【中村佑介】イラストレーターに才能はいらない

2015/12/9
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDジャケットや、『謎解きはディナーのあとで』などの書籍カバー、さらにアニメ、TVCMのキャラクターデザインも手がけるイラストレーター・中村佑介。中村は、画集の総売り上げが異例の13万部を突破するなど、非常に高い人気を誇るイラストレーターだ。その傍ら、日本各地でイラスト教室を開き、ツイッター上で一般人からのイラストを添削指導するほか、『みんなのイラスト教室』を出版するなど、イラストレーションの裾野を広げる活動に取り組んでいる。その創作に込められた秘密と、イラストレーションへの思いについて聞いた。
業界が抱える課題
──中村さんは、イラストレーターの第一線で活躍されていると同時に、イラストレーション(イラスト)をもっとメジャーにしたいと各所でお話ししていますね。イラスト業界の課題は、どこにあるのでしょうか。
中村 日本において、イラストってすごくマイナーな存在だと思います。
たとえば、クールジャパン戦略には、漫画、アニメ、映画がありますけれど、そこに単体のイラストレーションという文化は入っていない。僕自身、イラストが日本を代表する文化になってほしいと考えているので、悔しいなという思いを抱えています。ただ、そうならない理由もよくわかるんです。
それは、イラストだけが、イラストを描いている人しか相手にしていないからです。
皆さんはイラスト専門誌を読んだことがない人のほうが多いと思います。それは、当たり前で、雑誌自体は普通に書店に並んでいますが、現状、専門用語が多くて、絵を描いていない方にとっては、とっつきにくいものになっているからです。
──イラストは誰もが目にしているのに、敷居が高いものになっている部分もありますね。
はい。僕のサイン会でも「私は絵を描かないのですが……」「私は詳しくないのですが……」という前置きをして感想を話す方がたくさんいらっしゃいます。そんなこと気にしなくていいのに。
だって、漫画家に対して、ファンの方が「私は漫画を描かないのですが……」と前置きして感想を話すという声は聞きません。だからそれを言わせているのは、われわれイラスト業界のほうなんですよね。
漫画やアニメは、受け手であれつくり手であれ、好きな人であれば誰でも歓迎する環境ができています。でもイラストはそうなっていないという話です。
これが日本のイラスト業界がずっと抱えている課題だと思います。ともすると、つくり手や業界に対しても、鼻に付くイメージが先行されて持たれている。これは何とかしなければいけないと思います。
──インターネット上でも、プロ・アマ問わず、イラストがうまい人は非常に注目されますが、下手な人は叩かれてしまうこともあります。
だから、自信がない人やうまくないと思っている人は、「絵が下手ですいません」と断ってから載せることもありますよね。批判されるかもしれないから、おっかなびっくりで。
それはイラストを取り巻く環境が未成熟だからだと思います。絵は、うまい下手に限らず楽しむものですし、見るだけでもいい。漫画はそれができています。
この優劣や圧力のような状況は、結局イラストを描いている人たちが、自分で自分の首を絞めていることなのです。たとえば、絵を描ける人が、他の人に対して「絵が描けないなら、絵が下手なら、口を出さないで」と言ってしまったら、いつまでたっても裾野は広がりません。それは同時に、将来の無限に広がるお客さんを失ってしまうことでもありますよね。
絵を描き続けることが難しい
──日本では、イラストレーターになることもハードルが高いように見えるのですが、いかがですか。
そうですね。日本では、そもそも「絵を描き続けること」がとても難しいんです。
僕は、よくインタビューで「いつから絵を描いているんですか?」と聞かれますが、みんな物心つく前から絵は大好きで、自分から率先して描いていたわけですよね。
でも、それが小学生になると減り始め、中学になると「モテない」からさらに減る。高校になると、将来の経済的なイメージもわかないからもっと少なくなる。美大や芸大の進学は、親に反対されることもありますよね。
やがて、一生懸命に描いているのは、クラスに1~2人になって、居心地が悪くなったり、「暗い」「オタク」と言われたりしている。それは、今も昔も変わりません。
僕もイラストを描いていたことで、同級生からさげすんだ目で見られていて、つらい思いをしました。
イラストレーター志望の子たちは、力があるかどうか以前に、周りから浮いたり、親に反対されたり、将来のイメージが湧かなかったり、といった理由で自然と脱落していってしまうんです。
僕は、そういう子を一人でも減らしたい。実は、美大や芸大、専門学校に行くハードルは、試験の難しさよりも、こっちにあるんです。
中村佑介(なかむら・ゆうすけ)
1978年生まれ。兵庫県宝塚市出身。大阪芸術大学デザイン学科卒業。ASIAN KUNG-FU GENERATION、さだまさしのCDジャケットをはじめ、『謎解きはディナーのあとで』や『夜は短し歩けよ乙女』、音楽の教科書など数多くの書籍カバーを手がけるイラストレーター。ほかにもアニメ『四畳半神話大系』や『果汁グミ』TVCMのキャラクターデザインなど表現は多岐にわたる。
──学校教育でも、美術はほかの教科ほど評価されないですよね。
美術は、今の学校教育の中では遊びの延長のようなものとして見られていて、成績で5を取っても5教科のようには評価されない。僕自身は、たまたま母がデザイナーで父が建築家だったので褒められていました。
そう考えると、僕がイラストレーターになれたのは、学校でのけ者にされても、両親に評価されて、粘り強く描き続けられたから。 
今活躍しているイラストレーターって、本人の努力だけでなく、いろいろな幸運が重なって、子どもの頃から絵を描くことをやめなかった人が残っているだけなんです。
だから、イラストレーターの仕事をもっとメジャーにすることはもちろん、今も描き続けられれば職業として生活できることを伝えなければいけない。これは、イラストレーター一人ひとりの責任で、僕の責任でもある。
全然世の中で名前を知られていなくても、僕より稼いでいる人なんて、たくさんいます。1カ月に2~3枚のイラストを描くだけで生活できる人もいますから。
僕自身も、売れ続けなきゃいけないと思っています。出版社の人に聞くと、画集はだいたい3000部、売れて5000部程度だと言います。だったら自分は10万部売りたいと思いました。これまでの画集の総売り上げは13万部です。
ただし、この数字は画集としては売れたといわれますが、全然大したことはありません。イラスト業界はまだ発展途上。CDがミリオンセラーになったような時代はまだ来ていません。ただ、一人でも売れたら次の人が出てきて、業界全体が底上げされてきます。
まずは、若い人たちが絵を描き続けられる道筋をつくることが必要です。それはほかの誰もやっていなさそうでしたので、自分が取り組もうと思いました。
初作品集『Blue』(飛鳥新社)
これまでの本は自己啓発本と同じ
──先日出版された『みんなのイラスト教室』について、「全年齢に向けた新しい絵の教科書」としていますね。絵の技術はもちろん、学生に対する進路のアドバイスもされており、今まで伺ったお話と非常に密接した内容になっています。
これまで、イラストを描く際に必要な考え方の基礎について、一般向けに書いた本がまったくありませんでした。絵をうまく見せるためのポーズや効果をつける方法を記した本はあったけれど、僕から見ると子どもだましでしかない。
それを1500~2000円で売って絵がうまくなったと錯覚させるのは、出版社の悪行だと思います。それを読んでも、うまくなった気はしますが、売れた分だけみんなが実際に絵がうまくなっているわけではありませんから。そしてプロはその類いの本は持っていません。結局、ビジネスの自己啓発本と同じなんですよね。
イラストレーションには、学問的な要素も必要です。考え方を知ることで初めて、「だからこの色を使わなければいけないのか」「この構図じゃなければいけないんだ」と理解できます。
この本は、わかりやすく書いていますが、プロが教える専門書です。子どもが手にとってもきちんと学ぶことができます。
本を出すにあたって、値段を抑えるために印税を削ったり、出版社の利益を抑えてもらったりして、税込で870円にしました。僕が中学生だったときでも、この値段なら手に届くでしょう。
僕は、絵を描くことを、諦めてほしくないんです。結果的に、プロにならなくたっていい。たとえば、絵を描く過程でパソコンソフトを使えるようになれば、ウェブやデザイン関係の仕事に就くこともできますし、趣味で続けることも大歓迎です。
絵を描かない人でも、「デザインはこういう理屈になっているんだ」と知ることで、仕事のヒントが得られると思います。
画集第2弾『NOW』(飛鳥新社)
──中村さんは、大学の先生や専門学校の先生になって学生を指導するという選択肢は考えなかったのでしょうか。
そうですね。ありがたいことに、学校の先生に関する依頼はたくさん頂くんです。でも、ずっと断っています。
それは、自分じゃなくてもできると感じているからです。ただし美大や専門学校を否定する気はないんです。今僕がすべきことは、そういうことじゃないというだけです。
まずは、「学校にたどり着けない人のための学校」もあるべきだと思うんです。それが日本では完全に抜け落ちている。だから、僕はこれまでツイッター上で絵のアドバイスや添削をしてきましたし、今回の本も「本の中の美大」と銘打っています。
才能とは何か
──イラストレーターについて「才能がないから」と諦める子も多いのではないでしょうか。中村さんは、この才能についてどう考えていますか。
僕は、イラストレーターに才能はいらないと思っています。
そもそも、みんな才能についてあれこれ言うんだけれど、その才能という箱に何が入っているのか、あまり考えていない。これまで、才能やセンスが意味するものについて、説明も理解もされずに片づけられてきたことが、問題だと思っています。
僕は才能って、みんなが言語化できていない技術であり、それにひも付いた気遣いのことだと考えています。
10年以上活躍しているイラストレーターを見ると、全員が技術的にうまい。よく「自分には才能がないから」と話す人もいますが、まずは鉛筆一本で何でも書ける技術を身につければいい。それが自信につながるはずです。
基本的な技術やうまさを身につけて初めて、プロとしての土俵に上がれる。感性や好みがあるとしても、その先の話。これは、どんな仕事にでも当てはまるんじゃないでしょうか。
「この人は才能があるから……」という人がいるけれど、「それはどの部分ですか」と聞くと答えられない。それはなぜか。技術を理解していないから、言語化できないんです。
たとえば、もし僕の絵について「才能で描けている」と言われたなら、その人が才能だと感じた部分について、1から10まで言葉で説明できます。僕は技術しか使っていません。それを踏まえて、エネルギーを込めて、丁寧に描いているだけです。
イラストの才能というと、何か特別なものがあると思ってしまいますけれど、たとえば親子丼に置き換えてみると、答えは意外とシンプルですよね。
素材を良いところから取り寄せられるか。米がうまく炊けるか、鶏肉と卵をきちんと調理できるか。多くの人に好まれる味付けができるか。そして、これらを自分の頭で考えて取り組めるかということ。そのうえで、丁寧な仕事でお客さんに提供することが大事なわけです。
中村佑介2016カレンダー(飛鳥新社)
「怨念」が原動力
──イラストレーターは人気商売で浮き沈みが激しいイメージがありますが、その点はいかがでしょうか。
僕は、イラストレーターは人気商売ではないと考えていますが、基礎ができていないと流行の川に流されるしかないんだと思います。
すると、一時的に売れたとしても、流行が終わると絵柄が古くなったと見られてしまう。「萌え絵」というジャンル一つをとっても、5年前のはやりの絵柄ですら「もう古い」と感じられてしまいますよね。
だから、流行の絵を描いてもいいのですが、それと同時に技術を身につけておく必要があると思います。
長年活躍している和田誠さんや、わたせせいぞうさんは基礎がすごくしっかりしていて、技術力がとても高い。
世の中には流行とともに消える商品と、いつまでも愛される商品がありますが、イラストレーターも同じだと思います。
──こうした活動に取り組む中村さんの原動力について教えてください。
同級生にさげすまれた経験を、いまだに根に持ち続けているという「怨念」じゃないでしょうか(笑)。もうあれから20年以上たっていて、イラストレーターとして生活できるようになったにもかかわらず、同窓会の誘いやSNSの友達申請を断り続けていて、「いい加減にしたら?」と思われるかもしれないですが、それが原動力なんだと思います。
世の中を良くしたい、社会を変えたいと言われると、「本当かな?」と少し疑問に思うことがあります。やっぱり、個人の思いがすべてを突き動かすんじゃないでしょうか。
僕の場合は、彼らを見返してやりたいという気持ちと、「自分救い」のため。もう青春時代の自分を救うことはできませんが、今僕と同じ立場の子を助けてあげたい。
それが、結果的に未来のイラストレーターを生むことになるんだと思っています。
後編へつづく。
(写真:福田俊介)