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通院による抗がん剤治療、高額の先進医療など、がん治療は変わりつつある。患者になってもあわてないよう、今のうちから考えておきたい。

がんにまつわるお金とは?

ファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんは、2009年に乳がんを経験した。以来、黒田さんのもとには、がんの医療費が不安で相談に訪れる人が少なくないという。

だが、結論からいうと医療費自体はさほど心配することはない。アメリカンファミリー生命保険の調査(11年)によると、がん経験者が治療全般にかかった費用(入院、食事、交通費等の総額)は50万円程度(36・3%)が最多。次が100万円程度(29・5%)だった。

「がんの部位やステージ、療養環境などによって変わりますが、だいたい100万円程度あれば賄えると思っていいでしょう」。そう話す黒田さんは、がんにまつわるお金を三つに分類する。

①病院に支払う医療費…診察料、入院費など

②病院に支払うその他費用…差額ベッド代、先進医療技術料など、公的保険適用外の費用

③病院以外に支払う費用…交通費、入院時の日用品費、医療用かつらなど

3割は退職や解雇に

このうち、①の病院に支払う医療費は意外と少ない。公的保険の適用対象なら、70歳未満の自己負担は3割。さらに「高額療養費制度」が適用され、月ごとの上限額まで圧縮される。上限額は収入によって異なり、例えば月収26万円以下の健保加入者は5万7600円だ。

②の病院に支払うその他費用は、節約が可能だ。仮に個室に入院した場合、一日あたりの差額ベッド代は平均で7500円程度。2週間入院したら10万5千円になる。相部屋でよければ不要だ。

先進医療は高額の技術料がかかるケースが多い。代表的な重粒子線治療や陽子線治療は、それぞれ300万円前後。ただ、対象になるがんの種類や実施できる病院に制限があり、実際には利用できないことも多い。

ニッセンライフとNPO法人がん患者団体支援機構による「がん患者アンケート」の第3回調査によると、③病院以外に支払う費用で多いのは、交通費・宿泊費の23万2千円、医療用かつらの19万3千円だ(下のチャートを参照)。これも、人によっては節約できそうだ。

日本人に多い大腸(結腸)がんを例に、かかる費用の総額を黒田さんに試算してもらったものについても下のチャートをご覧頂きたい。検査と手術、術後化学療法(抗がん剤)の医療費に、交通費なども加わり121万円。これくらいなら、預金で間に合う人も多いのではないか。

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「実際にがんになった患者さんからは、医療費は何とかなったという声をよく聞きます。ただ、働けなくなった場合の生活費には、多くの方が困っています」

今や働きながらがんを治す時代とはいえ、がんになった勤労者の34%は依願退職や解雇に追い込まれている。前出のがん患者アンケートの第4回調査によると、がん診断後の収入は減少傾向(下のチャートを参照)。収入減をいかに補うかが、がんへの備えの要となる。

「子どもがいれば当然、養育費がかかりますし、ある程度の年齢になれば高齢の親を扶養している人もいます。自分が働けないことで、どの程度の影響があるかを考えておきましょう」

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一時金か都度給付か

会社員なら、病欠4日目から1年半までの間、傷病手当金として平均日給の約3分の2が給付される。健保組合によってはさらに上乗せ給付を用意している。回復の見込みがなければ障害年金の対象になることもある。こうした公的制度や勤め先の福利厚生をフル活用しても不安なら、民間の保険を検討しよう。

がん保険は、がんの診断、手術、入院、通院を保障する商品だ。黒田さんによると「一時金タイプ」と「都度給付タイプ」の二つが主流だという。

一時金タイプは、「がんと診断されたら100万円」など、診断給付金に重点を置いた商品。例えば、診断給付金100万円+入院給付金日額1万円×17日間で計117万円が給付される。前出の大腸がんの例では、実質負担は4万円になる。

「診断給付金を何に使うかは自由です。病院に払う医療費だけでなく、差額ベッド代や療養中の生活費にも充てられるため、使い勝手がいい。再発・転移に備えて取っておく人もいます」

それに対し、都度給付タイプは、手術、抗がん剤、放射線治療などの治療を受けるたびに、給付金が支払われる。「何度も診断書を提出するなど手間はかかりますが、病状に合った給付を受けられるという意味で合理的。最近の外来中心のがん治療にも対応しています」

診断給付金には制約も

どちらのタイプがいいかは、健康状態や家族構成などによってケース・バイ・ケースだ。「日頃から健康に気をつけ、まめにがん検診を受けている人や、単身で自分の生活さえ守れればいい人なら、シンプルな一時金タイプで十分かもしれません。一方、身内にがんが多い家系の人や、健康管理があまりできていない人、養う家族が多い人は、手厚い都度給付タイプがいい場合もあります」

いずれにしても注意したいのは、診断給付金の支払い条件だ。「商品によっては、入院しなければ診断給付金が支払われないものがあります。最近は通院だけで治療をする場合もありますから要注意です。また、診断給付金を複数回受け取れる商品もありますが、初回診断給付金を受け取ってから2年以上経過し、かつ2年に1回の給付が限度などと制限があります。経過観察中は定期的に検査をするため、2年以内に新たながんが見つかることが珍しくありません」

同じがんでも、上皮内新生物といって、病変が上皮内にとどまっている早期がんは、診断給付金が減額される商品もある。
「保障範囲が広いほど保険料は高くなりますから、『保険は重いがんにだけ』と割り切る考え方もあります」
 
ここ数年で、新しいタイプのがん保険も登場している。「通院保障に特化し、診断給付金や入院保障のないものがあります。保険料が安いので、通院保障のないがん保険に入っていた人が追加するのもいいでしょう。ほかに注目しているのは、年金形式のがん保険。がんと診断されたら月10万円を5年間など、あらかじめ設定した年金が給付されますから、収入減の補?に向いています」

一般的な医療保険でも、最近はがんへの保障が手厚い商品が増えてきたと黒田さんは言う。「基本的に医療保険は入院保障が中心。しかし平均入院日数の短期化で、最近は、がん・脳卒中・急性心筋梗塞など特定疾病に手厚い医療保険がトレンドです。がんになったら、入院給付金が日数無制限になったり、がん保険同様の診断給付金が支払われたりします」

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保険料アップに注意

ただし、医療保険にがん特約を付加する場合、更新時の保険料アップには注意したい。「保険料は、がんの罹患リスクが高まる50代後半から急激に上がります。がん年齢になる前に保険を更新できなくならないよう、気を付けましょう」

もう一つ、がんによる収入減の備えとしては就業不能保険も検討の余地がある。「病気やけがで仕事ができなくなった場合、事前に設定した金額を保障する保険です。自営業者など備えが不足しがちな人は視野に入れてもいいでしょう」

がんへの備えは、がん保険だけとは限らない。本当に自分に必要な保障は何かを見極め、冷静に選択することが大切だ。

(文:越膳綾子、写真:黒田尚子、Steve Debenport/iStock)

AERA 2015年9月7日号