のキャリアについては、どのようなビジョンを描かれていますか。

今はベトナム代表監督として全力で臨んでいるので、今後のことはわかりません。アジアでもイラクなどの国々はかなり強くなっています。日本や韓国、オーストラリアと試合をして勝てるかというとまだ難しいかもしれませんが、やり方次第では苦しめることはできる。

イランもカルロス・ケイロス監督に率いられ、W杯にも出場していて相当強い。代表監督ならば、そういう国々を率いる機会があれば面白いと思います。

あとは、やはりACLですね。ACLの決勝トーナメントに進出するようなクラブからオファーがあれば率いてみたいと思っています。ポテンシャルがあるのは、中国やASEAN(東南アジア諸国連合)諸国、あるいは中東のクラブになるでしょうか。チャンスがあれば挑戦してみたいですね。

ただ、今年のACLを制した中国の広州恒大の予算を聞いて驚きました。試合会場のある都市にプライベートジェットで移動し、柏レイソルと対戦した準々決勝の2試合における勝利給は、桁違いでした。

あるいはタイのブリーラム・ユナイテッドFCなどは、バンコクから車で数時間の田舎にありますが、ACLの規定でスタジアムから90分以内に移動できるところに国際空港がなければいけないのですが、クラブはそのためだけに空港をつくりました。

こちらもプライベートジェットで来ています。予算度外視で来るアジアのリッチなチームに、今Jリーグのチームは苦戦していますね。

Jクラブと対戦する可能性

──三浦さんがACLに出場するチームを率いて、Jリーグのチームと対戦することが楽しみです。

もちろん日本のチームを率いることもいいですが、日本でなくてもいいのかなと、ここ数年は思っています。

しかし、何よりも来月にリオデジャネイロ五輪の最終予選があります。各国とも力をつけていますから、アジアの変化を感じる大会になるかもしれません。

(写真:福田俊介)

第1回:東南アジアから見たJ。ベトナム代表を率いる日本人監督の視点
 第2回:異国で選手の心をつかむ。ベトナム代表の日本人監督が行う心がけ