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第7回:ベンチャーキャピタリストだけど質問ある?

創業期のメンバーのリクルーティングって、みんなどうしてるんですか?

2015/10/20
超有望ベンチャーへの投資を次々と成功させ、今、最も注目されるベンチャーキャピタリスト・高宮慎一氏と、十数年のAppleでのビジネス経験を経てIoTサービス「まごチャンネル」をスタートさせた起業家・梶原健司氏の対談連載もいよいよ佳境に。「起業家がベンチャーキャピタリストに聞きたいこと」をすべてぶつけ、本音の回答を引き出します。
第1回:ベンチャーって、どんな感じで成長するんですか
第2回:ベンチャーのシードフェーズで重要なことは何ですか?
第3回:「ユーザーにぶっ刺さるもの」のつくり方ってありますか?
第4回:VCから投資を受けるのに大切なことは何ですか?
第5回:起業家は撤退ラインを設けるべきですか?
第6回:ピボットすべきタイミングはいつですか?
こちらのフェイスブックページでは、高宮さんへの「起業」に関する質問を募集しています。

“最初の3人”は絶対に妥協しない

梶原:すみません。また話が少し変わるんですが、スタートアップでは最初のメンバーが大事って言うじゃないですか。そこって最初の3人とか、たとえば次は10人とか、そういうマイルストーンはやはりあったりするんですか?

あともう1つ伺いたかったのは、ずっとそれで苦労してたし、いまでもちょっとしてるんですが、いい人を探そうとすればするほど、当然なかなか見つからないですよね。でも、どんどん自分の事業を進めていかなきゃいけない。けれども人が見つからないんで、なかなかうまく事業が動かない、みたいな鶏と卵のような話がありまして……。

高宮:なるほど…。

梶原:以前まだ実質的に1人で動いていたときに、テラモーターズの徳重さんとランチをさせてもらったのですが、そのときおっしゃっていたのは、最初の10人はめちゃめちゃ大事。だけど、事業を前に進めないことには次の展開につながらないので、そこはもう半分割り切ってもいいんじゃないかと。たとえば、事業を進めていくために外注したり、「A+」の人材ではなくてもそこは目をつぶって雇ってみるとかは考えたほうがいいかもね、というお話をいただいたりしました。

高宮:どうですかね……。理想を言ってしまうと、最初の3人は、絶対妥協しちゃダメ。できるなら最初の10人も妥協しないほうがいい。

これは、先ほどのカジケンさんの「どスタートアップだとなかなかスーパーな人は採れない」という現実に対して、理想論とも見えてしまいます。でも、最初の3人が次の10人を引っ張ってきて、次の10人が50人を引っ張ってきて、組織をつくることになります。とにかく最初の経営陣の3人が組織の礎になるんです。しかも、それは「能力」の視点でも、「価値観」の視点でも両方です。

梶原:両方、ですか。

高宮:誰かをスカウトするとき、「自分より優秀な人材を引っ張ってこい!」というのはよく言われる言葉ですが、現実問題なかなか自分より優秀な人材を口説くのは難しい。なので、最初の3人という発射台の「能力」のレベルが低いと、そこから組織の平均としてレベルを上げていくのが難しくなってしまいます。

また、「価値観」の視点で言っても、自分より優秀な人材を口説こうとすると、想いであるとか、美学であるとか、価値観の部分で熱く口説くことが大きくなります。そこがズレているとまずいです。ブロックを積み上げるときにも、最初の3つが少しでもズレていると、上に積んでいったとき、どんどんズレが大きくなり、やがてグラグラになってしまいますよね。

梶原:シンプルなたとえですけど、本当にその通りですよね。

高宮:余談ですが、こういう考え方の背景には、あるべき姿からトップダウンで落として入る、という僕自身の考え方もありますが、“投資家という立場”もあります。

自分に限らず、投資家からすると、来た“ストライク”の球をすべて振る=投資しなければいけないわけではないんですよね。シリーズA以降のベンチャーキャピタリストからすると、年に数件投資できればよく、下手するとゼロでもいい。すごくぜいたくな話なのですが、くさい球は見送って、本当に“ど真ん中”に来た球だけを、ホームランを狙って全力で大振りすることが許されるんです。

そうすると、最初の3人、10人のメンバーで妥協して、土台がぐらついているチームは、少しくさい球ということになってしまいます。投資する際、チームは一番重要な要素なんです。もちろんそれだけではないので、チームが多少くさくても、そこが補完できそうだったり、ほかの部分が“ど真ん中”であれば投資するんですがね。

梶原:投資の際はチームが一番重要な要素! さらっと大事なことを(笑)。

高宮慎一(たかみや・しんいち) 2000年に東京大学経済学部を卒業。同年アーサー・D・リトルに入社し、プロジェクト・リーダーとしてITサービス企業に対する事業戦略、新規事業戦略、イノベーション戦略立案などを主導。2008年にハーバード経営大学院を卒業(二年次優秀賞)。その後グロービス・キャピタル・パートナーズに参画し、インターネット領域の投資を担当。担当投資先として、アイスタイル、オークファン、カヤック、nanapi、Viibar、ピクスタ、メルカリなど有名・有望ベンチャーが多数ある。

高宮慎一(たかみや・しんいち)
2000年に東京大学経済学部を卒業。同年アーサー・D・リトルに入社し、プロジェクト・リーダーとしてITサービス企業に対する事業戦略、新規事業戦略、イノベーション戦略立案などを主導。2008年にハーバード経営大学院を卒業(2年次優秀賞)。その後、グロービス・キャピタル・パートナーズに参画し、インターネット領域の投資を担当。担当投資先として、アイスタイル、オークファン、カヤック、nanapi、Viibar、ピクスタ、メルカリなど有名・有望ベンチャーが多数ある

ベンチャーの採用は“早めのアプローチ”が肝

高宮:脱線したので話を戻すと、じゃあ、起業家としてどうすればいいんだという話ですよね。もうできることは、“リードタイムを見込んで早めにアプローチする”ことです。

起業する前であれば、

「自分にない能力持っているから、こいつと事業をやりたい」

「自分が起業するんだったら、価値観が合うこいつと一緒にやりたい」

という人に早めに目星をつけ、早めに口説きに入るということです。

やっぱり、本当に優秀な人を口説くには1年ぐらいはかかる。そういう人をその気にさせるのは大変だし、そういう人はほぼ間違いなく今いる場ですでにエースとして活躍している。だから起業前にとか、その機能が必要になってくる1年ぐらい前に、先駆けて口説き始め、いざ必要というときに参画してもらう。

もしくは、2人の間での握りとして、「最初は俺がやっておくからさ、こういうステージまで来れたら参画してよ」とか。「夜と週末の仕事でいいからちょっと手伝ってよ、ほんとちょっとでいいから!」って。そして、なし崩し的に巻き込んでいって、気づいたらフルタイムで参加していたみたいな(笑)。

梶原:あはは。わかりやすい(笑)。

高宮:あと、「口説き力」は人によっても違うので、自分の「人をたらす」ときの得意パターンを持っておくことは大事だと思いますね。

まー、熱量高く、カリスマ性高く、スーパー人材を速攻口説けるような人は、そうそういません。自分がそういうタイプだったら、それをフル活用して、スーパー人材をガンガン採ればいい。それは、大きな強みになると思います。

梶原:そういう人いますよね、本当に。うらやましいというか。

高宮:でも、普通の人はどうしたら、いいのか? それはもう、数を打つしかないですよ。ポートフォリオ論じゃないですけど、同じような人材要件を満たす人でイケてる! と思う人に、長期的視点で複数人アプローチしておく。

そして、たまたまその人が今の仕事で行き詰まりを感じているとか、今の会社の業績が悪いとか、そういうタイミングが重なると、うまく口説けると思うんですよね。

ご縁とタイミングが両方OKにならないとうまくいきませんが、タイミングばっかりはこちらではコントロールしづらいので、複数にアプローチしておくのが良いと思います。

梶原:複数に声をかけるのは抵抗がある人もいるかもしれませんが、そこは割り切るしかないですよね。

高宮:あとは、それを組織的にやる方法もあります。ある大手上場ネット企業なのですが、上場前からずっと週1で役員全員で経営会議をやっていて、その主要議題の一つが人材の採用なんですね。

そして、もう営業パイプライン管理みたいに、がりがりと採用パイプライン管理をしている。「いつ頃までにこの機能にこういう人が必要。だから逆算すると10人くらいにはコンタクトして、検討してくれる人が5人くらいで、前向きな人が3人くらいで……」という具合に。

すごいのが、各役員が責任を負っていて、定期的にマークしている人に会っている。そして役員間で、「自分はこんな人、何人に声かけた。それぞれ今どの会社にいて、どういう人で、その後の進捗(しんちょく)ステータスはどうだ……」と情報を共有し、進捗を管理しているんです。

梶原:それは確かにすごい!

高宮:やはり採用については、きちんと計画的にやるべきだということです。人員計画から逆算して、どんな人が何人必要で、だから今、何をアクションとしてすべきか。採用は体系立ててしっかりやりさえすれば、事業成長に大きく効き、比較的結果は出やすいんです。

梶原:そうですよね。

高宮:究極的には、経営者つまりCEOの仕事とは、自分がいなくても会社が回るようにすることだと思います。そういう意味で言うと、究極3つしか仕事はない。

(1)会社としての大きな方向性を示す
 (2)仕組みをつくる
 (3)人を採用する

この3つです。

だから経営者の時間のうち、3分の1ぐらいを採用に割いたって、バチはあたらないでしょう。だからベンチャー界隈では、社長が飲み歩いている人も多いと思うんですが、全然良いと思います。まー、ただバカ騒ぎするだけなのは問題なんですけど(笑)。

採用とか事業提携、つまり事業開発的な飲み歩きは、社長の仕事です。社長の夜はそれが仕事。

梶原:ですよね。僕も毎日人と会って飲んで、嫁にいつも怒られてるんですけど。

高宮:それは会食です、会食。飲みじゃない(笑)。

梶原健司(かじわら・けんじ) 1976年生まれ。アップルにて、iPodなどコンシューマへのセールス・マーケティング主要部門を担当後、独立。起業準備中に、執筆する「カジケンブログ」において、SNS上で話題を呼ぶ記事を複数執筆し、個人ブログとしては異例の注目を集める。その後、2014年にチカクを創業し、現在サービスの開始に向けて奮闘中。

梶原健司(かじわら・けんじ)
1976年生まれ。アップルにて、iPodなどコンシューマへのセールス・マーケティング主要部門を担当後、独立。起業準備中に、執筆する「カジケンブログ」において、SNS上で話題を呼ぶ記事を複数執筆し、個人ブログとしては異例の注目を集める。その後、2014年にチカクを創業し、現在サービスの開始に向けて奮闘中

“3”はマジックナンバー

高宮:もちろん社長のタイプにもよりますけどね。そういった外交が苦手な人なのであれば、たとえば最初の創業メンバー3人の中で外交が得意な人が外に出て行くとか。

梶原:その3人ってやっぱり、お互い補完関係にあるみたいなのが理想なんですかね。

高宮:そうですね。やはりクリティカルな、チームとして持っているべき能力、ピースをその3人で埋めている、というのが理想です。

梶原:なるほど、なるほど。

高宮:たまたま創業メンバーが3人で、言い方が悪くなりますが、経営者の手足のようなエンジニアがその中にいました、みたいな話はあったって全然いい。でも、それでは経営チームが3人そろっているとは言えません。最初のコアな経営チームが2人、現場が1人で創業しただけ。

そうではなくて、自分たちが目指しているのが1000億円の事業価値がある企業なら、その1000億円企業になったときにも、引き続き一緒にやっているイメージが持てるメンバー。そういう3人がそろっているということです。それは価値観の共有という意味でもそうですし、能力での補完関係でもそう。

もちろん、実際の結果がどうなるかはわからないですよ。途中で価値観が合わないで抜けてしまう人も出てしまうとか、会社の成長に自分の成長がついていけなくなって抜けちゃう人が出てくるのも“ベンチャーあるある”です。

でも、少なくとも、最初の3人を集めるときはまったく妥協せず、会社が1000億円になろうが、20年後であろうが、一緒にやっていける人じゃないとやらないくらいの気合で集めることが重要だと思います。

梶原:でも、ずっと一緒にいられる人、というだけでもダメですもんね。

高宮:はい。よくある失敗は、“自分の周りにいる手が届く人の中からメンバーを集めてしまったり、年齢が同じで話の合う人を集めたりすること”です。

そうではなくて、“この事業を成功させるために、どういう人が必要なのか?”。そこを妥協せず見極め、本当に必要な人をメンバーに迎え入れる。自分たちの持っている価値観がきちんと共有できていれば、別に年が離れたおっさんでもいいじゃないか、学生でもいいじゃないか、みたいな話ですよね。

年齢別のU-20日本代表をつくっているのではなく、年齢無差別でとにかく世界で戦うために、ベストな日本フル代表のチームをつくろうとしているわけなので。

事業の最初のフェーズであればあるほど、そこにこだわったほうが複利的にあとから絶対、効いてきます。最初の3人が価値観で一枚岩であれば、次の10人もまた一枚岩になりますから。

梶原:3人って理由がありますかね? 2じゃなくて、1でもなく、3。

高宮:なんですかね。そんなロジカルじゃないんですが、経験則的に、マジックナンバー3はある気がしています。

偶数だとぶつかって物別れに終わるパターンって結構多いんですが、奇数だと間に入って調整がつくみたいな感覚はあります。そして、5人だと人数が多すぎて船頭が多い感じがしますから、最初は3人がいいんじゃないかってことですね。

もちろん必須ではないですし、本当に経験則なんですが、3人で始まってうまくいっているケースが多い実感はあります。やっぱ3は“マジックナンバー”だと思いますね。

梶原:カヤックの初期メンバーは3人ですよね?

高宮:カヤックは3人ですね。メルカリの山田進太郎さんのところも最初は、山田さんとプロダクトの富島さん(富島寛氏)と、海外事業開発の石塚さん(石塚亮氏)で。小泉さん(小泉文明氏)がジョインして、途中から4人にはなりましたが。

あと、グリーも田中さん(田中良和氏)、山岸さん(山岸広太郎氏)、青柳さん(青柳直樹氏)。

ディー・エヌ・エーも、創業時で言うと、南場さん(南場智子氏)、川田さん(川田尚吾氏)、渡辺さん(渡辺雅之氏)。もう少し規模が大きくなってきたところで、南場さん、守安さん(守安功氏)、春田さん(春田真氏)。

梶原:3はやっぱり。

高宮:3はあると思うんですね。5だと派閥ができる気がします。

梶原:ありがとうございます。採用に関する悩みがだいぶクリアになりました。

企業に勤務していると、人事異動の権限がなかったり、あってもかなり限定的なので、チームメンバーやプロジェクトメンバーを自分ですべて決められるってことはめったにないです。

だからこそ、ある意味会社から割り当てられたヒトモノカネをうまくやりくりして求められた成果を出す、そこが評価軸であることが多いですよね。

「このメンバーであんな高い目標を達成しないといけないのか……」と心の中でぼやきながら前を向いて日々頑張ってるマネージャー、世の中にたくさんいると思います(笑)。

一方で起業の醍醐味(だいごみ)の一つは、初期メンバーも含めてあらゆることを自分たちで決められるということだと思います。少なくとも外部投資家の方がチームに入るまでは。

でも逆に、リソースも実績も何もない起業したての状況では、ついつい目の前の手が届くものでやりくりしようとしてしまう……つまり、易きに流れる危険性がとてもあるということですよね。

資本政策もそうですが、創業メンバーや初期メンバーの選択もその会社の将来に大きな影響を与える、非常に重大な意思決定であり、それは会社の上層部が勝手に決めたとかではもちろんなく、すべて自分の責任と選択である、ということを肝に命じたいと思います。

本日のポイント

・最初の3人は絶対に妥協したらダメ。価値観の視点でも、能力の視点でも両方妥協したらダメ。

・「採用は経営者の重要な仕事」と心得え、経営陣自らコミットする。

・採用はリードタイムを見込んで早め早めにアプローチし、組織的・体系的に取り組む。

(写真:疋田千里、企画協力:ダイヤモンド社&古屋荘太)

*本連載は隔週火曜日に掲載予定です。