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PHVのある未来(3) 名古屋大学 加藤博和准教授

少子高齢化でまちはもっとコンパクトに。変わるクルマの役割

2015/10/29
電気自動車(EV)は充電ポイントも増え、徐々にインフラが整いつつはあるが、その普及度合いはまだ十分とは言い切れないだろう。一方、国内外のメーカーにおいてプラグインハイブリッド(PHV)の投入が相次いでおり、1つのメインストリームになりつつある。現実的な最適解としてのPHVとその将来性について、連載を通じてさまざまな有識者とともに議論していく。今回は、名古屋大学環境学研究科の加藤博和准教授に都市や交通の在り方から見たPHVについて聞く。(聞き手はモータージャーナリストの川端由美)
第1回:津田大介氏「クルマは走るモバイルバッテリーになれるか」
第2回:安井至氏「エネルギー問題にクルマは解を出せるか」

CO2を出さずにリアルな移動を楽しめる仕組みづくり

川端:今回は、これからの都市と交通のあり方と、PHVの可能性について加藤先生にお話をうかがいたいと思います。加藤先生が環境と交通という分野の研究をされるようになった経緯を教えていただけますか。

加藤:私は古い小さなまちで生まれ育ったんですが、すぐ近くにあったニュータウンの未来的な雰囲気に憧れたりして、小さい頃から「まちづくり」に興味があったんです。また、乗り物が大好きで、自転車や電車、運転免許を取ってからはクルマでよく遠出をしていましたね。

大学では都市計画や交通計画をやるつもりが、ちょうどその頃、地球環境問題が注目されだしたこともあってこの道に進むことになりました。以来、都市の構造や交通と環境について研究してきましたが、20年以上もこの研究を続けているのは私くらいだと自負しています。

川端:小さいころから移動の自由や楽しさを経験したうえで、今の時代に合わせた都市や交通のあり方を考えていらっしゃるんですね。

加藤:実際にクルマの運転をしないと、本当に利便性の高い公共交通を構築するのは難しい。クルマと公共交通、どちらのよさもわかっているからこそ、よりよいシステムが作れると思っています。

川端:確かにそうですね。クルマで移動するメリットを実感していなければ、普段クルマに乗っている人が公共交通を使うようになる仕組みを考えることはできないですよね。

加藤:環境系の専門家の方からは、あと20~30年もすれば、CO2を排出する交通手段を使って、人がリアルに移動する必要がなくなるはずだと言われることもあります。遠くで開かれる会議や講演なども、バーチャル技術が進化すれば、まるでそこにいるかのようにやりとりすることができるはずだと。

そもそもリアルとバーチャルには絶対的な違いがあるので、「リアルに勝るものはない」と言うのは簡単ですが、一方でリアルを追求するためにCO2を出していいとはなりません。

私は負けず嫌いだから、「それなら、CO2をなるべく排出せずにリアルのコミュニケーションを実現できる仕組みをつくろう」と。そんなこれからの都市や交通網を考えたいと思っているんです。

加藤博和 名古屋大学環境学研究科都市環境学専攻准教授。研究テーマは「人と環境にやさしい『持続可能な』交通体系の実現を目指して」。研究の傍ら、地域公共交通プロデューサーとして名古屋周辺を中心に多くの現場で公共交通再生に携わる。国土交通省交通政策審議会委員として国の交通政策にも関与。

加藤博和
名古屋大学環境学研究科都市環境学専攻准教授。研究テーマは「人と環境にやさしい『持続可能な』交通体系の実現を目指して」。研究の傍ら、地域公共交通プロデューサーとして名古屋周辺を中心に多くの現場で公共交通再生に携わる。国土交通省交通政策審議会委員として国の交通政策にも関与。

少子高齢化のピッチに合わせて、まちをコンパクトに

川端:これからの都市のあり方を考えるときに、「少子高齢化」というのは、大きな課題の1つです。この点についてはどのようにお考えですか。

加藤:これからどんどん生産年齢人口は少なくなり、それに伴って税収も減ります。反対に高齢者が増えるので、社会保障費は増大する。まちは維持管理をするだけで手いっぱいで、新しく何かをつくるのは難しい時代がやってくるでしょう。

一方で、地方では高齢になってもクルマを必要とする状況があります。そのため高齢者の運転するクルマの事故の比率はずいぶん上がってきています。この状況を解決する手段の1つとして、公共交通の充実が不可欠です。

川端:ドイツでもアウトバーンでの逆走事故が問題になっています。ほとんどが高齢者による運転なんですが、その解決策としてドイツが力を入れているのが「自動運転技術」です。

日本では、高齢者は免許を返納するという動きもありますが、そうすると、返納してクルマでの移動という手段を失った結果、交通弱者となった高齢者の交通手段をどうするかという問題が残ります。

加藤:まさにそうなんです。だから、公共交通の充実が重要になるのですが、それには国や自治体の予算が必要になってくる。そこで、高齢化のピッチに合わせてまちの範囲を小さくすることで、極力コストを抑えて公共交通が成立するようにしていかなくてはなりません。

まちのコンパクト化は、高齢化や生産年齢人口の減少に対応するだけでなく、CO2削減の観点からも必然。単純にまちを小さくするにとどまらず、住み心地のよい場所であることも重要です。そのためにも、土木や建築などさまざまな分野の専門家が集まり知恵を絞ることが大切になってきます。

川端:まちのコンパクト化と交通網の整備は、CO2排出を減らすのに重要なファクターなのですね。

加藤:もちろんです。まちづくりと交通の基本的な考え方としては、同じ方向に移動する人はできるだけ公共交通を利用してもらうのが大前提。

行先がバラバラのクルマの移動はCO2を拡散しますが、渋滞を解消するシステムとエコドライブを促進することでCO2削減は実現できます。中長期的には、みんなが同じ方向に自然と動くような都市の構造と交通網の整備を進めていくことになります。

日本とヨーロッパのまちづくりの違い

川端:ヨーロッパに行くと、日本とはまちや交通のあり方がずいぶん違うのを感じます。

加藤:ヨーロッパは都市と郊外(田舎)の線引きが明確です。この線からこっちは市街地、向こうは田園地帯とはっきり決めてまちをつくっています。

日本はそういう境界線がなく、どこまでもばらばらとまちが広がっていくのが特徴です。右肩上がりの時代はそれでもよかったのですが、少子高齢化や財政難など課題が山積する中、どんどんまちを広げてもインフラを維持できない。まちのコンパクト化は国の方針でもあります。

川端:まちが小さくなったときの交通のあり方はどう変わっていくのでしょう。

加藤:いくらまちが小さくても、みんながバラバラに動いていてはCO2を減らせません。“同じ方向に、自然と一緒に動ける”構造をつくることがポイントです。よく例えるのが、「串」と「団子」。

軸となる串の部分に公共交通や、走りやすくて渋滞しない道路を作る。その串に沿ってまちが団子状につながるとよい、と言われます。

川端:そうなると、公共交通や自家用車、自転車など、さまざまなモビリティをつないでいくことが重要になってきそうですね。

加藤:確かに、これからの都市計画では、パーク&ライド、シェアリング、レンタカーなど、交通をどう乗り継いでいくかということも考える必要があります。

川端:ヨーロッパでは駅地下に短時間無料の駐車場をつくるパーク&ライドや、駅まで家族がクルマで送るキス&レイルをシステム化していたりしますよね。駅を郊外につくり、まちの中心部へは徒歩で移動する場所もありますが。

加藤:ヨーロッパやアメリカは駅前の立地が少ないので、そういう構造も可能ですが、日本は駅前を中心にまちが広がっている。特に都会では、地価の高さや渋滞を考えるとパーク&ライドを導入するのはなかなか難しいですね。

その一方で、地方に行くと郊外に新幹線の駅を作ったりしてパーク&ライドを促進している場所も増えています。それはまちをどんどん拡散させ、公共交通のあり方も難しくしています。

川端:バランスが難しいですね。ヨーロッパでは郊外にある大きな駅とまちの中心部をトラム(路面電車)がつないでいたりもしますが。

加藤:そもそも、日本はまちの中心がどこだかぼやけていて、場所や地域によってはシャッター商店街だったりする。郊外の駅からトラムのような公共交通を引くとしても、どこに向かって引けばよいかわからないんですね。さらに、シェアリング、パーク&ライド、レンタカーを導入すればするほど、まちが歯止めなく拡散してしまう危険性を抱えていると言えます。

川端由美(かわばた・ゆみ) 工学を修めた後、エンジニアとして就職。自動車雑誌の編集部員を経て、現在はフリーランスの自動車ジャーナリストに。自動車の環境問題と新技術を中心に、技術者、女性、ジャーナリストとしてハイブリッドな目線を生かしたリポートを展開

川端由美(かわばた・ゆみ)
工学を修めた後、エンジニアとして就職。自動車雑誌の編集部員を経て、現在はフリーランスの自動車ジャーナリストに。自動車の環境問題と新技術を中心に、技術者、女性、ジャーナリストとしてハイブリッドな目線を生かしたリポートを展開

コンパクトなまちだからこそ、PHVのメリットを享受できる

川端:クルマの移動について視点を移すと、まちが小さければクルマの移動距離も当然、減ります。

加藤:これからコンパクトになっていく都市構造では、日常の移動距離が短くなるのは間違いないですし、それがCO2の削減にもつながります。平日はEV、土日で遠出するときは公共交通かHV(ハイブリッド車)と使い分けるといいですね。そういう意味で、1台でどちらのモードにも切り替えられるプリウスPHVの発想は非常に合理的です。

川端:パーク&ライドが発展して、駐車している間、充電できるようになると便利ですよね。

加藤:利用者のための充電インフラをどう配備していくか、これからは計画的に考えていくほうがいいですね。そのためには行政がさらに前向きに考えることが必要でしょう。

川端:PHVでハイブリッド走行ができるメリットはどうお考えですか?

加藤:EVモード(※1)だけで済む用事のつもりで出掛けたけれど、急に寄り道をしなくてはいけなくなったりすることもあり得ます。そういうときの保険として、ハイブリッド走行ができるのは安心。

ガソリン車とEVを2台持って使い分けるという考え方もありますが、コスト面や駐車スペースを考えると、あまり現実的ではないと思います。そういう点で、PHVは非常によい選択肢ですね。

実は個人的にも、音が静かで加速がいいのでPHVをすごく気に入っています。もともとクルマ好きなので、HVとEVの加速の違いが運転していてすごく面白いな、と。私のようにEVとHV、両方の楽しみ方をしたい人にはPHVはぴったりですね。

川端:環境や高齢化に対応したコンパクトなまちで、クルマで移動する楽しさが実現するのが楽しみです。

加藤:どの世代の方でも普通に生活しているだけで自然と低炭素な暮らしを実現でき、それが快適で便利なものであるようにするのが私のミッションだと思っています。

■ 充電電力使用時走行距離は定められた試験条件のもとでの値です。お客様の使用環境(気象・渋滞等)や運転方法(急発進・エアコン使用等)に応じてEV走行距離は大きく異なります。

※1 エンジン、リチウムイオンバッテリーの状態、エアコンの使用状況や運転方法(急加速・所定の速度を超える)、道路状況(登坂)などによっては、バッテリー残量にかかわらずEV走行が解除され、エンジンが作動します。

(構成:久川桃子、工藤千秋 撮影:北山宏一)

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