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商品棚を持ち上げて俊敏に作業員のところへ移動

アマゾンの配送コンセプトを塗り替えたキヴァ・ロボット

2015/11/5

1配送センターに平均2300台のロボット

アマゾンが、自社配送センターにすでに3万台ものキヴァ・ロボットを投入しているという。この数は約1年前と比べて倍増。これは13カ所の配送センターの総数というから、平均1カ所で2300台ものロボットが動いていることになる。ものすごい速さで配送作業を効率化しているさまがうかがえる。

キヴァ・システムズはアマゾンが2012年に7億7500万ドルで買収したロボット会社である。同社のロボットは、低い四角い箱のようなかたちをしたものだ。ただ、これがかなり敏しょうに動く。しかも、ただ動くだけではなく、下から商品棚を持ち上げて目的地まで走行していくのだ。

アマゾンはこのキヴァ・システム製のロボットを導入したことで、配送センターのコンセプトをすっかり塗り替えたといわれている。

というのも、これまで配送センターといえば、作業員が商品棚へ向かって目的のアイテムを取りに行くのが当たり前だったところを、作業員のもとに商品がやってくるというしくみをキヴァ・ロボットによって実現したからだ。

この魔法のようなしくみを思いついたきっかけは、キヴァ・システムズの共同創設者であるミック・マウンツ氏の講演ではよく出てくる話だ。マウンツ氏は、シリコンバレーのドットコム・バブル時代に苦い経験をしている。ウェブバンという、当時脚光を浴びたスタートアップに在籍していたのだ。

広い空間に陣取るのはロボット

ウェブバンは1996年に創設された会社で、インターネットで注文すれば生鮮食料品が配達されるという、その頃としては夢のようなサービスを展開していた。届く野菜や果物も清潔に梱包(こんぽう)されて、未来の生活がやってきたように感じたものだが、同社は2001年に破産。

名だたるベンチャー・キャピタル会社が巨額の投資を行い、IPOまで果たしたのだが、売り上げよりも配送センター内のインフラの建設とメンテナンスにコストがかかってしまったのである。ウェブバンは今でも、バブル崩壊の典型例としてよく語られる存在となっている。

マウンツ氏は、同社に関わった経験から、いながらにして商品が手元に飛んでくるような方法はないものかと、ずっと考えを巡らせていたという。ベルトコンベヤーのような大掛かりな設備を必要とせず、また作業員がいちいち商品を取りに行くのでもない方法はないのか。そうして思いついたのが、キヴァ・システムズのやり方だった。

キヴァ・システムズのアプローチは、天地をひっくり返したようなものだ。キヴァ・ロボットを導入した配送センターでは、広い空間の中心部に陣取るのはロボットで、作業員は周縁部の作業台に配置されている。

梱包する商品が指示されると、ロボットがその商品の入った棚を「棚ごと」持ち上げて作業員のところまで走行してくる。棚にはたくさんの商品が詰め込まれているが、すべてバーコードで登録されているので、どの棚にどの商品が入っているのかがわかっているのだ。

作業員は、自分の元にやってきた棚から商品を取り出し、バーコードをスキャンする。たいてい複数の梱包を同時進行しており、スキャンしたときにその商品はどの箱に入れるのかも表示されるので間違いがない。

棚には商品をランダムに入れてもOK

ここで面白いポイントが3つある。

ひとつは、キヴァ・ロボットの走行方法だ。移動の指示を受けると、このロボットは棚を持ち上げて走行するのだが、ユラユラと作業員のところへ向かうのではない。

配送センターの床にはグリッド状にマーカーが貼り付けられており、どのロボットも一番近くの空いているマーカーを目指して一斉に移動する。そのため、ぶつかり合うこともなく、何百、何千と走行しているロボットが全体としてかなり効率的に動くことができるのだ。ビデオを見たことがある方ならば、多数のロボットがマシンのように高速で動くその景色に驚いたはずだ。

もうひとつは、棚ごと持ってくるということ。つまり、ひとつの商品をつまみ出すという手間を省いて棚ごと運び、作業員がそこから商品を選び出す。棚ごと持ってきていいからこそ、ロボットにもその作業ができるわけだ。ロボットにはまだ、特定の商品を棚から正確に迅速につかみ出すという頭脳や機能は備わっていない。

さらに、棚には商品をランダムに入れておいていいという点も驚きだ。つまり、この棚にはこの商品、と整理する必要がなく、ともかく突っ込んでおけばシステムが商品の場所を探し当てる。

同社に聞いたところでは、もちろん整理してもかまわないという。何種類の商品をどれだけ扱っているのかといったことによって、これは変わってくるのだろう。

だが、配送センターに入荷した商品を、ともかく棚の空いたところに入れておいてかまわないというのは、「整理」にとらわれているわれわれの常識をひっくり返すものではないだろうか。今や、システムの検索力を使えば、混沌(こんとん)とした配送センター空間から求めるものが出てくるというわけだ。

というわけで、キヴァ・システムズのロボットは、いかにもアマゾン的な天地異変風のアプローチを備えているのである。アマゾンでは、「キヴァ・ロボットの導入は決して安くないものの、効率化には役立っている」としている。これを極めていくと、その先にまたびっくりするようなものが出てくるかもしれない。

いずれにしても、この例は、ロボットは技術を洗練化させることとシステム的な思考を適用することと、その両方があればかなり強靭(きょうじん)になれると感じさせるのである。

*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。