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人口減少社会に備えよ Part1

【小泉進次郎×玉塚元一】私が「第1子からの支援」を訴える理由

2015/11/9
人口減少が急速に進み、2100年には人口5000万人になると予測される日本。今年生まれる子どもが、平均寿命まで生きて2100年を迎えることを考えれば、自分の子ども世代のために、真剣に考えなければならない問題だ。そこで今回、小泉進次郎衆議院議員とローソンの玉塚元一社長が、政策面・ビジネス面から人口減少社会に対する処方せんを語り合った(5日連続・全5回掲載)。第1回は小泉氏が、地方創生政策の現場経験から、人口問題への持論を展開する

全速力で長期的に取り組むべき問題

小泉:小泉進次郎です。今回は人口減少問題をテーマにお話しします。人口減少問題は、腰を据えてじっくりと、けれどのんびりではなく「全速力で長期的に」取り組まなければいけない課題です。

日本の人口は、2100年には5000万人を切ると予測されています。2100年なんてずいぶん先のことだと感じる人も多いでしょうが、今年は2015年。今年生まれた赤ちゃんが女性の平均寿命どおりに生きれば2100年です。そう思うと、今を生きる私たちの世代が、次世代のために真剣に考えるべき時が来ているのは明白です。

未来のことは誰もわかりません。10年前には、東日本大震災が起こるなんて誰もわからなかった。未来がわからない中で最も予見性の高い未来予測は、人口動態です。だからこそ、今私がどんなことに問題意識を持っているかをご紹介したいと思います。

高齢者が補助金カットを申し出た町

まず、この町の名前が読めますか。「海士町」。地方創生の成功例として、紹介されないことはない町です。これで「あまちょう」と読み、島根県の隠岐諸島にある離島です。

この町は10年前、私の父がやった三位一体改革で地方交付税が大幅にカットされ、このままいけば破綻というシミュレーションになりました。そこで町長は、自らの給与を50%カットした。役場職員には強制しませんでしたが、役場の幹部職員も議論し、自分たちの給与を3割カットしました。

すると、その様子を見た町民が「高齢者のために出している補助金をカットしてくれ」と声を上げ、その財源を少子化対策や島の産業に回すことができたんです。

島の主要産業は漁業ですが、島内には市場がなく、せっかく採れた海産物も本土の市場に持っていくまでに鮮度が落ちてしまう。そこで削減した財源で、海産物の細胞を壊さずに冷凍する「CAS冷凍システム」を導入し、漁業の活性化を図ることができました。

少子化対策にも財源を回すことができたので、生徒数減少の一途をたどっていた島の高校は、今では島外からの留学生を受け入れるほどです。島の人と外から来た人が互いに刺激しあい、町全体が元気になっています。

この島へ行き、船から降りると波止場に掲げている看板にはこう書いています。「ないものはない」。皮肉や自虐ではなく、「あるもの(必要なもの)は全部あるよ」の裏返しなんです。

私がこの海士町のスローガンを紹介したのは、人口問題には「発想の転換」が必要だと考えるからです。この海士町の文言を借りるとしたら、今こそ私たちが持つべき発想は、「減るものは減る」ということ。

人口が減る、流出が激しいと嘆くのはもうやめようじゃないか。減るものは減ると真正面から見据えたうえで、何ができるかを考えるべきではないでしょうか。

官僚は「できない理由」を考えるプロ

「減るものは減る」に加え、もうひとつご紹介したい発想は、「やればできる」ということです。今話題になっているラグビー日本代表のコーチ、エディー・ジョーンズさんは言いました。「日本にはcan not doの文化がありますが、can doの精神を持たなければいけない」と。

まさに私が言いたいことですが、一方で、官僚は「できない理由」を考えるプロです。リスクがあることをやろうとすると、できない理由をリストアップするのが仕事なんですね。そうではなく、どうやったらできるのかを考えてほしいと地方創生で訴えています。

しかし、少しずつ、can doの精神を持った地方も出てきました。滋賀県は都道府県では唯一、「人口減少ではこういう可能性もある」と真正面から挙げてきました。

たとえば、人口急増時代に失われてきた自然環境。人口が減少すると環境面の負荷が軽減するとか、狭小の居住空間が拡大できるかもしれないとか。減るものは減るという前提でcan doの精神で考えれば、いろいろな可能性が広がってきます。
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人工知能を農業に導入できないか

そこで、これからの方向性について私の考えをご紹介します。

まずは、人口減少によって減った労働力を、最先端の技術で補うことです。そのひとつとして人工知能に注目しています。

最近話題になっている、ソフトバンクの「Pepper(ペッパー)」と対話したことがあります。ペッパーからいきなり聞かれたのは「明日は何を食べますか」。私は豚の生姜焼きが大好物なので、「豚の生姜焼きだな」と言ったら、「豚は家畜ですか」って。今はまだそういう回路なんでしょうが、これから磨かれていくと思います。

東京大学に合格できるような人工知能や、賛否が分かれるような議題に対して、賛成論の根拠はこれ、反対論の根拠はこれ、と理論武装をする人工知能の開発も進められています。

こういった技術を農業に活用できないか。これから農業人口がどんどん減り高齢化していく。耕作放棄地は増えていく。人工知能を搭載した農業機械が農作業に導入されれば、農業はきつい、手間がかかるといった根本を覆すことができるかもしれません。建設業界でもそうです。すでにコマツは、ドローンを活用して測量を無人で行っています。

先日、横浜スタジアムで始球式をしましたが、マウンドに登場するために乗ったのは世界初の自動走行車でした。登場してマウンドに着いたら停まって、私が車から降りたら無人自動車がそのままバックスクリーンに帰っていくんです。これは人工知能を搭載したロボットタクシーで、今、ドライバーが必要ない完全自動走行の車の開発が進められています。

10月2日に横浜スタジアムで始球式を務めた小泉進次郎氏。マウンドまで彼を送り届けたのは、自動運転車だ。

10月2日に横浜スタジアムで始球式を務めた小泉進次郎氏。マウンドまで彼を送り届けたのは、自動運転車だ。

人口減少によるマイナス分を技術で補完するのは、日本だからこそできることです。人口減少克服の柱の一つに、最先端の技術開発はぜひ位置付けるべきだと考えます。

少子化対策は第1子から

もうひとつの方向性として投げかけたいのは、少子化対策は第1子から支援すべきだということです。国の少子化対策でよく言われるのは、第3子以降の支援です。政府の検討会や経済財政諮問会議でも、「第3子以降の幼稚園、保育所の保育料無償化の対象拡大」が議論されている。

しかし、私の考えは違います。第1子から支援すべきだと考えます。少子化対策を語る政治家の中で、独身の私は最も説得力がないと言われますが(笑)、独身の私が語るからこそ、第1子支援の重要性が現実味を帯びてきませんか。

私たちの世代や、もっと若い世代は、1人目を持つのも大変です。その人たちに、第3子以降に重点支援をしますと言ったところで、それが第3子を生むためのインセンティブになるでしょうか。

私に当てはめてみてください。第3子にたどりつくまでに、いったい幾つの壁を乗り越えなければならないか。結婚する、第1子が生まれる、第2子が生まれる、そしてようやくですよ。遠いです。

たしかに第3子支援は大切ですが、安倍政権の「新3本の矢」に盛り込まれているように新たに少子化対策に力を入れるのであれば、これまで第3子支援が当たり前だった発想を転換して、第1子からの支援ではどうなのかと議論をぶつけ合っていかなければいけないですね。

こういう長期の大きな課題に取り組む時ほど、一歩一歩いくのが大切です。1人目が生まれた、よかったねと。そこから一歩一歩です。「やればできる」で小さな成功を重ねていくことが重要です。

(構成:合楽仁美、撮影:福田俊介)

*続きは明日掲載します。

*本稿は10月5日に開催された日本再建イニシアティブ(RJIF)主催のセミナー「『5000万人国家』の衝撃!人口減少がもたらす社会とビジネスへのインパクト」の内容を再編集したものです