2部リーグをベテランの終着点から、若手成長の場に変える方法
2015/10/18, NewsPicks編集部
テレビ放映権論・第4回
2部リーグをベテランの終着点から、若手成長の場に変える方法
2015/10/18
オーストリア・リーグでは外国人枠を撤廃し、自国選手を使うほど放映権の分配が増える「オーストリア人の壷」を導入した。これが追い風となって育成が成功。オーストリア代表は急成長し、9月にEURO2016への出場を決めた。今回はこの仕組みによって、2部リーグがいかに育成の場に変化したかを紹介する。
第1回:なぜオーストリア・リーグは外国人枠がなくても破綻しないのか
第2回:外国人枠をなくしたら、おのずと外国人選手の質が高まった
第3回:レッドブルは外国人選手23人。貧乏クラブは2人。歩合導入で経営偏差値が上がった
小クラブが生き残るための育成戦略
オーストリアのプロリーグには外国人枠がなく、最大のビッグクラブ、FCレッドブル・ザルツブルクでは32人中23人が外国籍選手だ。日本代表の南野拓実もそのひとりである。今回は真逆の経営方針を実践しているFCアドミラ・ヴァッカー・メードリングを紹介したい。
FCアドミラ・ヴァッカー・メードリングは、首都・ウィーンの境界から南に約10キロメートルの小さな市(マリア・エンツェルスドルフ)にある。いわゆる小クラブだ。
オーストリア=ハンガリー帝国時代の1905年に創設された名門クラブで、現オーストリア代表FWのマルク・ヤンコや元代表FWのイヴィツァ・ヴァスティッチ(元名古屋グランパス)が所属していた。
しかし、あまりにもウィーンに近いため、地元のエリアにはFKアウストリア・ウィーンとSKラピード・ウィーンのサポーターが多く、集客数やスポンサー数を伸ばしにくい。非常に厳しい環境の中で経営を進めている。近郊のビッククラブに「喰われてしまっている」のだ。
そこでクラブの柱に添えたのが「選手育成」だ。
高額な年俸を支払い、即戦力を多く獲得することは経営規模からして不可能。選手を育て、チームを強化しようという考えが数十年以上前から浸透していた。
ウィーンに近いという立地は、育成に関してはプラスになり得る。人口180万人のウィーンに住むタレントたちが、自宅から通えるからだ。
このクラブの育成部門には、主に下記のような選手たちが集まってくる。
a. 地元のタレント
b. ウィーンのビッグクラブに入団できなかったものの将来性があるタレント
c. ウィーンのビッグクラブで育っていたものの、次のカテゴリに昇格できなかったタレント
ウィーンの人口が約180万人ということを考えれば、bおよびcの選手が多いことは想像に難くない。
また、即戦力を積極的に補強するウィーンの両ビッグクラブにおいて、育成部門からトップチームに昇格し、即戦力として活躍できる選手はほんのひと握りしかいない。一方、アドミラは即戦力を補強する余裕がないため、若手に積極的にチャンスを与える。
そのためアドミラのトップチームには、ウィーンの両ビッグクラブでトップチームに昇格できたものの、その後チャンスがなく、出場機会を求めて移籍してきた若手が数多く所属している。
「壺」に救われたアドミラ
さらに2004年に「オーストリア人の壺」が導入され、若手育成がクラブの重要な収入源となった。
ブンデスリーガのクラブライセンス制度では、スタジアム、育成アカデミー、トレーニング環境といったクラブ設備をコンスタントにレベルアップさせることが求められている。それを実施できなければ、ライセンスが発行されない。そのためクラブ経営に必要な予算が、10~20年前に比べ高くなっている。
その中でアドミラにとって「オーストリア人の壺」は、欠かせない収入源となっている。「オーストリア人の壺」が導入されていなければ、アドミラはライセンスを失っていた可能性が高い。このインセンティブシステムが、育成クラブであるアドミラを救ったのだ。
「壺」導入で2部が育成リーグに変革
「オーストリア人の壺」が導入されたことによって、2部リーグも大きく変化した。これはJリーグの育成活性化へのヒントになるかもしれない。
newspicks.com
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コメント
注目のコメント
サッカーのクラブ間連携、特にレンタル移籍の仕組みは、ビジネスにおける人的資源管理、特に次世代リーダー発掘&育成に大きな示唆を与えうるものだと思う。
リーダーシップは座学だけではどうしても身につかない。
リーダーシップを磨くには実践の場が不可欠。
しかし、大きな企業であればあるほど(=システマチックなリーダー育成が必要な組織ほど)、そうそう若手が切った張ったの真剣勝負の場でリーダーシップを発揮する機会を得るのは難しい。
だからこそ、小さな「ガラパゴス」組織を意図的につくって、そこで経営判断をする経験を積ませる仕組みが有効だと思うのです。サイバーエージェントのやり方がまさにそれ。進化論的にも、進化は大きな群れの中心ではなくて辺境の半孤立集団でこそ生まれるものです ( ̄  ̄)b