LAコンフィデンシャル.002

天引き地獄でアガリはこれだけ

LAでウーバーのドライバーになってみた

2015/11/15
西海岸のカルチャーの中心地といえば、ロサンゼルス(LA)。ハリウッドなどエンタメの中心でもあるLAでは、新しいトレンドが次々と生まれてくる。一方で、日本に入ってくるLA情報は、どうしても表面的で美化されがち。現地のリアリティがうまく伝わってこない。LAで暮らす駐在員妻の著者が、現地からLAのトレンドとそのリアルを伝えていく。

呼び出し、かからず

習うより慣れろ、だ。

たったの2日でドライバーの登録手続きが完了し、迎えたある木曜の午前9時。

子どもがプリスクールから下校する午後3時まで、まずは5時間ドライバーをしてみることにしました。

iPhoneのホーム画面に並ぶアイコン。一番左がドライバー用アプリ「Uber Partner」

iPhoneのホーム画面に並ぶアイコン。一番左がドライバー用アプリ「Uber Partner」

アプリの起動画面には、大きく「GO ONLINE」のボタンが。

これを押すと、すぐにでも呼び出しがかかるのか……。

ふと、自宅の駐車場でログオンして、顔見知りのご近所さんを乗せることになると気まずいと思い、近隣スーパーへ移動します。

スーパーの駐車場にスタンバイ中の愛車、ホンダ・シビック

スーパーの駐車場にスタンバイ中の愛車、ホンダ・シビック

いよいよログオンしてみます。

地図上にポツンと表示される1台の車。これが、私です

地図上にポツンと表示される1台の車。これが、私です

……操作を間違えたかと思うほど、呼び出しがかかりません。

実はこの「待ちの時間」というのが想像より長く、最長1時間ほど呼び出しが途絶えたことも。

Uber(ウーバー)でおカネになるのは、乗客を乗せている間だけ。

ドライバーにしてみたら、待ち時間が少ないほど稼げるわけで、「そりゃ、複数のライドシェアをかけ持ちするわなぁ」と実感するのでした。

無償に流れゆく待ち時間

仕方がない、NewsPicksでもするか、と思った瞬間、「ピッ! ピッ!」とさっそく最初の呼び出しがきました。

キャプション:NewsPicksしている間に、呼び出しがかかった。他のアプリを立ち上げていても、このようにその上にポップアップで表示される。

NewsPicksをしている間に、呼び出しがかかった。ほかのアプリを立ち上げていても、このようにその上にポップアップで表示される

この画面では、(1)乗客との待ち合わせ場所の住所と、(2)そこへの移動にかかる目安時間が表示されます。

急いでボタンをタップすると、乗客がいる場所までのナビが始まります。

ウーバーの自前のナビ画面。ちなみにナビはGoogleマップ、人気の渋滞回避ナビ「Waze」を選ぶことも可能

ウーバーの自前のナビ画面。ちなみにナビはグーグルマップ、人気の渋滞回避ナビ「Waze(ウェイズ)」を選ぶことも可能

なんとか予定通りにお迎え地点に到着しました。

ナビの画面には「乗客に到着通知を送りました」との表示が。徹底的に自動化し、走行中のドライバーを煩わせないようになっています。

5分待ちルール

……ところで、なかなかお客さんが来ません。

しつこいようですが、待ち時間は無償。ドライバーは「最低でも5分待つこと」とされており、それを過ぎればキャンセルもできます。

最初のお迎え地点は学生街のウェストウッド。LAでは珍しく徒歩で暮らせるエリアで、飲食店や小さな専門店が軒を連ねる

最初のお迎え地点は学生街のウェストウッド。LAでは珍しく徒歩で暮らせるエリアで、飲食店や小さな専門店が軒を連ねる

5分ギリギリで乗客がやってきました。

アプリの画面で「START TRIP」ボタンをスワイプすると、ようやく目的地が表示されます。

ここで「あれ?」と感じた方は、きっとウーバーを使われたことがある方でしょう。なぜなら、乗客側はお迎え依頼する際、行き先も併せて設定するようになっているからです。

ドライバーにはその情報が、お迎え地点に着くまで知らされません。

おそらく“乗車拒否”ならぬ“呼び出し拒否”をさせないためでしょうが、次のドライブがどれだけ時間がかかるか読めないのは、なにかと(後に予定が詰まっているときとか)不便でした。

お客さまから舌打ちを食らう

最初のお客さまは、北京で大学講師をしている中国人女性です。

カリフォルニア大学の研修に参加中とのことで、キャンパス内の講堂までドライブです。

乗客A:「アキコ」ってことは、日本人? 今度学会で大阪に行くのよ。

私:いいですね、お好み焼きとかたこ焼きとか、グルメタウンですよ。

……と、小粋なトークをしようとしつつも、運転に必死です。

一応、無事故無違反の優良ドライバーではありますが、人を乗せて知らない道を走るのは緊張します。

私:LA滞在中の移動はウーバー中心ですか?

乗客A:いえ、普段はバスです。でも本数も少ないし不便で。

急いでるときは、ウーバーですね。

急いでるときは。

気づいてはいたのですが、かなりお急ぎのご様子で、貧乏揺すりが運転席まで伝わってきます。きっとお好み焼きなんて、どうでもいいと思っていたことでしょう。

しかし、焦ったところで、赤信号では止まらねばなりません。

そして、こういうときに限って、前を行くバスが停車したりします。

乗客A:チッ!(舌打ち)

私:……(涙目)

ドライブすること10分、ようやく大学の敷地内に入りました。

全米最多の出願数を誇る人気大学UCLAのキャンパス。ロマネスク様式の建物など景観が美しく、観光名所でもある

全米最多の出願数を誇る人気大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のキャンパス。ロマネスク様式の建物など景観が美しく、観光名所でもある

乗客A:ありがとう、ここで結構です。

私:あれ、目的地点まであとちょっとですけど……。

乗客A:歩くので、止めてください。

初めての「ご乗車ありがとう」は、ドアを閉める音でかき消されたのでした。

約2マイルの稼ぎは?

「END TRIP」ボタンをスライドさせると、料金は「5.84ドル」とのこと。

乗客を5段階評価(ドライバーも乗客を評価するのです!)して、お仕事完了です。

乗客を降ろすときに表示される画面。運賃は「$5.84」と表示されている

乗客を降ろすときに表示される画面。運賃は「$5.84」と表示されている

どっと疲れを感じ、思わずログオフ。

ついでに管理画面で最初の売り上げを確認すると……。

売上管理の画面でみると「$3.14」で、ガックリくる

売上管理の画面で見ると「$3.14」で、ガックリくる

「3.14ドル」

あれ? さっき確かに「5.84ドル」って表示されたような?

そうです、もろもろウーバーが天引きすると、3.14ドルになるのです。

運賃:5.84ドル(約700円)
 Safe Ride Fee(安心料):マイナス1.65ドル
 コミッション料(25%):マイナス1.05ドル
 売り上げ:3.14ドル(約377円)

走行距離は約2マイル(3.1キロ)。

大手町から上野駅ぐらいの距離を走って、手元に残るのは377円。

実際は46%をウーバーに上納している感覚です。

そしてこの売り上げからガソリン代や車のメンテナンス代といった経費や、税金も収めねばなりません。

……あと何回走れば、ランチ代が払えるのだろう?

不安に思いながら、次の呼び出しを待ったのでした。

行き先は犯罪多発地帯

ドライバー用アプリには、困ったときに使える機能がいろいろあります。その一つが、通話・メッセージ機能です。

LAのダウンタウンで呼び出しを受けたときのこと。お迎え地点の周辺が、ブロックごと封鎖されていました。停車できる場所を探していると、見たことのない番号から電話が。

乗客B:ごめんなさい、映画の撮影で、進入禁止になってますね。

私:A通りとB通りの交差点まで来られますか?

乗客B:OK、ちょっと待ってて。

ドライバーごとにダミーの電話番号が設定され、通話にもテキスト送信にも使えるこの機能、お互いの本当の番号を知ることなくやりとりできます。

(最後に乗せた乗客の電話番号がシステムに残るようで、翌日間違ってかけたら、つながってしまいました。ちょっと不気味ですね)

赤いミニスカートに革ジャケットを羽織ったBさんは、ティーンに人気のファッションブランドに勤務。ウーバーはめったに使わないそうですが、この日は特別。昼休みを使って、ライバルブランドの採用面接に行くのだとか。

ナビの通りに道を左折すると、オフィス街から東の倉庫街へ。すると車窓は一変します。

道にはゴミが散乱し、歩道にはテントや荷物を山盛り積んだショッピングカート、炊き出しブースに並ぶ人の群れや、なぜか路上に半裸で横たわる人の姿も。

ガイドブックで「絶対に行ってはいけない場所」とされているスキッド・ロウ。路上生活者の多くが薬物中毒者だといわれており、通行中に車道に飛び出してくる人もいて怖かった(Photo: Jorobeq)

ガイドブックで「絶対に行ってはいけない場所」とされているスキッド・ロウ。路上生活者の多くが薬物中毒者だといわれており、通行中に車道に飛び出してくる人もいて怖かった(写真:Jorobeq)

すかさずアプリを終了

私:ここは、もしや……。

乗客B:スキッド・ロウ(全米有数の犯罪多発地区)だね。初めて来たけど。

私:仕事帰りに通るの、怖そうですね。

乗客B:……面接する前から、腰が引けてきたわ。

あまり知られていないことですが、西海岸系ファッションの新興アパレルブランドは、本拠地をこの物騒なエリアの近くに構えるところも多いのです。

緊張のドライブを経て、目的地にたどり着きました。

車から降りたBさん、とびっきりの笑顔で、

「おしゃべりしてたら、緊張がほぐれたわ。ありがとう!」

Bさんが面接を受けるというアパレル会社は、高い鉄柵に囲まれた倉庫の中にあった

Bさんが面接を受けるというアパレル会社は、高い鉄柵に囲まれた倉庫の中にあった

こんなことでもなかったら、出会うこともなかっただろう人と出会えること。

踏み入れたことのない場所へ行き、その空気に触れられること。

単におカネのやりとりだけではない、人と人の関わりから生まれる醍醐味(だいごみ)は確かにある、と実感しました。

とは言っても、このエリアで呼び出しを受けるのは、新米ドライバーには難易度が高そうです。

すかさず、アプリをオフにすると、もと来た道を急いで戻ったのでした。

運賃割増システム「サージ」と相乗りサービス「UberPool」

オフィス街に戻ってログオンすると、真っ赤な地図が目に飛び込んできます。

これは、ウーバーの画期的なシステム「サージ・プライシング」によるもの。

「サージ・プライシング」によって赤く塗りつぶされた地図。このエリア内で乗客を乗せると、割増運賃が適用される

「サージ・プライシング」によって赤く塗りつぶされた地図。このエリア内で乗客を乗せると、割増運賃が適用される

ドライバー数に比べて、乗客からの呼び出しが急増したとき、自動的に運賃が割増になる仕組みです。

ドライバーの地図上に表示される「1.5X」などの数字は、この区画内から乗客を乗せると、通常料金の1.5倍の運賃が払われることを意味しています。

ベテランドライバーの中には、サージのエリアを追いかけるのが稼ぐ秘訣、と語る人もいて、ちょっとしたゲーム性を演出しています。

サージ中だけあって、すぐに呼び出しが鳴ります。

ところが、ここで少し問題発生。

ダウンタウンは一方通行の多いエリアなのに、ウーバーの自前のナビはその把握が甘いようで、曲がれないところで曲がれと指示してきます。困るのは「お迎え予定時刻」も、一方通行を逆走する想定で算出されてしまうのです。

*続きは来週掲載します。

小野さんプロフィール.001