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人口減少社会に備えよ Part3

【小泉×玉塚】安倍政権の「第3子支援」は何が問題なのか

2015/11/11
人口減少が急速に進み、2100年には人口5000万人になると予測される日本。今年生まれる子どもが、平均寿命まで生きて2100年を迎えることを考えれば、自分の子ども世代のために、真剣に考えなければならない問題だ。
そこで今回、小泉進次郎衆議院議員とローソン玉塚元一社長が、政策面・ビジネス面から人口減少社会に対する処方箋を語り合った(全5回掲載)。第2回は玉塚氏が、人口減少がビジネスに与える影響や、ローソンとしての対応方法を展開する。
第1回:私が「第1子からの支援」を訴える理由
第2回:ローソンはなぜ「健康コンビニ」を目指すのか

危機感を煽ると逆効果

榊原:まず小泉さんにお聞きします。小泉さんは政府の「まち・ひと・しごと創生本部」の仕事をしていますが、国や自治体から始まった人口問題解決の動きは、少しは実社会で回り始めていると感じますか。

働き盛り、子育て世代の30代、40代に話を聞くと「人口が減るといっても、明治時代ぐらいに戻るだけなんじゃないの」「あまり目の前の危機という感じがしなくて」とピンときていない印象を受けますが。

小泉:危機感を煽ると逆効果になることもあるので、第1子を支援して「やればできる」という環境をつくりたいんです。まずはスタートしやすい環境をつくるべきだと。

結婚するのも子どもを持つのも個人の意思ですから、どちらを選んでも暮らしやすい環境をつくるのが国の役割です。その発想で第1子支援を国会でも訴えているのですが……私は少数派ですね。

榊原:私も第1子で挫折したので、小泉さんのお話にはまったく同感です。いきなり第3子といっても、今の日本でそこまで届く人はどれぐらいいるだろうと。日本の合計特殊出生率は1.42で、1人あたり1人産めているかどうかという状況なので、本当に1人目を応援してほしい。

私が取材した女性たちの中には、1人目を産んだら社会から切り離されて、孤独に苦しみ、2人目にいこうと思っていたけれどやめたという人も結構います。生まれた後の第1子支援が足りないから、経済的に産める人たちでも第2子、第3子を産まなくなっている状況もあると思うんです。永田町周辺ではそんな話になりませんか。

小泉:同意見をほとんど聞いたことがないんですよ。

玉塚:私は大賛成ですね。結婚と第1子出生は大きなハードルですよ。だから第1子を徹底的に応援したい。私自身は子どもが3人います。

小泉:第3子以降の重点支援が当たり前になっているのは、数字ばかり追っているからです。「日本の合計特殊出生率は1.42だ。人口を回復するには2.1にならないといけない。2.1にするには1人あたり3人産むことだ」と。

また「どうしたら第3子以降を持ちますか」の問いには「経済的支援があれば」という回答が多いので、そこにフォーカスする発想です。だけど一方で、1人目を持ったときに「配偶者のサポートが得られない」「大変だ」と2人目以降を持たない人たちもいる。国の政策を決めるときに、数字だけではなくこういった面も見ないと。

人口の問題は、生活実感から遠いうえに、国家の都合と個人の意思が衝突する分野です。結婚をするかしないか、子どもを持つか持たないかは、最後は個人の意思じゃないですか。だからこそ国はスタートしやすい環境をつくるべきです。1人目でサポートがあって「だったら2人目を」というサイクルをつくれば、0から1、1から2、2から3となるのではないでしょうか。
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「次世代省」の創設を

榊原:すぐに3人という数字から入るのは、視点がマクロだからです。現場の人が何につまずいているのかを見ないで「この数字が必要だからこうしよう」という発想だから、現場との乖離が生じる。

小泉:そう、だからこそ「やればできる」の小さな成功体験が必要です。第3子といきなり言うと「1.4から2.1、いつになったら達成できるだろう」と気が遠くなりそうですが、第1子を持つ家庭が増えると、しばらく1.4が続いても、1.5、1.6と少しずつ積み上がる。この方が実感が持てますよ。

玉塚:小さな成功事例、ロールモデルをつくるのは大事ですね。

榊原:小泉さんが「こういうのがあったら第1子を作ります」と発信をするのはどうですか。

小泉:最近そのプレッシャーが強すぎてね(笑)。面白いのは、歴代の少子化対策担当大臣は、皆さん結婚して子どもがいますよね。けれど少子化対策はうまくいっていない。また、国の方針に地方創生がありますが、地方創生はイコール人口問題です。

でも少子化については少子化対策担当大臣が権限を持っていて、地方創生担当大臣は持っていない。これも含め、本当に国家の危機だと感じるならば、「次世代省」をつくるなど発想の転換が必要です。

玉塚:アベノミクスの新しい3本の矢では「1億人」という数字や「子育て」という言葉も出て、これまでの流れを大きく変えるチャンスです。ただ財源の問題もあるし、各省庁が横断的にやらないといけませんね。

小泉:そうなんです。これをやるには相当な力量が必要です。仮に第1子支援の方向性をつけるには、少数派の私の主張の理解を広げないといけない。財源のシフトをするには高齢者の皆さんに痛い話も必ずしなければいけない。

今まで政治が積み残してきた課題を、私たちの世代でどういうふうに進めるか。すべてがギュッと凝縮された問題です。だけどやはり「減るものは減る」と真正面から受け止めて、小さな成功から積み上げていこう、とアプローチするべきだと思います。

アベノミクス第2ステージでは少子化対策がありましたが、出てきたのは多子世帯支援だったんです。つまり子どもがたくさんいる世帯。そこは違うのではないかと私が言っても「じゃあ1人目で終わったらどうするの? だから第3子支援だよ」と言われる。

でも第3子支援をやって結果が出ていないでしょう。もしかしたら第1子で止まってしまうかもしれないけれど、今はその第1子まで歩まない人も多い。1人持つのも大変なんだ、だからそこが重要だ、とアプローチしたいですね。

年金・医療制度の維持を計算

榊原:「子育て全体が大事だから応援しよう」というのと、条件付きで「たくさん子どもがいる家庭なら応援してあげる」というのでは、相当違いますね。

小泉:もちろん3人以上お子さんをお持ちの家庭は本当に大変だと思いますが、今まで議論されてこなかった最初の一歩のところを議論するタイミングが来ていると思います。だから榊原さんはもちろん、第3子をお持ちの玉塚さんが賛同してくださるのはうれしいです。

榊原:第3子からと言う人と第1子からと言う人の間には、世代間ギャップや、現場との距離の差があると感じます。これまでの少子化対策には「年金が困るから」「このままでは医療制度がもたなくなるから」という計算がありました。若者たちが何を望んでいるのかにフォーカスする発想はすごく大事ですね。

小泉:社員に子ども手当を支給する民間企業もありますが、多くは子どもが増えるとだんだん額が増える。そうではなく、1人目に対してももっと応援してほしい。国や自治体だけが言うのではなく、民間企業も一緒になって「1人目を応援する環境づくり」ムーブメントを起こしていきたいですね。

玉塚:やりましょう。ブレークスルーですよ。今までやってきたことで成果が出ていないんだから。やはり1人目を徹底的に応援しましょう。子どもを産んで育てるって、大変だけど楽しいことや素晴らしいことがたくさんあります。それを経験したら2人目、となるかもしれない。
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消費税1%分を少子化対策に使え

榊原:子育て支援の現場からは「楽しく子育てしている人が周りにいたら、みんな子どもが欲しくなるのに」との声を聞きます。まさに小さな成功体験、ロールモデルですね。

小泉:実感は大切です。消費増税に理解が得られないのは、上がった税金が何に使われているか実感がないからですよ。一応高齢者3経費(年金、医療、介護)に使うと言っていても実感がない。5%から8%に上がってむしろ景気が悪くなっただけじゃないかと。

2017年4月に8%から10%に上がる予定ですが、1%で2.5兆円ぐらいの税収になります。その1%のすべてを少子化対策に使えば、子どもの医療費、教育費が実感をもってガラッと変わり、同じ増税でも理解が得られると思うのですが。

榊原:政治家に取材してよく聞くのは「子どものために頑張っても、票にもカネにもならない」「高齢者なら、それなりの票はあるから」。そんな中で今回、政権が人口問題について発信し始めたことは、何かが変わるのではないかと期待を持たせます。

小泉:第1子支援がいいのか、今までのように第3子支援を続けるべきなのかをオープンにぶつけ合って、その結果から次の段階の議論が生まれ、いい政策につながっていく。そういう循環をつくっていきたいと思っています。

(構成:合楽仁美、撮影:福田俊介)

*続きは明日掲載します。

*本稿は10月5日に開催された日本再建イニシアティブ(RJIF)主催のセミナー「『5000万人国家』の衝撃!人口減少がもたらす社会とビジネスへのインパクト」の内容を再編集したものです。