時価総額33兆円。「無敵のアマゾン」は日本も制するのか
2015/10/27
500万PVを超えたアマゾンの批判記事
今のアマゾン・ドット・コムにとって、最大の敵は誰か? その答えは、米大手メディアのニューヨーク・タイムズ(NYT)かもしれない。
2015年8月15日、NYTは、「インサイド・アマゾン」と題した
長文の調査記事を掲載。100人以上の元・現役アマゾン社員への取材をもとに、同社の過酷な労働環境についてリポートした。
当記事のページビューは500万を超え、世界中で大論争に発展。同年10月19日には、アマゾンの広報責任者であるジェイ・カーニー上級副社長が記事への反論をMedium(ミディアム)に投稿し、それにNYTのディーン・バケット編集主幹が応酬するなど、今なおほとぼりは冷めていない。
アマゾンを糾弾する記事に対し、これほど反響が集まったのは、アマゾンの影響力の大きさゆえだろう。アマゾンは、多くの消費者にとって不可欠な存在であると同時に、多くの企業にとって強大な「敵」となっている。
「クラウド」というドル箱
1995年、米国で書籍のeコマースからスタートしたアマゾンは、20年の時を経て、13カ国へと拡大。売上高10兆円を超える巨大企業へと成長している。「投資重視」のため、利益水準は高くないものの、その存在感は絶大だ。
品ぞろえの拡大も着々と進行中。eコマースは、衣服、家電、食料品、医薬品、コンテンツなどあらゆる領域に広がり、さらには、クラウド、広告、ドローン、ロボット、コンテンツ制作などにも着手している。
その中でも近年、特に成長著しいのが、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が手がける、クラウドコンピューティング事業だ。
2015年10月22日に発表した2015年7〜9月の決算では、クラウド事業の売上高は、前年同期比70%増となる20億9000万ドルを記録。この数値は、アマゾン全体の売上高の8%を占めるにすぎないが、クラウド事業は利益率が高いため(米国ECの利益率3.5%に対し25%)、同事業はアマゾン全体の営業利益の半分を占めるまでになっている。
クラウド事業の“絶好調”を受け、アマゾンの株価は高値を更新。2015年10月23日時点の時価総額は約33兆8000億円に達し、中国のアリババグループ、米国のウォルマート・ストアーズを突き放し、世界の小売業界(リアル+ネット)の中でダントツのトップに立っている。
アマゾンの売上高は、国内8位レベル
アマゾンの勢いは日本でも健在だ。1998年に始動したアマゾンジャパンは日本マーケットに確実に浸透している。
日本での売上高は、2010年の50億2000万ドルから、2014年には79億1000万ドル(120円換算で9494億円)にまで伸長。過去4年間で実に57%の増加となっている。
では、この数値は、日本の小売企業の中でどの程度のポジションなのだろうか。
売上高と流通総額は異なるため単純比較はできないが(たとえば、流通総額では楽天がアマゾンジャパンを上回る)、アマゾンジャパンの売上高を日本の小売企業と比べると、業界全体で8位レベルの実力となる。今の勢いが続けば、小売売上高トップ5に入る日も遠くないだろう。
そもそも日本において、eコマースの市場規模は大きくない。経済産業省によると、2014年時点の日本のBtoCのeコマースの市場規模は、12兆7000億円。これは、消費全体の4.37%にすぎず、EC化率が2ケタを超える欧米諸国に比べて小さい。
しかし、日本でも、アマゾンの猛攻に対抗すべく、大手のプレーヤーたちがeコマースに本腰を入れ始めた。
セブン&アイ・ホールディングスは、11月1日に新たなオムニチャネルサービスを開始。2018年にオムニチャネル売上高1兆円を目指す。さらに、ユニクロもEC事業の売上比率を現在の約5%から将来的に30〜50%に引き上げるべく、ECへの投資を加速している。
日本でも淡々と支配力を高めるアマゾン。世界最強の小売企業は、日本でもあらゆる業界を席巻していくのだろうか。それとも、日本の各分野の王者たちが、アマゾンの行く手を阻むのだろうか。
本連載では、日本マーケットを中心にしながら、王者アマゾンと各分野のトッププレーヤーたちとの闘いの行方を、堀江貴文氏、アナリスト集団ロンジンの泉田良輔アナリスト、椎名則夫アナリストらとともに分析していく。
第1回は、書籍小売を起点に、あらゆる分野に膨張してきたアマゾンの成長のヒストリーをスライドストーリーで紹介。その後、前半部では、楽天、ウォルマート・ストアーズ、ヨドバシカメラ、ゾゾタウン、ユニクロといった、食品、家電、ファッション分野での「vs. アマゾン」の競争を分析する。
後半部では、ネットTV、ロボット、間接資材、ドローンなど、アマゾンが投資を加速する、テクノロジー分野を中心にその戦略を占う。また、連載を通して、無敵に見えるアマゾンの弱点を探るとともに、「ポストアマゾン」についても予想していく。