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一生懸命頑張ったなら、失敗しても良い

ジャパネットたかた・髙田明「勉強の本質的な意味を伝えれば、子どもの可能性は広がる」

2015/10/22
カドカワが2016年4月を目指して、インターネットを利用した通信制高校「N高等学校」を開校すると発表し、大きな注目を集めている。10月14日に詳細が発表され、通常の学習とあわせて、各界のプロフェッショナルを講師に迎えた「dwango×プログラミング授業」「KADOKAWA×文芸小説創作授業」「電撃×エンタテインメント授業」などの「課外授業」が受けられることなども明らかになった。
今回、N高等学校の取り組みに対して、各界の著名人からメッセージが寄せられている。彼らは、自身の学生時代から現在に至るまでの経験を踏まえ、教育に対してどのような思いを持っているのだろうか。第1回は、ジャパネットたかたの創業者・高田明氏に聞いた。

勉強をする意義を伝えることが大切

──はじめに、高田さんのご家族について教えてください。

高田:はい。僕の家族は両親に兄弟が4人。私が次男坊です。長男、三男、一番下に妹がいます。長崎の平戸という島で生まれ、そこで育ちました。

──高田さんは、どんな子どもだったのでしょうか。

小さいときは、結構わんぱくだったなという気がします。その日その日、元気に遊ぶ毎日でしたね。田舎の原風景に登場する子どものようなイメージでしょうか。勉強は好きとは言えなくて、学校からの宿題をこなしていた感じです。

──ご両親は、教育熱心な方でしたか。

両親が共働きで忙しかったためか「勉強しなさい!」と、うるさく言われたことはなかったですね。

──今回、カドカワが「ネットの高校」を開校しますが、現在の教育について感じる課題について聞かせてください。

僕は、教育って人間を素晴らしくしてくれるものだと思うんですね。その点で、教育に代わるものはありません。ただ、時代が変わると教育も見直す必要があります。ITもどんどん進んでいますし、簡単に地球の裏側とつながれるようになりました。だから、僕はネットの高校をつくることに大賛成ですよ。

その中で、僕が今の教育に対して思うのは、もっと何のために勉強するのかを伝えたうえで、学習させてあげるべきだということ。単に「5教科を勉強しなさい」と言うよりも、ずっと大切なことです。

たとえば、数学を勉強しても、将来ベクトルや因数分解を使うことは、ほとんどないでしょう。でも、それは物事の本質をつかみ、論理的に考えられるために必要なんだよと言ってあげれば、学ぼうという気持ちが生まれる。

なぜ英語の勉強をしているのか。それは、外国の人とコミュニケーションをとるためだけではなく、英語を覚えることで世界の文化を知ることができる、と教えてあげたらいいんです。

良い点をとるために勉強しなさいと言い続けたら、子どもたちは勉強に意義を感じなくなります。競争だけ、偏差値だけの世界になってくる。それは絶対にダメなので、今までの事例にとらわれずに、ネットの高校ではぜひ伝えていただきたいと、勝手ながら思っています。

──そういうふうに教育が変わっていけば、子どもの可能性はもっと伸びるということですね。

そうですね。さらに言えば、勉強を積み重ねることが、夢につながるんだよとメッセージを伝えてあげるべきですね。たとえば、5歳の子には、「これをやっていたら、6歳でこんなことができるよ」と言ってあげる。勉強の効率じゃなくて、もっと本質的な意味を伝えてあげるんです。

会社でも社員に言うでしょ? 仕事をしなさい、効率を上げなさいって。でも、効率だけ求めても効率は上がらないんですよ。その結果として、どんな成果が生まれて、それが企業のミッションの中でどんな意味があるのかわからないと、一生懸命になれません。自分の仕事の成果や価値の意味を感じて、初めて納得する。これは、すごく大事なことです。

僕は会社員時代に外国で仕事をしましたけれど、日本では留学や海外赴任に行きたがらない若者もいますよね。それはなぜかといったら、やっぱり外国を知ることがどれだけ自分の幅を広げるか、その意義を見いだせていないからだと思います。

一生懸命やれば、どんな仕事も面白くなる

──高田さんは、学生時代に何か後悔はありますか。もし今、会えたなら、なんて声をかけてあげたいですか。

僕は全然後悔がないので、『アナと雪の女王』じゃないけど、ありのままで良いよ、と言うでしょうね。でも、一つ伝えるとしたら、「もっと勉強しろ!」ですね。若いときから勉強の価値を理解していたら、より頑張ったと思いますから。

子どもたちには、学問の価値を知って、いろんなことにチャレンジする人間になってほしいですね。その意義に気づいたら、子どもたちはすごくポジティブになっていくと思います。

──学生時代に後悔はないとのことですが、挫折した経験についてはいかがでしょう。

僕はですね、挫折感というのが不思議なほどない人間なんですよ。これは言葉にすると誤解を招きそうなんですけども。考えてみたら学生時代につらかった日はほとんどありません。大学受験に失敗した経験もありますが、挫折とは思いません。極端に言うと、悩んで寝られない人生を歩んで来ていないんですよ。そこには、僕なりの理由があると思います。

僕は自分自身について「今を生きる人」ってよく言っているんですけど、過去を振り返りません。過去を振り返っても、何も変わらないから。未来は今がつくり出していくものである。遠い未来のことを考えても決めようがない。明日のことは誰もわからない。今を生き続けたら、明日が、1年後が、ずっと良くなるという生き方をしているので、どんなことも受け入れるんです。

だから、「ジャパネットの事業は大変だったでしょう」「経営者としてご苦労なさったでしょう」と言われても、自分が大変だと考えたことがないので、困ってしまうんです。

──高田さんのように生きるための秘訣はありますか? 悩んだり、失敗を恐れたりして前に進めない子どもも多いと思うのですが。

悩むことや失敗することは当たり前だと思います。大切なのは悩みや失敗を受け入れる力をつけること。人間には何度も苦難がのしかかってきますが、自分の成長のために試練を与えられていると受け入れるんです。予期せぬことが起こっても、逃げちゃいけない。そこからどうやって解決できるのかを考えて、行動すればいいんです。

子どもたちには、「つらいことが起きても大丈夫だよ」「失敗を恐れなくていいよ」と教えてあげるべきでしょうね。一生懸命頑張ったなら、失敗しても良いと言いたい。その失敗は、自分を高めて、更新することができますから。

──高田さんは、はじめから経営の道に進まれようと思っていたのですか。

父が「たかたカメラ」を経営していましたが、僕はもともと写真の道に入るつもりがありませんでした。大学を卒業した後は、サラリーマン生活を送っています。英語を勉強して、海外赴任をした経験は面白かったですね。それから実家に戻って、必然的に写真のお手伝いをする中で、自然にそこも面白くなって写真の道に入ったんです。

僕は、目の前の仕事に全力投球します。一生懸命やれば、どんな仕事も面白くなる。コレなんですよね。だから、自然なかたちで写真や経営の道に入ったら、そのままハマっちゃったっていう感じですね。

──それでは、独立して、会社を立ち上げた当初から、現在の姿を描いていましたか。

答えは、YESでもありNOでもありますね。僕は今を生きているから、成功しようと日々頑張ったけれど、売り上げをいくらにしたいとは考えたことがなかったんです。結果として大きくなっただけです。

だから、もし今みたいに売り上げが1500億円とかにならなくても、自分の中では満足感があります。僕は、やっているプロセスに没頭して生きがいを感じるタイプなんです。

──社長退任をかけた2013年の「勝負の年」も、悩まずに取り組めたのでしょうか。

そうですね。社長退任のときは、私が勝負の年と決めました。テレビの売り上げが伸びなかったんです。リーマン・ショックなどの影響もあって、売り上げは600億円下がりました。でも、僕は下がることも当たり前と思ってやっていますから。

ただ、一生懸命やらないのはダメだから、「過去最高益を達成できなかったら僕辞めるよ!」と言った。そうしたら、社員がめちゃくちゃ動き出したんです。利益は、過去最高益どころか73億が136億になりました。そこでも、大事なことは結果ではなく、不可能を可能にしようと、みんなが集中するプロセスだったと思います。

今を全力で頑張っている人には、絶対に明日が見えてくるんです。僕は、そこで一つ達成したと思ったので、次の人間にバトンを渡そうと、社長を退任したということです。

一生懸命取り組めばプラスアルファが生まれる

──高田さんは、生まれ変わっても今と同じ仕事をしたいと思いますか。

もしかしたら違う仕事かもしれないですね。歌が好きだったので、来世は歌手や音楽家を目指しているかもしれない。あるいは普通のサラリーマンかもしれない、でも、どういうかたちでもいいんですよ。どんな仕事でもどんな役割でも価値があると思っていますから。

大事なことは、その価値をどう生かすかです。どの職業に就くかではないと思います。自分の好きなことをやりなさいってよく言うでしょ。そうやって好きな事を一生懸命にやっていたら、必ずプラスアルファが生まれます。好きなことがどんどんかたちを変えていく。それで良いと、僕は思うんですよね。

たとえば、任天堂の最初の事業は花札で、ブリヂストンは足袋です。それが今につながっている。今を大事にすると、必ず課題が見えてくるんですよ。その課題を克服すると、次のステップに進む。そしてまた課題にチャレンジする。人間って挑戦の連続なんですよ。

そのとき、人との比較は絶対にしてはいけません。自分に課題を課すんですよ。世の中、あまりにも比較の世界に入りすぎていることは問題です。学校でも、偏差値という比較をするのではく、頑張っている自分がいればいいんです。私もジャパネットという会社と他社を比較しようと思ったことは一度もありません。

──高田さんは、一般的に本社を東京に移転する会社が多い中で、創業の地である佐世保にこだわられていますね。それも、比較をしないということにつながるのでしょうか。

そうですね。僕は、そもそも地方と都会の格差を感じていません。今の世界は、佐世保でも東京でも、通信やインフラは全部できています。だから、「なぜ東京にしなければいけないんですか」と思うんです。

佐世保は空気もおいしく、同じふるさとの仲間がいます。この地域で、多少なりとも雇用に貢献もできている。こんなに幸せなこと、僕はないと思います。

ただ、佐世保にこだわる一番の理由は、イカがおいしいことなんです。笑われるかもしれませんけどね。東京のイカよりもずっと透明。だから私はこの場所から動かないんですよ。ここまで話してきて、最後にイカの話はいかがなものかと思いますけどね。

*本連載は、毎週木曜日に掲載予定です。