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医療の現場では、すでに3Dプリンティング技術が使われている

臓器や組織をオーダーメイドする日は近いかもしれない。

アダム・フェインバーグは4年前、人間の組織を合成する方法を模索していた。使うのはありきたりのものだった。台所用ミキサー、スーパーで買ったお菓子づくり用のゼラチン、それに2000ドルの3Dプリンターだ。

同氏は、米ペンシルバニア州ピッツバーグにあるカーネギー・メロン大学で研究室を持つ生体医工学者だ。「研究を始めたころは、外部からの資金援助がなかったので、安く上がるようにしていたのです」と、38歳のフェインバーグ教授は説明する。

『Science Advances』誌に10月23日付けで発表された論文では、フェインバーグ教授と研究室のメンバーが、コラーゲンやフィブリンなどのたんぱく質を使って、動脈や脳をはじめとする臓器組織の構造を複製する技術をどのようにしてつくり上げていったかが説明されている。

彼らがつくったものは、生きた細胞をもつ臓器として機能するわけではないが、将来は、本物の組織を培養する土台として役立つ可能性がある。

医療の現場では、すでに3Dプリンティング技術が使われている。例えば、損傷した気管を支えるための補助器具をつくって、幼児の喉に埋め込む手術をしたり、チタニウム製の下あごの骨をつくって、患者の骨と置換したり、薬物による治療効果をテストするために、ごく小さい肝臓を合成したりするなどだ。

正常に機能する、患者一人一人に合った移植可能な臓器をつくるには、越えなければならないたくさんのハードルがある。だが、新しい研究によって、「それぞれの患者に合うようにオーダーメイドでつくられた組織を治療に用いる」という未来的な発想が、少しずつ現実に近づいている。

研究チームのヒントになったのはゼリー

フェインバーグ教授によって根本的に進歩した点は、改造されたメーカーボット社製の3Dプリンターからつくり出される柔らかい構造物が、それ自身の重みで崩れてしまわないようにする方法だ。3Dプリンターでは通常、素材としてプラスチックが使われる。だが、コラーゲンはプラスチックと異なり、支えがなければ、合成される間、その形を保つことができない。

研究チームが思い当たったのは、Jell-O(ゼリーの素)だった。Jell-Oでつくったゼリーは、砂糖の入ったゲルにフルーツ片が浮かんだ状態を保っている。

そこで研究チームは、微粒子の懸濁体(スラリー)にゼラチンを混ぜ合わせて試してみた。こうしたスラリーなら、プリンターのノズル(注射器を利用して改造したもの)の自由な動きを妨げることなく、1層ずつプリントアウトされていく構造を支えてくれるだろう。

プリントアウトが完了すれば、構造は自分で形を保つことができる。支えのゲルは、体温と同程度の温度の水に溶かせばよい。

「製造工程は比較的単純なため、ほかの人も、この革新的な手法を土台にして同じことができる」。そう語るのは、フロリダ大学のトミー・アンジェリーニ教授だ。同教授の研究室は先ごろ、複合組織を製造するやり方として同様の方法を発表した。

アンジェリーニ教授は、フェインバーグ教授の研究には関わっていなかった。「とても簡単にでき、さまざまな目的に使える方法」だとアンジェリーニ教授は言う。

患者に移植できるような組織をつくるには、課題が残っている。「いずれは実現するでしょうが、それには、基礎科学の分野でやらなければならないことが山ほどあります」とアンジェリーニ教授は説明する。

臓器のレプリカで新薬の試験も

しかし、こうした新しい3Dプリンティングの手法によって、近い将来、研究室で患者自身の臓器のレプリカをつくり、医師が治療法を試せるようになるかもしれない。製薬会社は、リスクを伴う新薬を人体に用いる前に、そうしたレプリカでテストできるようになるだろう。

「現在は、マウスやラットの動物モデルを使ったあと、(人体への)臨床試験になり、その中間でできることは多くありません」とフェインバーグ教授は説明する。「けれども将来的には、患者固有の心筋をつくって試すことができる可能性があります」

フェインバーグ教授の研究は、米国の国立衛生研究所と国立科学財団からの助成金で支えられていた。だが、既製品のプリンターを上手に改良し、スーパーで買ったゼラチンを使うという、費用を抑えた当初の戦略は、今でも同研究室の基本的方針だ。

カーネギー・メロン大学は、「支えとなるゲルの中でプリントアウトする技術」で特許を申請したが、研究チームは、メーカーボット社の3Dプリンターを改造して生体物質をプリントアウトする方法を、オープンソース・ライセンスとして公開している。またフェインバーグ教授は、コラーゲンの代わりにチョコレートフロスティングを使ったバイオプリンティング技術の実演を、地元の学校で行った。

「こうした安価な機械を使う方がずっと簡単だ、と私たちは考えています」とフェインバーグ教授は説明する。「必要に応じて、どのようにでも改造できますからね」

原文はこちら(英語)。

(原文筆者:John Tozzi、翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、写真:dreamnikon/iStock)

©2015 Bloomberg News

This article was produced in conjuction with IBM.