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『投資バカの思考法』著者 藤野英人氏インタビュー(後編)

「ETFはギャンブルです」──株価の乱高下に一喜一憂しない投資術とは

2015/10/17
時代を切り取る新刊本をさまざまな角度から紹介する「Book Picks」。隔週金曜日は、話題の新刊著者インタビューを、前後編に分けて掲載する。
株価が乱高下する昨今、「やはり投資は怖い」と考える日本人も多いだろう。そんな中、『投資バカの思考法』を著した藤野英人氏は、企業価値に着目したうえで、伸びている会社に着実に投資する重要性を強調する。著者が25年間のファンドマネージャー生活を経て気づいた、「お金」「投資」の本質とは。短期の株価変動に一喜一憂しないためにも、今こそ読みたい1冊だ。

個別投資のほうが最終的に良い結果になる

──現在はチャイナショックで株価が急落している局面です。投資家としてどのような態度で臨めばいいと思いますか。

藤野:多くの人は株価にばかり注目しますが、本当に大事なのは企業価値です。企業価値は最終的に利益となって現れますので、株価よりも、売り上げや利益のトレンドを見るべきでしょう。

価値に注目すれば、世の中の政治経済の動きは、あまり関係ない。アベノミクスや中国の動きもそれほど注目する必要はありません。

私が主張したいのは、マクロ経済の予測ではなく、個別に伸びている会社や分野を見つけるべき、ということです。実際、短期的にはマーケットに左右されることはあっても、長期的には景気動向に関係なく成長している会社はたくさんある。そういう会社の株価は、自然と上昇します。

投資家にとって重要なのは、個別のいい会社を見つけるということに尽きる。自分でできなければ、それができる投資家にお金を預ければよいのです。

先にも述べましたが、会社の価値をしっかり見いだし、お金を投資することは、社会を支えることにもつながります。僕は「知的な社会貢献」といっているのですが、それが投資家としての本来の在り方でしょう。

──つまり、ETF(上場投資信託)やインデックス投資のような、株式市場全体に投資する商品を買うのではなく、個別株に投資すべきだ、と。

ETFが悪だとは言いません。長期的な経済成長が実現すれば、そのぶん儲かるわけですから。ただ、経済全体の動きが読めない以上、それに影響される商品を買うのは、僕に言わせればギャンブルです。

多くの人は平均が安全だと思っていますが、実はそうではない。インデックス投資の商品にも、知らないうちに東芝のような会社が組み込まれていますから。

だから、特に成長力が見込める会社をしっかりと見極め、個別に投資するほうが、最終的に良い結果がついてくると私は考えます。

リスクを取らない日本の運用会社

──見どころのある会社を見つけ、収益を上げるには、具体的にどういう取り組みが必要ですか。

一番簡単なのは、過去5年間で成長している会社に投資することです。5年間、売り上げを伸ばし続けている会社は、7〜8割の確率で今後も成長します。

もし業界構造が変化しても、5年間あれば、別の分野に足を踏み入れるなど、会社として新たな一手を打てるはずです。右肩下がりの会社は、経営者の能力が高くなく、組織全体で変化を嫌う傾向にあると判断できます。

さらに、売り上げを伸ばしている企業をスクリーニングした上で、その会社の社長から話を聞き、ビジョンに光るものがあれば、投資が成功する可能性は8〜9割に上がります。

具体的には、過去5年間で成長している会社は、全体でいうと3〜4割ほどで、上場企業3600社のうち、1000社くらいに縮まります。その1000社の中から、特に成長力が高くて、かつ自分が理解できる会社に絞ると、300〜500社ほどになる。その中から経営者に会うことで、100社くらいに絞られる。こうしたプロセスを踏んで投資を行えば、成功する確率は高い。ここまでいけば、決してギャンブルにはなりません。

──このような考えに至った背景は。

ファンドマネージャーを長年務める中で、自然と身につきました。

成功している投資家は自然とそのような発想をしています。ウォーレン・バフェットやジョージ・ソロス、ピーター・リンチはみな、投資の中のギャンブル性を低めることで成功した人たちです。私自身も、経験的に学んだ側面もあるのですが、周りの先輩からの影響も大きい。

とはいえ、多くの日本のファンドマネージャーが、知識としては身につけているものの、組織的な事情によって実行できないでいます。

──どういうことですか。

アメリカと違って、多くの日本の運用会社は、銀行や証券会社の子会社です。そのため、運用の現場は、事実上親会社が支配している。親会社からすれば、金融商品の販売手数料さえ取れればよくて、運用成績が高いかどうかはさほど問題ではない。そこで、リスクを回避して大失敗を防ぎ、親会社の販売力で勝負するシステムになっているのです。

親会社が子会社に言うことは「TOPIXと同じように運用しろ。あとは自分たちが売ってくるから」ということなんです。

──平均的なパフォーマンスを目指す姿勢が染みついている、と。

そうです。でも結局は販売手数料を取るので、利回りは平均以下になってしまう。

さらに言えば、販売手数料ビジネスのため、無意味な商品の買い替えが推奨される。日本人の平均株式保有期間は1.3年ほどで、これはアメリカの約5年に比べると非常に短い。一時期、「ハゲタカ」というドラマが流行しましたが、日本人こそが、短期的な売買を志向する、獰猛な「ハゲタカ」なんです。

よく海外から「日本にはまともなアクティブファンドがない」と言われますが、親会社が子会社の商品を売ることを規制しない限り、状況は改善しません。

レオス・キャピタルワークスは親会社がいないので、運用成績にフォーカスできます。このような会社は、日本では独立系以外ありえません。

藤野英人(ふじの・ひでと) レオス・キャピタルワークスCIO(最高運用責任者) 1966年、富山県生まれ。90年、早稲田大学法学部卒。野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)、ジャーデン・フレミング投信・投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)を経て、2003年にレオス・キャピタルワークスを創業、CIOに就任。現在運用している「ひふみ投信」は、4年連続R&Iファンド大賞を受賞。著書に、『日本株は、バブルではない』(ダイヤモンド社)、『投資家が「お金」よりも大切にしていること』 (星海社新書)など。

藤野英人(ふじの・ひでと)
レオス・キャピタルワークスCIO(最高運用責任者)
1966年、富山県生まれ。90年、早稲田大学法学部卒。野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)、ジャーデン・フレミング投信・投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)を経て、2003年にレオス・キャピタルワークスを創業、CIOに就任。現在運用している「ひふみ投信」は、4年連続R&Iファンド大賞を受賞。著書に、『日本株は、バブルではない』(ダイヤモンド社)、『投資家が「お金」よりも大切にしていること』 (星海社新書)など

修羅場の中、いかにメンタルを保ち続けるか

──ファンドマネージャーを務める中で、これまでどのような修羅場を経験しましたか。

毎日が修羅場だらけです。天災や事件など、予想できないことが起きると、必ずマーケットは修羅場になります。オウム真理教の地下鉄サリン事件や、阪神大震災、9.11のテロ、リーマン・ショック、東日本大震災と、波乱の連続でした。こうした出来事に直面すると、マーケットが恐怖に支配され、正常な判断が難しくなってしまいます。

自分一人が冷静に行動できたとしても、周りがそうでなければマーケットは暴落する。その中で、いかにメンタルを維持し、一つひとつの問題を対処していくか。簡単な話ではありません。

──日々の株価に一喜一憂する個人投資家が多い中、メンタルを保ち続けることこそが、ファンドマネージャーには不可欠だ、と。

とはいえ、実際にやろうとすると、とても難しい。なぜかといえば、背反する2つのことを、同時に行わなければならないからです。一つは、顧客の資金の大切さを骨の髄まで知ること、もう一つはしょせん他人事だと思って客観的に物事を捉えることです。

顧客のお金の大切さを絶対視するあまり、重圧につぶされ、行動できなくなっては意味がない。一方で、顧客のお金の重みを感じないで、必要以上に大胆に行動してしまうと、こちらも失敗に終わる。両者の間でバランスを取る能力が、ファンドマネージャーには求められる。

地位が上がったり、お金が大きくなるほど、この部分が問われます。オリンピックの際の浅田真央選手のように、ファンドマネージャーも、衆人環視の中でのびのび行動しなければならないんです。

──どうすれば、メンタルの強さを身につけられるのですか。

一朝一夕で身につけることは難しい。25年間、この仕事をしていても、今だに逃げ出したいと思うこともありますから。大事なのは、当事者意識をもって投資をすることで、少しずつ挑戦する環境に慣れていくことではないでしょうか。

(聞き手:野村高文、構成:野村高文、木井萌美、撮影:福田俊介)
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