New York Giants selects Miami offensive lineman Ereck Flowers as the ninth pick in the first round of the 2015 NFL Football Draft,  Thursday, April 30, 2015, in Chicago. (AP Photo/Paul Beaty)

スポーツの最先端はアメリカから生まれる【第9回】

来場客数は日本プロ野球の200倍。NFLのドラフトビジネス戦略

2015/11/6

10月22日に行われたプロ野球ドラフト会議を見たが、毎年のことながら「もう少し面白くできないものか」と思った。面白くならないか、ではない。面白くできないか、だ。

まったくつまらないというわけではない。注目選手が複数球団に指名され、くじによって運命が決まる瞬間などはとりわけ見応えがある。しかし、それだと指名を受ける選手の質などで、その年のドラフトの面白さが左右される。他力本願のようなものだ。

アメリカのプロスポーツのドラフトでは、どんな選手がドラフトにかかろうとも必然的に盛り上がるような仕掛けや試みを運営する側が惜しまない(当然それがビジネスにつながるというところが大きいけれども)。そういった意識の面で、日米の差はまだまだ大きいと感じる。

ドラフトは「オフシーズンのスーパーボウル」

しかし、アメリカでも昔からそうだったわけではない。どちらかと言えば、ドラフトはオフシーズン(メジャーリーグはシーズン中に開かれるが)に静かに行われるイベントだった。だが、リーグとそれに付随するビジネス面における規模の拡大に伴って、ドラフトの規模と注目度は今や巨大なものとなっている。

アメリカのプロスポーツリーグでは、最大の人気を誇るNFLのドラフトへの注目度が最も高い。毎年、春に開催される(2年前までは4月開催だったが、昨年から5月初頭となった)同ドラフトは「オフシーズンのスーパーボウル」と呼ばれるほどの関心を集める一大イベントと化している。

NFLドラフトは昨年まで50年連続でニューヨークで行われていたが、今春はシカゴで開催され、このイベントが新たな局面に入りさらなる広がりを見せる可能性を示した。

それほどシカゴでのドラフトは画期的だった。ニューヨーク開催時のドラフトは一流ホテルの巨大ボールルームやラジオシティミュージックホールと呼ばれる劇場で開かれていたが、シカゴでは、ドラフト自体は従来通り劇場で行われたものの、それ以外にもグラントパークという同市最大の巨大公園を「ドラフトパーク」と称し、ファンがドラフト関連の各種イベントを楽しむ場所にした。

結果、ドラフト関連のイベントにはおよそ20万人のファンが訪れたという。

テレビ局が不人気コンテンツをエンタメ化

1980年にESPNが放映を始めるまでのドラフトは、どちらかと言えばショー的要素の少ない密室のイベントだったが(1983年まではリーグも放映権料を取っていなかったという)、設立から数年でまだコンテンツに乏しかった同局が不人気だったドラフトの放映権を得て、テレビ向けのエンターテインメントに変えた。

ドラフト会場内には多くの熱心なフットボールファンが集い、1巡目で指名されるいわゆるトップ選手たちは会場に招待され、指名を受けると壇上でコミッショナーから新天地のユニフォームを手渡される。

直後にはテレビインタビューが待っている。ファンは望んでいた選手を自分の応援するチームが指名すれば大騒ぎし、反対の場合は容赦なくブーイングを投げかける。

ESPNや、近年はリーグ専門チャンネルのNFLネットワークが会場内にセットを設置し、豪華な解説陣が選手たちの批評などを繰り広げる。そうしてエンターテインメントとして質の高い空間が提供されるのだ。

こういった一連の動きは会場内で同時進行で起こるが、だからこそスイッチング一つで異なる場面を次々と映し出せるテレビの力は、ドラフトというイベントにマッチした。このことは、やはり注目度の高いNBAドラフトにも言えることだ。

2015年のNFLドラフト会場。華やかな空間で、明日のスター候補たちが指名されていく(AP/アフロ)

2015年のNFLドラフト会場。華やかな空間で、明日のスター候補たちが指名されていく(写真:AP/アフロ)

「危機的状況」を「良い契機」に

今年のシカゴでの開催は、ドラフトがテレビスクリーンを通して見られるだけではなく、これからはファンが実際に参加するイベントになっていく可能性を示した。劇場内のキャパシティには限界があり、ドラフトパークを訪れる大半のファンは中での様子を直接見ることができない。

それでも、公園内にはNFL擬似体験パークの「NFLエクスペリエンス」や、過去のスーパーボウルの優勝リングや優勝杯「ビンス・ロンバルディ杯」が展示されたスペースなど、さまざまな催しが行われ、それまで若いコアな男性ファンが集うイベントだったNFLドラフトは、家族で来て楽しめるアミューズメントイベントに進化した。

もっともリーグとして、はなからこういったイベントを開くためにシカゴでのドラフト開催を決定したわけではない。ドラフトの開催期間に上述のラジオシティミュージックホールを押さえられず代替開催場所を探さねばならなかった、というのがきっかけだったという。

しかし、場所を押さえられないという「危機的状況」を新たなドラフトのかたちを模索するための「良い契機」とするのが、アメリカでプロスポーツを運営する彼らの思い切りとフットワークの良さだ。「これまでドラフトを行ってきた場所がダメならば、同じニューヨーク地域の同規模の場所で開催しよう」とはならなかった。

しかも、「どういった催しを開いて、どうすれば実際に訪れるファンやテレビでの視聴者を満足させることができるか」の検討と計画策定は、しかるべきイベントのプロの面々が担う。アメリカのメジャーなプロスポーツリーグにはいずれもイベント部門があり、ファン戦略やマーケティングを担当する。

スポーツ界のスペシャリストを招聘

NFLは2014年夏、ニューヨーク五輪招致委員会やNBA、4大ネットワークABCのスポーツ部門で働いていた経歴を持つピーター・オライリー氏という、その道のスペシャリストを同部門のバイスプレジデントに任命した。シカゴのドラフトは彼が取り仕切り、想定以上の成功に導いている。

「51年ぶりにニューヨーク以外の場所で開催すると決定したとき、ドラフトを再検討する機会となりました。毎年、『ドラフトを直に見たい』という多くのファンの要求に応えることができていませんでしたが、今回グラントパークにドラフトタウンというものを設置することで、より多くのファンにドラフトの興奮を経験してもらえるようになったのです」

ドラフト前のウェブサイト「カレッジフットボール24/7」のインタビューに、オライリー氏はこう答えている。

各オーナーがドラフトを招致

今春のシカゴ開催は、マーケットが大きく周辺500マイル(約800キロ)圏内に11のNFL球団が本拠を構えることなどの理由で決まったが、同ドラフトの成功を受けて2016年も当地で開かれることになっている。関係者によれば、来年はドラフトタウンの規模がさらに大きくなるとのことで、この妥協のなさは日本のスポーツ関係者にとって見習うべきところが多いのではないか。

ダラス・カウボーイズのジェリー・ジョーンズ氏やニューイングランド・ペイトリオッツのロバート・クラフト氏といったリーグの有力オーナーらは現在、ドラフトの地元招致をリーグに働きかけているという。ほかにも関心を持つ都市はいくつもあるだろう。

NFLのロジャー・グッデルコミッショナーは「ドラフトはもはや単なるテレビショーではなくなった」と述べている。ファン開拓、マーケティングの面でシカゴでのドラフトは大きな効果があると示した。この流れはNBAなどほかのリーグにも波及していく可能性がある。

日本のドラフトはもっと面白くできる

その人気を鑑みれば、プロ野球のドラフトももう少し大きなイベントにできるのではないか。プロ野球中継は今やほとんど地上波の全国放送がなくなったといわれるが、球場を訪れるファンの数は減るどころか、むしろ増えている。

であれば、上述したようなファンが直接ドラフトとそれに付随するイベントを楽しむことのできる「NFL型ドラフト」を参考にしてはどうだろうか。プロ野球のドラフトでは1000人のファンが会場に招待されているが、NFLのようにもっと参加型で楽しめるように工夫すれば、そこからさらなるファン獲得、野球の振興にもつなげられるはずだ。

もちろん、その場合はスポーツビジネスやマーケティング、プロモーションに精通したプロが手がけるべきだが。

<連載「スポーツの最先端はアメリカから生まれる」概要>
世界最大のスポーツ大国であるアメリカは、収益、人気、ビジネスモデル、トレーニング理論など、スポーツにまつわるあらゆる領域で最先端を走っている。メジャーリーグやNBA、NFL、NHLという4大スポーツを人気沸騰させているだけでなく、近年はメジャーリーグサッカー(MLS)でもJリーグを上回る規模で成功を収めているほどだ。なぜ、アメリカはいつも秀逸なモデルや理論を生み出してくるのか。日米のスポーツ事情に精通するライター・永塚和志がアメリカのスポーツ事情を隔週金曜日にリポートする。