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不動産活用の革命児たち フィル・カンパニー【第1回】

街に再び光を。業界経験ゼロで挑む「駐車場+空中店舗」の土地活用

2015/10/21
全国に12万カ所以上あるといわれている駐車場。その数はコインパーキングを中心に継続して増加しているという。駐車場が増え続ける街はどこか寂しい。この駐車場の上空スペースに目をつけ、街に再び明かりをともしているのが、フィル・カンパニーだ。彼らの挑戦を全4回でリポートする。

暗い夜道に、明かりがともる場所

東急東横線中目黒駅から、徒歩7分。人気住宅街の中目黒でも、駅からほんの少し離れると、通りは一気に暗くなる。目黒川沿いの通りを、さらに裏手に入っていくと、その一角に、ガラス張りの3階建てから光があふれる「フィル・パーク中目黒」がある。

筆者が訪れた夕刻、建物の2階では学童保育の子供たちがダンスレッスンを受けていた。3階は、オーダーカーテン販売を中心とした高級インテリアショップ。仕事帰りの若いカップルが訪れていた。

しかし、ここにあるのは一般的なビルではない。約50坪、駐車場14台分の上空だけを使った高床式の建物で、まさに「空中店舗」というべきスペースだ。

現在、この「駐車場+空中店舗」により、街に活気を生み出している企業がフィル・カンパニーだ。2005年の創業以来、原宿や飯田橋、赤坂など東京23区内のビジネス街から、八王子、国分寺、荻窪などの住宅街にも次々と進出し、名古屋、京都、博多など、その進出エリアは全国に広がっている。

集客力のある店舗が一店できると、周辺エリアには活気が生まれる。それが新たな店舗の呼び水となり、地域全体の活性化につながるケースも多い。近年では、その実績が注目され、フィル・カンパニーには全国各地の土地活用について、相談が舞い込んでいる。

フィル・パーク中目黒

フィル・パーク中目黒

自己資本金1万円のスタート

「駐車場+空中店舗」のアイデアは、創業者の高橋伸彰が、とある家具会社から「駐車場の上空スペースに出店できないか」と相談を受けた時にさかのぼる。当時、高橋が経営する起業支援会社に寄せられた相談だった。

「そのときは、費用や期間の問題などがクリアできずに空中店舗は実現できなかったんですが、すごくいいビジネスモデルだと思ったんです」と高橋。

そのアイデアに突き動かされて、2005年6月にフィル・カンパニーを設立。開業前から資金難だったため、資本金はわずか1万円からのスタートだった。ビジネスコンセプトをそのままイラスト化し企業ロゴとして名刺に印刷。資料と共に、ひたすら土地オーナーとテナント先に配り歩いた。

シンプルなビジネスモデルだが、当初はなかなか理解されず、受け入れてもらえなかった。“ありそうでない”ビジネスモデルには、“ない”なりの理由が、やはりあったのだ。

“なぜその土地が駐車場になっているのか”の原因となる建築基準法などの問題がすぐに山積。耐火・防火基準が世界一厳しいといわれる日本において、現実問題としてどのような構造物が建築できるのかも不明だった。

「自己資本を投入してでも、とにかく実際に建ててみるしかありません。必死で土地を探し、なんとか東京駅の八重洲ブックセンター裏手に10坪の土地を半年間だけ借りられることに。駐車場1台分のスペースです。そこに建設した『フィル・パーク八重洲』が第1号です」

第1号は自社オフィス兼ショールームとして活用。借地期間を半年だけ伸ばしてもらえたものの、わずか1年半で取り壊した。不動産の世界では「居座り問題」や「解体費用負担」が問題となるため、事前にそこまで契約に織り込まないと、借地すら思うようにはさせてもらえなかったのだ。

「手探り状態でしたが、とりあえず空中店舗が建設できることだけは分かりました。しかし、今度は実際にテナントに入ってもらえるかどうかが分からない。そこで、第2号はテナントが決まる前提で建設しました。当時人気だった焼きトン屋を口説いて入居してもらいました」

とはいえ、この赤坂でも借地期間は3年間限定。入居した焼きトン屋は、とんとん拍子に成長し、人気テレビ番組にも取り上げられるほどになった。一方、フィル・カンパニーのほうは3年間ではやはり建設費の回収ができなかった。

不動産業界ではビルは30年程度で減価償却するのが一般的だ。いかにフィル・カンパニーが無謀なビジネスモデルに取り組んでいたかが分かる。

「完全に赤字で経営は常にギリギリ。周囲からは、『なぜやめないのか』と常に言われていましたね」

フィル・パーク赤坂A。やきトン店「HIBIKI FOOD SERVICE」を誘致し、商業モデルの第1号となった。

フィル・パーク赤坂A。焼きトン店「HIBIKI FOOD SERVICE」を誘致し、商業モデルの第1号となった

「初期テナント誘致保証」と「3階以下」がカギ

転機が訪れたのは2009年。リーマンショックにより、街中には“とりあえず”駐車場にされた土地が増えていた。当時、土地オーナーにとって、暫定的な土地活用といえばコインパーキングにする以外、選択肢がなかった。大型商業施設でさえテナント募集に苦戦する時代にあって、ビル建設は非常にリスクが高かった。

「長期投資のビル建設か、短期投資のコインパーキングか」の中間の選択肢として、中期的土地活用である「駐車場+空中店舗」に注目が集まりだした。

フィル・カンパニーは、それまでの自己資本による空中店舗建設というビジネスモデルを一新した。建設費は土地オーナーに負担してもらう代わりに、「初期テナント誘致保証」をうたい、徹底的に投資回収にこだわるビジネスモデルへと転換させた。

建物に関しても、独自に開発しデザイン性をブラッシュアップ。耐火や防火の基準をクリアしつつ、工期が短く、コストを抑えられる方法を編み出した。

階数を3階までにしているのにも理由がある。4階以上では、クリアすべき建築基準や法令等が一挙に厳しくなりコストアップにつながる。また、テナントを入れるためにはエレベーターも必須で、メンテナンスの費用もかさみ、投資回収期間が長くなってしまうからだ。

フィル・パーク原宿

フィル・パーク原宿

「フィル=共存共栄」に込めた思い

フィル・カンパニーでは、さらにさまざまなテナント業界ごとに詳細データを集め、各業種業態と相性がいいエリア特性のデータを蓄積。土地オーナーから相談があったエリアに、どの業種業態が最適かを緻密にマーケティングし、精度の高いテナント誘致活動ができるようになった。

「駐車場+空中店舗」がスタンダードモデルではあるが、テナント料の方が高く見込めそうであれば、1階を店舗にすることも。案件ごとに投資対効果が最大となり、投資回収を最速で見込めるように地道なマーケティングを行い、土地オーナーに提案する。

不動産業界にも建設業界にも昔からさまざまな“慣習”が存在する。しかし、フィル・カンパニーは、「自分たちが『何か変』と違和感を覚えるものは、一切無視した。土地オーナー、テナント、建設業者、街の住人、フィル・カンパニーに関わる人たち全員がWIN-WINとなるビジネスモデルにしたい」(高橋)と言う。

フィル・カンパニーのフィル(Phil)には、「共存共栄」という思いが込められている。彼らが目指すものは、未利用空間の有効活用から始まる地域の活性化だ。「フィル・カンパニーが手掛けるからには、面白い企画じゃないとやる意味がない」と豪語する彼らのビジネスは、不動産活用で革命を起こそうとしている。

今年10月、創業者の高橋は代表取締役に留任しながら、ビジネスパートナーである能美裕一に社長の座を渡した。フィル・カンパニーがスタートアップ期から成長期へ、次なるステージへ進むことへの宣言でもあるのだろう。(文中敬称略)

創業者の高橋伸彰氏(左)と10月から社長を務める能美裕一氏(右) 撮影:福田俊介

創業者の高橋伸彰氏(左)と10月から社長を務める能美裕一氏(右) 撮影:福田俊介

(取材・構成:久川 桃子、玉寄 麻衣)

*本連載は毎週水曜日に掲載予定です。次回は、フィル・カンパニー社長能美裕一氏、創業者高橋伸彰氏へのインタビューを掲載します。