評価が欲しくて客の言いなり
LAで、ウーバードライバーになり、事故遭遇?
2015/11/22
西海岸のカルチャーの中心地といえば、ロサンゼルス(LA)。ハリウッドなどエンタメの中心でもあるLAでは、新しいトレンドが次々と生まれてくる。一方で、日本に入ってくるLA情報は、どうしても表面的で美化されがち。現地のリアリティがうまく伝わってこない。LAで暮らす駐在員妻の著者が、現地からLAのトレンドとそのリアルを伝えていく。
稼ぎどき「サージ」がきた
ランチタイムを終えた人々が、午後の予定に向けて動き出す1時45分。オフィス街のダウンタウンでは、Uber(ウーバー)の乗客が急増していました。
ドライバー用アプリでは、地図に「1.2倍」「1.5倍」と赤く印が付けられ、割増運賃「サージ」の発生を示しています。
「ピッ! ピッ!」乗客からの呼び出しです。
お迎え地点へ急行する私に、ウーバーのナビは「次の角を左折」と指示してきますが、その道は一方通行。慌てて左折できる道を探しますが、かなり遠回りになってしまいました。
困るのは、ウーバーの算出する「お迎え予定時刻」が一方通行を逆走する想定で算出されてしまったこと。結局、予定時刻を3分オーバーしての到着です。
若い女性客のCさんが、慌ただしく乗り込んできました。行き先は南カリフォルニア大学のキャンパス。
ジョージ・ルーカスやニール・アームストロング、安倍晋三首相(政治学中退)などを輩出する、西海岸最古の私立大学です。医学部の授業に遅れてしまう、とCさんに急かされ、車を急発進させました。
相乗りシステムで涙を飲む
焦りつつ走行していると、突然、ナビが呼び出し画面に切り替わります。
これは、ウーバーの肝いりのシステム「UberPOOL」によるもの。
乗客がUberPOOLを選択すると、目的地に向かう途中で同じ方角を目指す人がいた場合、相乗りになります。その煩わしさと引き換えに、乗客たちはUberXの約半額で乗車することができるのです。
乗客C「それ、受けないでよ」
私「えっ、相乗りOKだから、UberPOOLを選んだんですよね?」
乗客C「……あなたが遅れてきたのが、いけないんじゃない?」
涙を飲んで呼び出しを見送ることに。
念のために付け加えると、2人目の乗客を拾わなくても、CさんにはUberPOOLの運賃が適用されます。
できることなら、いいドライバーだと評価されたい。
おカネも頂戴していると思うと、つい乗客の言いなりになってしまいます。
その結果、3マイルで15.50ドル稼げるはずだった初サージは、まさかの相乗り拒否により、7.75ドルになってしまったのでした。
乗客Cを目的地に下ろした時点で、時刻は午後2時。
娘を預けているプリスクールは、西に30分ほど走ったところにあります。次に呼び出されるのがもし東に向かう乗客だったら、午後3時のお迎えに遅れる可能性も。
「シェアリング・エコノミー」の本来の意味からするなら、こんなとき、私が向かうのと同じ方角に行きたいお客さんと、マッチングしてくれたらいいのに。
そんな感想を持ちつつ、この日の営業を終えたのでした。
初日の売上集計。手元に残ったのは
この日のドライバー活動を振り返ってみると。
朝から5時間働いて、途中で10分休憩を2回。
全部で6回、6人のお客さんを乗せました。
お客さんが乗車中の走行距離は23.3マイル。ただ、おカネにならない、お迎え地点への移動も含めると、合計30.5マイル(約50キロメートル)走っていました。大手町から藤沢ぐらいまでの感じでしょうか。
支払われた運賃は54ドルで、ウーバーによる天引きが21ドル。
手元には33ドルが残っています。経費を計算に含めないとしても、時給は6.60ドルで、ウーバーが発表する平均時給の17ドルどころか、自治体が定める最低賃金の9ドルにも届きませんでした。
●運賃合計(売り上げ)
54.34ドル
●ウーバーの取り分
安心料(乗車ごとに1.65ドル):9.90ドル
コミッション料(25%):11.02ドル
=20.92ドル
●手取り
33.42ドル(54.34ドル−20.92ドル)
●経費
ガソリン代:3.30ドル
雑費(トイレ借りた飲食店代):3.80ドル
=7.10ドル
●利益
26.32ドル(33.42ドル−7.10ドル)利益率は48%
ドライバーになる前、ウーバーは限られた時間で働きたい人の、よい受け皿なのではと期待していました。おそらく経験を積めば、もう少しうまく稼ぐ方法もあるのだろうと思います。
しかしながら、安全走行のプレッシャーや、乗客への気遣いやらで、たった5時間で疲れ果てた自分には、この労力に対する報酬が見合っているとは思えませんでした。
むしろ、多くのドライバーたちがウーバーを副業として選んでいることが、いかに今、まともな職を得るのが難しいかを物語っている気がします。
それでもこのときの落胆は、「思ったほど稼げないな」という程度のもの。私がウーバードライバーの抱える本当のリスクに気づくのは、次の日だったのです。
ウーバーに懲らしめられる
2日目の朝も9時スタート。
昨日よりは稼ぎたい、と意気込んで、「GO ONLINE」をスワイプします。それなのに「ピッ」とも言いません。
15分待っても呼び出しがかからないことに業を煮やし、地図上で「やや需要増」を示す黄色のエリアまで走ってみることに。
色付きエリアに入っても、まったく呼び出しが鳴りません。
「もしや、昨日サージ中のUberPOOLを取らなかったのが、ウーバーの怒りを買ったのだろうか?」
ウーバーが圧倒的にルールを握る世界で、どんな「懲らしめ機能」が作動していたとしてもおかしくない……。
密室に一人でいると、だんだん思考が極端になります。
ログオンからおよそ1時間。ようやく呼び出しが鳴りました。
お迎え地点のハリウッドに行くと、アプリ上の名前は「Bob」と男性名なのに、ホットパンツから伸びた細い足が美しいDさんが乗り込んできます。
念のために確認すると、「彼氏に呼ばれて家に行くので、彼名義のアカウント(つまり彼のおごり)で乗車している」との説明が。
彼の家はダウンタウン。ナビによれば、約20分のドライブです。
今日はLAの東部を中心に走るとして、うまくいけば、午後にはサージ運賃のお客さまを拾えるかもしれません。
そして、事件発生
密かな期待を胸に、サンセット・ブルバードを東に走っていると、
乗客D「悪いんだけど、どこかでUターンしてくれない?」
私「え。ダウンタウンって、ここより東ですよね」
乗客D「寄りたいところがあるのよ。大丈夫、ちゃんと行き方は指示するから」
私「はい……」
最初に向かった先は、目的地とは逆の方角にある彼女のアパート。
そこで緑のビキニを取りに帰ると、次はウェスト・ハリウッドで、腹巻きみたいに短いスカートを履いた友人女性をピックアップ。
さらに下道を数マイル走り、Dさんを乗せたビルのすぐ近くにあるカフェでもう1人女性客を拾うと、車内は3人の香水の匂いで充満します。
「邪魔だからチャイルドシートどけてよ! ラジオのボリューム上げて! クーラーはMAXにして!」
LAのキラキラ女子は、なかなか押しが強そうです。
そんなDさんの新しい彼氏は「ブサイクで服装ダサくて妙に神経質な40代のオジさん」。本当はみんなに紹介するのが恥ずかしいのだ、と言ってはばからないDさんですが、彼のコンドミニアムにある絶景プールに案内したいのだとか。
ようやく目的地に着いたときには、乗車から50分が経過していました。
これだけ走って、運賃はわずか20ドル……などと思うヒマもなく、急いでログオフし、再び車を走らせます。
実は、乗客の彼女がビキニを取りに行ったあたりから、トイレをガマンしていたのです。
お手洗いを借りられそうなスーパーを見つけ、急いでいたそのとき。
路肩に停車中の黒いSUV(スポーツ用多目的車)が、ウインカーも出さず、いきなり急発進。
ぶつかる!
*続きは来週掲載します。