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第10回:ベンチャーキャピタリストだけど質問ある?

経営チームに求められるスキルって何ですか?

2015/12/8
起業家必読の大好評連載もついに10回目。今最も注目されるベンチャーキャピタリスト・高宮慎一氏と、十数年のアップルでのビジネス経験を経てIoTサービス「まごチャンネル」をスタートさせた起業家・梶原健司氏が、今回も存分に語り合います。前回の「起業家に求められるスキル」を受けての「経営チームに求められるスキル」がテーマなのですが、話は投資家のスキルの詳細にまで及びました。

「KSFを充足するチームづくり」とは?

梶原前回、投資家が経営陣に求めることとして、

(1)この業界にはどういうKey Success Factor(KSF:勝つための成功要因)があるのかを、構造的に理解していること

(2)KSFを充足するチームづくりをしていること

を挙げてもらいました。今回はこの(2)について教えてもらえますか。

高宮前回の例でいくと、KSFを充足させる戦い方として、「事業開発中心でいく」「プロダクト志向でいく」という2パターンがあったとしましょう。

前者であれば営業ができる人がちゃんといること。後者であれば、プロダクトをつくれる人がちゃんとチームにいるということになります。

また、ソーシャルゲームであれば、落ちないインフラをつくること、ローンチしたあとサービスとして運営することが大事です。じゃあ、チーム内にインフラエンジニアはいますか? イベント設計、運営ノウハウを持った人はいますか? みたいな話が「KSFを充足するチームづくり」です。

梶原:確かに一貫してますね。

高宮:会社としても、この事業を実行するためには最低限これが必要、勝つためにはこれが必要と、きちんとわかっていなければいけません。

最初から全部のピースをそろえるのは無理ですが、

「一番大事なピース、主要ピースは全部そろっています」

とか、

「3つぐらい補完すべきピースが穴として残っていますが、このように補っていく方針です」

とか、

「この部分については一緒に補ってください」

と投資家に説明できるように、KSFを構造的に理解したうえで、補うべきものを把握し、補うためのアクションプランを持っていることが重要です。

梶原:論理的ですね〜。こういう話、大好きです。

梶原健司(かじわら・けんじ) 1976年生まれ。アップルにて、iPodなどコンシューマへのセールス・マーケティング主要部門を担当後、独立。起業準備中に、執筆する「カジケンブログ」において、SNS上で話題を呼ぶ記事を複数執筆し、個人ブログとしては異例の注目を集める。その後、2014年にチカクを創業し、現在サービスの開始に向けて奮闘中。

梶原健司(かじわら・けんじ)
1976年生まれ。アップルにて、iPodなどコンシューマへのセールス・マーケティング主要部門を担当後、独立。起業準備中に、執筆する「カジケンブログ」において、SNS上で話題を呼ぶ記事を複数執筆し、個人ブログとしては異例の注目を集める。その後、2014年にチカクを創業し、現在サービスの開始に向けて奮闘中

VCは経営チームを補う視点と「相性」で選ぶ

高宮:あと、そのチームにはVCも入れてくれていいと思うんですよ。むしろ入れてもらっていると、頼りにされている感じがしてうれしいものです(笑)。

でも、VCによって、しかもVCの中の個人によって、強みとしているスキルは全然違います。たとえば、うち(グロービス・キャピタル・パートナーズ)の中でも、僕は戦略立案とか事業開発、アライアンスでの支援が得意ですが、組織論が得意だというメンバーもいます。

投資家選びの際には、自分たちのチームに何が足りないのか、VCには何を補ってほしいのか、それらを明確に整理しておき、そのピースにぴったりはまる人を選ぶというのが理想です。

もちろん来月キャッシュアウトします……という状況だと、あまり選べる状況にないのですが、事業が順調に成長していて選択肢がある状況では、チームを補う観点でVCを選ぶことが大事だと思いますね。

梶原:なるほどね。おカネには色がない以上、逆にそこはちゃんと……。

高宮:そうなんですよ。おカネそのものには色がないけど、支援には色があるという。

僕らの支援で、何が起業家にとって価値があるかは、めちゃくちゃ考えます。戦略論をがんがん語れる経営者だったら、戦略面での支援だとあまり価値は出せません。逆にそういう会社には、実行の支援、取引先の紹介とかに価値があるかもしれない。

梶原:そもそもピースとして何があって、そこがちゃんと埋まっているのか、ということをわかってアクションできているか? ということですね。理想論はそうですと。

だけど、そのピースががんがん欠けていたりするチームとか事業もあると思うんです。特に事業の最初のフェーズでは。そういう状態であっても、このチームはいいねとか、この事業はいいねって思う場合ってありますか?

高宮:チームの完成度は基本的にはステージによっちゃうと思うので、早いステージであればあるほど、穴があってもよいと思うんですよ。

でも、早いステージであっても、そこはやはりクリティカルなピース、一番勝ち負けに効いちゃうところだけは経営チームが持っていることは重要ですかね。それ以外の部分が補完可能かどうか、自分たちが支援したら補完できそうかという感覚が持てるかどうかが、VC側としては大事なポイントなんですよね。

しっかりプロダクトをつくれる人がチームにいて、まだ戦略性は弱いけれど、自分が戦略の部分で支援すれば、起業家が成長力も高そうなのでいけそう、とか。

そんなとき、VC内のリソースだけではなく、外部のリソースで補完をすることもあります。

たとえば僕らは経営のプロの方々とのつながりがあるので、「ちょうどあの人はキャリアチェンジを考えているから」と、参画してもらうように口説いてみる。最初はアドバイザーで巻き込んで、いずれはフルタイムで(笑)……みたいな話も多いです。

いずれにしても、僕らも仮説を持って動いています。だからその中で僕らの側のリソースと組み合わせて、必要なピースが埋められる目途が立つかどうか、がすごく大事です。

梶原:やはり戦略的ですね〜。

高宮:ただ、戦略的・論理的なアプローチ重視で投資判断をするっていうのは、僕ら(グロービス・キャピタル・パートナーズ)の芸風だと思います。
 
たとえば、別のVCの芸風として、「あの起業家を男にする!」のような男気投資みたいなのもあります。そういう成功パターンもあります。

これまで僕が繰り返しお話してきた「足りない部分を補完し合う」ということではなく、起業家側も投資家側もお互いに意気に感じて、惹かれ合うということです。

梶原:もう誰の何を信じたらいいんですか?(笑)

高宮:論理的な部分は当然大きいですが、最後は相性みたいな話だと思います。性格的なものもあるし、仕事上の能力の補完関係みたいなところも含めて、やはり相性。

梶原:なるほど。

高宮:意外とフィーリングでなんか、「あっ、合うな、この人」みたいなのがあるじゃないですか。第一印象で。

梶原:ありますね。それは大事にしたほうがいいっていうことですよね。

高宮:はい、あまりロジカルな話でないんですが。最後は“第一印象を大事にしろ”ですね。

高宮慎一(たかみや・しんいち) 2000年に東京大学経済学部を卒業。同年アーサー・D・リトルに入社し、プロジェクト・リーダーとしてITサービス企業に対する事業戦略、新規事業戦略、イノベーション戦略立案などを主導。2008年にハーバード経営大学院を卒業(二年次優秀賞)。その後グロービス・キャピタル・パートナーズに参画し、インターネット領域の投資を担当。担当投資先として、アイスタイル、オークファン、カヤック、nanapi、Viibar、ピクスタ、メルカリなど有名・有望ベンチャーが多数ある。

高宮慎一(たかみや・しんいち)
2000年に東京大学経済学部を卒業。同年アーサー・D・リトルに入社し、プロジェクト・リーダーとしてITサービス企業に対する事業戦略、新規事業戦略、イノベーション戦略立案などを主導。2008年にハーバード経営大学院を卒業(2年次優秀賞)。その後、グロービス・キャピタル・パートナーズに参画し、インターネット領域の投資を担当。担当投資先として、アイスタイル、オークファン、カヤック、nanapi、Viibar、ピクスタ、メルカリなど有名・有望ベンチャーが多数ある

投資家のスキルはどう伸びる?

梶原:そこはやっぱりあれですか、ご自身の中で言語化とか、類型化できます? 結局、さっきの答え、解説そのままになっちゃうかもしれませんが。

高宮:その質問はすごく鋭いです。過去のパターンからの類型化は、僕もあまり意識せず、しているような気がします。もしかすると、人が何かを認知することそのものがそういうものなのかもしれませんが。

「この経営者のタイプは、成功した起業家の○○さんに似てるな」とか、「業界で大問題になった××さんと似て、なんかダメな匂いがする」とか感じることはしばしばあります。

そこを論理的にきちんと掘り下げると、たとえば「大風呂敷を広げるんだけど、実行はできるタイプ」とか、「控えめなタイプで、言っていること以上のことを達成するタイプ」というふうに言語化できるのかもしれません。

梶原:なるほどなー。そういう意味では、投資家側のスキル開発ってどうやってるんですか?

高宮:僕らの仕事って、実感を伴った体験をどれだけ積めるかにかかっていると思います。

事業自体はもちろん起業家がつくっていくわけですが、僕らも投資家として資金を提供するだけではなく、事業をつくるその営みに経営支援などで伴走しています。

そういう意味では、体験をさせてもらっていると考えています。だから、自分が担当する投資の数を増やせれば、それだけ経験値は上がります。

また、自分の投資先にどれだけがっつり関わっていくかで、その経験の深さも上がっていくと思っています。年に1回株主向けの報告書を読むだけなのか、週1でがっつり経営の支援まで入り込んでいくのとでは全然違います。

とはいえ、投資というのは通常そんなに大量の案件を担当するわけではない。じゃあ若手をどう育てればいいんだ? というと、やはり、ケーススタディの数を増やして自分の中に引き出しを増やしていくしかないと思っています。

それは先ほどの起業家のタイプの類型化という意味でもそうですし、やはりいろいろな業界のいろいろな企業の成功例や失敗例を、大企業、ベンチャーに限らず、多くのパターンで研究しておくべきですね。

たとえば、別の業界で、似たような状況に置かれていた企業の成功事例を、業界をずらして別の企業に応用してアドバイスをすることってよくあるんです。

個別具体的な事例を研究し抽象化して、別の事例に適用できるようにそしゃくしておく。アナロジーとしての当てはめ方と、ずらし方をマスターするみたいな感じですね。

そうやってケースの数と組み合わせ方をたくさん持てるようになるほど、ケースの掛け算ができるので、投資家としての引き出しが増えていくと思っています。

本日のポイント

・VCから投資を受ける段階で、KSFを充足するために必要なピースは、必ずしもすべてそろっている必要はないが、クリティカルなピースはチーム内に持っておくことと、足りないピースの補完方法が見えていることが重要。

・VCを選ぶときも、自分たちにKSFの何が不足してVCに何を補完してほしいかを明確にしたうえで、チームを補う観点で。

・論理的、戦略的に自分たちに足りないものを補完する視点は大事だが、最後は「相性」が一番大事。

(写真:疋田千里、企画協力:ダイヤモンド社&古屋荘太)

*過去の記事はこちら
第1回:ベンチャーって、どんな感じで成長するんですか
第2回:ベンチャーのシードフェーズで重要なことは何ですか?
第3回:「ユーザーにぶっ刺さるもの」のつくり方ってありますか?
第4回:VCから投資を受けるのに大切なことは何ですか?
第5回:起業家は撤退ラインを設けるべきですか?
第6回:ピボットすべきタイミングはいつですか?
第7回:創業期のメンバーのリクルーティングって、みんなどうしてるんですか?
第8回:起業家と投資家の良い「知り合い方・付き合い方」ってありますか?
第9回:起業家に求められるスキルって何ですか?

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