日本人も続々参戦。ハーバードを目指す「3歳からのお受験戦争」
2015/10/26
日本企業のグローバル化に伴い、ビジネスパーソンの大半が自身の「グローバル化」を強いられている。その影響は子どもの教育にも波及。「わが子も早期に国際対応させねば」と英語教育熱を高める親が増えている。将来的な、ハーバードなど海外名門大学の入学を目指して、「3〜4歳からの英検受験」、「海外ボーディングスクールへの母子留学」など、予算と労力に糸目をつけない人々も増加中だ。
本特集では、マレーシアのマルボロカレッジやバリ島のグリーンスクール、アメリカシリコンバレー発のaltschoolといった欧米の名門サマースクールを現地取材。さらに、国内の伝統的名門英語塾や幼児英語塾などへの取材も通じて、加熱する早期グローバル受験戦争の実態について迫っていく。
本特集では、マレーシアのマルボロカレッジやバリ島のグリーンスクール、アメリカシリコンバレー発のaltschoolといった欧米の名門サマースクールを現地取材。さらに、国内の伝統的名門英語塾や幼児英語塾などへの取材も通じて、加熱する早期グローバル受験戦争の実態について迫っていく。
幼稚園生が英検準一級合格
2015年10月某日夕方。早稲田アカデミーIBSという子ども向けの英語塾の授業では、20畳ほどの部屋に、英検準一級を受験予定の子どもたち9人が机に向かっていた(子どもたちは、すでに全員2級は合格済みだ)。それを見守る保護者も数人。子どもたちの年齢は、最年少が幼稚園の年長、最年長は小学校5年生だ。
10分ほどの試験の後(難問の穴埋め問題で筆者の正答率は7割ほどがやっと)、英単語のセッションが始まった。
「Everybody, let’s check the new word “Blunt.”」
子どもたちがいっせいに「Blunt!」と声をそろえる中、ただ一人、筆者の表情だけがさえない。ブラント? それはどんな意味か……。
先生が子どもたちに英語でその意味を問う。ちなみに、本授業はバイリンガル教師が行い、日本語は一切封印。会話がすべて英語で行われる。
子どもたちがわれ先にとばかりに手を挙げる。
「They are sometimes rude.」
「Too honest people!」
「Annoying people!」
教師が「Very good job」と子どもたちを褒める。このやりとりで筆者はやっとbluntの意味が「無遠慮、無愛想」だと察した。
何たるレベルの高さだろうか。ちなみに、生徒たちの大半は、両親ともに日本人の日本育ち。帰国子女はごくまれだと言う。
本塾のリポートは今日から始まる特集で詳述するが、最近、このような幼児・児童向けの英語塾、英会話スクールが増えている。
2015年3月、学研ホールディングスはスカイプを通して英会話を学ぶ小学生向けのオンライン英会話講座をスタート。ほかにも、ベネッセホールディングスは、約400教室ある「子ども英会話のミネルヴァ」を買収し、イーオンはもともとあった小学生向け教室を、プレゼンテーションを重視するサービスに見直した。
子どもの数(中学生以下)は、34年連続で減少し、過去最低の1617万人(2015年4月1日現在。総務省統計局データより)を記録している。それにもかかわらず、子ども向け英会話教室の市場は、拡大の一途をたどっている(下記グラフ参照)。
受験資格に年齢制限のない英検を受験する小学生以下の子どもの数は、2014年度には33万2790人に達し、5年前から約5万人も増えた。
公益財団法人・日本英語検定協会の高橋大輔・広報課長は、「小学生以下の子どもの受験者が増えたため、受験会場には保護者控え室を用意し、親御さんがお子さんにマークシートの塗り方を教える様子などがよく見られる」と話す。
震災ショックで増えた母子留学組
英語学習を筆頭とする、早期グローバル教育熱は明らかに加熱している。グローバル思考の親のための情報サイト「Glolea!(グローリア)」の内海裕子編集長は、最近の親の関心事は「とにもかくにも、子どもに英語を会得させること」だと語る。
小学生高学年、小学校低学年の子を持つ親が、「今後、習わせたい習い事」として真っ先にあげたのは英語・英会話。未就学児においてさえ、2位にランクインしている。
沸騰する早期グローバル教育熱は、最近、芽生えつつある「母子留学」現象からも見て取れる。母子留学とは読んで字のごとく、母国で仕事をする父を残して、母と子どもが海外留学すること。子どもが小学生以下の場合、1人で行かせるわけにもいかず、母子で留学せざるをえない。韓国では以前から当たり前の「母子留学」が日本にも普及しつつある。
グローバル教育に特化した情報サイト「グローバルエデュ」のさとうなおみ編集長によると、「震災直後、放射能から逃れるために海外に逃げた親子の増加がきっかけとなり、マレーシアやニュージーランドなどに教育移住する親子は増えている」そうだ。
東大はアジア3位に転落
しかし、なぜここへきて、早期グローバル教育がこれほどまでに注目されるのか。前出の内海編集長はこう分析する。
「職場にグローバル化の波が押し寄せ、親自身が英語の必然性を痛感している。自分たちでさえそうなのに、子ども時代はましてその傾向が強まるとの思いが強い。アジア諸国のグローバル進出の勢いや、グローバル・コミュニケーション力の高さへの焦りも大きい」
2014年のTOEFLテストのランキングは、アジア圏30カ国中26位だ。日本は受験者数が多いため、平均値が他国より低くなりやすい面もあるが、その点を加味しても、英語力が低いと言えよう。
懸念材料は英語力ランキングだけではない。日本の大学の最高峰に君臨する東京大学も、世界の大学ランキングで順位を落とした。
イギリスの教育誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)』が発表する世界大学ランキングにおいて、東大は前年の23位から43位に転落。アジア首位の座もシンガポール国立大に譲り(アジア2位は北京大学)3位となった。
日本政府も現状を看過しているわけではない。文部科学省も英語教育を強化する方向で動き始めている。
国際化を進める国内の大学を「スーパーグローバル大学」に指定するほか、企業や国際機関などと連携してグローバルな人材の育成に取り組む高校を「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」に指定した。
世界各国の大学の受験資格が得られる教育プログラム「国際バカロレア(IB)」の高校への導入を促そうと、2020年までにIBが取得できる高校を200校まで増やす目標を立てている。
さらには、英語教育の前倒しを図るべく、小学校英語の開始時期を小学5年生から3年生に早め、5年生からは教科に格上げすることも検討している。
グローバル教育が国策と化す中、教育意識の高い親がわが子のグローバル教育を前倒しするのは必然なのかもしれない。本特集では、米国・カナダ・スイス・マレーシア・インドネシアなどの、世界最先端「グローバル教育」の実態をリポート。日本国内での取材とあわせて、加熱する早期グローバル教育の今を描いていく。
最初に、マーク・ザッカーバーグやピーター・ティールらから1億ドルの資金調達をしたシリコンバレー発の最新エリート校「AltSchool」を紹介する。次に、アジア随一人気のボーディングスクール、マルボロカレッジを校長インタビューも含めて現地リポート。スイス、アメリカ、カナダの名門校サマースクールにわが子を送り込んだ母たちの本音を聞いた座談会も掲載する。
特集後半では、国内で増え続ける幼児向け英語塾やプリスクールを紹介するとともに、早期グローバル教育の是非と合わせて、玉石混交であるグローバル教育ビジネスの実態も明らかにしていく。
気になる授業内容、学費、そして“効果”
3歳からのグローバル学歴競争
- 日本人も続々参戦。ハーバードを目指す「3歳からのお受験戦争」
- 【インフォグラフィック】ザッカーバーグも認めたシリコンバレー発のエリート校「Altschool」
- シリコンバレー発のパーソナル教育「AltSchool」体験記
- AltSchool幹部インタビュー。「学校教育こそ『ハイテク』でなければならない」
- アジア最高峰?「マルボロカレッジの何がすごいのか」校長インタビュー
- 最終学年の学費は453万円。マルボロカレッジ父兄が語る費用対効果
- エデュ都市宣言。なぜ、マレーシアの中高は強いのか?
- 次世代リーダーを育む「奇跡の学校」。バリ島「グリーンスクール」とは
- バリ島秘境の「未来のリーダー養成校」グリーンスクール体験記(前編)
- 中学生NPO起業家も輩出「未来のリーダー養成校」グリーンスクール体験記(後編)
- 日本人参戦続出。芸術に宇宙教育、米国サマーキャンプ最前線
- アジア系に人気の米国テック・起業系サマースクールの効果と中身
- 落ちこぼれ日本男児の英語キャンプ奮闘記 in スイス
- 「母子留学」は早期グローバル教育の切り札か?
- 国際教育ママ座談会。グローバル教育とお受験は両立できるか
- 母も一緒にスキルアップ「新型・プチ親子留学」ブームの兆し
- 初等課程プログラムは3歳から、国際バカロレアに乗り遅れるな
- 「キッズMBA」登場。ビジネス化し玉石混交の幼児グローバル教育
- ICUも始めた小・中学生向けグローバル講座、現場レポート
- 「5歳で英検2級」の英語塾、「英語リーダーシップ塾」の授業内容
- 結局、早期グローバル教育は必要なのか。 賛成派、反対派の言い分