20151210-realestate-b

不動産活用の革命児たち 「スペースマーケット」第1回

図書館も球場も。あらゆる「スペース」を気軽に貸し借り

2015/12/11
図書館や球場のような大規模なイベントもできるスペースから小規模の会議室まで、大小さまざまなレンタルスペースを1時間単位から貸し借りできる「スペースマーケット」。シェアリングビジネスでは「Airbnb」や「Uber」などの海外勢が急拡大するなか、日本発のシェアリングサービスを、全3回にわたり紹介する。

「前金3カ月分」は普通だった「貸しスペース」

「焼き上がりに少しムラが出たね」
 「薬剤、もう少し盛った方がよかったのかな?」
 「次はそうしようか」

東京都新宿区、丸ノ内線・四谷三丁目の駅から徒歩3分。仕事帰りのOLたちが集うスペインタイル教室「ミラソル」では、こんな会話が繰り広げられていた。生徒たちの作品を指導するのは、講師歴10年の北畠万里だ。

ミラソルの講師・北畠が、レンタルスペースの予約サイト「スペースマーケット」をはじめて利用したのは、2015年の夏。長年、会議室を借りていた企業が廃業し、新たな貸し教室を探さなければならなかった。

手続きを思うと北畠は憂鬱(ゆううつ)だった。以前、北畠が利用を検討した施設では、申請手続きは複雑で、入金は3カ月分前払い。しかも直接出向いて支払わなければならない。東京の定期教室以外にも、出張教室で全国に訪れる北畠は、「教室を借りる手続きは何かと手間がかかるものだ」と考えていた。

そんなときに見つけたのが貸しスペースのマッチングサービス、「スペースマーケット」だ。

スマホアプリやホームページの検索バーに、目的、人数、場所を入れると、条件にあった貸しスペースが一覧できる。空き状況を確認したうえで、利用目的を入力して仮予約をする。

オーナーがその目的などを見たうえで、承認すると契約が成立。「スペースマーケット」に登録してあるクレジットカードから決済される仕組みだ。

借りる側にとっては、会ったこともないオーナーから、WEB上の申し込み手続きだけで場所を貸してもらえる。1時間単位からレンタルできるのも何よりも便利な点だ。

「画期的なサービスが始まったというのが『スペースマーケット』の第一印象です」(北畠)

 教室600

固定化された月単位の賃貸契約に疑問を感じ、時間貸しのレンタルスペースへ

北畠が「スペースマーケット」を介して最初に借りた場所が、この四谷三丁目にあるレンタルスペース「マグノリアのカエル」だ。平日夜間の利用料金は1時間1800円。周辺相場のなかでは最安値に近い料金である。

「マグノリアのカエル」は、以前クリーニング店が入居していたスペースだ。固定化された1カ月単位の契約に不自由を感じたビルのオーナーが、思い切って時間貸しのレンタルスペースへと改築。

「都心で交通の便が良ければ、駐車場でも月額固定で貸し出すより、時間貸しのコインパーキングの方が圧倒的に儲かるという。やるからにはきっちり収益を上げたい」(オーナー)

2015年9月のレンタルスペース開業当初、WEBページやFacebookページを作成したものの、思うように集客にはつながらなかった。そこで、たまたま知った「スペースマーケット」へ掲載してみたら、直後から飛躍的に予約件数が増えた。

「スペースマーケット」への登録、掲載は一切無料だ。賃貸契約が成立した場合に、賃料の約20〜35%が「スペースマーケット」の手数料収入となる。

スペースを貸す際にも、オーナーの立ち合いは必須ではない。「マグノリアのカエル」の場合、「akerun」というオンライン鍵管理システムを導入している。スマートフォンのアプリ上で鍵を管理する仕組みで、借り手が予約している時間だけ、ドアにそのアプリをかざせばドアが開く。

「マグノリアのカエル」は駅近の道路に面した1階部分という好立地が功を奏して、貸し教室やワークショップ、各種セミナーから、フリーマーケットや、手作りグッズの販売スペースとして、さまざまなユーザーに利用されている。

「販売時の集客につながりやすいように」と、路上用の案内黒板を用意するなど、徹底的に利用者視点に立ったきめ細やかなオーナーのサポートが評判で、「マグノリアのカエル」は「スペースマーケット」上でも、人気物件だという。

レンタルスペース「マグノリアのカエル」。Wi-Fi、プロジェクター、ホワイトボードの3点がそろっていることが人気スペースの条件

レンタルスペース「マグノリアのカエル」。Wi-Fi、プロジェクター、ホワイトボードの3点がそろっていることが人気スペースの条件

大きな工事が必要なく鍵の管理ができるAkerun。借り手がスマホをかざせば開錠できる。

大きな工事が必要なく鍵の管理ができるAkerun。借り手がスマホをかざせば開錠できる。

レンタルスペースになる前は、クリーニング店だった。

レンタルスペースになる前は、クリーニング店だった。

コンセプトは“球場からお寺まで”

「スペースマーケット」が取り扱うのは、「マグノリアのカエル」のような、もともとレンタル用として開放しているスペースだけでない。

2015年12月現在、登録スペース件数は大小合わせて4000件を超えている。企業・団体・個人が所有する不動産の遊休スペースや利用時間外のスペースなど、これまでは一般に開放されていなかったスペースも多く取り扱う。

同社がより力を入れているのは、「一風変わったスペース」の仲介だ。コンセプトは“球場からお寺まで”。その言葉通り、野球場から、寺、図書館、映画館、結婚式場、帆船、廃校校舎の体育館、古民家、お化け屋敷、さらには無人島など、多くのユニークなスペースを取り扱っている。

なかでも数百人を収容できるスペースは、イベントスペースとしてのニーズが非常に高い。社員総会や決起集会、創立記念パーティーなどに使用したい企業・団体からの問い合わせや、変わったイベントを仕掛けたい広告代理店や販売促進会社からの相談は、ひっきりなしだ。

「遊園地で、社員総会」「お寺で、創立記念パーティー」「携帯電話もつながらない山奥のへき地で社内合宿」「廃校・体育館で、オトナの運動会」「無人島での決起集会」など、ユニークなイベント開催を、ときには「スペースマーケット」自身がプロデュース段階からサポートしている。

佐賀県・武雄市図書館

佐賀県・武雄市図書館(写真提供:スペースマーケット)

西武ドーム

西武ドーム(写真提供:スペースマーケット)

固定化している不動産市場への挑戦

クライアントの要望に合う場所がなければ、ゼロから場所を探す。取り扱うユニークな物件の多くは、「スペースマーケット」の営業担当が、一件一件地道に開拓してきたスペースも多い。

「場所貸しがメインでないオーナーは、派手なイベント利用は警戒することがあります。貸し手と借り手が直接やりとりをすると破談になりそうな案件でも、『スペースマーケット』が間に入ることで、うまく折衷案を見つけられる」と、同社CEOの重松大輔は話す。

世の中のありとあらゆる場所を、誰もが気軽に貸し借りできるプラットフォームになる。それが重松の掲げる未来だ。固定化している不動産市場への挑戦状でもある。

「日本には、活用されていない“もったいない”スペースは、まだまだあるはず。それを簡単に貸し借りできる、シンプルで使い勝手のいいプラットフォームを構築したい」

重松は、「ライバルは『Airbnb(エアビーアンドビー)』だ」と公言する。

シェアリングビジネスが世界的に注目を集めるなか、宿泊業界には“黒船”「Airbnb」や、配車サービスの「Uber(ウーバー)」など、海外勢の進出がすさまじい。

黒船に立ち向かう日本発のシェアリングビジネスは、どこまで太刀打ちできるのか。「スペースマーケット」の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

スペースマーケットCEO重松大輔氏

スペースマーケットCEO重松大輔氏

(文中、敬称略)

*次回は、「スペースマーケット」CEOの重松大輔氏のインタビューを紹介する。

(取材・構成:玉寄 麻衣、編集:久川 桃子、撮影:福田俊介)