東京ヴェルディ・羽生英之インタビュー(第2回)
東京23区に3万人以上収容のサッカー専用スタジアム建設計画
2015/12/10
ついに、都心に3万人以上を収容できるサッカー専用スタジアムが生まれる可能性が出てきた。
サッカー界で積年の課題となっていたスタジアム問題だが、首都である東京での建設実現となれば影響力ははかりしれない。一気に全国に波及し、日本のスポーツビジネスを新たなステージに引き上げることも、十分にあり得るはずだ。
日本スポーツ界に風穴をあけるような計画の実現性はどれほどなのか──。東京ヴェルディの羽生英之社長が明かした。
スタジアムが違いを生み出す
金子:首都のクラブであるにもかかわらず、おカネの問題を抱えている。一方で、九州にあるにもかかわらず、ものすごいおカネをドバドバとつぎ込んでいる野球チームもある。この違いはどうして生まれるのでしょうか。
羽生:強烈なオーナーシップがあるかどうかが、一番大きな問題でしょう。ほかにはスタジアムの問題もあります。ドイツのブンデスリーガがうまくいっているのは、2006年のW杯を機会に、多くのクラブが新たなスタジアムを手に入れたことが非常に大きい。一方でイタリアのセリエAは、スタジアムが老朽化しています。
金子:完全に遅れてしまいましたよね。
羽生:ドイツのスタジアムと比較すると、20年以上遅れているのではないでしょうか。お客さんが入らずに入場料収入が減り、そこから放送権料も減ってしまう負のスパイラルに入りつつありますよね。
そういう意味では、福岡ソフトバンクホークスは素晴らしいドーム球場を持っている。一方、われわれのホームスタジアムである味の素スタジアムも素晴らしいスタジアムですが、調布にあります。
調布と府中、三鷹エリアというのはFC東京のホームタウンになります。ですから、われわれはスタジアム周辺の営業活動ができない。サッカークラブは、スタジアムを中心に半径1キロ、3キロ、5キロ、10キロ、20キロにおけるマーケティング戦略を考えるべきだと思っていますが、それができないということが大きい。
ですから、福岡の野球チームとの決定的な違いは、ホームタウンにいつでも使える専用スタジアムがないことが構造的に一番大きいと思います。できれば、東京23区内に3万人以上を収容できるサッカー専用スタジアムが欲しいですね。
都心の駅近くに専用スタジアムを
金子:その方策はありますか。
羽生:現在、どこかは言えませんが候補地もすでにあります。そこの首長さんやデベロッパーの方々とは、資金調達の方法などいろいろな話を進めています。今は2020年の東京五輪があり建設費が高騰してきているので、タイミング的には、東京五輪が終わったときに走りだせるような建設スケジュールでいければと思っています。そのスタジアムが手に入れば、われわれはJ1の中堅クラブ並みの収入を手にできると考えています。
金子:スタジアムを建設する上で、ガンバ大阪と吹田市の取り組みは追い風になりますか。
羽生:参考になりますね。ただ、できれば都心のスタジアムを望んでいるので、スタジアムを単独でつくるよりも、スタジアムが付属的についてくるような複合的なものにできたらいいと思っています。ターゲットは、地域住民があまりいない都心の駅に近いところです。
金子:それは埋め立て地ぐらいしかないのでは。
羽生:そんなことないんですよ。
金子:え、そんなところありますか!
羽生:いいところを見つけたんですよ。まだ東京にも、そういうところがあるんですよ。そこがうまくいけばと。
東京とロンドンの違い
羽生:結局は、人口が900万人しかないロンドンに3万人以上収容できるサッカー専用スタジアムがいくつあるのかということです。
金子:数えきれないですよね。
羽生:そうです。プレミアリーグに所属していないクラブも素晴らしいスタジアムを持っているわけですよ。
金子:3部リーグでも、2万5000人ぐらい入るスタジアムを持っています。
羽生:でも、東京は1300万人も人口がいるのに、味の素フィールド西が丘を除けばJリーグを開催できるサッカー専用スタジアムはひとつもありません。
それは突き詰めていけば、やはりスポーツの地位が低いからではないでしょうか。スポーツは、なでしこジャパンやラグビー日本代表もそうですが、国民の心を動かして感動させ、勇気を与える。それにもかかわらず地位は低いまま。
金子:消費しておしまいですからね。
羽生:そうなんです。なぜ、その感動を永続的に味わえて、しかも常に地元住民に寄り添っているような世の中にできないのかと思ってしまいます。スポーツ関係者としては、スポーツの地位を上げないといけない。
東大はすごい、Jリーガーは大変
金子:羽生さんの場合は交渉して状況を変えていかないといけない。なぜスポーツの地位が低く、何が壁になっているのでしょうか。
羽生:企業も大学も悪いと思います。というのは、一面しか見えない物差しでしか人物をはからない。武士の時代でたとえれば、学問もできて武道にも秀でるということが一番カッコよかったわけです。
金子:そうですね。
羽生:ところが、現在の日本ではスポーツをやっている子よりも勉強のできる子のほうがステータスが高い。これは、ある高校の先生に言われたことですが、「東大に行っているとなれば『すごいね』となるけれど、Jリーガーと言えば『大変だね』と言われてしまう」と。
確かにその通りですよね。しかし、よく考えるとJリーガーになるほうが、東大生になるよりも難しい。そういうことを成し遂げている人間にもかかわらず、高いとは言えない評価しか得られないのはやはりおかしいと思います。ですから、違う価値基準を世の中につくっていかないといけない。
地位を上げるカギは女子サッカー
金子:羽生さんはそのような価値基準とどのように戦っていますか。
羽生:サッカーやスポーツがどれだけ社会に貢献できるかということをコツコツと積み上げていくしかない。それは先ほど申し上げた通り、地域と寄り添っていることを見せ続けるということです。
それと、「感動を与えられる」と言い続けないといけない。われわれにとって、その部分で大きな武器は日テレ・ベレーザになります。現在、日本の女子サッカーが一時的に隆盛していますが、はっきり言いますが、これはベレーザの功績です。
金子:女子サッカーを1チームで支えていましたからね。
羽生:そうです。ただ、この間のなでしこリーグの理事会で、「1チームでこれ以上支え続けるのは無理だ」と言いました。女子サッカーがさまざまなことをもたらしてくれるということを説明して、ほかのJクラブに「女子サッカーをやってくれ」と。日本サッカー協会も、男子と女子が両輪だということを言うべきだと思っています。
ただ、Jリーグでも女子チームに力を入れているクラブは強くなってきています。今シーズン、年間優勝を決めるエキサイティングシリーズの上位リーグは、6チーム中、INAC神戸以外の5チームがJクラブでした。
今はいい傾向にあり、今後さらに女子サッカーを隆盛させていく。女子の登録人数も増え、サッカーの地位を上げていくことで、われわれの発言がスポーツやそれ以外のところでも影響力を増していければと思っています。
金子:女子サッカーのステータスを高めることで、伝わり方が倍になりますよね。
羽生:男子のW杯、女子のW杯とオリンピックが次々とやって来るわけです。そのたびに、盛り上がることができる。男子だけだと、4年間待たなければいけませんが、女子が同じように盛り上がれば、4年間待たなくてもいいわけです。
金子:4年間で3回オイシイ時期が来るということですね。
羽生:そうならないといけないです。
(構成:小谷紘友、写真:是枝右恭)
*「Jリーグ・ディスラプション」の第6弾となる羽生英之社長(東京ヴェルディ)インタビューは、水曜日から金曜日まで3日連続で掲載します。