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荒木重雄インタビュー(第2回)

日本のスポーツビジネスを180度変えたロッテ改革の神髄とは

2015/10/28

「ロッテ改革」は、今もスポーツビジネス界のロールモデルとされている。

クラブとスタジアムの一体経営、オウンドメディア、顧客関係管理(CRM)の導入など、現在では当たり前となったマネジメントの先駆けの多くは千葉ロッテからだった。

ロッテの事業本部長として改革を支えた荒木重雄氏がその本質を語る。

第1回:野球界のイノベーターが明かすロッテ改革の舞台裏
荒木重雄(あらき・しげお) 1963年9月9日生まれ。1986年にIBMに就職し、ドイツ系通信会社の日本法人代表を経て、2005年に千葉ロッテのフロント入り。その後、パシフィックリーグマーケティングで取締役を務めた。現職は、SPOLABo代表、草野球オンライン編集長、千葉商科大学特命教授、A+代表、ホットランド取締役、NPBエンタープライズ執行役員、スポーツビジネスアカデミーで理事

荒木重雄(あらき・しげお)
1963年9月9日生まれ。1986年にIBMに就職し、ドイツ系通信会社の日本法人代表を経て、2005年に千葉ロッテのフロント入り。その後、パシフィックリーグマーケティングで取締役を務めた。現職は、SPOLABo代表、草野球オンライン編集長、千葉商科大学特命教授、A+代表、ホットランド取締役、NPBエンタープライズ執行役員、スポーツビジネスアカデミーで理事

改革成功の秘密は「洋服のサイズ戦略」

──ロッテ改革について、前回、「洋服のサイズ戦略」というお話がありました。

荒木:洋服のサイズ、「SS」「S」「M」「L」「LL」を頭文字にした戦略になります。スポーツビジネスにおける特徴は多方面にわたってステークホルダーが存在するわけですが、その中でも重要と思われるステークホルダーを整理してみたら、その頭文字が洋服のサイズに整理できました(笑)。

──まず「SS」について聞かせてください。

「SS」はサポーター&スポンサーについてです。

サポーターについては「観戦」ではなく「参戦」。一緒に戦ってもらう。そのために、まず背番号の「26番」を(サポーターの)永久欠番にしました。野球は25人がベンチ入りできるので、26番目の選手たちという意味です。サッカーなら「12番」になりますね。全試合において、その26番のユニフォームをベンチの中に入れて戦いました。

当時、「ファンクラブ」という名称であったファンコミュニティも、「応援」ではなく、(チームの一員として)「戦う」という意思を込めて、名称も改め「TEAM26」としました。ファン×チーム×フロントという三位一体を徹底的にやるという方向性を打ち出したということです。スポンサーにも、ただおカネを出してもらうのではなく、パートナーとして一緒にやっていこうという戦略を練りました。

プロスポーツ初となる“球団+スタジアム”の一体経営

次の「S」はスタジアムになります。

先日も、横浜DeNAベイスターズによる横浜スタジアムの運営会社買収のニュースが流れました。球団とスタジアムの一体経営は絶対に必要です。では、どうすればいいか? これもスポーツマネジメントスクールで学びましたが、指定管理者という制度をプロスポーツ界で初めて取り入れました。

千葉ロッテのホームである千葉マリンスタジアム(現QVCマリンフィールド)は、千葉市所有となりますが、指定管理者制度で、球団がスタジアムを運営することができます。初年度(2005年)のファンサービス改革をしながら、併行的に翌年の“第2章”の準備を行い、無事“球団+スタジアム”の一体経営を実現させました。ものすごいスピード感でしたね。

指定管理者になるメリットについてですが、球団自体は赤字、スタジアムは黒字なので、足し算で赤字が削減、あるいはプラスになるという発想では一体経営の意味はありません。1+1を2ではなく3にしなければいけないのです。

球団がスタジアムの事業権を手に入れることは、サービス創造を行うための原材料が手に入るということ。この原材料を料理して、新たなサービスをどう生み出すか。また既存のサービスにどのように組み合わせて、価値の最大化を図るかが大事になってきます。

──指定管理者制度の取得は、すべてのプロスポーツチームで初めてだったと思います。そのうえで、CRMの導入はいかがでしたか。

CRMの導入も、指定管理者制度に合わせて2006年から始めました。本格的な導入は、球界で初めてだと思います。

一体経営の価値を上げるためには、スタジアムを球団主導とし、球団ビジネスとスタジアムビジネスを一体化しなければなりません。そのためには、これまでのオペレーションの延長でなく、抜本的にオペレーション体制を変える必要がありました。

つまり、人に依存させないこと。球団が主導する体制を徹底させるためのプラットフォームが必要と考えました。そこで、当時、MIX(ミックス)といって「マリーンズ・インテグレーテッド・カスタマー・サービスシステム」という自社システムを構築しました。

MIXで、チケット販売はもちろんのこと、グッズ販売や飲食、スタジアムと球団のシステム化を一体にし、そのプラットフォーム上でオペレーションが成り立つように切り替えました。

一体経営の結果がどうなったか。わずか3年間で当初の売り上げの380%を達成することができました。

映像権利の内製化

そして、「M」はメディアになります。マスメディア戦略については前回話しましたが、それ以外にも自分たちからチームや選手の情報を出していきました。今でいうオウンドメディア、当時はインハウスメディアと呼んでいました。

首都圏でキー局が取り扱ってくれないので、自分たちでやるしかない。つまり、マスメディアには話題を提供し、インハウスメディアではチームのコンテンツを発信していきました。

具体的には初年度の2005年に、インターネットを使った「マリーンズTV」を始めました。スタジオをつくり、ホームページのコンテンツはすべて自分たちで制作しました。カメラで映像を撮り、記事を書き、どんどん情報を発信していきました。

マスメディアとインハウスメディアの両方の戦略を取りましたが、より充実させるためには試合映像を含む映像制作と権利を内製化しなければいけませんでした。そして、それをやり切りました。

「地域密着」を凌駕する「地域融合」の発想

次の「L」はローカルということで、地域のことですね。サッカーが「地域密着」をうたっていますが、それをさらに凌駕(りょうが)する「地域融合」に挑みました。

地域に出て行って密着するのではなく、地域に溶け込んで一緒にやっていこうという発想です。そこで、まずマリンスタジアムの隣にあり、ファンが多く住んでいるベイタウンという一般のマンション群を“場下町”、球場の下の町と名づけることで溶け込んでいきました。

──最後の「LL」は、いかがですか。

これはロッテ&リーグのことです。親会社との関係を強化していこうと。それとスポーツは1チームでは試合はできないので、やはりリーグ運営が大事。リーグで何かできないかと考え抜きました。

そんな思いが当時のパ・リーグ球団全体にあったこともあり、結果として2007年にPLM(パシフィック・リーグ・マーケティング)というパ・リーグ6球団の共同出資会社が立ち上がりました。現在、インターネットを活用した動画配信サービス「パ・リーグTV」を行っている会社ですね。

荒木は、2008年から2009年までロッテ球団に在籍しながら日本サッカー協会の広報委員を務めた

荒木は、2008年から2009年までロッテ球団に在籍しながら日本サッカー協会の広報委員を務めた

プロ野球とJリーグに見る経営の違い

──やはりPLMの存在が大きいと感じます。また、お話を聞いていると、アメリカのスポーツビジネスから学ばれた印象を持ちました。最近はJリーグもメジャーリーグサッカーから学ぶべきという声もあります。

アメリカは非常に参考になりました。それもメジャーリーグだけではなく、マイナーリーグからも学ぶことができました。アメリカとのネットワークで、メジャーとマイナーを問わず、アメリカの球団からアクティベーションを仕入れて日本流にアレンジしていきました。

──荒木さんはプロ野球とJリーグの経営面の違いをどう考えていますか。

サッカー界にはグローバルレベルで統一されたガバナンスや素晴らしいスキームがたくさんあります。ただ、プロ野球は約80年、Jリーグは約20年と、歴史も生い立ちも違いますから、比較してどちらがいいという話にはなりません。

またプロ野球とJリーグでは、ビジネスモデルも違います。チームビジネス主導のプロ野球と、リーグビジネス主導のJリーグでは真逆となっています。

ただ、チームビジネス型でも、そのうえでリーグビジネスを加える方法はあります。たとえばクライマックスシリーズ。当時はプレーオフという呼び方で、スポンサーはついていませんでした。そこでPLMが間をつないで、冠スポンサーを獲得したりしました。

米国型が正しいとか、サッカー型が正しいとかいうことでなく、プロ野球には80年以上の歴史があります。ここまでの功績、手法を継承しつつ、新たな取組みを掛け合わせることが重要であると思っております。

そういう意味で、今回侍ジャパンの常設化に伴い12球団とNPB(日本野球機構)で立ち上げた、NPBエンタープライズという会社は、次の10年、20年に向けて大きなプロ野球事業プラットフォームとして、新たな発想を持って、活用していかなくてはならないと思っております。

(撮影:福田俊介)

*本連載は毎週水曜日に掲載予定です。