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第9回:ベンチャーキャピタリストだけど質問ある?

起業家に求められるスキルって何ですか?

2015/11/26
今、最も注目されるベンチャーキャピタリスト・高宮慎一氏と、十数年のアップルでのビジネス経験を経てIoTサービス「まごチャンネル」をスタートさせた梶原健司氏が本音で語り合う大好評連載です。今回は、起業家が備えておきたい「スキル」について、投資家の視点から解説してもらいます。
第1回:ベンチャーって、どんな感じで成長するんですか
第2回:ベンチャーのシードフェーズで重要なことは何ですか?
第3回:「ユーザーにぶっ刺さるもの」のつくり方ってありますか?
第4回:VCから投資を受けるのに大切なことは何ですか?
第5回:起業家は撤退ラインを設けるべきですか?
第6回:ピボットすべきタイミングはいつですか?
第7回:創業期のメンバーのリクルーティングって、みんなどうしてるんですか?
第8回:起業家と投資家の良い「知り合い方・付き合い方」ってありますか?
こちらのフェイスブックページでは、高宮さんへの「起業」に関する質問を募集しています。

天性の才能や性格がすべて?

梶原:いろいろお聞きしてきましたが、もう一つ相談をさせてください。起業家に求められるコアなスキルって天性の才能や性格がすべてなんでしょうか?

もしそうなら、自分の限界値ってもう決まっちゃってるなと(苦笑)。困るなぁって。悩みというか想いというかあるのですが、ずばり起業家に必要なスキルって開発できるものなんですか?

高宮:その悩み、わかります。実はわれわれのほうも、どうやったら投資家として成長できるのか? 投資家を育てられるのか? って本当に悩んでるんですよ。

梶原:そうなんですか。意外ですねー。

高宮:起業家や投資家に必要で、「鍵」となるスキルって、単純に身につけられる体系だった知識じゃないと思うんですよね。もちろん知識も必要なんですが、「鍵」となるのは、どちらかというと“コンピテンシー的な、いわゆる高い成果を出すための行動原理”みたいなものだと思います。

リスクを取れる。判断が早い。戦略思考。コミュニケーション上手。人好き。人たらし。あとは、やり切れることとか大事ですね。

梶原:やり切れる! 前にも出たキーワードですね。

高宮:はい。“自分のビジョンを信じ抜ける、やり切れる”。そういう能力のほうが体系だった知識よりも大事だと思います。

一方で、そういうコンピテンシー的な行動原理って、後天的に学習できるのか? みたいな話に行き着いちゃうんですよね。

梶原:その議論は、当然ありますよね。

高宮:自分はと言えば、努力で何とかする派なんで、後天的に学習できると信じたいです。

ただ、仮にめっちゃ努力して身につけたとして、それは自分がたまたま後天的に何とかできる才能を持っていたからなのか、本当は先天的な才能みたいなのがなかったのに、努力と気合だけで身につけたのか、どっちなのか……?

梶原:なるほど。

高宮:たとえば僕はもともと人見知りなんで、大人数のカンファレンスとか会合とか苦手で、端っこでもじもじしちゃうタイプだったんです(苦笑)。

でも、そういった不特定多数の人と知り合う場も、数を重ねるうちに、お仕事としてこなせるようにはなりました。

梶原:え〜。高宮さんが昔は“壁の花的”な人だったんですか(笑)。

高宮:起業家と投資家が似ているというところに話を戻すと、たとえば投資家として、こういう大きなトレンドがくるという仮説が自分の中にあるとしますよね。

そのトレンドの中でこのジャンルの事業が絶対立ち上がると確信していたら、その事業領域の中で一番イケてると感じる会社に、人づてなり飛び込みなりで、とにかく会いに行く。

会いに行ったら、たとえ初対面だろうが、時間をいただいた分だけ確実に相手に価値を感じてもらえるよう、議論の壁打ちや提案をして、次も会ってくれるようにする。

そして、会う回数を重ねるうちに、仲良くなっていって……投資に至る、みたいな話なんです。

梶原:その過程に何年も時間をかける、というのが前回のお話でしたね。

高宮:はい、その際に求められるのが、判断が早いとか、戦略思考、コミュニケーション上手、人たらしみたいな話ですよね。

それって、まさに起業家と同じコンピテンシーだと思うんですよね。実際、僕らの採用って、ベンチャーの役員のポジションとか、自分で起業という選択肢とかと競合するんですよね。

話をまとめると、個人的な信条としては「起業家や投資家に必要なスキルは、努力とガッツで後天的に学習できる」と思っています、思いたいです(笑)。

一方で、自己矛盾っぽいんですが、VCの投資判断として、現段階で必要とされるスキルは全然ないけれど、ガッツだけはありそうな人に投資をするか? と言われると、そうでもないんですが……。

梶原:なるほど。そもそもお伺いしたかった背景としては、僕も高宮さんと同じで、後天的に努力してきたタイプなんです。

なんでもなんとかなると思っているし、信頼できる先達から「これをやれば大丈夫!」って言ってもらえたら、全力でそれに自分の時間を費やす。そうやってずっとなんとか生き残ってきました(笑)。

だから、これは後天的に身につけられますよ、これも身につけられますよって話が聞けたら、「なるほど。身につけられるんだったら、それを頑張ろう」と、一層気合が入るかなと思ったんです。

でも、たとえば英語を20歳から勉強しても、ネイティブレベルには絶対になれないんですよね。僕も外資系にいたんでわかるんですけど、たぶん生物学的な理由で無理ですよね。それはわかっているから、ネイティブの80%ぐらいのレベルまでは頑張ろう。でもそこから先は……。

高宮:効率悪いよねと。

梶原:はい。英語だったら、80%のレベルになったら、そこからは別のスキルに投資しようということになる。そういうことが起業家のスキルでもあったら面白かったかなと。

高宮慎一(たかみや・しんいち) 2000年に東京大学経済学部を卒業。同年アーサー・D・リトルに入社し、プロジェクト・リーダーとしてITサービス企業に対する事業戦略、新規事業戦略、イノベーション戦略立案などを主導。2008年にハーバード経営大学院を卒業(二年次優秀賞)。その後グロービス・キャピタル・パートナーズに参画し、インターネット領域の投資を担当。担当投資先として、アイスタイル、オークファン、カヤック、nanapi、Viibar、ピクスタ、メルカリなど有名・有望ベンチャーが多数ある。

高宮慎一(たかみや・しんいち)
2000年に東京大学経済学部を卒業。同年アーサー・D・リトルに入社し、プロジェクト・リーダーとしてITサービス企業に対する事業戦略、新規事業戦略、イノベーション戦略立案などを主導。2008年にハーバード経営大学院を卒業(2年次優秀賞)。その後、グロービス・キャピタル・パートナーズに参画し、インターネット領域の投資を担当。担当投資先として、アイスタイル、オークファン、カヤック、nanapi、Viibar、ピクスタ、メルカリなど有名・有望ベンチャーが多数ある

投資家が経営陣に求めること

高宮:後天的か先天的かの話はいったん置いておいたとして、投資する時点でこれは創業者に持っておいてほしい、という部分はあるんですよ。ただそれは個人としてじゃなくて、経営チームとして持っておいてほしいものです。

梶原:なるほど。経営チームで。

高宮:はい。順に説明しますね。まず、投資家としては経営陣が、

1. この業界にはどういうKey Success Factor(KSF:勝つための成功要因)があるのかを、構造的に理解していること。

2. KSFを充足するチームづくりをしていること。

を求めたいです。ただ、そのKSFが正しいか正しくないかは、究極正解はないと思っています。なので、この2点の一貫性や、考え方に戦略性があることが大事です。

業界、業種によって、さらには個別企業ごとに戦い方は違います。同じ山でも登り方が2つあったりする。

たとえば、同じ業界で2社が成功して、切磋琢磨していたりします。社長のキャラクターがそのまま戦い方の差に出たりするのが、面白かったりするんですが、A社は営業でガンガン売り上げをつくり、急速に業績を伸ばしている。

一方B社は、エンジニア出身の創業者が、最初は自分でプロダクトをつくり、その後もプロダクト志向で業績を伸ばしている。どちらの会社も成功します。つまり山の両側から登れているんですよね。

梶原:ああ、わかりやすい例ですね。

高宮:「この業界は大企業とかのマインドを変えるのがとにかく大変。だからこそ事業開発を中心にしてウェットにやっていかないと、ビジネスが立ち上がりにくいんです」

「この業界で成功するためにはロングテールを集め切ることが大事だから、プロダクト志向で事業も、組織もつくります」

それぞれに一理あるし、どっちが本当なのか。投資家も、いろいろとヒアリングに行ったりして検証します。でも結論なんか出ないんです。もう信じるか信じないかみたいな話になってしまう。

だとすると、その考え方自体に一貫性や戦略性がある、とか、もしくは間違っていることに気づいた瞬間に、すぐに考え方や戦略を変えられるかという「柔軟性」が大事になります。

梶原:「柔軟性」というのは、新しいキーワードですね。

高宮:はい、以前お話した「大局観」とセットで重要です。よく「投資判断においては、人が一番大事です」と言いますよね。では、僕個人は、“人”の何を見るかというと、「ぶれない大局観と柔軟な戦略性」なんです。

たとえば、ガラケー全盛の時代にiPhoneが初めて発売されたぐらいのタイミングで、「スマホってこれから絶対にくるよね」と見極め、最初の2~3年はじわじわとしか立ち上がらなくても、それを信じてやり切れることが大局観。

柔軟な戦略性については、たとえば「ガラケーでiモードメールがあんなに普及していたので、スマホの時代になってメールのようなメッセンジャーはくるよね」と考えていたら、LINEが一気に寡占してしまった。そこで、メッセンジャーそのものは諦めて、LINE上でのアプリ展開に切り替える。

でも、“ぶれない大局観”とか言っても、どのような時間軸を設定するかで、「変わるべきか、変わらないべきか」という問題が出てくると思います。なので、“ぶれない大局観”というのは、言いかえると、ベンチャーの事業として、ベンチャー投資として、フィットする時間軸で、トレンドを捉えられているか、ということなのかもしれません。

梶原:なるほど。そのうえで、次の「KSFを充足するチームづくり」をしろってことですね。

高宮:長くなったので、その話は次回に回しましょうか。

梶原健司(かじわら・けんじ) 1976年生まれ。アップルにて、iPodなどコンシューマへのセールス・マーケティング主要部門を担当後、独立。起業準備中に、執筆する「カジケンブログ」において、SNS上で話題を呼ぶ記事を複数執筆し、個人ブログとしては異例の注目を集める。その後、2014年にチカクを創業し、現在サービスの開始に向けて奮闘中。

梶原健司(かじわら・けんじ)
1976年生まれ。アップルにて、iPodなどコンシューマへのセールス・マーケティング主要部門を担当後、独立。起業準備中に、執筆する「カジケンブログ」において、SNS上で話題を呼ぶ記事を複数執筆し、個人ブログとしては異例の注目を集める。その後、2014年にチカクを創業し、現在サービスの開始に向けて奮闘中

本日のポイント

・起業家に重要なのは知識ではなく、リスクを取れる、判断が早い、戦略思考、コミュニケーション上手、人好き、人たらし、やり切れるなどの行動原理。それは後天的にも身につけられると信じて努力あるのみ。

・経営陣にとって、事業遂行上重要なのは、業界のKFSをつかんでいて、それをチームとして充足すること。投資家もそこを見ている。

・KFSに絶対的な正解はないので、KSFの理解とチームづくりにおける戦略性と一貫性、ぶれない大局観と柔軟性が重要になる。

(写真:疋田千里、企画協力:ダイヤモンド社&古屋荘太)