選挙区で抱えるジレンマ
国会議員は、「選挙区の声」にどう向き合っているのか
2015/10/29
自由民主党・衆議院議員の小林史明氏が、NTTドコモから政治家に転身した理由や、自民党の内側などについて語る。第1回は、政治家に至るまでのキャリアなどについて振り返る。全4回。
第1回:私がNTTドコモを辞めて政治家になった理由
多くの国会議員は普段、選挙区と東京を行き来する生活を送っています。しかし、私たちが普段何をしているのかについては、疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。
こうした政治活動や政策の意思決定プロセスの不透明感が政治への不信感につながっているのではないかと個人的には感じています。
私自身、実際にこの世界に飛び込んでみるまで、仕事の全貌がまるでイメージできなかったのが正直なところでした。そこで今回は、私の普段の活動例を交えながら、国会議員の選挙区での活動についてご紹介します。
選挙区で活動する意味
若手は週末に必ず地元に帰れと言われます。週末には選挙区へ戻り、国政報告や意見交換会、後援会づくり、祭りや行事への出席、事務所運営のミーティングなど、地域での活動をし、週明けに東京に戻って国政にあたる──実際多くの国会議員はこういう生活を送っています。
一般的には選挙地盤固めのため必要であると言われていますが、私自身、1年目から実践してみて、3つの意味で必要な活動だと感じています。
(1)地盤固め
祖父が参議院議員を1期務めていたとはいえ戦後直後のこと。地縁がある分恵まれていますが、10年ぶりに帰郷した私に最初から強固な選挙地盤はありません。
各層へアプローチし応援者を増やしていく必要があります。既存の支援者には国政報告会を通じて信頼関係を強める。支援者の開拓のためには、紹介やビラの配布、最近ではSNSも重要なチャネルです。個人的にはフェイスブックにかなり助けられています。
(2)課題抽出
実際に地域や企業の現場に足を運ぶことで、課題を発見できることに大きな意義を感じます。政治家に必要なものはビジョン、政策、実現力だと考えていますが、そのもとになる現状課題の把握に地元活動は不可欠です。
ただし、選挙区の事象だけにとらわれ、その声に身を委ねすぎると視野が狭くなるため、バランスを取ることが必要です。
(3)信頼関係の構築
利害調整や意見集約も政治家の重要な役割です。なんとなく嫌な響きかもしれませんが、政策を国政で準備しても実現されなければ意味がありません。
関係者の中に入り込んで調整できるかどうかは信頼関係次第。あいつが言うならしょうがない、と納得してもらえるだけの汗をかき、努力と見識を示していくほかありません。
現在、中心市街地活性化の協議会や製造業振興策の検討会議を市・県・民間関係者を交えて動かしていますが、2年半かかりました。特区の導入となるとさらに調整が必要になり、現在進行中です。
選挙区の声に耳を傾けすぎるリスク
課題抽出のくだりでバランスが重要と書きましたが、これまでの日本の水産政策が悪い例です。
私の選挙区は瀬戸内海に面する広島県福山市。全国の状況同様に漁業は衰退傾向。実家が漁網メーカーではあったものの、水産政策に関わるつもりはなかったのですが、目の前に課題があるということで自民党の水産部会(水産庁所管施策の会議)に出席してみました。
すると、魚の減少、燃料費の高騰、収入源で後継者不足に悩んでいるということで、燃油対策や漁業共済など減収対策が目立つ。どうも団体や地域の漁協の要望を反映しているようなのですが、どう考えても根本解決につながる話ではないのです。
違和感を持って調べてみると、日本の漁業者の平均年収は約250万(専業だけなら約400万)、一方ノルウェーは平均800万で若者の就職先としても人気。あまりの差に驚きました。
何が違うかというと、ノルウェーは過剰漁獲を防ぎ魚価を安定させる資源管理型漁業を推進、養殖業の大型化、流通の効率化、輸出促進と、漁業者の収入増に必要な政策を的確に打ってきたのです。漁獲制限など一時的な減収を伴う策は提案しづらいでしょうが、本質的な解決のために利害関係者を説得する努力も必要です。
日本の水産政策の遅れは、政治と行政が目の前の地域や団体の声に偏りすぎたことが要因でしょう。
ショーザフラッグ、旗を掲げることの大切さ
2年前、水産部会で資源管理型漁業に意見したところ、翌日すぐに業界と水産庁からご説明に参りますと連絡がありました。要は発言しないでほしいということなのです。
それでも調査をもとに各会議で発言し続けると今度は一部の議員から言い過ぎだと怒られる。ついには専門家からのヒアリングということで会議がセットされると、反対派の専門家しか呼ばれない。この件は一生忘れないと思いますね。
このときの支えは、地方の雇用を担い離島を守っている水産業を復活させることは必ずこの国に住む人を豊かにするはずだという思い込みと、「ケツは拭いてやるから徹底的にやれ」と背中を押してくれた先輩議員の言葉でした。ベタかもしれませんが、心強かったですね。
旗を掲げることで上記のような抵抗を受けましたが、それ以上に心強い仲間が集まってきました。3カ月ほどたってから、同じ危機感を持った専門家や漁業者から事務所へ連絡が入るようになったのです。協力者とともに戦略を考え、部会での発言とあわせてメディアで世論を喚起することに。
当初は業界紙から始まり経済紙、そして新聞へと漁業資源の課題が掲載されていくにつれ、共感する議員も増えていきました。その後、同志の議員とともに提言を作成し、関係議員へ説明にまわるなどの根回しも図りつつ、業界や水産庁とも意見を交わす中で政策の流れは変わり始めました。
結局、水産庁も課題感は持っていたものの政治の大きな後押しもなく、難しい利害調整をするのは厳しかったのでしょう。本来、政策の方向性を示し、行政の背中を押すのが政治の役割のはず。憤りを感じていた自分を恥じ、政治の責任を感じた機会でもありました。
国会議員が選挙区で抱えるジレンマ
国会議員はいくつかのジレンマを抱えています。代表的なものは活動量と資金の問題。国会議員の活動は議員一人では成り立ちません。国会での活動に加え、前述したような選挙区活動をするには、秘書や事務所スタッフが必要です。
国の抱える問題に本気で取り組むほど、私自身だけの活動量と力では行き届きません。
私の場合、支援が薄いときこそ活動量を多くすることで情報を増やす必要があると考えています。一般的にも、各選挙区7万~10万世帯くらいの地域に、議員自身の想いや取り組んだ政策、活動などを報告するためには、印刷物作成、配布、郵送などに費用がかかってしまいます。
政治家事務所は一般的な事業所や会社と一緒で、運営には人件費や活動費など、どうしても費用がかかります。国民の皆さまから政党助成金を頂いていますが、熱心に諸問題に取り組むほど活動量が増え、結果としてそれ以上に費用がかかってしまうのは、政治家の抱えるジレンマなのです。
もう一つが政策の重要性と関心度。日本全体にとっては重要ですが、選挙区の人にはわかりづらい政策。たとえば、IT政策は行政の効率化などで数百~数千億円のインパクトがあり、サイバーセキュリティであれば国防に関わる重要政策ですが、選挙区ではなかなか伝わりません。
メディアに取り上げられれば良いのですが、これも困難です。伝わらない、伝える方法がない。こちらの努力不足の部分もあるのですが、現実にこういったジレンマを抱えながら多くの国会議員は活動しています。
今後、国民全体のITリテラシーの向上やクラウドファンディング、SNSなどの効果的な活用を進めていくことで解消できるのではと模索しているところです。
日本の課題を解決するために、選挙区の声とどう向き合うか。さまざまな意見があるかと思いますが、個人的にはジレンマを抱え悩みながら、多くの人との温かい交流を楽しみ、日本と世界の将来に想いを巡らすことで政治家は育っていくのではないかと感じています。
同時に選挙区が政治家を育てるとも感じています。誰と出会い、どのような情報を受け取っていくかで政治家は変わっていきます。この記事を読んでNewsPicksの一人でも多くの方が、政治家に声をかけてみようと思っていただければ幸いです。